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〈宗教〉からみた地域像(h22~h24)

過去の研究プロジェクト

〈宗教〉からみた地域像(h22~h24)

複合共同研究ユニット
代表: 林行夫(京都大学地域研究統合情報センター・教授)
共同研究員: 片岡樹(京都大学大学院アジア・アフリカ研究研究科・准教授)、鎌田東二(京都大学こころの未来研究センター・教授)、川田牧人(中京大学現代社会学部・教授)、小嶋博巳(ノートルダム清心女子大学文学部 現代社会学科・教授)、小牧幸代(高崎経済大学地域政策学部・教授)、佐々木拓雄(久留米大学法学部・准教授)、志賀市子(茨城キリスト教大学文学部・教授)、菅根幸裕(千葉経済大学経済学部・教授)、津田浩司(東京大学大学院総合文化研究科・准教授)、外川昌彦(広島大学大学院国際協力研究科・准教授)、林行夫(京都大学地域研究統合情報センター・教授)、原正一郎(京都大学地域研究統合情報センター・教授)、藤原久仁子(京都大学地域研究統合情報センター・研究員)、牧野元紀(財団法人東洋文庫・研究員)、村上忠良(大阪大学言語文化研究科・准教授)、守川知子(北海道大学大学院文学研究科・准教授)
期間: 平成22年4月~平成25年3月(3年間)
目的:  人々の宗教実践に着目することによって、そこに生きる人々にとっての地域像を明らかにするとともに、地域研究への新たな視角を導入することを目的とする。地域研究の対象となる空間には、近代国家、あるいはその下位に位置するか複数国に部分的にまたがるサブ・リージョンが一般的に想定される。これらはある程度まで目に見えやすいものであるが、その土地に生きる人々が「地域」をどのように見ているのかは、重要な問題でありながら簡単には見えてこない。本研究では、この問題に接近するための柱として、1)特定宗教の信奉者を引きつける祭祀空間を含めた聖地や宗教施設、あるいは地域を越えて拡散する経典、聖像、2)特定空間の宗教実践を記録するメディアとしての映像、3)政治・教育・観光政策が制度化する宗教、の諸局面に着眼する。個人・地域レベルの実践と宗教を制度的に表象する諸力のマトリックスから宗教実践の多元的な現実を明らかにするとともに、それらの現実が地域像を築いていく動態を浮き彫りにする。さらに、それぞれの局面にかかわるデータを統合的に情報化し、地域ごと、ならびに国境を跨ぐ実践から国家や制度の基盤を逆照射することを試みる。
研究実施状況: -平成22年度-
 本年度は7月、10月、1月、3月の計4回にわたり研究会を行った。以上4回の研究会はすべて個別ユニット「聖なるもののマッピング」との合同形式で行った。1月の第3回研究会のみ東京外国語大学を会場とし、その他の3回は京都大学で行った。4回の研究会を通じ、本ユニットのメンバーのほぼ全員が話題提供を行い、各自の行っている研究の概要について報告したほか、ゲストを招いての話題提供も行った。研究会の内容であるが、22年度は初年度にあたるため、各自の問題意識の共有とブレイン・ストーミングを中心的に行った。各メンバーがこれまで行ってきた研究を、本共同研究の課題に引きよせて発展させていく上での方向などについての討論が、各回の研究会 に共通する主な内容である。
-平成23年度-
 本年度より、平成22年度以来の個別ユニット「聖なるもののマッピング」に「癒し空間の総合的研究」と「功徳の観念と積徳行に関する地域間比較研究」が新たに加わった。複合ユニットとしては「聖なるもののマッピング」と計3回の合同開催を重ね、聖性や移動についての民族誌的事実の共有、これらを統合するキーワードの抽出、各地域の異なる実践にいかなる時空間マッピングが構築できるかに焦点を定め、東南アジア仏教寺院マッピングの事例をモデルとして検討した。「癒し空間の総合的研究」は、衛星写真を利用した寺社立地空間の古代復原を構想する一方、東日本大震災で被害に遭った各地の主要神社を訪問調査して復興にむけた学術的支援も行った。「功徳の観念と積徳行に関する地域間比較研究」は、3度の研究会で東・東南アジア各地の実践を比較する視点を探るとともに、教義研究の観点をふくめた議論を展開した。
-平成24年度-
 本共同研究と以下の3つの個別研究ユニットの構成で活動した。すなわち、昨年度よりの継続である①「癒し空間の総合的研究―聖空間としての延喜式内社とアジアの聖地の比較研究(代表:鎌田東二、京都大学こころの未来研究センター)」と②「功徳の観念と積徳行に関する地域間比較研究(代表:兼重努、滋賀医科大学医学部)」、および今年度のみの③「異宗教・異民族間コミュニケーションにおける共生の枠組と地域の複相性に関する比較研究」(代表:王柳蘭、京都大学地域研究統合情報センター)である。それぞれの個別研究ユニットは、それぞれ2~4回の国内での研究会を実施した。さらに、すべてのユニットが得たそれぞれの成果に基づき、本共同研究のメンバーと各個別ユニット代表者をまじえた合同研究会を1回実施した。この合同研究会を通じて、時空間としての聖地の構成と変遷について地域間比較の可能性が議論されるとともに、マッピングのメリットと課題、とりわけ定量化しにくい民族誌的データを地図化する作業についての問題点について多角的に検討がなされた。
研究成果の概要: -平成22年度-
 22年度の共同研究の成果として、以下のような点が明らかになった。
・神像、聖地、聖遺物の成立と分布の過程からは、そこではオリジナルとコピーとの関係が極めて曖昧な場合が多いという特徴が見出される。
