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癒し空間の総合的研究―聖空間としての延喜式内社とアジアの聖地の比較研究(h23~h24)

過去の研究プロジェクト

癒し空間の総合的研究―聖空間としての延喜式内社とアジアの聖地の比較研究(h23~h24)

個別共同研究ユニット
代表: 鎌田東二(京都大学こころの未来研究センター・教授)
共同研究員: 秋丸知貴(京都大学こころの未来研究センター・連携研究員)、磯部洋明(京都大学宇宙総合学研究ユニット・特定講師)、河合俊雄(京都大学こころの未来研究センター・教授)、河角龍典(立命館大学文学部地理学科・准教授)、須田郡司(フォトグラファー)、須藤義人(沖縄大学人文学部こども文化学科・専任講師)、中野不二男(JAXA(宇宙航空研究開発機構研究開発本部未踏技術研究センター)・主幹研究員)、原正一郎(京都大学地域研究統合情報センター・教授)、原田憲一(京都造形芸術大学芸術学部芸術教養教育センター・教授)、湯本貴和(京都大学霊長類研究所・教授)、奥井遼(京都大学こころの未来研究センター・特定研究員)
期間: 平成23年4月~平成25年3月(2年間)
目的:  「癒し空間」とは、「人びとが、癒しを求め、癒しの効果があると感得され、信じられている空間」である。伝統的には、「聖地」や「霊場」や「巡礼地」などの聖なる場所を指す。そこで、さまざまな宗教的行為――祈り、祭り、籠り、参拝、神事、イニシエーションなどの儀礼や修行(瞑想・滝行・山岳跋渉等)が行われてきた。本研究においては、そのような「癒し空間」を、宗教学、資源学、宇宙物理学、生態学、民俗学、情報学、認知科学、認知心理学、臨床心理学などの方法を用いながら、総合的・多角的に研究を進め、世界各地の癒し空間との比較研究を試み、人に安らぎや崇高さを感じさせる場の特色とその心的メカニズムを突き止める。
 宗教的聖空間として癒し空間の総合的比較研究は、資源・循環・多様性・地球地域学・文明環境史などの観点から見ても極めて興味深い生きた事例であり、そこから抽出された問題点は現代の心の平安を再検討していく際に多大の示唆を与えてくれるだろう。将来的には本研究をさらに発展させて、人類文明の“安心”“安全”“安定”という「平安」の条件や機能を再検証し、再活用する可能性や方法を提示してみたい。
研究実施状況: -平成23年度-
 研究計画の基本線の変化はないが、本年度は、2011年3月11日に起こった東日本大震災によって、一部の研究計画を急遽変更した。それは、東日本大震災の被災地における「癒し空間」や「延喜式内社」の現状確認と機能実態についてのフィールドワーク的研究を優先したからである。5月2日から5日までの4日間、宮城県仙台市若林区から岩手県久慈市までの海岸線約300キロの被災状況とそこにおける延喜式内社(塩竈神社・鼻節神社・石神社など)を含む神社仏閣の調査を共同研究員の須田郡司氏と行ない、さらに、10月10日から13日まで同地区を追跡調査した。また、9月に台風12号・15号の影響で奈良県・和歌山県を流れる天の川(十津川・熊野川)流域に洪水が発生したので、天河大辨財天社と丹生川上神社下社を3回に渡り調査した。
 そこで得た被害状況の報告と癒し空間としての機能の発現について、拙著『現代神道論――霊性と生態智の探究』(春秋社、2011年11月30日刊)、拙編著『日本の聖地文化――寒川神社と相模国の古社』(創元社、2012年3月31日刊)で発表した。また、中野不二男氏による相模国の海岸線復元を行ない、その成果に基づく、研究成果を前記『日本の聖地文化』で公表した。
-平成24年度-
