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「トルキスタン集成」のデータベース化とその現代的活用の諸相(h22~h23)

過去の研究プロジェクト

「トルキスタン集成」のデータベース化とその現代的活用の諸相(h22~h23)

個別共同研究ユニット
代表: 帯谷知可(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)
共同研究員: 秋山徹(東京大学大学院人文社会系研究科・日本学術振興会特別研究員(PD))、稲葉穣(京都大学人文科学研究所・教授)、宇山智彦(北海道大学スラブ研究センター・教授)、河原弥生(人間文化研究機構地域研究推進センター・研究員)、川本正知(奈良産業大学経済学部・教授)、木村暁(筑波大学人文社会系・特任研究員)、小松久男(東京大学大学院人文社会系研究科・教授)、澤田稔(富山大学人文学部・教授)、兎内勇津流(北海道大学スラブ研究センター・准教授)、野田仁(早稲田大学イスラーム地域研究機構・次席研究員)、藤本透子(人間文化研究機構国立民族学博物館・機関研究員)、和﨑聖日(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・日本学術振興会特別研究員)
期間: 平成22年4月~平成24年3月(2年間)
目的:  地域研が電子版複製を所蔵するロシア帝政期の中央アジアに関する資料集成「トルキスタン集成」(以下TS)とは、そのオリジナルは世界に1部しか存在しない希少なコレクションであり、地域研ではそこに含まれる資料の書誌情報をデータベース化し、資料本体の閲覧をもめざすプロジェクトが進められてきた。本研究は、このコレクションを関心の異なる中央アジア研究者が多角的に利用することを通じて、①2009年12月現在公開準備中のTSデータベース暫定版に欠落している書誌情報を補い、また既存の索引に掲載された書誌情報からは導かれえないキーワードを現代の研究者の視点から追加付与することなどにより、いっそう優れた検索機能を備えたデータベース改良版へと進化させること、②編纂の経緯・時代背景・含まれる資料の性格・他の中央アジア関連資料(群)との関連などの点から、地域研究資料としてのTSの位置づけを明らかにし、中央アジア地域研究資料の共有化をめぐる議論に資することを目的とする。
研究実施状況: -平成22年度-
 本年度の活動は研究会の開催と、データベースの元となる書誌情報の修正・追加入力作業との二本立てで行った。それぞれの概要は以下の通り、
(1)研究会(メンバーからの報告・議論、およびメンバーによるTSのCD版・現行データベースの閲覧の二本立て)
第1回(8月4, 5日)
報告:「本共同研究の趣旨説明および活動計画について」(帯谷知可)
   「TSデータベース化の現状について」(同上)
   「カザフスタン近代史研究におけるTSの利用:ジュト、ゼムストヴォ導入問題など」(宇山智彦)
   「TSの利用について」(木村暁)
   「TSの提供と索引について」(兎内勇津流)
第2回(2月2, 3日)
報告:「TSデータベース化の進捗状況について」(帯谷知可)
   「TSとクルグズ近代史研究―成果と課題」(秋山徹)
   「TSとカザフの文化人類学研究―死者儀礼を中心として」(藤本透子)
(2)データ入力作業
 夏以降年度末まで、研究代表者の監督のもと作業者を雇用し、おおむね恒常的に書誌データの修正・追加入力作業を行った。書誌データと資料画像のリンクについては、地域研の研究支援室で進められた。
-平成23年度-
本年度の活動は、以下(1)~(3)を柱として行われた。
(1)研究会の開催(3回)
第1回研究会(2011年7月27-28日)
報告:「TSDB化の進捗状況について」(帯谷知可)
「TS所収のワクフ関係史料について」(中村朋美)
第2回研究会(2011年11月28日)(複合共同研究「CIAS所蔵資料の活用」、CIAS地域情報学プロジェクトと合同開催)
報告:「The TS Collection as a Model of the Colonial Knowledge and Ideology of the Imperial Colonization」(B. Babadjanov、ウズベキスタン科学アカデミー東洋学研究所、2011年度CIAS国外客員教授)
第3回研究会(2012年1月30-31日)
報告:「TSDB化の進捗状況と今後の予定について」(帯谷知可)
「TSインデクスの分析からわかること」(兎内勇津流)
「TS所蔵のバザールに関する史料について:現代ウズベキスタン地域研究との関連から」(宗野ふもと)
(2)書誌データ整備とその現行DBへの反映
