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脱植民地化期の東南アジアにおけるムスリム社会の動態(h22~h23)

過去の研究プロジェクト

脱植民地化期の東南アジアにおけるムスリム社会の動態(h22~h23)

個別共同研究ユニット
代表: 坪井祐司(東洋文庫・研究員)
共同研究員: 金子奈央(東京外国語大学大学院総合国際学研究科・博士後期課程)、國谷徹、光成歩(東京大学大学院総合文化研究科・博士課程)
期間: 平成22年4月~平成24年3月(2年間)
目的:  地域研が所蔵・公開するマレー語雑誌『カラム』の記事データベースを利用した研究を行う。1950~69年にシンガポールにて出版されていたマレー語雑誌『カラム』は、当時のマレー世界におけるムスリム社会の動向を理解するうえで重要な史料であり、地域研では雑誌記事データベースとして欠号率が低い状態で公開しているが、ジャウィ(マレー語のアラビア文字表記)で表記されているために利用可能な研究者が限られていた。本研究では、『カラム』の記事のローマ字翻字を進めることで『カラム』をより多くの研究者に利用可能な形にするとともに、ローマ字翻字した記事をもとにマレー世界の「近代」の諸相を明らかにする。地域研で公開されている『カラム』記事データベースは記事見出しのみ検索可能であるが、本研究プロジェクトにより本文検索が可能になり、『カラム』記事データベースの内容がさらに充実することも期待される。
研究実施状況: -平成22年度-
 以下のように3回の研究会を開催し、『カラム』記事のローマ字翻字を進めるとともに、その内容に関する研究を行った。
・第1回研究会(2010年4月24日、於:京都大学地域研セミナー室)
・第2回研究会:ジャウィ文献講読講習会(2010年6月26、27日、於:東京大学駒場キャンパス)
・第3回研究会(2010年12月17日、於:東京大学駒場キャンパス)
 第2回研究会では、地域研究コンソーシアム(JCAS)および日本マレーシア学会(JAMS)との共催により、国内の大学では体系的に教えられていないジャウィの講読講習会を一般公開で実施し、東京大学や東京外国語大学から学部・大学院の学生が参加した。プログラムは下記のとおりである。
・ジャウィ講習:初級編(講師:山本博之)
・ジャウィ文献講読および研究発表
  國谷徹「『カラム』連載記事「クルアーンの秘密」の検討:第15回「イスラームのウマットの分裂」」
  坪井祐司「第二次大戦後のシンガポール情勢とマレー・ムスリム」
  金子奈央「国民教育制度確立期におけるマレー・コミュニティの教育議論」
-平成23年度-
・第1回研究会(2011年4月23日、於:京都大学地域研セミナー室)
本年度の研究計画に関する打ち合わせを行った。
・第2回研究会:ジャウィ文献講読講習会(2011年10月15、16日、於:東京外国語大学)
地域研究コンソーシアム(JCAS)および日本マレーシア学会(JAMS)との共催により、ジャウィの講読講習会を一般公開で実施した。東京外国語大学のマレーシア語専攻のファリダ・モハメド講師の協力を得て同大学にて開催し、21名の参加者を得た。
・日本学術振興会アジア・アフリカ学術基盤形成事業・国際セミナー「イスラームと多元文化主義 (Islam and Multi-Culturalism: Between Norms and Forms)」(2011年11月26、27日、早稲田大学)
イスラーム地域研究早稲田拠点の主催する国際セミナーにおいて本研究が主体となってセッション“Islam and the Formation of Modern Public Sphere in Multicultural Society”を企画した。
・第3回研究会(2011年12月17日、於:東京大学駒場キャンパス)
ディスカッションペーパー(6の(4)参照)の内容に関する検討会を行った。
研究成果の概要: -平成22年度-
(1)『カラム』の翻字
『カラム』の記事のうち計62編の記事(約77,000語分)の翻字を行った。
(2) ディスカッション・ペーパーの発行
『カラム』の記事をもとに、各共同研究員の論考をまとめたディスカッション・ペーパー『カラムの時代2:マレー・イスラム世界における公共領域の再編』(坪井祐司・山本博之編、京都大学地域研究情報統合センター刊)を2011年3月に発行した。内容(目次)は下記のとおりである。
 ・國谷徹「連載記事「クルアーンの秘密」に見るイスラーム近代主義:予備的考察(2)」
 ・坪井祐司「シンガポールのマレー・ムスリムからみたナドラ問題」
 ・山本博之「シンガポールにおけるムスリム同胞団結成の背景」
 ・金子奈央「公教育確立期におけるイスラーム教育の生き残り戦略」
 ・光成歩「社会再編の時代の婚姻・離婚法制:1957年シンガポールのムスリム法令による改革」
-平成23年度-
今年度の研究成果は、(1)『カラム』記事のローマ字翻字、(2)一般公開のジャウィ文献講読講習会の開催および講習会テキストの編集・刊行、(3)国際セミナーでの研究成果の発表、(4)ディスカッション・ペーパーによる研究内容の発表の4点である。
(1)『カラム』の翻字
『カラム』の記事のうち計38編の記事(約40,000語分)の翻字を行った。
(2)ジャウィ文献講読講習会
ジャウィ文献講読講習会(5を参照)の開催にあたり、講習用のジャウィのテキストを編集した(書誌情報については7を参照)。その主な内容(目次)は以下のとおりである。
・ジャウィ講習・初級編(ジャウィ綴りマレー語の書き方と読み方)
・ジャウィ講習・中級編(『カラム』から抜粋したジャウィのテキスト)
・さまざまなジャウィ文献(近代のジャウィ定期刊行物の紹介)
・資料編(歴史史料としてのジャウィ文書の例示と解説)
(3)国際セミナーにおけるセッションの企画
国際セミナー「イスラームと多元文化主義」(5を参照)におけるセッションの内容は以下のとおりである。
