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沖縄におけるマラリア対策資料の医療情報学および地域情報学的分析(h22~h23)

過去の研究プロジェクト

沖縄におけるマラリア対策資料の医療情報学および地域情報学的分析(h22~h23)

個別共同研究ユニット
代表: 飯島渉(青山学院大学文学部・教授)
共同研究員: 市川智生(上海交通大学人文学院・講師)、五島敏芳(京都大学総合博物館・講師)、杉森裕樹(大東文化大学スポーツ・健康科学部健康学科・教授)、原正一郎(京都大学地域研究統合情報センター・教授)、門司和彦(総合地球環境学研究所・教授)、脇村孝平(大阪市立大学大学院経済学研究科・教授)
期間: 平成22年4月~平成24年3月(2年間)
目的:  20世紀の東アジアは、感染症の抑制を通じて疾病構造の大きな変化を経験した。疾病構造の変化が、医療保険制度などを含む社会制度や個人の生活に与えた影響は、きわめて大きかった。この結果、日本の医学・衛生学(植民地医学を含む)は、東アジアに関する膨大な資料(地域研究情報)を蓄積してきた。また、本研究計画が対象とした沖縄は、1945年から72まで年米軍による占領を経験し、米国民政府の行政資料であるUSCAR文書などにも多くの関連資料が含まれている。従来の研究では、こうした資料群を医療情報学や地域情報学の視点から分析することは行われてこなかった。
研究実施状況: -平成22年度-
 本研究計画は、医学・衛生学関係の資料群を重要な地域研究情報と位置づけ、さまざまな利用の方法を模索することを目的としている。特に注目したのはマラリアである。本年度は那覇の公文書館所蔵の八重山関係資料を確認するとともに、八重山保健所および宮古保健所で資料の確認を行った。
 八重山や宮古のマラリアは日本列島のマラリアとは異なった熱帯熱マラリアであり、20世紀初頭から本格的な対策がすすめられた。この対策は台湾総督府が台湾で行った対策をモデルとしたものであり、完全な制圧には至らなかった。米軍占領時期に行われた対策はDDTの大量散布による徹底した対策であり、マラリアは制圧された。他方、この対策を機能させたのは、台湾をモデルとした対策を支えた戦前に構築されたシステムだったと考えられる。
-平成23年度-
本研究計画は、医学・衛生学関係の資料群を重要な地域研究情報と位置づけ、さまざまな利用の方法を模索することを目的としている。昨年度の調査研究で、八重山保健所および宮古保健所にはマラリア対策関係の資料が保存されていないことが確認されたので、本年度は沖縄県公文書館所蔵の八重山保健所資料とUSCAR文書を中心に検討を行った。
同時に、琉球大学医学部国際保健学教室に所蔵されている関連資料(マラリアのほかに多くの感染症、寄生虫病対策の資料を含む)に注目し、この分析も行った。資料の多くは、琉球大学医学部の設立のために那覇に赴任した新潟大学教授の大鶴正満(故人)の調査研究資料であり、きわめて資料的価値が高い。なお、この調査には、感染症研究所や長崎大学熱帯医学研究所の研究者にも参加を依頼し、媒介蚊の特徴などについても検討を進めた。
研究成果の概要: -平成22年度-
マラリアは、長期的には開発による生態環境の変化によって媒介蚊であるアノフェレス蚊の発生状況が左右され、流行の程度が決定される。但し、流行の規定要因は多様であり、より周到な検討が必要である。
 八重山保健所や宮古保健所にはマラリア対策関係資料は保存されていない。その意味では、現在、沖縄県公文書館に所蔵されている戦前から戦後にかけてのマラリア対策関係資料(八重山保健所の行政文書)およびUSCAR文書の関連資料は、この領域ではきわめて貴重な資料であることが確認された。
 また、八重山保健所や宮古保健所などでの関係者からのヒアリングを通じて、マラリア制圧以後に行われたアノフェレス蚊の分布状況の調査も同時に研究対象とする必要があることを確認した。
-平成23年度-
マラリアは、長期的には環境へのヒトの働きかけ=開発(例えば、水田開発など)による生態環境の変化によって媒介蚊であるアノフェレス蚊の発生状況が左右され、流行の程度が決定される。但し、流行の規定要因は多様であり、例えば、住民の栄養状況や生活形態なども含めより周到な検討が必要である。
本年度は、沖縄県公文書館に所蔵されている戦前から戦後にかけてのマラリア対策関係資料(八重山保健所の行政文書)およびUSCAR文書を調査し、特に西表島のマラリア流況状況に関して、いくつかの地点を画定し、1950年代を中心に、血液検査の状況(患者の有無)、DDTの残留噴霧を中心とする対策の推移、アノフェレス蚊の分布状況の系統的な分析を開始した。
現在、こうした資料に基づきGISを利用した分析が可能かどうかを検討している。こうした疫学的な要素を含む総合的な研究にはなお一定の時間を要すると考えられるが、媒介蚊の専門家やGISを利用した医療情報学の専門家との共同研究の基礎をきづくことができたと考える。
公表実績: -平成22年度-
論文等:
 1) 飯島渉「中国海関と「国際」の文脈―検疫の制度化をめぐって」和田春樹ほか(編)
  岩波講座『東アジア近現代通史』第一巻(岩波書店)、2010年12月
 2) IIJIMA, Wataru. “Infectious and Parasitic Disease Studies and Japanese Colonial Medicine in Korea”, “War and Medicine in East Asia, 1937-1953”conference, October 1, 2010, Seoul National University
シンポジウム等:
 1) International Workshop on the Environmental Change and Modern Society in East Asia, Research Institute of Humanity and Nature, January 21 – 22, 2011.
-平成23年度-
IIJIMA, W., “The Patriotic Hygiene Campaign(愛国衛生運動) and Restructuring of Society in China: Historical Meaning of the Institutionalization of Public Health” in 范燕秋主編『多元鑲嵌與創造轉化:台湾公共衛生百年史』台北:遠流出版、pp.441-465、2011年
HGIS研究協議会(川口洋(代表)・石崎研二・後藤真・関野樹・原正一郎)編:歴史GISの地平,勉誠出版,283ページ,2012.
研究成果公表計画
今後の展開等:
 -平成22年度-
沖縄県公文書館所蔵の八重山保健所資料の詳細な検討が必要である。そこで再度、八重山と宮古への現地調査を行い、資料上の知見と現地調査の知見をつきあわせ、マラリア対策の実態を立体的に明らかにしたい。
 特に本年度は、特定地域を対象としたマラリア患者の発生状況とアノフェレス蚊の分布状況を整理し、GIS技術を利用して地図上に可視化し、そこからどのような知見が得られるかを確認したい。以上のような手法によって、GISに関しては、分析するツールとデータが必ずしもマッチしないというこれまでしばしば指摘されてきた問題点を克服したい。
 なお、本研究計画が整理検討した資料群は政府統計や公刊資料等のレベルにはとどまらない。詳細かつ個人の病歴にも及ぶものであり、研究の過程では個人情報の取り扱いについて十分に留意する。
-平成23年度-
以上の研究手法はこれまでほとんど行われてこなかった共同研究であり、引き続き、感染症研究所や長崎大学熱帯医学研究所との共同研究を進め、より体系的な知見を得ることができるよう研究を継続する計画である。