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ヒューマン・パワー時代の外交・安全保障の現場と地域研究」(h22~h23)

過去の研究プロジェクト

ヒューマン・パワー時代の外交・安全保障の現場と地域研究」(h22~h23)

個別共同研究ユニット
代表: 川端隆史(SMBC日興証券㈱国際市場分析部・次長)
共同研究員: 篠崎香織(北九州市立大学外国語学部国際関係学科・准教授)、富川英生(防衛省防衛研究所・教官)、西芳実(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)、西尾寛治(防衛大学校人文社会科学群人間文化学科・教授)
期間: 平成22年4月~平成24年3月(2年間)
目的:  本研究プロジェクトの目的は、今日の地球社会においてなお不可欠である外交と安全保障を事例として、地域研究と実務の発展的な協働関係を促進するための研究手法を探求することである。外交・安全保障分野における古典的な意味での主体は依然として国家であるが、本研究プロジェクトでは現場レベルでの担い手に注目する。通信技術の高度化と低コスト化に伴い、個々の実務者や研究者の発信力や役割の拡大といったヒューマン・パワーの高まりが著しいなか、外交・安全保障分野でも立場を超えた連携が個別に模索されている。こうした協働の経験は、個別の情報交換にとどまらず、実務者と研究者がそれぞれの専門性を深める上でも寄与するところ大となることが見込まれる。このような問題意識のもと、本研究プロジェクトでは外交・安全保障の現場における実務者と研究者のそれぞれが持つ「情報の形」を明らかにし、両者を互いに「翻訳」するための方法論を探究する。
研究実施状況: -平成22年度-
 実施1年目である今年度は、外務省員と地域研究者の「共通言語」を探る準備期間とし、研究会は、京大地域研や外務省を主な会場として、22年6月20日、11月3日、23年1月21日、3月20、21日の4回行った。外交の現場での実務経験を踏まえた実務者側のニーズの掘り起こしの必要性、学術と実務をつなぐ場の形成の可能性などについて議論したうえで、外務省員側からは、①外交実務の経験から学界に求めること、②実務に携わりながら博士号を取得した経験に基づいて実務者が研究活動から得た知識を実務にどう生かしてきたか、などについての報告が行われた。
 23年3月の第4回研究会は、若手・中堅の外務省員を報告者とした公開研究会を開催し、外務省員と地域研究者の間で「地域像」の比較検討を行うとともに、「共通言語」を模索するための場を設定した。なお、この成果を踏まえて、実施2年目の23年4月には外務省員を交えた公開シンポジウム「中東から変わる世界」を開催する。
-平成23年度-
第一回目の研究会は、平成23年4月16~17日に地域研究コンソーシアムとCIASが主催した「中東から変わる世界」に共催研究会として参加し、外務省員2名(菊池信之氏、飛林良平氏)を報告者、1名をフロア参加者(三宅紀子氏)として推薦・派遣した。
第二回目は、平成23年6月30日に「日本外交と平和構築~マレーシアPKO訓練センターへの講師派遣~」題して、マレーシアにある国連平和維持活動の要員向け訓練センターに派遣された内閣府の専門家2名(内閣府佐藤美央氏、与那嶺涼子氏)とその政策立案を担当した外務省職員1名(清水和彦氏)を招き、本プロジェクトの共同研究員が中心に討論を行った。
第三回目は、平成23年10月8日に「マラッカ海峡の安全~日本の貢献から考える~」と題して、マレーシアの海上法令執行庁(MMEA)に国際協力機構(JICA)専門家として派遣された海上保安庁の職員1名(土屋康二)、ASEANの安全保障の専門家で海上保安庁政策アドバイザーである佐藤考一氏(桜美林大学)をコメンテーターとして招き、発表・討論を行った。
各研究会とも、学術研究者だけでなく、外務省・防衛省職員、民間企業社員などが参加し、それぞれの立場からの経験の披露や意見交換が活発に行われた。
研究成果の概要:  -平成22年度-
外務省員と地域研究者が同じ地域を見てもその説明や解釈が異なる背景について検討した。その結果、外務省員は、①大使や上司などに質問された場合に必ず何らかの答えを出さなければならない応答義務がある、②大使や大臣を含め、一般に対象地域に対する専門的な知識がない人々を聴衆とし、聴衆がわかる説明が求められる、③多くの場合は質問に対して即答が求められるため、知識量とその提示の仕方が問われる、④日本の国益に鑑みて政府・外務省がとりうる立場に沿った情報提供や意見表明が求められるのに対し、地域研究者は、①上司などから地域事情の説明を求められることはまずなく、質問に答えなくても責任が問われることはない、②研究成果は学会などで専門家に向けて発表し、専門家が納得するかどうかで判断される、③現実に目の前で進行している事態に対する具体的な処方箋を出すことは必ずしも求められず、中長期的かつ抽象的な意味を示すことが多い、④個別の国家や集団の利益のためではなく人類普遍的な立場が求められるといった傾向があり、そのため同じ地域を見ていてもその説明や解釈が異なると考えらえる。しかし、対象地域の「勘どころ」を掴む点では両者には共通点があり、両者の連携を伸ばす工夫によって両者の知見が互いに利用可能となると考えられる。これまで連携を妨げてきた背景としては、①連携が一時的なものであったり、人事異動があると関係が希薄になってしまったりすること、②外務省員側が学会や研究プロジェクトの存在を承知していないために連携のきっかけを掴む機会が乏しいこと、③研究者が政策に「お墨付き」を与えるような関係となっていたことなどが挙げられ、忌憚のない意見交換ができるように若手・中堅の外務省員が地域研究者と連携することの重要が議論された。引き続き研究会での議論を深めるとともに、地域研究コンソーシアムや学会などと連携して外務省員の参加を促すこととなった。
-平成23年度-
一連の研究で最も特徴的な点は、話題提供者に必ず日本政府の外交・安全保障の政策立案に携わっている実務者を招いたことである。実務者の中でも幹部クラスではなく、現場の第一線で担当者として政策の立案・実施を取り仕切っている人物を対象とした。政策としてある程度形作られた段階より、一から政策を立案する人物には、現場ならではの工夫や政策立案の初期過程における学術的成果の取り入れがしばしば見られるからである。
現場での独自の工夫に対して、地域研究的な手法や人道やジェンダーなどの分野の実務専門家が派遣された地域を専門とする地域研究者と対話することで、現場でより効果的な活動を行うためのノウハウのシェアが行われた。具体的には、PKOセンターの事例では、内閣府の人道の専門家がPKO要員に国連の人道原則についてレクチャーを行ったが、その際、それぞれの参加者の出身国の文化・宗教・習慣・国の方針などによって捉え方が大きく異なることが明らかにされた。これに対して、地域研究者からは、内閣府職員は地域研究が培ってきた知見を身につけておくことでより効果的な訓練に資するとの意見が出され、今後、実務サイドでも地域研究の知見を活用すべく、地域研究者との連携を行いたいとの提案もなされ、具体的な連携の可能性が検討された。
なお、連携にあたり、最も苦労した点はスピーカーの出席の確保であった。実施に移した3回の研究会以外にも、いくつか企画されたものがあったが、職務上の緊急事態対応のため出席を確約できない、立場上、公での意見表明をしにくいケースなどがあり、実行に移しにくいものもあった。一方で、一連の研究会で個人的な見解も含め外交・安全保障の現場での経験を臆することなく語った実務者との間では、地域研究の実務における有用性や連携の可能性の広がりがみられた。
公表実績: -平成22年度-
公開研究会「若手外交官が語る『地域像』」(22年3月17日、京都大学)
 趣旨説明・司会 川端隆史
 1.ヨーロッパ(飛林良平:ルーマニア、南野大介:ウクライナ/モルドバ)
 2.アラブ・中東(菊地信之:サウジアラビア、笹岡良子:シリア/エジプト)
 3.東南アジア(小野寺麻希子:タイ/ラオス、三宅紀子:インドネシア)
 コメント 西芳実、富川英夫、山本博之
 総合討論
-平成23年度-
西芳実・山本博之編 2011 『中東から変わる世界』(JCASコラボレーション・シリーズ3)、地域研究コンソーシアム/京都大学地域研究統合情報センター。