 本研究は、2011年3月11日に起こった東日本大震災によって研究計画と調査地域を急遽変更した。東日本大震災の被災地における「癒し空間」と「延喜式内社」の現状確認と機能実態についてのフィールドワーク的研究を優先したからである。そこで本年度も昨年度に引き続き、2012年5月1日から6日までの6日間(第3回追跡調査)、青森県八戸市から福島県南相馬市の立ち入り禁止区域までの海岸線約500キロの被災状況とそこにおける延喜式内社(塩竈神社・鼻節神社・石神社など)を含む神社仏閣の調査を共同研究員の須田郡司氏と行ない、鎌田が8月24日から27日まで宮城県名取市から岩手県宮古市までを第4回目の追跡調査をし、さらに2013年3月10日から14日まで、宮城県仙台市から青森県八戸市までを第5回目の追跡調査をした。また、天河大辨財天社と丹生川上神社下社を3回に渡り追跡調査した。そこで得た被害状況の報告と癒し空間としての機能の発現について、昨年度刊行した鎌田東二著『現代神道論――霊性と生態智の探究』(春秋社、2011年11月30日刊)、鎌田東二編著『日本の聖地文化――寒川神社と相模国の古社』(創元社、2012年3月31日刊)に引き続き、『叢書 宗教とソーシャル・キャピタル4 震災復興と宗教』(稲場圭信・黒崎浩行編、明石書店)の鎌田論文「民俗芸能・芸術・聖地文化と再生」にまとめ、各種シンポジウムにおいてその成果を発表した。
研究成果の概要: -平成23年度-
 東日本大震災の被災地の「癒し空間」と「聖地文化」については、前掲拙著『現代神道論――霊性と生態智の探究』(春秋社、2011年11月30日刊)において報告した。
加えて、延喜式内社についての整理を行なった。延喜式内社の神社および神々は総数3132座である。それを国別に表示する整理を行なった。また、延喜式内社で相模国一ノ宮の寒川神社を始め、水神系の延喜式内社の整理を行ない、延喜式内社が縄文遺跡など先史時代の遺跡および古代遺跡とどのような関係性を持つのかを研究した。そして、関東の大規模な聖地である寒川文化圏を、歴史、民俗のみならず、地質学、生態学などから多角的に解き明かし、それを、前掲拙編著『日本の聖地文化――寒川神社と相模国の古社』にまとめた。
 その際、宇宙空間からの衛星データ(ALOSdeta)に基づいて、日本列島の海水準画像を作成(1万年前、5000年前、2000年前、AD.800年頃、AD.1200年頃、AD.1600年頃の海水準画像)し、延喜式内社が時代毎の海水準とどのような関係になるかを調べた。こうした年代・時代毎の時空間情報をベースに立脚して、寒川神社や関東地域の神社や森や水域など、日本列島に生まれた「聖地・霊場」が自然の恵みに深く依拠し、それに対する敬虔なる畏怖・畏敬の念を以って維持されてきたことの意味を再確認し、前掲『日本の聖地文化』で公開した。そこで、「水の惑星・地球」や、その水の惑星に生命が誕生し進化してきた歴史や日本列島の生成史、および縄文遺跡・弥生遺跡・古墳時代遺跡と相模国の形成、寒川神社と延喜式内社の分布と上記遺跡との関係、寒川神社と方位信仰など、広大な時空間の中に「聖地」や寒川神社や相模国の延喜式内社を位置づけた。
-平成24年度-
 東日本大震災の被災地の「癒し空間」と「聖地文化」について、前掲拙著『現代神道論――霊性と生態智の探究』(春秋社、2011年11月30日刊)、前掲拙編著『日本の聖地文化――寒川神社と相模国の古社』、拙稿「民俗芸能・芸術・聖地文化と再生」(前掲『叢書 宗教とソーシャル・キャピタル4 震災復興と宗教』)にまとめた。本研究によって、明らかになってきたことは、先ず第一に、JAXA&京都大学宇宙総合学ユニットの中野不二男による衛星データ(ALOS deta)に基づki日本列島の海水準画像を作成し、延喜式内社との位置関係を調べることによって、主要古社が海岸線に近い河岸段丘に立地している確率が高いことを突き止め、日本列島に生まれた「聖地・霊場」が自然の恵みに深く依拠し、それに対する敬虔なる畏怖・畏敬の念を以って維持されてきたことの地質学的・生態学的・自然地理学的意味を再確認した。第二に、延喜式内社などの各国主要古社が縄文遺跡など先史時代の遺跡および古代遺跡と近接し、縄文時代からの信仰と切り離せないことを推定した。