・「宗教的要素」と「非宗教的要素」との線引きが時に困難である。神像・聖遺物等とそれ以外のモノとの境界、また巡礼と娯楽旅行との境界はいずれも曖昧であり重複領域を含んでいる。
また宗教的価値それ自体が「世俗的な」活動に由来している場合もある。
・聖地の選択については主観的要素の重要性が高い。何をもって聖地と見なすかについては、社会ごと、あるいは個人ごとの指向が大幅に混入する。
・宗教という視点から、国家単位の政治地図とは異なる地域像を描きうる可能性はあるとしても、その宗教のあり方自体(聖職者の身分の規定、宗教施設の認定)が国家による管理の影響に規定されている部分があることもまた無視し得ない。
・ただし今述べた点は、国家の規制をすり抜ける宗教実践のダイナミクスは、そうした制度化からこぼれ落ちる在家指導者や未公認施設にこそあらわれているということをも、一面では示唆している。
・神格・神像、およびそれに付帯した奇跡譚などの変遷を定量的に把握することで、人々の崇拝対象が制度宗教に取り込まれていく過程をも示すことが可能である。
・宗教を軸にした地域間比較にいて暗黙裏に採用される宗教多元主義的視点には、それぞれの宗教が唱える普遍的価値を捨象するリスクが伴う。では宗教の真理主張を正当に評価しつつ、なおかつ諸宗教の存在論的対等を前提とする比較研究はいかに可能か。これはすぐに結論は出ないが重要な課題である。
-平成23年度-
 いずれのユニットにおいても、可視的なモノや行為を定量データとして集積して見えないもの(こと)に迫る視点が共有され、個々の地域や民族誌に埋め込まれている言説を脱して、見えぬモノを輪郭づける議論や技法で通説化した理解と異なる現実を提示しようとした。マッピングによって東南アジア仏教徒社会における出家行動の地域差、教派の地域史的展開を解明するとともに、国家未公認の寺院や廟が国家の管理や「宗教施設」という括りの外に宗教の活力を保持することも明らかにした。また、在家宗教者に儀礼の執行や経典知識の継承を依存する事例では宗教者の分布や移動経路から既存の宗教論にない現実を提示した。積徳行の地域間比較と癒し空間の生成過程についての学際的探求も、宗教の実践をめぐるこうした外在的要因と内在的な要求との動態的な関係とメカニズムに着眼して進展しつつある。
-平成24年度-
 聖なるものの属性と移動については、生命の死という現象と観念、そして、それが発生・認知される場(時空間)の構成とその変遷で地域間比較が可能になる。マッピングについては、東日本大震災での被災地において寺社仏閣を地図化することのメリット、その一方で、地図化が困難な民族誌的事実をふまえた時空間マッピングの課題と必要性が議論された。さらに、マッピングの基本となる地図そのものの歴史的属性とそこに表示される史実(現実)とのズレについて議論を深めた。個別ユニット上掲①では、東日本大震災による災害と神社の時空間の関係、復興時に地域芸能が果たす役割に焦点を絞りつつ、被災神社と延喜式内社とを照合比較するマッピングの展望が開けた。また、非仏教圏で使われる功徳の観念を比較検討した②では、既存の東南アジア仏教徒研究での議論を相対化しつつ、宗教的救済財をめぐる時空間の位相が、聖地の生成と人の移動のマッピングによって浮き彫りにされる可能性が示された。そこでの論点は、移動する人々が移動先で内発的な共生を築く過程を探ろうとした上掲ユニット③の課題とも連なる。宗教実践の発生と持続・変容を促す外在的な要因と内在的なインセンティブとの動態的関係をマッピングによって可視化する試みは、東南アジア仏教寺院マッピングをモデルにして、史料から掘り起こされたわが国の納経をめぐる移動経路の検証でなされた。他方で、定量化可能な資料を定位づける過程での「野生のナビゲーション」が、災害のような忘却される地域の経験や人の移動を方向づけるものをマイニングする可能性が確認される一方で、地図にのり難い資料とマッピングとの関係、そして地図化後のデータの読み方について検討することが課題として残された。これらの議論を踏まえた成果は、平成25年度中に商業出版、地域研究統合情報センターのディスカッションペーパー等で公開することとなった。
公表実績: -平成22年度-
22年度は研究初年度であったため、問題意識の共有を優先し、成果の公表は行っていない成果の公表については二年目以降に行う予定である。
-平成23年度- 
鎌田東二『現代神道論――霊性と生態智の探究』春秋社(2011)
小島敬裕『中国・ミャンマー国境地域の仏教実践—徳宏タイ族の上座仏教と地域社会』風響社
(2012)
片岡 樹編『聖なるもののマッピング―宗教からみた地域像の再構築に向けて』京都大学
CIASディスカッションペーパー26(2012)
片岡 樹「食人鬼のいる生活―タイ山地民ラフの妖術譚とその周辺」『社会人類学年報』37:1-25

林 行夫「上座仏教徒研究の現状と課題」『パーリ学仏教文化』25号、93-115頁(2011)
林 行夫「大陸部東南アジア仏教徒社会の寺院マッピング――その経緯と射程」片岡樹編『聖
なるもののマッピング――宗教からみた地域像の再構築に向けて』京都大学CIASディスカッ
ションペーパー26、7-15頁
Hayashi, Yukio, “Mapping Practices of Theravadins,” International Workshop on Disaster Heritage and
