1. ホーム
  2. 研究活動
  3. 過去の研究プロジェクト
  4. 紛争・災害後社会のメディアと記憶(h24)

紛争・災害後社会のメディアと記憶(h24)

過去の研究プロジェクト

紛争・災害後社会のメディアと記憶(h24)

個別共同研究ユニット
代表: 西芳実(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)
共同研究員: 亀山恵理子(奈良県立大学地域創造学部・講師)、清水チナツ(せんだいメディアテーク・職員)、寺田匡宏(国立歴史民俗博物館・研究員)、牧紀男(京都大学防災研究所・准教授)、MuhammadDirhamsyah(シアクアラ大学津波防災研究センター・所長)、山本博之(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)、山本理夏(特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン・事業責任者)
期間: 平成24年4月~平成25年3月(1年間)
目的:  武力紛争は一つの社会の中に加害者と被害者を生み出すことで社会の亀裂を固定化し、紛争以前の社会と紛争後の社会のあいだに断絶をもたらす。また、大規模な自然災害は、記録や記憶のよりどころとなる博物館や文書館、景観、文化・芸能の担い手に大きなダメージを与え、被災前の社会と被災後の社会のあいだに断絶をもたらす。他方で、断絶した経験や、紛争前と紛争後、被災前と被災後の歴史を結びなおし、社会の連続性を回復させるのも人びとの記憶である。
 本プロジェクトでは、東ティモール紛争(1975年-1999年)やアチェ紛争(1976年-2005年)のような20年以上にわたる武力紛争や、2004年スマトラ沖地震津波(死者・行方不明者数約16万5000人)や2006年ジャワ島中部地震(死者数5716人)のような大規模自然災害に見舞われた経験を持つインドネシアの事例をもとに、社会全体に大きな影響を及ぼした災厄が紛争終結後や復興過程の社会の中でどのように記録され、また記憶されるのかを分析するための研究の基礎的な枠組をつくる。
 あわせて、人文社会系の地域研究者が自身の専門性を活用して紛争後社会や被災後社会の復興過程にコミットする方法について検討する。
研究実施状況:  スマトラ(インド洋津波)、東日本大震災、タイ洪水災害についてそれぞれシンポジウム・ワークショップを実施した。
 京大地域研は2011年度にインドネシア・アチェ州で災害復興に関する国際シンポジウム・ワークショップを行い、シアクアラ大学津波防災研究センターと学術交流協定を結んだ。この学術交流協定にもとづく活動として、津波防災研究センターの研究者3名を京都大学に招聘し、国際ワークショップ「災害後社会の再建と情報管理」を実施した。
 東日本大震災後の原発事故への社会の対応を描いた映画「おだやかな日常」を題材に、インドネシアやドイツの経験に照らして日本の状況を考えるシンポジウム「記憶の写し絵―内戦・テロと震災・原発事故の経験から紡ぐ私たちの新しい物語」を実施した。また、岩手県大船渡市や宮城県気仙沼市を訪問し、復興過程における記録・記憶の役割について予備調査を行った。
 2010年タイ洪水災害について、政治・経済・歴史・文化の各分野のタイ地域研究者や、その他の東南アジア地域研究者を集めたワークショップ「タイ洪水が映すタイ社会―災害対応から考える社会のかたち」を実施した。
研究成果の概要:  国際ワークショップ「災害後社会の再建と情報管理」では、インド洋津波の被災から7年半が経過したインドネシア・アチェ州で、ときが経つにつれて大量に蓄積されていく被災と復興に関する文書・映像資料の整理・保管が課題となっており、多様な形態の情報を処理する技術が求められていることが確認された。このワークショップには、自身がインド洋津波の被災者で、津波後にシアクアラ大学に設立された防災学専攻で学ぶ若手研究者が参加しており、被災後に行った移動図書館などの社会活動も紹介された。被災と復興の経験を次世代に継承するうえで、大量に蓄積される公文書の管理と、コミュニティレベルで伝えられる記憶や経験をどのように有機的に結び付けるかについて意見交換を行った。
 公開シンポジウム「記憶の写し絵―内戦・テロと震災・原発事故の経験から紡ぐ私たちの新しい物語」では、東ティモール紛争終結とバリ島爆弾テロ事件から10年を経たインドネシア、ユダヤ人迫害から70年たったドイツ、原発事故による放射能汚染問題への対応が問われている東日本大震災後の日本の事例をもとに、大規模な災厄がもたらす社会の亀裂を修復する試みについて検討した。紛争や内戦では人々は同じ社会に暮らす人々によって悪意や敵意を向けられ、その克服が課題となる。原発事故に見られるように災害でも同様の課題が生じ、東日本大震災後の日本で社会の亀裂の修復が重要な課題となっている。
 公開ワークショップ「タイ洪水が映すタイ社会―災害対応から考える社会のかたち」では、災害時をみることにより、被災前の社会が抱える課題や社会の特徴が明らかになるとの考えのもと、タイを主なフィールドとする様々な分野の地域研究者がタイ洪水を通じて明らかになるタイ社会のかたちを検討した。スマトラ社会が社会的流動性の高さで特徴づけられるのに対し、タイ社会を修復を前提とする社会とみる見方が検討された。
公表実績: (1)出版
・山本博之・西芳実編『洪水が映すタイ社会―災害対応から考える社会のかたち』(CIAS Discussion Paper No.31、京都大学地域研究統合情報センター、2013年3月)
論文
・山本博之「災害対応の地域研究―ポスト・インド洋津波の時代の東南アジア研究の可能性」(『東南アジア 歴史と文化』No.41、東南アジア学会、2012年5月、pp.105-124)
・牧紀男「明治・昭和三陸津波後の高台移転集落における東日本大震災の被害」(『地域安全学会梗概集』No.30、pp.109-112、2012年)
・西芳実「情報拠点の被災と復興―2004年インド洋地震・津波後のインドネシア・アチェ州の事例から」(『アジ研ワールドトレンド』No.210、日本貿易振興機構アジア経済研究所、pp.32-33、2013年3月)
・西芳実「原発災害からの復興を考える―異なる現場を架橋する地域研究の可能性」(中島成久・西芳実編『原発震災被災地復興の条件―ローカルな声』JCAS Collaboration Series 7、地域研究コンソーシアム、2013年3月)
(2)公開シンポジウム等
・国際ワークショップ「災害後社会の再建と情報管理」(2012年7月2日、稲盛財団記念館)
・シンポジウム「記憶の写し絵―内戦・テロと震災・原発事故の経験から紡ぐ私たちの新しい物語」(2012年12月22日、キャンパスプラザ京都)
・ワークショップ「タイ洪水が映すタイ社会―災害対応から考える社会のかたち」(2012年5月12日、稲盛財団記念館)
研究成果公表計画今後の展開等:  日々発生する規模の小さい災害を可視化することで治安の悪化や紛争を防ぐための情報共有ツールをインドネシア・アチェ州の研究協力者とともに開発し、現地の大学や行政と協力して実用化を試みる。また、引き続き東日本大震災の被災地を訪問し、復興の進展状況を見ながら、必要に応じてスマトラの経験を紹介し、被災後社会における記憶と記録の継承の課題を現地に即して検討する。