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東南アジアにおける油ヤシ農園生成・拡大の政治経済学(h22~h23)

過去の研究プロジェクト

東南アジアにおける油ヤシ農園生成・拡大の政治経済学(h22~h23)

個別共同研究ユニット
代表: 岡本正明(京都大学東南アジア研究所・准教授)
共同研究員: 阿部健一(総合地球環境学研究所研究推進戦略センター・部門長・プログラム主幹・教授)、新井祥穂(東京農工大学女性未来育成機構・助教)、石川登(京都大学東南アジア研究所・准教授)、生方史数(岡山大学大学院環境学研究科・准教授)、加藤剛(総合地球環境学研究所・客員教授)、加納啓良(東京大学東洋文化研究所・教授)、河合真之(東京大学大学院農学生命科学研究科・特任研究員)、北村由美(京都大学東南アジア研究所・助教)、小林知(京都大学東南アジア研究所・助教)、島上宗子(京都大学生存基盤科学研究ユニット・研究員)、田中耕司(京都大学研究推進部・研究推進部特定職員(次世代研究者育成センター担当))、田中良平(森林総合研究所バイオマス化学研究領域・研究員)、永田淳嗣(東京大学大学院総合文化研究科・准教授)、林田秀樹(同志社大学人文科学研究所・准教授)、藤倉達郎(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・准教授)、藤田渡(甲南女子大学多文化コミュニケーション学科・准教授)、室田武(同志社大学経済学部・教授)、柳澤雅之(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)
期間: 平成22年4月~平成24年3月(2年間)
目的:  東南アジアで現在、マレーシアやインドネシアだけでなく、タイ南部、カンボジア、フィリピン南部でも油ヤシ農園が急拡大している。本研究では、東南アジアおける油ヤシ農園の開発と拡大の歴史、それに伴う自然と人との関係の変容について、政治経済学を軸に据えて総合的に考察することを目的とする。
 パーム油は高い需要のある植物油だけでなく、バイオ燃料としても脚光を浴びていることが油ヤシ農園の急拡大をもたらしている。華人や欧米の巨大なグローバル資本が農園用地を大規模に取得し、現地の自然景観や生態系、土地管理方法、人々の社会生活、経済活動を根本的に変えつつある。経営形態が小規模化して、大規模資本+政府vs地元民という単純な対立構図では捉えきれない地域もあるとはいえ、森林が急速に農園用地となり、自然と人との関係は大きく変わってきている。農園問題の本質は、グローバル化の中で巨大なグローバル資本が、農園拡大を正当化するためのディスコースを中央・地方政府を巻き込んで形成し、社会への浸透を図ろうとすることにあり、政治経済学的視点が不可欠である。本研究はディスコース形成とその制度化を政治経済学的に分析する。その上で油ヤシ以外の農園も含め、環境評価の自然科学的手法などを導入した政策提言も視野に入れた総合的研究にしたい。
研究実施状況: -平成22年度-
 本年度は、科研(代表:林田)の財源ともあわせて、添付のように合計9回のアブラヤシ研究会を実施した。そのうち、二回は英語による発表である。発表者数は合計24名に達しており、いかに精力的にアブラヤシ研究を進めてきたか分かるであろう。加えて、2010年度から始まった独立行政法人日本学術振興会の「アジア研究教育拠点事業」の共同研究4のサブクラスターとしてアブラヤシ農園と政治の関係に関する研究も開始させ、2010年12月18日に開催した同事業の国際ワークショップで1セッションを設けた。
-平成23年度-
本年度は、科研(代表:林田、代表:岡本)の財源もあわせて8回の研究会を行ない、合計15人の研究者、官僚、活動家による発表が行われた。一回は英語による研究会、一回は通訳付きのインドネシア語による研究会であった。また、アジア拠点事業(代表:速水)の地方政治のクラスター(クラスター代表:岡本)において、アブラヤシ研究会が共催する形のインドネシア語による研究会(インドネシア政治研究会)も一度行った。添付の研究会リストを見れば分かるように、研究会は極めて学際的なものとなっており、アブラヤシに関連する研究会としては日本でこれほど集中的に研究しているものはないはずである。インドネシアの農業省元農園局長を招聘して、基調講演をしてもらったことは、インドネシアのアブラヤシ農園政策を詳細に知ることができたのみならず、インドネシアでの農園調査に活路を更に開くものとなった。2011年9月には研究会メンバーが再び西カリマンタンで調査を行ない、2012年2月には代表者も含めた二名がインドネシアで最初に開園されたアブラヤシ農園でインタビュー調査を行うことができた。
研究成果の概要: -平成22年度-
本共同研究は、学際的アプローチにより、東南アジア、とりわけマレーシアとインドネシアで急拡大するアブラヤシ農園を研究するというものである。ほぼ毎月一回の研究会、さらには科研によるインドネシア、マレーシアへの共同調査を通じて、アブラヤシ農園の拡大には内在的な矛盾を抱えていることが分かってきた。アブラヤシ農園と言えば、生物多様性破壊、森林破壊、先住民の生活破壊といった問題を引き起こしているというのが一般的な理解である。しかし、中長期的には労働力問題が農園拡大のネックとなり得る。パーム農園作業は都心部から離れた地域での単純労働である。その結果、マレーシアでは、一定の所得水準に達したアブラヤシ栽培世帯の子弟たちは都心部で就学、就労しており、インドネシア人労働者抜きにはパーム農園管理が不可能となっている。インドネシアにおいては、農園面積拡大に成功した小地主たちは子弟を都心部で就学、就労させ始めており、彼らの農園の管理問題が深刻化する可能性が高い。というのも、中長期的には、栽培従事者や管理者不足により農園管理が形骸化しかねないからである。アブラヤシ栽培を推進すればするほど、パーム農園地帯の人材不足が発生するというパラドックスが起きているのである。そして、この点について、マレーシア政府もインドネシア政府も具体的な政策を持っているわけではない。
