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アブラヤシ農園拡大の政治経済学:東南アジアを超えて(h24)

過去の研究プロジェクト

アブラヤシ農園拡大の政治経済学:東南アジアを超えて(h24)

個別共同研究ユニット
代表: 林田秀樹(同志社大学人文科学研究所・准教授)
共同研究員: 阿部健一(総合地球環境学研究所研究推進戦略センター・部門長・プログラム主幹・教授)、新井祥穂(東京農工大学大学院共生科学技術研究院・助教)、石川登(京都大学東南アジア研究所・准教授)、生方史数(岡山大学大学院環境学研究科・准教授)、岡本正明(京都大学東南アジア研究所・准教授)、加藤剛(総合地球環境学研究所・客員教授)、加納啓良(京都大学東南アジア研究所・特任教授)、北村由美(京都大学東南アジア研究所・特任助教)、小林知(京都大学東南アジア研究所・助教)、白井義人(九州工業大学生命体工学研究科生体機能専攻・教授)、田中耕司(京都大学名誉教授)、田中良平(森林総合研究所・研究員)、寺内大左(東京大学大学院農学生命科学研究科・博士後期課程)、永田淳嗣(東京大学大学院総合文化研究科・准教授)、藤倉達郎(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・准教授)、藤田渡(甲南女子大学多文化コミュニケーション学科・准教授)、増田和也(京都大学東南アジア研究所・G-COE研究員)、室田武(同志社大学経済学部・教授)、柳澤雅之(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)、山越言(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・准教授)
期間: 平成24年4月~平成25年3月(1年間)
目的:  本研究は、CIAS共同研究「東南アジアにおける油ヤシ農園生成・拡大の政治経済学」(平成23-24年度)を発展的に継続させるものである。前回の共同研究の目的は、「東南アジアにおける油ヤシ農園の開発と拡大の歴史、それに伴う自然と人との関係の変容について、政治経済学を軸に据えて総合的に考察する」ことであった。そして、本年11月末までに15回の研究会(発表者数:34名)を行ってきた。それを踏まえつつ、本研究は、よりグローバルな視野からアブラヤシ農園の拡大を捉えることを目的とする。マレーシア、インドネシア資本が中南米、西アフリカにアブラヤシ農園を急拡大させており、アブラヤシは東南アジアを超えてグローバルに栽培される商品作物と化している。コーヒーやバナナなどの商品作物と比較しながら、この急拡大のロジックを検討したい。次に、パーム油は、何よりも安価な食用油として商品価値がある。食用油は人間の食生活の基本でありながら、その流通の歴史や国際機関や国家の政策についての研究は乏しい。本共同研究では政治経済学的に食用油の流通を分析し、そこにパーム油を位置づけたい。
研究実施状況:  本研究は、科研費(H.22-24年度、代表:林田)、サントリー文化財団研究助成(H22.8-24.7、代表:林田)等他の財源を用いて、マレーシア、インドネシアを始めとする海外での調査、国内関係諸機関への調査等を実施し、その調査結果を「アブラヤシ研究会」で報告してきた。そして、このCIAS共同研究からいただいた助成金は、すべてこの京都等関西地域で開催されるアブラヤシ研究会への関東や九州等遠隔地在住メンバーの参加旅費に充てた。
 このアブラヤシ研究会では、本研究のメンバーが研究報告をするだけでなく、外部からも講師を招いて研究報告と討論を積み重ねてきた。H.24年度1年間で、開催回数は8回(長期休暇中を除いて毎月開催)、報告者数は18名に上る(添付資料参照)。この後、「7.共同研究会に関連した公表実績」にも挙げるように、今年度は2つの学会でパネルや分科会を本研究のメンバーにより組織したのであるが、それぞれの学会の直前に開催した5月、10月のアブラヤシ研究会では、主にそれらの学会での報告者が予行として報告を行った。このように、H.21年以降2年以上にわたって積み重ねてきた32回に上る研究会開催を結節点とする研究活動が、グループとしての具体的な成果となって現れ始めている。
研究成果の概要:  本研究の活動スタイルは、上にも触れたように、毎月開催するアブラヤシ研究会においてメンバーもしくは外部講師の調査研究報告と討論を行い、情報の共有と各自の研究をグループとしてどのように取りまとめていくかについて協議を重ねるというものであった。研究会で行われた18本の報告すべての概要をここでまとめることは困難である。しかし、そうした研究会活動のなかで、共著本のかたちで成果をとりまとめることを最終目標としながらも、それ以前に関連学会でパネル報告を組織するなど、グループとしての成果報告を重ねていこうという合意を形成してきた。ここでは、そうした学会、国際シンポジウム、国際セミナー等での報告として結実した研究成果のなかから、重要であると思われるものを取り上げ、以下にその概要を示す。