第三に、東北(陸奥国)延喜式内社100社の内、石巻市や女川町のある牡鹿半島に10社も密集していることが地震や津波などの自然災害の多発を関係があることを推定した。第三に、それに関連して、伊豆国に92座の延喜式内社があることの意味も地震や火山の噴火などの自然災害と密接な関係があることを推定した。第四に、東北被災地の津波浸水線上に多くの神社があり、避難所になっている事実とその安全・安全装置としての意味を確認した。第五に、日本を代表する日本三大祭りの一つに挙げられている祇園祭の発生が貞観11年(869)に起こった貞観地震を直接的な契機としていることを推定した。
 このように、日本の「癒し空間」の具体例といえる延喜式内社が、自然災害の襲来(「祟り」とも捉えられた)に対する防災・安心・安全装置や拠点でもあったことを明確にすることができた。
公表実績: -平成23年度-
A:口頭研究発表
①日時:2011年10月26日(水)14時~17時
場所:京都大学稲盛財団記念館3階大会議室
発表1:須田郡司(写真家・京都大学地域研究統合情報センター「癒し空間の総合的研究」共同研究員)「石の聖地の比較研究」
発表2:鎌田東二「水の聖地・天河大辧財天社の癒し空間と台風12号による被害状況報告」
②日時:2011年11月17日(木)14時~17時場所:京都大学稲盛財団記念館3階大会議室発表1:小林達雄(國學院大學名誉教授・縄文考古学)「縄文遺跡と延喜式内社~縄文中期最大の住居跡・岡田遺跡と寒川神社、勝坂遺跡と有鹿神社との関係について」
発表2:鎌田東二「癒し空間と延喜式内社の研究について」(発表30分+討議30分)
B:著作・論文
鎌田東二『現代神道論――霊性と生態智の探究』春秋社、2011年11月30日刊
鎌田東二編『日本の聖地文化――寒川神社と相模国の古社』創元社、2012年3月31日刊(鎌田
担当頁、「序章 パワースポット・ブームと聖地文化」1~21頁、「第七章 寒川神社と相模国の古社の歴史と民俗」214~254頁、「終章 関東の聖地文化と生態智の探究」255~271頁)
須田郡司(共同研究員)「石の聖地の比較研究(1)(2)」、モノ学・感覚価値研究会HP研究発表欄、2011年11月27日、12月27日
須田郡司『日本の聖なる石を訪ねて』祥伝社新書、2011年10月5日(第1章は鎌田東二と須田郡司との対談)
中野不二男(共同研究員)「相模湾の海水準と宇宙人文学」前掲『日本の聖地文化』86~111頁。
河角龍典(共同研究員)「相模国と寒川神社周辺の地形環境と景観」前掲『日本の聖地文化』144~181頁。
小林達雄「縄文時代から神社まで」前掲『日本の聖地文化』182~213頁。
-平成24年度-
>A:口頭研究発表
①日時:2012年6月7日(木)14時30分~17時40分
原田憲一+鎌田東二「京のみやこの神性を災害から読み解く」京都伝統文化の森推進協議会
場所:京都大学稲盛財団記念館3階大会議室
②日時:2012年11月日(木)14時~17時 比較文明学会第30回&地球システム・倫理学会学術合同大会
場所:京都大学稲盛財団記念館3階大会議室
基調講演:原田憲一「減災」
基調講演:鎌田東二「平安京と生態智」
③日時:2013年2月23日(土)
主催・場所:和歌山県新宮市教育委員会主催第5回熊野学サミット
特別講演:鎌田東二「東北を巡り熊野から紡ぐ 海・山のあいだ再考~防災拠点としての寺社と信仰」
④日時:2013年2月27日(水)13時~17時『日本の聖地文化』
場所:場所:京都大学稲盛財団記念館3階大会議室
発表1:鎌田東二「日本の聖地文化」
発表2:原田憲一「相模の国の地質と古代」
発表3:五反田克也「相模の国の花粉分析」
発表4:中野不二男「相模湾の海水準と宇宙人文学」
発表5:湯本貴和「相模の国の生態系と古代遺跡」
発表6:河角龍典「相模の国と寒川神社周辺の地理学的考察」
B:著作・論文