Creative Economy: From Perspective of Area Informatics, CIAS/TDMRC/JICA, Banda Aceh( 2011)
Kataoka , Tatsuki , “Religion as Non-religion: The Place of Chinese Temples in Phuket, Southern
Thailand.” Joint Conference of the Association for Asian Studies and International Convention of Asia
Scholars , Hawaii Convention Center, Honolulu (2011)
兼重 努「風水を盗む- 西南中国トン族の事例から」学際シンポジウム「風水思想と東アジア」(2011)
Kobayashi ,Satoru. “Discovering a sima in a forest: An Analysis of Cambodian Perceptions of Buddhist
Tradition and Practice. The paper presented at the 2012 Annual Conference of Association for Asian
Studies, Panel: Simas, Discourses, Practices, Histories. Toronto ( 2012).
小林 知「修行、公的教育、アジール:現代クメール人の出家行動の動態と多義性」 地域研
究コンソーシアムワークショップ「公と私を結ぶ―東南アジアから考える新しい共生のかた
ち」(2012)
-平成24年度-
共同研究会に関連した公表実績(出版、公開シンポジウム、学会分科会、電子媒体など)
Kojima, Takahiro “Tai Buddhist Practices in Dehong Prefecture, Yunnan, China, ” Southeast Asian Studies 1(3): 395-430 (2012)
小島敬裕『中国・ミャンマー国境地域の仏教実践?徳宏タイ族の上座仏教と地域社会』風響社(2012)
Hayashi, Yukio “What the Mapping Tells Us and Contributes to Southeast Asian Studies,” presentation at the International Workshop on Mapping Practices among Theravadin of Southeast Asia in Time and Space, Chulalongkorn University Social Research Institute, Bangkok, Thailand (26th Feb. 2013) (http://www.cias.kyoto-u.ac.jp/event/files/2013/02/BKWS)
林 行夫「「悪行と功徳の社会的展開―東南アジア上座仏教徒社会の構図」兼重 努編『功徳の観念と積徳行の地域間比較研究』京都大学地域研究統合情報センターディスカッションペーパー33、17-23頁 (2013)
林 行夫「寺院マッピング―見えないものを写像する」柳澤雅之編『情報をつむぐ、世界をつかむ―地域情報学で変わる地域研究』京都大学地域研究統合情報センター・ディスカッションペーパー30、35-43頁(2013)
Kataoka,Tatsuki  “Religion as Non-religion: The Place of Chinese Temples in Phuket, Southern Thailand.” Southeast Asian Studies 1(3): 461-485 (2012)
片岡 樹「功徳と祝福再考―タイ山地民ラフのオボ概念を中心に」兼重努・林行夫編『功徳の観念と積徳行の地域間比較研究』京都大学地域研究統合情報センター・ディスカッションペーパー33、55-63頁(2013)
片岡 樹「ブンチュム運動とラフ―その予備的考察―」『東南アジア大陸部における宗教の越境現象に関する研究』平成22-平成24年度科学研究費補助金基盤研究(A)研究成果報告書(研究代表者:片岡樹)、187-212頁(2013)
兼重 努「西南中国トン族の功徳の観念と積徳行」兼重努・林行夫編(2013)『功徳の観念と積徳行の地域間比較研究に向けて)』京都大学地域研究統合情報センターディスカッションペーパー33、89-101頁 (2013)
兼重 努・林 行夫編 『功徳の観念と積徳行の地域間比較研究に向けて)』京都大学地域研究統合情報センターディスカッションペーパー33 (2013)
Kobayashi ,Satoru. “Discovering a sima in a forest: An Analysis of Cambodian Perceptions of Buddhist Tradition and Practice. The paper presented at the 2012 Annual Conference of Association for Asian Studies, Panel: Simas, Discourses, Practices, Histories. Toronto ( 2012).