研究成果公表計画
今後の展開等:
 
-平成22年度-
23年度は連携を始めた外務省員との議論を深め、学術研究と実務の連携の一つのあり方を研究会として提示する。今後の外交・安全保障実務の中核を担うことが期待される若手~中堅の外務省職員からの幅広い参加を実現するため、外務省において3回の開催を行い、これまで希薄であった外務省と学会・研究プロジェクトの連携を強化する。最終成果として、シンポジウムを開催して、その内容をもとに研究者と実務者双方の寄稿からなるディスカッションペーパーを刊行することを目的とする。
 直近の計画としては、23年4月16日~17日に地域研究コンソーシアムと地域研が主催する「地域の知」シンポジウム「中東から変わる世界」に共催として当共同研究が参加する。当研究会が連携を進めてきた外務省員のうち2名を報告者としてコーディネートする他、若干名にフロア参加者としての参加を促している。
-平成23年度-
地域研究統合情報センターの共同研究としては本年度で終了となるが、24年度に入り外務省より本共同研究会に対してマレーシアの東方政策30周年を期に研究協力の依頼があり、本共同研究を通じて日本マレーシア学会に紹介し、研究協力が進められることになった。近年、外務省が政府系シンクタンク以外の学術団体と研究協力を行う事例はほとんどなく、本プロジェクトの2年間の活動が政策当局者に影響を与えたとみられる。今後は、東方政策30周年に関する研究プロセスを通じて、実務者との連携を実践に移していく予定であり、その研究を踏まえて、将来は再びCIASの共同研究などの研究プロジェクトを実施して、地域研究者と実務者の連携を行うプラットフォームを形成することへと発展させていくことを視野に入れている。