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聖なるもののマッピング(h22~h23)

過去の研究プロジェクト

聖なるもののマッピング(h22~h23)

個別共同研究ユニット
代表: 片岡樹(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・准教授)
共同研究員: 川田牧人(中京大学現代社会学部・教授)、菅根幸裕(千葉経済大学経済学部・教授)、田中正隆(高千穂大学人間科学部・准教授)、津田浩司(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所・助教)、外川昌彦(広島大学大学院国際協力研究科・准教授)、林行夫(京都大学地域研究統合情報センター・教授)、藤原久仁子(大阪大学大学院人間科学研究科・特任研究員)、村上忠良(大阪大学世界言語研究センター・准教授)、守川知子(北海道大学大学院文学研究科・准教授)
期間: 平成22年4月~平成24年3月(2年間)
目的:  本研究は、宗教施設の所在、参拝者・巡礼者の移動、聖職者の移動、聖なるモノとしての経典や神像の拡散を定量的に跡づけることで、国家その他の行政的版図とは異なるかたちで人々が構成する「地域」のありかたとその動態を描き出すことをめざす。聖なる場所とされる宗教施設、祭祀施設は世界各地で人々の尊崇を集め、人はそうした聖なるものを求めて各地を旅し、また宗教者たちは自身の修行のために、あるいは自分を必要とする信者に請われて各地を移動する。人だけではなく、経典や神像などもまた、それを求める人々によって各地を移動する。このように、宗教施設、巡礼者、聖職者、礼拝対象などの所在と移動は、世界の政治地図が描く境界を越えて一定のまとまりを構成している。そのありかたを各地域、各宗教の比較を通じて実証的に解明する。
研究実施状況: -平成22年度-
  本年度は7月、10月、1月、3月の計4回にわたり研究会を行った。以上4回の研究会はすべて複合ユニットとの合同形式で行った。1月の第3回研究会のみ東京外国語大学を会場とし、その他の3回は京都大学で行った。4回の研究会を通じ、本ユニットのメンバー全員が話題提供を行い、各自の行っている研究の概要について報告したほか、ゲストを招いての話題提供も行った。研究会の内容であるが、22年度は初年度にあたるため、各自の問題意識の共有とブレイン・ストーミングを中心的に行った。各メンバーがこれまで行ってきた研究を、本共同研究の課題に引きよせて発展させていく上での方向などについての討論が、各回の研究会に共通する主な内容である。
-平成23年度-
本年度は7月、12月、2月、計3回にわたり研究会を行った。以上3回の研究会はすべて複合ユニットとの合同形式で行った。第1回研究会(7月)には前年度より行ってきたメンバーの話題の共有と論点のすり合わせを継続して行った。第2回(12月)は一部メンバーが行っている寺院マッピングの成果を参照し、定量的なデータベースづくりに向けた論点整理を行った。第3回は各メンバーの成果の集約にあてた。そこで各自がこの二年間の作業で明らかになった成果をもちより、さらに今後継続的にデータベース作りに参加していく上で問題意識の共有を行った。
研究成果の概要: -平成22年度- 
22年度の共同研究の成果として、以下のような点が明らかになった。
・神像、聖地、聖遺物の成立と分布の過程からは、そこではオリジナルとコピーとの関係が極めて曖昧な場合が多いという特徴が見出される。
・「宗教的要素」と「非宗教的要素」との線引きが時に困難である。神像・聖遺物等とそれ以外のモノとの境界、また巡礼と娯楽旅行との境界はいずれも曖昧であり重複領域を含んでいる。また宗教的価値それ自体が「世俗的な」活動に由来している場合もある。
・聖地の選択については主観的要素の重要性が高い。何をもって聖地と見なすかについては、社会ごと、あるいは個人ごとの指向が大幅に混入する。
・宗教という視点から、国家単位の政治地図とは異なる地域像を描きうる可能性はあるとしても、その宗教のあり方自体(聖職者の身分の規定、宗教施設の認定)が国家による管理の影響に規定されている部分があることもまた無視し得ない。
・ただし今述べた点は、国家の規制をすり抜ける宗教実践のダイナミクスは、そうした制度化からこぼれ落ちる在家指導者や未公認施設にこそあらわれているということをも、一面では示唆している。
・神格・神像、およびそれに付帯した奇跡譚などの変遷を定量的に把握することで、人々の崇拝対象が制度宗教に取り込まれていく過程をも示すことが可能である。
・宗教を軸にした地域間比較にいて暗黙裏に採用される宗教多元主義的視点には、それぞれの宗教が唱える普遍的価値を捨象するリスクが伴う。では宗教の真理主張を正当に評価しつつ、なおかつ諸宗教の存在論的対等を前提とする比較研究はいかに可能か。これはすぐに結論は出ないが重要な課題である。
-平成23年度-
「見えるものしか見ない」という即物的アプローチから宗教に接近することで、逆説的に宗教の動態を明らかにし、また宗教を通して人々が描き出す世界像を提示したい、というのが本ユニットの活動目標であった。宗教本質論をあえていったん迂回し、「宗教なるもの」あるいは既存の「××教」等の制度化された理解をとりあえず括弧に入れることで、いくつかの点を明らかにすることができた。
宗教本質論を留保することで見えてくるのは、宗教と非宗教、あるいは既存の制度宗教間の境界線が予想外に曖昧であることである。イスラム教とヒンドゥー教との境界地帯にある聖者廟、あるいは東南アジアの中国廟のように、いずれの宗教に属すかが往々にして現場レベルでは判別困難であり、「××教の施設」という制度宗教の用語をアプリオリにあてはめることができない。また巡礼活動についても、宗教活動とその他の活動との線引きが非常に困難である。
同様のことは、聖なるモノと俗なるモノの境界線についてもいえる。特定の俗なるモノが聖なるモノとして認識されるのは、多くの場合恣意的ないし偶発的な理由にもとづいており、両者のあいだに決定的な差異を認めにくい場合が多い。これはカトリックやイスラム教の聖遺物について特にあてはまる。「聖なるもの」の真正性にも関しても、実際にはオリジナルとコピーの関係が設定できず、「聖なるもの」はコピーやレプリカにより容易に増殖し、なおかつ神聖性と真正性を獲得する事例が、宗教の別を問わず幅広く認められることが明らかになった。
公表実績: -平成22年度-
 22年度は研究初年度であったため、問題意識の共有を優先し、成果の公表は行っていない。成果の公表については二年目以降に行う予定である。
-平成23年度-
片岡樹編『聖なるもののマッピング―宗教からみた地域像の再構築に向けて―』京都大学CIASディスカッションペーパー26(2012)
研究成果公表計画
今後の展開等:
-平成22年度-
 平成23年度は、各メンバーが個別に研究課題を実施し、その研究成果を研究会で集約し、ワークショップへの最終調整を行う。同年度後半にはメンバーの研究成果を、ワークショップの形で共有・公開する。同年度にはあわせて収集データのデータベース化をも行う。
-平成23年度-
上記「7」であげた論集は、今後のさらなる成果発表に向けた中間報告的な性格をもっている。平成24年度は、この論集で得られた知見をもとに、複合ユニット「<宗教>からみた地域像」での成果集約作業に参加し、マッピング・データベースの電子化による公表を図る予定である。