現行DBの元データ(書誌情報入力エクセル・ファイル)の修正・追加入力作業を随時継続し、2011年11月に冊子体インデクスI~IV掲載順による確認作業を終了した。入力作業の結果を反映させるため 7月、11月に現行DBの元データの入替え用ファイルを提出した。さらに二重の書誌情報チェック、書誌情報と資料画像のリンクを目的として、TS巻順に冒頭から資料画像を見ながら入力ファイル上の書誌データと照合する作業に着手した。書誌情報整備・照合作業は継続中であるが、2011年7月末時点でDB上で8,716 件であった書誌情報は、2012年3月末入力ファイル上では9千を超えた。これらの進捗を受け、資料画像公開準備としてTSデジタル複製を作成したウズベキスタンの出版社と交渉し、資料画像まで学内限定で公開可との許諾を得た。
(3)新たなキーワードの集約
ウェブ掲示板により、最新版のエクセル・ファイルを共有し、メンバー各自が研究に利用したTS所収資料に現代の視点からのキーワードを付した。また、TS利用を目的に来日したB. Babadjanov氏からもイスラーム関連のキーワード群の提供を受けた。これらのキーワード(フリー/トピック別キーワード、時代性による専門用語の置き換えなど)を集約した
研究成果の概要: -平成22年度-
(1)研究会においては、地域研の他に国内でTS電子版複製を有する北海道大学スラブ研究センターおよび東京大学大学院人文社会系研究科における提供・利用状況等についての情報交換、TSの既存の冊子体索引(資料本体594巻のうち591巻を対象にした索引4巻)および地域研による暫定版データベースの具体的問題点の洗い出し、TSの著作権等の問題に加えて、個別のテーマの研究にTSを利用している研究者の報告からTSの資料集成としての性格、中央アジア地域研究その他の研究分野にとってそれが持つ意義と限界、編纂の経緯やそれに関わった人々などをめぐって議論を行った。その中から、思いがけない資料が見つかることもままある、ロシア帝政期の中央アジアに関する網羅的資料集成ではあるが、収集の原則は必ずしも一定していない、また、そこに含まれるのは帝都サンクトペテルブルグとトルキスタン総督府のあったタシュケントで収集可能だったものに集中しており、それ以外の中央アジア、例えば現在のカザフスタンについての情報はきわめて限定的であるなどといった重要な認識を得ることができた。また、改良版データベースに反映させるべく、TSの既存の冊子体索引の問題点や現行の暫定版データベースの改良点については、研究代表者のもとに蓄積・集約している。
(2)データ入力作業については、本共同研究の謝金の他に、本年度地域研で発足した地域情報学プロジェクトからも支援を得てオフィスアシスタントを雇用し、順調に進めることができた。具体的な作業としては以下の通り。
① メタデータの元となる書誌データの修正・追加入力: 現在公開中の暫定版データベースの元となっている書誌データをTSの既存の冊子体索引との照合を終了し、近々に現行データベースの元データを入れ替える予定である。これによって既存の冊子体索引の情報がより正確に反映された書誌情報データベースとなる。データのカウント方法などを調整したことも含めて、2011年3月末で入力済み書誌データ合計は8722件(現行の暫定版データベースでは7841件)。
② 書誌データと資料画像のリンクのための準備作業: 書誌データと資料画像をエクセル上でリンクさせる作業が進行中だが、既存の冊子体索引の情報からはリンクさせるべき資料画像がわからないものが多数あるため、現物確認をしながら既存の冊子体索引の情報を修正・追加する作業に着手した。次年度この作業が終了すれば、既存の冊子体索引の誤りを修正し、そこに掲載されていない書誌情報をも網羅し、かつ資料現物の閲覧まで可能な、改良版データベースの基盤ができることになる。
③ 利用者の間では巻別索引への要望が大きいことがわかり、上記②の作業の副産物として巻別索引の作成について検討を開始した。
-平成23年度-
2年間の研究成果の概要は以下のようにまとめることができる。
(1)書誌情報の検索だけでなくTS所収資料の閲覧まで可能なTSDB改良版の公開に向けての諸条件を整えることができた。
(2)研究会における議論において、TSのいくつかの問題点を認識すると同時に、それらをふまえてなおTSをロシア帝国の中央アジア(特にトルキスタン総督府領)に関する植民地的な知の体系として捉え直すことに意義があり、TSそのものの編纂史と関連する資料群の形成史をふまえながら、帝政ロシアの中央アジア征服とその統治をめぐる諸問題の研究にTS所収資料の横断的利用が有用であることが確認された。
(3)DB化の過程において、従来TSの利用にあたって唯一の導きであった4種の冊子体インデクスの特徴と問題点が具体的に明らかとなり、本研究による書誌情報整備によりTSのより完全な書誌情報を日本から発信できる可能性が開けた。
(4)TSのDB化の経験によって、中央アジア現地において政治的・経済的その他の理由により保存や利用に問題の生じている希少資料や基礎文献を同様の手法で集積し、デジタルな形で中央アジア地域研究関連資料基盤を形成する展望が開けた。
(5)より一般的な、地域研究資料の共有化という観点からは、TSのDB化は研究者や研究機関のイニシアティヴによって希少資料(のコンテンツ)を現地との協働のもとに国際的に保存・共有・活用していく、ひとつのモデル・ケースとして位置付けることが可能であろう。
公表実績: -平成23年度-