小林 知「修行、公的教育、アジール:現代クメール人の出家行動の動態と多義性」 地域研究コンソーシアムワークショップ「公と私を結ぶ―東南アジアから考える新しい共生のかたち」(2012)
小牧幸代「コンタクト・ゾーンとしての聖遺物信仰:南アジア・ムスリム社会の事例から」田中雅一・小池郁子編『コンタクト・ゾーンの人文学 第Ⅲ巻 宗教実践』晃洋書房pp.155-175. (2012)
Morikawa, Tomoko, “Pilgrimage to the Iraqi ‘Atabat from Qajar era Iran”, Pedram Khosronejad (ed.), Saints and their Pilgrims in Iran and Neighbouring Countries, Wantage: Sean Kingston Publishing, pp. 41-60 (2012)
Murakami, Tadayoshi. “Buddhism on the Border: Shan Buddhism and Transborder Migration in Northern Thailand”, Southeast Asian Studies 1(3): 365-393, Center for Southeast Asian Studies, Kyoto University (2012)
王 柳蘭「第56章 タイの雲南系回民-多様な越境経験を経た定住化 」中国ムスリム研究会編『中国のムスリムを知るための60章』明石書店、332-336頁(2012)
菅根幸裕「近世~近代の京都六斎念仏の本末に関する一考察~上鳥羽橋上鉦講と空也堂極楽院の史料から」『千葉経済論叢』47: 1-70[千葉経済大学](2012).
研究成果公表計画
今後の展開等:
-平成22年度-
 23年度は、本複合ユニット傘下の個別ユニットとして、既存の「聖なるもののマッピング」(聖地・聖像・聖遺物等の分布から地域の動態を明らかにする)のほかに、新たに「癒し空間の総合的研究」(神秘的な場所の空間的属性を明らかにする)と「功徳の観念と積徳行に関する地域間比較研究」(功徳・積徳の類型により地域間の異同を明らかにする)が加わる。そのため複合全体の構造は上記「4.研究目的」が当初想定していたものとはやや異なったものとなる。したがって複合レベルでは、個別ユニットの構成に対応した微修正を行いつつ、各個別ユニットの知見を総合するかたちで、宗教をツールとする相関型地域研究の可能性への提案を集約することを試みる。23年度の研究会では3個別ユニット・メンバーとの意見交換も行っていく。
-平成23年度-
 24年度は最終年度となるため、複合ユニットとしての成果集約を行う。現時点では非公開ながら、東南アジア上座仏教圏の出家者、寺院施設等についてのデータを数量化・地図化さらにそれらを電子化する作業は部分的に完成した。24年度はこれを雛形としつつ、他宗教、他地域での事例を同様にデータ化し統一様式のもとでデータベース化する。この作業には、23年度に終了している個別ユニット「聖なるもののマッピング」の成果も反映させると同時に、他の二つの個別ユニットで得られる成果をめぐる意見交換とデータ共有化を進め、複合ユニット全体としての成果を集約して統合する。
平成24年度-
 複合ユニットとしての本共同研究は平成24年度で終了するが、この3年を通して得られた成果と論点は、平成25年度より始まる新たな複合ユニット共同研究「宗教実践の時空間と地域」へと継承・発展させていく予定である。すなわち、世界の多様な宗教実践の地域ごとの表出形態を、各地域や専門ごとの課題に応じてデータ化し、統一様式のもとでデータベース化することを試みつつ、他の個別研究ユニットで得られる成果をめぐって意見交換とデータの統合と共有化を進め、利活用できるようにしていく。