 第1に、アブラヤシ農園面積、並びにパーム油生産量に突出しているマレーシア、インドネシアは、インド、中国、あるいはEUといった巨大市場をはじめ、世界中の極めて広範な地域にパーム油輸出を盛んに行い、市場を拡大させてきたという点である。その輸出の拡大は、1990年代末にそれらパーム油の2大生産国において通貨危機が発生して以降特に加速しており、アブラヤシ農園面積もそれにつれて拡大してきている。2点目は、それら2大生産国の農園企業の海外事業展開である。マレーシア資本、インドネシア資本とも中南米やサブサハラ・アフリカにおける農園開発に進出しているが、それ以外にも、例えばマレーシア系企業は、アメリカのアグリビジネス企業と提携関係を結ぶなど事業の多角化と海外の競合資本との相互浸透を進め、収益力基盤の強化を図っている。第3は、アブラヤシ農園、パーム油関連製品に関するディスコースの展開に関連する事柄である。農園開発の是非に関するディスコースは、その反対派側からは、「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」の認証を得たものしか関連企業は購入すべきでないとの議論が依然として根強く、特に後発国インドネシア側の反発を招き、同国による独自認証制度への動きも生じている。こうした事態は、国外でのアブラヤシ農園拡大の動きにも少なからず影響を与えるものと思われる。
 第4に、とりわけインドネシアにおいては、小農による自営のアブラヤシ農園造成が盛んに行われるようになってきており、その動向が注目されている。従来は、大規模農園企業によるアブラヤシ農園の造成が森林破壊を促進しているとして、環境保護団体、NGOからの批判の対象となってきたのであるが、とりわけ2000年以降は小農による農園開発が無視できない規模になってきており、環境問題ばかりでなく、アブラヤシ・モノカルチャー化がそのリスクを主に背負う小農たち自身の手によって進められているのであり、この要因をどのように理解するか、その影響はどのようなかたちで現れてきているかについて、調査・研究を継続する必要がある。
公表実績: (1)東南アジア学会第87回研究大会(2012年6月3日, 於 京都文教大学)でパネル報告を組織
[パネル・テーマ] 東南アジアにおけるアブラヤシ栽培の拡大と地域社会の変容
[司会・趣旨説明] 林田秀樹、藤田渡 
[報告者] 増田和也、藤田渡、生方史数
[コメント] 永田淳嗣
(2)アジア政経学会2012年度全国大会(2012年10月13日, 於 関西学院大学)で
分科会報告を組織
[分科会テーマ] 東南アジアにおけるアブラヤシ・プランテーション拡大の政治経済学
―要因、構造、言説
[司会・趣旨説明] 永田淳嗣
[報告者] 林田秀樹、岩佐和幸(高知大学)、岡本正明
[討論] 加納啓良
(3)同志社大学人文科学研究所主宰 第80回公開講演会(2013年2月23日,於 同志社大学)として国際シンポジウムを開催
[シンポ・テーマ] カリマンタン/ボルネオにおけるアブラヤシ農園拡大とその影響
―生産システム・地域社会・熱帯林保護
[講演者] 林田秀樹、加藤剛、Herman Hidayat(インドネシア科学院)
[コメント・討論] 永田淳嗣
(4)インドネシア科学院、京都大学東南アジア研究所、日本学術振興会アジア研究教育拠点事業共催国際セミナー ‘Socio Political and Economic Reform In Southeast Asia: Assessments and the Way Forward’ (2013年3月9-12日、於 インドネシア科学院)にてSESSION 4: Plantation and Biomass Society (3月10日)を組織
[司会] 岡本正明
[報告者] Pande R. Silalahi(CSIS)、林田秀樹、藤田渡、岩佐和幸、Ngadi(LIPI)、甲山治(東南アジア研究所)、渡辺一生(同左)
研究成果公表計画今後の展開等:  H.25年度も、第1に、アブラヤシ研究会の開催を研究活動の結節点に位置づけた取組みを継続する。研究会は、4月20日を皮切りに、7月まで毎月計4回の予定がすでに立っている。報告者も11名決定済みである。このうち、7月の回は、東南アジア学会の関西地区例会と共同で開催する予定である。
第2に、引続きグループとしての研究成果を、学会でパネル・分科会を組織して公表するということを具体的目標に掲げて研究活動を行っていく。6月に予定されている東南アジア学会では、すでに加藤剛、白井義人、田中良平、林田秀樹、寺内大左、岩佐和幸を報告者としてパネルを組むことが決まっている。このほかにも、秋以降の関連学会でパネル・分科会を組めないか検討中である。
 3つ目は、これまでに学会や国際セミナーで報告してきた論文を関連専門誌に特集として投稿できないか検討している。また、このようにまとまった論文を書きためることで、最終成果としての共著本をどのようなかたちで編集していくかについて引続き検討を重ねる予定である。