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地域研究方法論(h22~h24)

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地域研究方法論(h22~h24)

複合共同研究ユニット
代表: 山本博之(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)
共同研究員: 久保慶一(早稲田大学政治経済学術院・准教授)、西芳実(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)、福武慎太郎(上智大学外国語学部アジア文化研究室・准教授)
期間: 平成22年4月~平成25年3月(3年間)
目的:  一口に「地域研究」と言っても、地域横断型、分野横断型、さらには業種横断型の共同研究プロジェクトとしての地域研究や、それと対照的な個人研究としての地域研究など、さまざまなものがある。この多様性を反映して、地域研究とは複数の学問的ディシプリンを持った研究者が共同して新しいものを生み出す場であって地域研究自体に定まった方法はないとする考え方や、地域研究を制度的に継承しうる方法を確立すべきとする考え方など、地域研究の方法論についてもさまざまな立場がある。しかし、データの収集・分析から成果の表現までという過程を考えた場合、特定地域の事象に焦点を当て、そこから歴史性や問題性を紡ぎ出す点はどの地域研究者にもおおむね共通しており、各研究者はそれぞれ地域研究の手法を身につけていると言ってよい。
 複合研究ユニット「地域研究方法論」は、そのような手法を個々の研究者の「名人芸」として済ませるのではなく、対象地域や分野の違いを超えて共有・利用が可能になるような形に洗練させるための基礎的な調査を行うことを目的とする。そのため、地域研究を掲げる大学院研究科の教員や、そこで地域研究に関連する学位を取得した若手研究者の経験などをもとに、地域研究の現場でどのような方法論が模索されているかを調査し、実際に行われている地域研究の方法論の見取り図を描くことを試みる。
研究実施状況: -平成22年度-
 地域研究方法論プロジェクトは、複数の個別研究ユニットがそれぞれ研究を進め、複合研究ユニットがそれらを統括している。個別ユニットでは、異業種・異分野の専門家による協力連携関係の構築を進めた。「ヒューマン・パワー時代の外交・安全保障の現場と地域研究」(代表者:川端隆史)では外務省員との連携、「災害対応と情報――人道支援・防災研究・地域研究の連携を求めて」(代表者:西芳実)では防災研究者および人道支援実務者との連携を進めた。また、「『仮想地球』モデルをもちいたグローバル/ローカル地域認識の接合」(代表者:荒木茂)では、地域研究に関連する情報を大量に収集し、地図上で表現することにより、収集された情報から意味を読み解くシステムを作ることができるのかなどを検討した。
 複合研究ユニットとしては、2010年11月5日にシンポジウム「実践系学知としての地域研究」を実施した。(詳細は”好評実績”を参照。)
-平成23年度-
 地域研究方法論プロジェクトは、複数の個別研究ユニットがそれぞれ研究を進め、複合研究ユニットがそれらを統括している。個別ユニットでは、それぞれの具体的な研究テーマに取り組むとともに、地域研究方法論に関連して、異なる背景を持つ人々のあいだで知識や技術をどのように伝えるかという課題に取り組んだ。「ヒューマン・パワー時代の外交・安全保障の現場と地域研究」(川端)では外務省員との連携、「災害対応と情報――人道支援・防災研究・地域研究の連携を求めて」(西)では防災研究者および人道支援実務者との連携を進めた。「地域研究における報資源の共有化とネットワーク形成による異分野融合型方法論の構築」(錦田)ではパレスチナ研究とイスラエル研究の接合を試みた。また、「『仮想地球』モデルをもちいたグローバル/ローカル地域認識の接合」(荒木)では、地域研究に関連する情報を大量に収集し、地図上で表現することにより、収集された情報から意味を読み解くシステムについて検討した。
 これらに共通するのは、地域・分野・時代などの違いを越えて、互いに利用可能な形で知識や枠組をどのように伝えるかという問いである。地域研究における「地域の知」を考えるとき、「伝わる知」という側面に積極的に目を向ける必要があることが了解された。
 複合ユニットとしては、地域研究コンソーシアム社会連携部会(キャリアデザイン・プロジェクト)との共催により、大阪大学、九州大学、北海道大学、京都大学、上智大学でワークショップ「地域研究とキャリアパス――地域研究者の社会連携を目指して」を実施し、地域研究におけるキャリアパスと社会連携のあり方について検討した。
-平成24年度-
