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市場経済移行期のラオス農村金融市場の形成: 東北タイ、ベトナム、日本の経験との比較(h24)

過去の研究プロジェクト

市場経済移行期のラオス農村金融市場の形成: 東北タイ、ベトナム、日本の経験との比較(h24)

個別共同研究ユニット
代表: 大野 昭彦(青山学院大学国際政治経済学部・教授)
共同研究員: 藤田幸一(京都大学東南アジア研究所・教授)、三重野文晴(神戸大学国際協力研究科・教授)、柳澤雅之(京都大学地域研究統合情報センター准教授)、大鎌邦雄(東北大学・名誉教授)
期間: 平成24年4月~平成25年3月(1年間)
目的:  つい近年まで自給的な焼畑移動耕作が支配的で、現金を介さないバーター取引が広範に行われていたラオスの農村も、新自由主義に基づく市場経済の浸透が急速に進んでいる。しかし、「市場」も社会に組み込まれるシステムである以上、その機能のありようは地域固有の特性を背景として大きく異なってくる。さまざまな市場のなかで、歴史的にみて、在来の農村社会構造に強く影響され、かつ政策介入の役割が最も大きいのが金融市場である。本研究では、ヴィエンチャン特別市の農村部を中心にして1990年代末以降急成長しているラオス農村信用組合に着目し、市場経済の浸透が農村社会に、そして農村社会の特性が市場経済の形成に与える影響という相互作用という観点から、農村社会への新自由主義の浸透を検討する。また、ラオスの特性を浮き上がらせるため、信用組合についての歴史的経験を蓄積している東北タイと日本、さらにベトナムの農村金融制度を比較の対象に据える。
研究実施状況:  研究会を2度開催した。プロジェクトとして、以下の8本の論文を執筆し、研究費の大半を、そのproof readingの出費に充当した。1. Introduction: Saving Groups in Laos, by Ohno, Fujita, and Mieno, 2. Saving Groups and Rural Financial Markets: Japanese and Thai Experiences,by Ohno, 3. Informal Network Finance as a Risk Coping Device in mountainous Laos, by Ohno, 4. Recent Changes in Mountainous Laos and the Village Saving and Credit Groups: A Study in Luang Prabang Province, by Fujita and Ohno, 5. What the Rural Poor do not Borrow from Saving Groups in Laos?, by Chaleunsinh, 6. The Excess Fund Problem of the Saving Groups in Laos: Case of a Village in Vientiane Municipality,by Fujita, 7. The Function and the Sustainability Condition of Credit and Saving Union in Laos: from the Survey in Villages in Vientiane Vicinity, by Mieno and Chaleunsinh, 8. The Impact of Microfinance on Household Welfare: Case Study of a Savings Group in Lao PDR,by Kongpasa and Mieno  
研究成果の概要:  制度金融がラオスの農村金融市場に果たす役割は限定的であり、ここに信用組合が機能する可能性がある。本研究では、信用組合の導入が進んだヴエンチャン特別市と導入が始まったばかりのルアンパバン県を研究対象とし、それぞれで4村と8村を選定して家計費調査を実施した。
 相対的に市場経済が浸透しているヴエンチャン特別市では信用組合は迅速に普及している。村内の商業活動が盛んなところほど貯蓄額の増加も大きい事実が検出されており、市場経済と信用組合の進展には強い関連があることがわかる。しかし、それはまた、総貯蓄額が借入需要を上回り余裕金問題が発生することを意味している。本研究でも、そうした貯蓄組合が、信用組合の規定に反して、余裕金を村外の個人に貸し付けてしまい多額の不良債権が発生していることを明らかにしている。これに対して市場経済の浸透が進んでいないルアンパバン県では、信用組合の貯蓄額は限定的であり、また借入もほとんどが病気治療といった消費平準化を目的としている。しかし、そのなかでも市場経済がある程度進んだところでは貯蓄動員が進んでいる。こういった段階では、信用組合の運営への不断の指導が不可欠となる。
 今後の信用組合の進展について、日本とタイの経験が有益である。タイでは信用組合は村内活動に限定されており、一部では余裕金問題が深刻となっている。そのために貯蓄動員を制限するという対策がとられており、組合活動が頭打ちになっている。これに対して日本では、余裕金を信用組合間で仲介する全国組織が初期段階から形成されたために、余裕金問題は全国的に統一された農村金融市場の形成を促すことになった。ラオスでも、そうした動きが緒についており、今後の研究対象として注目される。
公表実績:  上記8本の論文をdiscussion papersとするほか、近日中に特集号として『東南アジア研究』に投稿する。
研究成果公表計画今後の展開等:  今回の諸論文で明らかとなった課題は、ビエンチャン特別市の信用組合で深刻化している余裕金を以下に処理するかである。次年度以降、大きな予算的措置はできていないが、幾つかの少額の研究予算が確保できていることから、余裕金のある信用組合に対象を絞って研究を進める予定である。実際には、昨年度の科研の予算で余裕金のある10の信用組合について簡単な情報を収集している。そこで、この10信用組合の経年調査を今年度と来年度に予定している。さらに、それらから幾つかの信用組合を選定して、より詳しい聞き取り調査を行う予定である。
 ビエンチャン特別市の信用組合については、昨年度からビエンチャン特別市の女性同盟(Lao Women Union)がその管理をおこなうことが決定している。昨年度、その担当者から管理手法について日本の経験に基づいた技術移転の要請があり、それに即する形で調査を続行することになる。