1. ホーム
  2. 研究活動
  3. 過去の研究プロジェクト
  4. 分野融合型集落定点調査情報の時空間データベースの構築と共有に関する研究(h22~h23)

分野融合型集落定点調査情報の時空間データベースの構築と共有に関する研究(h22~h23)

過去の研究プロジェクト

分野融合型集落定点調査情報の時空間データベースの構築と共有に関する研究(h22~h23)

個別共同研究ユニット
代表: 渡辺一生(京都大学東南アジア研究所・研究員)
共同研究員: 足達慶尚(京都大学東南アジア研究所・研究員(グローバルCOE))、河野泰之(京都大学東南アジア研究所・教授)、林行夫(京都大学地域研究統合情報センター・教授)、舟橋和夫(龍谷大学社会学部・教授)、星川和俊(信州大学農学部森林学科・教授)、宮川修一(岐阜大学農学部・教授)
期間: 平成22年4月~平成24年3月(2年間)
目的:  複数の研究が長期に渡り現地調査を実施した場合、膨大な量の調査情報が得られる。これが地域研究であれば、様々な学問分野の研究者らによる多角的な調査情報が得られるので、地域の総合的理解に役立つ。しかし、その一方で学問的背景の異なる膨大な情報であるが故に、情報の統合化や共有化が難しくなるという課題を抱えている。
 近年、情報技術の発展はめざましく、小規模のコンピュータでも大量のデータが扱えるようになってきた。加えて、ソフトウェアの面でも、種々のデータベースアプリケーションの機能が向上し、膨大で異質な調査情報の統合化や共有化を実現できる環境が整いつつある。
 本研究では、地域研究に代表されるような様々な分野にまたがる異質の調査データを空間軸の下に統合し、共同研究者同士での情報の共有化を図るための方法論を、実際の調査地域を事例として構築する。
 本研究の対象は、約半世紀に渡り分野融合型の地域研究が続いている東北タイのドンデーン村である。同村は、東南アジアには例がない詳細で長期の調査情報が蓄積されており、本研究目的を達成するための最適な地域である。
研究実施状況: -平成22年度-
 本年度は、特にデータベースの構築を中心に研究を実施した。年度前半は、過去のドンデーン村調査で蓄積されてきた調査内容やデジタル化の有無(紙媒体か、既に電子媒体として存在しているかなど)についての把握を行った。また、本研究に最適なデータベースのためのモデル設計を行い、ArcGISとFileMakerを使って時空間データベースを構築することを決定した。年度半ば以降は、このデータベースへのデータ入力を進めるため、3人の学生を雇用した。
 研究会は、2度実施した。2011年1月15日に開催した1度目の研究会では、データベース構築とフィールド調査での情報学の役割などを議論するため、学外の講師2人を招聘して話を伺った。加えて、本研究で作成したデータベースについても発表した。2011年3月18日には、2度目の研究会をクローズで行い、ドンデーン村調査の成果発信の方法について議論した。
-平成23年度-
本年度は、過去の社会科学的調査と、新たに調査した乾季作稲作に関する調査結果のデータベース化や研究成果公表に向けた話し合い、およびデータ解析を実施した。
データベース化は、主に1981年と2002年に行った悉皆調査のデータを用いて、エクセルへの情報の入力と家系図の自動作成プログラムの開発を行った。加えて、これまでに作成した水田区画データベースへ、2010年と2011年の乾季作稲作の実施場所、耕作者名、収量情報を新たに加えた。
研究成果の公表については、本を執筆することとし、表題や執筆担当者、目次、出版社を決めた。また、データ解析については、全世帯を対象とした悉皆調査と全水田を対象とした生産量調査をGISで統合し、各世帯における米の需給バランスについて検討した。
研究成果の概要:  -平成22年度-
本年度は、自然科学者によって調査された水田生産に関する情報と、社会科学者によって調査された人や家に関する情報の入力と統合化を実施した。
 自然科学者による調査では、同村の水田約8,000区画を対象に1978年から2002年まで実施され続けた水田生産量調査結果を地図化し、過去25年間の水田生産量と生産者の変化を時空間的に把握できるようになった。社会科学者による調査としては、1981年と2002年に行われた家族構成や経済状況などに関する悉皆調査があり、これをデータベース化した。
 上述した各調査情報は、農地筆図や集落図上に整理されており、自然科学者によって収集された水田生産に関する情報と、社会科学者によって収集された人や家に関する情報とが統合的に扱えるデータベースが構築できた。
-平成23年度-
本研究では、「空間」を軸として、そこに内在する人、社会、自然といったものを属性として扱い、異なる学問分野を統合するデータベースの構築を試みた。本研究が統合対象とした情報は、1981年から今日までに収集された計441世帯、1987人に関する約200,000レコードの社会・経済調査と、66世帯分の20年間の世帯ヒストリーおよび、約540ha、8,000区画の水田を対象とした20年分の耕作者名と水稲生産量調査結果、土地利用調査結果、地形調査結果、樹木位置および種類調査結果、航空写真、衛星画像などである。