鎌田東二『古事記ワンダーランド』角川選書、角川学芸出版、2012年10月25日刊
鎌田東二「民俗芸能・芸術・聖地文化と再生」『叢書 宗教とソーシャル・キャピタル4 震災復興と宗教』稲場圭信・黒崎浩行編、明石書店、2013年4月5日刊
鎌田東二「1910年と南方熊楠と生態智」『「エコ・フィロソフィ」研究 第7号 別冊 シンポジウム・研究会編』2013年3月29日刊
湯本貴和「生業と供養思想―資源管理と持続的な利用」 秋道智彌編『日本の環境思想の基層―人文知からの問い』岩波書店、2012年3月29日刊
湯本貴和「カミ、人、自然―熊楠が求めた共生の杜」季刊民族学、2012年4月10日刊
湯本貴和「離島の環境保全を考える」 地方議会人43(4)、2012年4月12日刊
湯本貴和 「木材利用の民俗植物学―昭和30年代以前の屋久島・宮之浦集落を例として」伊東隆夫・山田昌久編『木の考古学―出土木製品用材データベース』海青社、2012年10月11日刊
湯本貴和 「人と植物の歴史」平川南編『環境の日本史1.日本史と環境』吉川弘文館、2012年10月27日刊
原田憲一「科学技術はどこで間違えたのか~科学と技術と科学技術の違いから考える」伊東俊太郎・染谷臣道編『収奪文明から還流文明へ』東海大学出版会、2012年10月20日刊
須田郡司(共同研究員)「石の聖地の比較研究」『モノ学・感覚価値研究』第7号、京都大学こころの未来研究センター、2013年3月29日刊
研究成果公表計画
今後の展開等:
-平成23年度-
 国内外の「癒し空間」を、宗教学、民俗学、宇宙物理学、資源学、生態学、芸術学、認知科学、臨床心理学などの方法を用いながら、多角的かつ総合的に比較研究する。
次年度は、地元の京都(山城国)の聖空間としての延喜式内社のマッピング(地空間情報の確定)をし、それを基点に周辺地域である奈良(大和国)、大阪(摂津国)、滋賀(近江国)に広げ、関西圏と関東圏や四国中国九州圏や東北圏、また東アジアの聖地文化との比較を行ない、総括する。
 その際、宇宙空間からの衛星データ(ALOSdeta)に基づいて、日本列島の海水準画像を作成(1万年前、5000年前、2000年前、AD.800年頃、AD.1200年頃、AD.1600年頃の海水準画像)し、延喜式内社が時代毎の海水準とどのような関係になるかをさらに拡張調査し、こうした年代・時代毎の時空間情報をベースに立脚して、京都・奈良・近畿諸地域および寒川神社や関東地域の寺社や森や水域を中心にしたフィールド研究を行う。それによって得られた癒し空間のモデル化を図る。また、癒し空間が持つ癒しの機能を臨床心理学的に探り、また仏像や樹木や岩などがもたらす心理効果を実験心理学的な手法も用いて総合的に探求する。
 また、林行夫教授(CIASセンター長)の「聖なるもののマッピング」との連携による、タイやインドネシアなどの東南アジアや韓国・台湾・中国など北東アジアとの地域間比較も実施していく。
 また本年度は、11月16日~18日に比較文明学会第30回大会が地球システム・倫理学会との共催で行われる(大会実行委員長:鎌田東二)が、全体テーマが「地球的危機と平安文明の創造」となり、そこで本研究プロジェクトの研究成果を発表する予定である。
-平成24年度-
①須田郡司とともに、東北被災地の「癒し空間」(聖地・霊場)の現状追跡調査を継続する。2013年度は10月と3月(2014年3月11日を挟む)を予定。
②JAXA主幹研究員で、昨年度より京都大学宇宙総合学ユニット特任教授に就任した中野不二男とともに、「宇宙人文学」の手法を駆使し、Alosデータを使用した延喜式内社と海水準との関係を日本列島全体に拡大して研究調査を継続する。
③引き続き、「癒し空間」を、宗教学、民俗学、宇宙物理学、資源学、生態学、芸術学、認知科学、臨床心理学などの方法を用いながら、多角的かつ総合的に比較研究し、日本の「癒し空間」が防災機能を含む安心・安全装置ないし拠点であったことの意味を解明し、社会発信ないし提言していく。