・稲葉穣「モンゴル時代以前の西トルキスタン―ソグディアナからガンダーラまで―」『内陸アジア史研究』26、2011年。
・宇山智彦「カザフスタンにおけるジュト(家畜大量死):文献資料と気象データ(19世紀中葉~1920年代)」窪田順平監修、奈良間千之編『中央ユーラシア環境史1 環境変動と人間』臨川書店、2012年3月、240~258頁。
・帯谷知可「『トルキスタン集成』のデータベース化プロジェクトについて」『日本中央アジア学会報』8、2012年(印刷中)。
・帯谷知可「『トルキスタン集成』こぼれ話(1)―かわりゆくナヴァーイー記念図書館」(CIAS図書室HP、エッセイ「地域研究資料へのいざない」2011年10月13日公開、http://www.cias.kyoto-u.ac.jp/library/essay/#essay05
・バフティヤル・ババジャノフ(帯谷知可訳)「『トルキスタン集成』によせて」(CIAS図書室HP、エッセイ「地域研究資料へのいざない」2012年1月27日公開、http://www.cias.kyoto-u.ac.jp/library/essay/#essay02
・KAWAHARA Yayoi, Private Archives on a Makhdumzada Family in Marghilan, TIAS Central Eurasian Research Series No.7, Tokyo: TIAS, Department of Islamic Area Studies Center for Evolving Humanities, Graduate School of Humanities and Sociology, the University of Tokyo, 2012, Xxxii+398p.
・NODA Jin “The Ili (Kulja) Region under the Russian Empire in 1871-1881,” Scientific Workshop “Toward a Sustainable Society for the Future: Dialogues in Almaty,” January 10-11, 2012, Kazakh Economic University & Research Institute for Humanities and Nature, Almaty, Kazakhstan.
・KAWAHARA Yayoi, “Walikhan-tura’s Ghazat in Marghilan: A Consideration on a Makhdumzada Family in the Khanate of Khoqand,” Princeton University Symposium on Sufism and Islam in Central Asia, Oct. 21, 2011, Princeton University, USA. 
研究成果公表計画
今後の展開等:
平成22年度-
(1)研究会(3回開催予定)
第1回: 改良版データベースの構築(特に、新たなキーワードを付与するための原則づくり)に向けての議論を集中的に行う。
第2回: TSにおけるイスラーム関連資料を研究テーマとして地域研平成23年度国外客員教員として滞在予定のB.ババジャノフ氏(ウズベキスタン科学アカデミー東洋学研究所)をメイン・スピーカーとして開催する。
第3回: 本共同研究のとりまとめについて議論する。
(2)データ入力: 研究代表者の監督のもと、恒常的に入力作業を行う。現物確認をしながら既存の冊子体索引の情報の修正・追加、同索引に含まれていない書誌データの入力、あらたなキーワードの付与を行い、改良版データベースの基盤データを完成させることをめざす。
(3)成果公表に向けての準備
 改良版データベースの構築準備と並行して、既存の冊子体索引の情報を修正したあらたな索引ならびに巻別索引を刊行する準備を進める。また、TSの編纂史や特定の研究分野における利用などをテーマとした刊行物を発表することについても検討する。
平成23年度-
(1)書誌情報検索のみの現行TSDBから書誌情報検索+資料画像閲覧が可能なDBへ移行する(2012年4月中より資料画像を順次アップしていく予定)。
(2)2年間の成果報告として、2012年度前半にワーキングペーパーの刊行を計画している(本報告書提出時において原稿取りまとめ中)。
(3)書誌情報整備の副産物として、TSのより完全な書誌情報を掲載した索引について、2012年度中に編纂準備に着手できる見込みである。完成すれば、これをしかるべき形でTSオリジナル所蔵元や現地はじめ海外の研究機関・図書館・研究者等に提供する。
(4)本研究の発展形として、TSを帝政ロシアの中央アジアに関する植民地的な知の体系として意識的に位置づけた上で、そこに分け入る導きの仕組みのDBへの組み込みを検討するため、2012年度のCIAS共同研究に個別共同研究ユニット「帝政ロシアの植民地的「知」の中の中央アジア:TSデータベースの検索機能の高度化を通じて」(研究代表者:帯谷知可、研究期間1年間)を申請し、採択された。