Session 5. Islam and the formation of modern public sphere in multicultural society
Convenor: YAMAMOTO Hiroyuki, CIAS, Kyoto University
-Jawi: Its Development, Decline and Revival in Malaysia (Faridah Mohamed, TUFS)
-Muslims under Dual Jurisdictions: The Nadrah issue from the perspective of “Qalam” (TSUBOI Yuji)
-Islam in the era of “kemajuan”: modernist thought of a Singaporean ulama in the 1950s (KUNIYA Toru)
-Religious Exclusivism, Nationalism and Cultural Tolerance in Pre-Independence Malaya Reflected in Qalam Magazine (Mohd Farid Mohd Shahran, International Islamic University Malaysia)
マレーシア側の『カラム』研究者と合同でセッションを実施し、将来的な国際共同研究のための基盤作りを行った。
(4)ディスカッション・ペーパー
『カラム』の記事をもとに、各共同研究員の論考をまとめたディスカッション・ペーパーを発行した(書誌情報については7を参照)。内容(目次)は下記のとおりである。
・坪井祐司「序『カラム』の時代Ⅲ―マレー・イスラム世界におけるイスラム的社会制度の設計」
・國谷徹「近代イスラームにおける家族像―連載記事「女性の世界」の分析から」
・坪井祐司「1950年代前半のマラヤ情勢とアフマド・ルトフィ」
・山本博之「エジプト留学生が論じたマレー社会の再建―ズルキフリ・ムハンマドにみる
1950年代のマレー人知識人の思想の系譜」
・金子奈央「マレー・コミュニティにおける国民教育制度に関する議論」
・光成歩「1950年代の「強制婚」論議にみるカラム誌の改革論理」
公表実績: -平成22年度- 
ディスカッション・ペーパーを発行した。”研究成果の概要”を参照。
-平成23年度-
・【出版(講習会テキスト)】坪井祐司・山本博之編、ファリダ・モハメッド協力『ジャウィを学ぶ』(CIAS Discussion Paper No.21)京都大学地域研究統合情報統合センター、2011。
・【出版(ディスカッション・ペーパー)】坪井祐司・山本博之編『カラムの時代III:マレー・イスラム世界におけるイスラム的社会制度の設計』(CIAS Discussion Paper No.23)京都大学地域研究統合情報センター、2012。
・【シンポジウム】日本学術振興会アジア・アフリカ学術基盤形成事業・国際セミナー「イスラームと多元文化主義 (Islam and Multi-Culturalism: Between Norms and Forms)」(2011年11月26、27日、早稲田大学)にてセッション“Islam and the Formation of Modern Public Sphere in Multicultural Society”を企画・実施。
・ローマ字版『カラム』
【出版】山本博之監修『Qalam (1)』(ローマ字版、No.1~No.5)京都大学地域研究統合情報センター。
山本博之監修『Qalam (2)』(ローマ字版、No.6~No.10)京都大学地域研究統合情報センター。
【電子媒体】http://www.cias.kyoto-u.ac.jp/~yama/jawi/qalam.html
研究成果公表計画
今後の展開等:
-平成22年度-
今年度の活動を継続したうえで、最終年度としてプロジェクト全体での議論をまとめる。
① カラム』の翻字:『カラム』記事本文の翻字を行い、蓄積を増やしていく。それとともに、その成果を『カラム』記事データベースへと連結させることを試みる。これにより、現在記事の見出しにとどまっている検索の対象を記事本文にまで広げることを目指す。
② ジャウィ文献講読講習会:一般公開の形でジャウィ文献講読講習会を実施することで、ジャウィやそれを使用するマレー・イスラム社会についての知識・情報を得る場を提供するとともに、ジャウィに習熟した研究者のネットワークの拡大に努める。
③ ディスカッション・ペーパーの発行:本プロジェクトは、前身のプロジェクトとあわせるとこれまでに2編のディスカッション・ペーパーを発行してきた。これをふまえて、『カラム』の時代的な位置づけを明らかにするためのより包括的、総合的な論集の発行を目指す。
-平成23年度-
本研究を発展させた研究課題「島嶼部東南アジアにおける国民国家形成とマレー・ムスリムのネットワーク」の実施を通じて研究の進展および成果の公開の促進を図る。特に、以下の二点を重点的に行う。
(1)『カラム』記事データベースの充実
地域研の『カラム』記事データベースを利用者が利用しやすいように改善する素材とアイデアを提供する。具体的な目標は以下の二点である。第一に、これまでの成果である『カラム』記事の翻字テキストをデータベースに反映させ、記事本文の検索を可能にする。第二に、マレー・インドネシア語定期刊行物のデータベースを所有する国内外の他機関と連携し、オンライン上でマレー・インドネシア語文献の横断検索が可能な統合データベースの仕組みを構築する。
(2)『カラム』を利用した国際共同研究
マラヤ大学、マレーシア国民大学、国際イスラム大学、国立言語出版局などのマレーシアの諸機関との協力により、『カラム』記事データベースを利用した東南アジアのムスリム社会の動態に関する研究を国際共同研究へと展開させる。