(1)本共同研究プロジェクトの研究活動をもとに企画され、2012年3月に刊行された『地域研究』(第12巻第2号)の「総特集 地域研究方法論」の内容を検討する研究会を開催し、地域研究の方法論に関する議論を深めた。
(2)地域研究コンソーシアム将来構想WGとの共催により、地域研究における研究成果の発表方法と業績評価のあり方についての調査に着手し、電子書籍形式による論文公刊や学術論文マッピング・システムによる研究成果の広がりの可視化などの可能性を検討した。
(3)地域研究コンソーシアム社会連携部会との共催により、実施から30年を迎えたマレーシアのルックイースト政策について調査研究した。学会(日本マレーシア学会)、外交実務(日本外務省)、現地社会(マレーシア日本研究協会)の三者との連携により国際シンポジウムや学会分科会などを企画・実施し、研究成果は報告書にまとめ、日本外務省を通じてマレーシア政府に提出した。この研究を通じて、「地域研究者は自分が所属する社会が直面している課題にどう対応するのか(しないのか)」という課題について検討した。
研究成果の概要: -平成22年度-
 「実践系学知」や「地域の知」について検討して以下の考え方を得た。
 地域研究の特徴の1つとして、限られたデータしか得られず、あるいは分析のための時間が十分に取れない状況で、目の前で展開している事態に対して学術研究の専門性をもって暫定的ながらも何らかの判断を下すという態度が挙げられる。これは科学的客観性を支持する立場には反するかもしれないが、いくらデータを厳密にして時間をかけて分析しても自然現象でも社会現象でも「想定外」の事態は起こりうるため、限られたデータで限られた時間内に何らかの判断を行うことにも意義があるだろう。これを当てずっぽうにしないためには、(1)日頃からの基礎研究、(2)情報技術の利用の2つの方法がある。ただし、後者の情報技術に関しては、ただ情報を大量に集めるだけでは意味がある情報が雑多な情報に埋もれてしまうため、情報を仕分けする必要がある。では、大量に集めた情報から自動的にその意味を読み解くシステムを作ることは可能か。「想定外」の事態が起こり得て、それに対応することを考えるならば、想定内の事態をもとに設計したシステムでは不十分であり、各分野の専門家が情報を読み解く作業が必要になる。
 紛争や災害のように今まさに目の前で進行している事態に対し、情報技術の助けを借りて暫定的ながらも何らかの結論を出し続けることは、目の前に起こっている事態に対する解決の道を探るという実践的な意義があるとともに、そのことを通じて「地域の知」のあり方を検討するという意義がある。
 -平成23年度-
 地域研究という学問分野の特徴を以下の4点にまとめた。
1.地域研究とは、現実世界が抱える諸課題に対する学術研究を通じたアプローチである。その最大の特徴は、現実世界を対象とするためにさまざまな制約があることを受け入れた上で、その制約を乗り越える工夫をしながら研究を行う点にある。
2.地域研究とは、既存の学問的ディシプリンには現実世界の理解に十分に対応できていない側面があるとの立場に立ち、既存の学問的ディシプリンを内側から改良・改造しようとする試みである。
3.地域研究とは、「地域」として切り取られた研究対象に対する総合的な研究を通じてその地域の固有性を理解した上で、それをその地域の特殊性として語るのではなく、他地域との相関性において理解する語り方をする試みである。
4.地域研究は想定外に対応する学術的試みであり、研究対象地域をどの枠組に置いて捉えるかを柔軟に設定しうる点に特徴がある。
 また、以下の7つの観点から地域研究(論)のバージョンアップを試みた。
(1)「人道支援の時代」の地域研究
(2)地域研究の三つの層――地域研究方法論の授業がつまらない理由
(3)学説史を作る――自分自身と重ねて事例を捉える
(4)実践系学知――既存の学問的ディシプリンを磨き上げる
(5)「よりよい」社会を作る――研究者と研究対象が地続きにある時代
(6)国境ある専門性?――自分の社会の問題にどう臨むか
(7)「地域の知」――情報に語らせたいのか、人間が語るのか
 これらは『地域研究』の第12巻第2号(総特集 地域研究方法論)で発表した。
-平成24年度-
 「地域研究者は研究対象地域社会が直面している課題にどう対応するのか(しないのか)」という問いは地域研究においてもはや珍しい問いではないが、東日本大震災後にはこれに「地域研究者は自分が所属する社会が直面している課題にどう対応するのか(しないのか)」という問いが加わったように思われる。第一の問いに対しては、自分の所属社会には世界の最先端の技術があってそれを相手社会に移転するという臨み方と、相手社会には先進社会の感性で測りかねるものがあるが、そこにこそ先進社会の課題を崩す契機があるとして野生に学ぼうとする臨み方とがあるように思われる。ただし、多くの国が経済成長を遂げ、国境を越えた情報の流通が容易になった今日では、調査研究する側とされる側を明確に分けることが難しく、双方向の関係が不可避となっている。そのため、ルックイースト政策の例のように、あえて「相手社会に学ぶ」という課題の立て方をして、「研究対象地域社会(マレーシア)が研究者の所属地域社会(日本)に積極的に学ぶべきところはどこか」という問いが有効となる。この問いには、(1)相手社会が現在抱える課題に沿った形で、(2)自分が所属する社会にある積極的に学ぶべき点を示し、(3)それを相手社会の人々が理解・納得できる形で表現することが求められる。この点において地域研究はその専門性が問われ、地域研究のあり方を考える上で意義がある。