本研究によって、これら膨大な調査情報がGISによって統合され、プロジェクトメンバー間で利用できる基盤が整った。今年度は、このデータベースを実際の研究プロジェクトや分析でも活用し、「7.本研究課題に関連した公表実績」に掲げるような成果を公表することができた。例えば、河野ら(2012)や渡辺(2012)では、水田区画図や灌漑調査結果、水稲生産量調査などを用いて対象地の農業発展経路が明らかにされ、宮川ら(2011)では、衛星画像および樹木位置調査結果を用いて、水田内に立地する産米林の農業への活用実態が明らかにされた。
以上のように、2年間に渡って構築してきた分野融合型集落定点調査の時空間データベースは、その基盤部分が整備でき様々な目的に利用可能となった。
公表実績: -平成22年度-
(1) Watanabe K., 2010, Don Daeng Research Project: 50 years of Intensive and Long Term Interdisciplinary Observation in Northeast Thailand, Newsletter Center for Southeast Asian Study, Kyoto University, Center for Southeast Asian Study, Kyoto University, 7-8.
-平成23年度-
河野泰之,佐藤孝宏,渡辺一生 (2012).「熱帯生存圏における農業発展のメカニズム」,柳澤雅之他編,『地球圏・生命圏の潜在力-熱帯地域社会の生存基盤-』,pp.257-282,京都大学学術出版会.
Miyagawa, S., T. Tsuji, K. Matsuyama, Y. Hattori and M. Seko (2011): Combined Effects of Recently Introduced Cultivation Practices on Rice Production in Rain-fed Paddy Fields of Northeast Thailand. Tropical Agriculture and Development 55:97-102. Miyagawa, S (2011): Natural resources utilization in rice farming systems in Asia Abstracts of International Symposium on Basin Water Pollution Control and Management (School of Environment, Beijin Normal University, Beijin): 8, 2011. 宮川修一・小畑尚子・土田浩治・舟橋和夫・齋藤暖生・竹中千里 (2011):東北タイの農村におけるシロアリ塚の利用.熱帯農業研究5(別2)85-86. 宮川修一:東南アジアの天水田圃場.SEEDer No.4 (2011):16-23,2011.
WATANABE, K. (2012): The Development Path of a Rain-fed Paddy Village Based on Subsistence Rice Production –A Case Study in Northeast Thailand-, Research Program Seminar, EAST-WEST CENTER, Honolulu, Hawaii, March 30.
研究成果公表計画
今後の展開等:
 -平成22年度-
過去20年以上に渡って継続されてきたドンデーン村調査のデータは膨大であり、未だ全てのデータが入力されていない。そこで、次年度もデータ入力を進める。データ入力には、昨年度同様に学生を雇用する。
 加えて、国内研究会を3回実施する。3回の内2回は、外部の研究者を招いて発表を依頼しデータベースの構築や共有化に関する様々な課題について議論する。データの共有方法は、インターネットを介したリアルタイムな相互利用を考えているが、ネットワークセキュリティーなどの問題を解決する必要がある。また、取り扱うデータが個人情報を含んでいるという問題もある。そのため、外部への適切な公開方法について研究会などを通じて議論する必要がある。
 2年間で得られた成果については、英文誌への投稿を予定している。そのため、投稿に必要な英文校閲費および投稿料の予算を計上する。
-平成23年度-
現在、本データベースの構築やデータベース情報を用いた分析に関連する英文の本の校正段階にあるので、来年度には出版が予定される。また、本関連プロジェクトが科学研究費補助金で継続されるので、それらのプロジェクト内でもデータベースは活用され続け、新たな情報の更新や分析が展開される。