1. ホーム
  2. 研究活動
  3. 過去の研究プロジェクト
  4. 災害対応と情報-人道支援・防災研究・地域研究の連携を求めて(h22~h23)

災害対応と情報-人道支援・防災研究・地域研究の連携を求めて(h22~h23)

過去の研究プロジェクト

災害対応と情報-人道支援・防災研究・地域研究の連携を求めて(h22~h23)

個別共同研究ユニット
代表: 西芳実(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)
共同研究員: 牧紀男(京都大学防災研究所・准教授)、Muhammad Dirhamsyah(シアクアラ大学津波防災研究センター・所長)、山本直彦(奈良女子大学生活環境学部住環境学科・准教授)、山本理夏(特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン・事業責任者)
期間: 平成22年4月~平成23年3月(2年間)
目的:  本研究プロジェクトは、アジアにおける自然災害をめぐる「現場の情報」と「研究の情報」とを結びつけ、それぞれの情報を異業種・異分野間で相互に参照可能な形で提示する方法を提示することを目的とする。災害対応においては、現場では被災者や人道支援実務者など、研究では工学・防災や地域研究などがそれぞれ被災や救援・復興に関する情報の収集・整理や蓄積を行ってきた。それらの情報の多くは分野や業種を超えて相互に利用可能であると思われるが、情報の整理や蓄積の方法(すなわち情報の表現形態)が異なるため、これまで相互の利用が十分になされてこなかった。本研究プロジェクトでは、インドネシアにおける自然災害およびその救援・復興支援事業の事例をもとに、被災コミュニティ、人道支援、防災研究、地域研究のそれぞれの分野における情報を相互に利用可能な形で共有する方法を検討し、モデルとして提示する。
研究実施状況: -平成22年度-
 研究会、学会パネル、出張講義を通じて防災、人道支援、地域研究の連携のネットワークを確立し、2004年スマトラ沖地震津波災害と2009年西スマトラ地震災害の事例をもとに「流動性の高い社会」という鍵概念を抽出し、それぞれの専門分野での適用を検討し、その成果を雑誌『地域研究』の特集「災害がひらく社会」として発表した。
 2010年6月には東南アジア学会第83回研究大会でパネル「学術研究と人道支援―2009年西スマトラ地震で壊れたもの・つくられるもの」を実施し、成果を報告書『学術研究と人道支援―2009年西スマトラ地震で壊れたもの・つくられるもの』(西芳実・山本博之編、京都大学地域研究統合情報センター刊)にまとめた。また、2010年度冬学期に東京大学教養学部で開講された「平和構築論――地域文化研究から見る災害と復興支援」を共同企画し、共同研究員によるオムニバス形式の授業を実施した。
研究成果の概要:  これまで防災は日本や欧米など先進国の社会での経験をもとにモデルがつくられ、インドネシアをはじめとするアジア諸国に技術移転するという発想で取り組まれてきた。日本や欧米などのモデルがうまく適用されない場合には、対象地域社会の成熟度のためであるとされ、よい統治や情報インフラの整備を通じて社会構造を変えることで防災モデルの適用が試みられてきた。そこでは、救命救急・緊急・復興という段階に区切ってそれぞれの段階に応じた支援を外部から与えるというモデルが用いられてきた。
 これに対して、インドネシアでは住居と生業という二つの基本的な生存基盤が固定されておらず、人々は日常的にその二つを改善しながら生活しており、災害対応においても被災前の状態に戻すのではなく、被災後の状況に対応して新しく住居と生業を柔軟に再編していく様子がみられる。このような社会では、復興の段階を明確に定めたり、元住んでいた場所で元の生業に戻るというような固定的な社会を前提にした復興モデルは有効でない。
 本共同研究ではインドネシアのスマトラにおける復興過程を「流動性の高い社会における災害対応」と捉え、その特徴を整理した。そこでは、ポスコ(連絡詰め所)を結節点とした柔軟なネットワークが活用され、さらにポスコの仕組みを国境を越えて適用することにより、域内・域外を問わず支援者と被災者が協働で新しい社会秩序をつくっている様子がみられる。
 スマトラの災害対応にあたっては「流動性の高い社会」というモデルが有効である。さらに、災害対応を通じて地域研究から呈示されたこのモデルは防災や人道支援においても有効であり、スマトラのみならず他の低開発地域の災害対応にも適用可能である。
公表実績: (1)出版
 『地域研究』(第11巻第2号)総特集「災害と地域研究」(特集1「災害がひらく社会」)
(2)学会
 東南アジア学会第83回研究大会パネル3「学術研究と人道支援―2009年西スマトラ地震で壊れたもの・つくられるもの」(愛知大学、2010年6月7日)
(3)出張講義
 東京大学教養学部2010年度講義「平和構築論:地域文化研究から見る災害と復興支援」(地域研究コンソーシアム共同企画)
研究成果公表計画
今後の展開等:
 国内研究会を3回実施する。東北地方太平洋沖地震津波災害で共同研究員が復興過程にそれぞれ関わるとともに、その関わりを通じて得られた情報や経験を持ち寄り、国内の災害に対して人道支援、防災、地域研究のそれぞれの専門家にどのような連携が可能かを検討する。
 また、業種・分野ごとに災害にどのように対応したかについての情報を収集し、謝金によりデータ整理を行う。
 研究成果をまとめて報告書を刊行するとともに、商業出版の可能性を検討する。