-平成23年度-
本研究会は、アブラヤシを総合的に把握するという目的を持っていたことから、政治経済学的研究のみならず、多様な研究の発表の場としてきた。その目的は十分に達成されたといえ、まさに一つの発表があるごとに新しい発見が複数あるという研究会であり、非常に刺激的であった。ただ、アブラヤシをめぐる問題が多様な面に及んでいることがわかり、その諸相をつかむのに時間がかかることにもなった。ここでは、そうした新たな発見のなかでも今後の東南アジアにおけるアブラヤシ農園の展開を考える上でかなり重要だと思われる経済的、政治的ポイントを3つ触れておく。
まず、個人や小事業体による独立農園の急増である。このことはとりわけインドネシアに当てはまり、衛星農園の小農もあわせれば、既にアブラヤシ農園の総面積の5割に達している。大農園に比べれば単位収量が低いことが多く、収量向上よりも拡大を通じた所得増を目指しやすい。その一方で、大企業による農園開発=森林破壊という論理を展開してきた環境系NGOにとっては、こうした小農による農園を安易に批判することはできなくなりつつある。
2つ目は、グローバルなCPO市場を見てみると、マレーシア資本の多角的農園展開と市場拡大が非常に目立っており、インドネシア資本がその動向に追従する傾向がみられていることが分かった。メッカ巡礼用貯蓄をフィリピンの農園開発用の投資に回して失敗に終わったものの、マレーシア資本はラテンアメリカやアフリカにおけるアブラヤシ農園拡大に関与しており、その動向を詳細に追う必要性は高い。
3つ目は、アブラヤシ農園をめぐるディスコースである。農園拡大に賛成するか反対するかは、大きく健康問題と環境問題の2つをめぐって議論が展開していることが分かった。いずれにしても、科学を武器としてディスコースが作り上げられており、科学の政治化が極めて顕著に起きている。そもそも、科学の政治化はとりわけアメリカで目立っているようで、そうした研究が進んでいる。マレーシアやインドネシアなどCPO生産国にとっては、科学的にCPOがネガティブな評価を受けることは市場の喪失につながるだけに、このディスコースで優位に立つことは決定的に重要になりつつある。
公表実績: -平成22年度-
Session 6: Local Political Economy of Energy Crops IN JSPS Asian Core-Program Seminar: Local Politics and Social Cleavages in Transforming Asia (Co-organized by JSPS, CSEAS, Kyoto University and CAPAS, Academia-Sinica, Taiwan)
-平成23年度-
林田秀樹、2012年、「パーム油生産の急増とその需要側要因について―1990年代末以降に焦点を当てて―」、社会科学41(4)、89-107頁
藤田渡、2011年、「ローカル・コモンズにおける地域住民の「主体性」の所在—実践コミュニティの生成と権力関係について—」、文化人類学、76(2)、125-145頁
室田武、2011年、「デカン高原のある農村から考えたバイオ燃料ブーム」、経済学論叢、63、259-273頁
生方史数, レトノ・クスマニンテャス, 嶋村鉄也、2012年、「市場作物の浸透が樹園地作物の多様性と蓄積に与えた影響―インドネシア、ランプン州の事例」、森林応用研究」、採用決定済
生方史数、2012年、「熱帯アジアの森林管理制度と技術―現地化と普遍化の視点から」、杉原薫・脇村孝平・藤田幸一・田辺明生編『環境・技術・制度の長期ダイナミクス』(分担執筆)
増田和也、2012年、『インドネシア 森の暮らし
研究成果公表計画
今後の展開等:
-平成22年度-
 次年度も基本的にはアブラヤシ研究会を主体として共同研究を進めていく。回数としては、国際セミナーも含めて6回ぐらいを考えている。そのうち、2回は英語によるセミナーとし、1回はインドネシア語によるセミナーを7月2日に開催する予定である。インドネシア語のセミナーには、インドネシアの国営農園企業の責任者二名他、インドネシアの研究者三名を招聘したい(本共同研究の負担は二名分)。発表の内訳は、インドネシアとマレーシアに関する発表が多くなるが、アブラヤシ発祥の地である西アフリカのアブラヤシの状況に関する発表も二回は含めたいと考えている。8月には、林田科研等を利用して、インドネシアを中心として共同調査を行う。具体的な成果としては、次年度はアブラヤシに関する啓蒙を目的の1つとして、新書の出版を考えており、その打合せを本格化する。加えて、日本初のアブラヤシに関する学際的な叢書の中身及び著者分担について、これまで通り話し合いを進めていく。
-平成23年度-
昨年度の計画では新書を今年度に出版予定であり、実際に出版社とも話し合いを進めているが、代表者の渡米、アブラヤシ農園が予想以上に複層的な問題を抱えていることなどから、実現できていない。何とか2012年度に草稿を仕上げたい。
2012年度の東南アジア学会やアジア政経学会で分科会を持つ予定である。また、2013年3月に開催予定のアジア拠点事業でも1つのセッションを設けることになっている。こうした学会発表のためにペーパーが出来上がることから、今年度以降、出版物としての成果も増えていく。