公表実績: -平成22年度-
(1)シンポジウム「実践系学知としての地域研究」
 2010年11月5日、上智大学
 司会:福武慎太郎(上智大学)
 趣旨説明:山本博之(京大地域研)
 報告1:柳澤雅之(京大地域研)「地域社会にとっての文理融合」
 報告2:小森宏美(京大地域研)「事例研究を越えて:ヨーロッパ地域研究の今日的課題」
 報告3:西芳実(立教大学)「災害対応の地域研究:研究者にとっての人道支援とは何か」
 コメント:井上真(東京大学)/酒井啓子(東京外国語大学)
(2)ウェブサイト「地域研究方法論研究会」http://areastudies.jp/
-平成23年度-
●『地域研究』第12巻第2号(総特集 地域研究方法論)
[第Ⅰ部]大学院で学ぶ/教える地域研究
[第Ⅱ部]地域研究の牽引者たちからのメッセージ
[第Ⅲ部]新しい地域研究をめざして
●日下部尚徳・伊藤未帆・西芳実編著『地域研究とキャリアパス――地域研究者の社会連携を目指して』(JCASコラボレーション・シリーズ4)、2012年3月。
-平成24年度-
(1)公開シンポジウム
・国際シンポジウム「30th Anniversary of Look East Policy」(2012年6月23日、マラヤ大学)
・学会分科会「マレーシア東方政策の30年―政策に対するレビューと提言」(2012年10月14日、開催学院大学、アジア政経学会全国大会)
・学会シンポジウム「東方政策(ルックイースト政策)の30年と今後の展望」(2012年12月16日、立教大学、日本マレーシア学会研究大会)
・国際シンポジウム「New Dimension of Look East Policy」(2013年3月28日、マラヤ大学)
(2)報告書
・YAMAMOTO Hiroyuki (ed.). 2013. An Evaluation of and Recommendation for the Look East Policy: Toward the ‘Discovery of Japan’s Second Wave’. Japan Association for Malaysian Studies.
研究成果公表計画
今後の展開等:
-平成22年度-
 複合研究ユニットでは、地域研究方法論研究会(2011年4月22日、京都大学)をはじめ、国内の大学や研究所・センターを訪問して行う巡回研究会を継続する。
 また、個別研究ユニットでは、紛争や災害などのテーマで、これまでに構築してきた異業種・異分野の人的つながりを利用して研究集会を企画し、具体的な事例に即して検討するとともに、地域研究と情報学を結びつける方法を検討する。
 さらに、これまでの研究成果を雑誌『地域研究』の特集企画として発表するとともに、地域研究の方法論に関する出版の可能性を探る。
 -平成23年度-
 大学・大学院における地域研究の現状に関しては『地域研究』(総特集 地域研究方法論)で検討したため、次年度は以下のように大学・大学院の外での地域研究(者)のあり方、およびその状況を形作った歴史的な経緯について調査し、今後の研究の方向性を検討する。その際に、地域研究のあり方について「型」と「意味」の2つの方向性があるという観点から調査を進める。
(1)高等教育とキャリアパスに関する国際比較研究。関心を持つ地域研究者により世界各地における高等教育および博士学位取得者の就職に関する予備的な調査を行う。
(2)地域研究機関と地域研究に関する事例研究。国内のいくつかの研究機関を対象に、国の教育研究政策や研究費が地域研究のあり方にどのような影響を及ぼしてきたかに関する予備的な調査を行う。
-平成24年度-
 複合共同研究ユニットとしては、各個別研究ユニットの間で情報共有や意見交換を行いながら、地域研究の広義の方法論として取り上げるべき課題を洗い出し、地域研究コンソーシアムなどと連携して地域研究者コミュニティに発信することを主な活動とする。このほかに、複合共同研究ユニットが個別に取り組む活動として、研究成果の発表と評価に関して、地域研究の若手研究者グループと協力して研究成果の電子書籍による刊行を実験的に行い、また、研究業績を地図上で表現する学術論文マッピング・システムを利用した研究成果の可視化に引き続き取り組む。