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ラテンアメリカにおける新自由主義の浸透と政治変動(h22~h23)

過去の研究プロジェクト

ラテンアメリカにおける新自由主義の浸透と政治変動(h22~h23)

個別共同研究ユニット
代表: 村上勇介(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)
共同研究員: 新木秀和(神奈川大学外国語学部・准教授)、出岡直也(慶應義塾大学法学部・教授)、内田みどり(和歌山大学教育学部・准教授)、浦部浩之(獨協大学国際教養学部・教授)、遅野井茂雄(筑波大学大学院人文社会科学研究科・教授)、狐崎知巳(専修大学経済学部・教授)、住田育法(京都外国語大学外国語学部・教授)、高橋百合子(神戸大学大学院国際協力研究科・准教授)、田中高(中部大学国際関係学部・教授)、二村久則(名古屋大学大学院国際開発研究科・教授)、山岡加奈子(日本貿易振興機構アジア経済研究所地域研究センター・研究員)
期間: 平成22年4月~平成24年3月(2年間)
目的:  ラテンアメリカにおいては、早い国では1970年代から、市場経済原理を貫徹し、それまでの国家主導の経済発展モデルを軌道修正する動きが見られた。後に新自由主義(ネオリベラリズム)と総括されるそうした動きは、1980年代に入ると経済危機の拍車もあり次第に加速度を増し、1990年代には数ヶ国を除くラテンアメリカのほぼ全域に行き渡った。しかし、新自由主義路線は、マクロ経済を安定化させた一方、伝統的に脆弱だった国家機能を強化する作用は持たず、とりわけ国家による再配分は向上しなかった。19世紀初頭の植民地からの独立以来抱えてきている貧困や、経済、社会、文化、地域などの点での格差といった構造的な問題は、改善するどころかむしろ悪化した。そうしたなかで、ラテンアメリカでは新自由主義路線の見直しが2000年前後から始まり、見直し路線の成果が問われる時期に入っている。本研究は、新自由主義が政治変動へ与えた影響を総合的に考察し、他地域との比較研究の一つの出発点となることを目指す。
研究実施状況: -平成22年度-
●第1回研究会
 日時: 2010年9月18日(土) 13:30~17:30
 場所: 京都大学地域研究統合情報センターセミナー室(稲盛財団記念館2階213号)
 発表:「コロンビアの政治・社会の現況」二村久則(名古屋大学)
 「2010年ブラジル大統領選挙とルラ後の展望」住田育法(京都外国語大学)
●第2回研究会
 日時:2010年10月25日(月) 15:30~18:00
 場所: 神戸大学経済経営研究所調査室(六甲台キャンパス・兼松記念館1階)
 報告:“Pobladores rurales en Colombia: respuestas y propuestas en tiempos de guerra”Flor Edilma Osorio Perez (Universidad Javeriana, Colombia)
●第3回研究会
 日時: 2011年1月13日(木)14:00~17:00
 場所: 京都大学地域研究統合情報センターセミナー室(稲盛財団記念館2階213号)
 報告: “Populism and Competitive Authoritarianism in Latin America”Steven Levitsky (Harvard University)
-平成23年度-
研究会を3回実施した。
●第1回研究会
日時: 2011年6月7日(土) 13:30~17:30
場所: 京都大学地域研究統合情報センターセミナー室(稲盛財団記念館2階213号)
発表: “La reforma cubana y la política monetaria y cambiaria” (「キューバの経済改革と財政・為替政策」) Alejandro Pavel Vidal (Centro de Estudios de la Economía Cubana de la Universidad de La Habana; アレハンドロ・バベル、ハバナ大学キューバ経済研究所)
●第2回研究会
日時:2011年12月17日(土)14:00~18:00
場所: 京都大学地域研究統合情報センターセミナー室(稲盛財団記念館2階213号)
報告:「第6回キューバ共産党大会をどう見るか」 田中高(中部大学)
「ポスト新自由主義期のペルー─2011年選挙過程とウマラ政権の現状─」 村上勇介(京都大学)
●第3回研究会
日時: 2012年2月4日(土)14:00~18:00
場所: 京都大学地域研究統合情報センターセミナー室(稲盛財団記念館2階213号)
報告:「メキシコにおける貧困削減政策とアカウンタビリティ制度改革(1988-2012)」高橋百合子(神戸大学) 「チャベス政権下ベネズエラにおける二つの『民主主義』の間の相克」坂口安紀(日本貿易振興機構アジア経済研究所)
研究成果の概要: -平成22年度-
 ラテンアメリカは、1980年前後に、歴史的転換期 (“critical juncture”) と呼ぶべき時期を迎えた。それは、1930年代前後に起きた20世紀最初の歴史的転換期に続く2回目のものである。それまでの時代は、「国民国家」建設を目指した過程であった。それを特徴付けた政治と経済のあり方が、1980年代前後から転換した。具体的には、「民主化」により民主的な政治の枠組みを基本とする政治が主流となると同時に、経済においても、「国家中心モデル」(国家主導の輸入代替工業化に基礎)から「市場中心モデル」(新自由主義による市場経済化、「ワシントンコンセンサス」とも呼ばれる)へと転換した。ここでいう新自由主義は、国家の役割・機能を縮小する考え方や政策を指している。
 ラテンアメリカに関して一般に、新自由主義により国家の役割が縮小し「分配できるパイ」が縮小し、インフォーマルセンターの拡大とも相まって、労働組合など、それまでの「国家コーポラティズム」的利益体系の柱となってきた中間媒介組織が揺らぐと指摘される。そうしたなか、旧来の農民運動や労働運動の枠には収まりきれない新たな社会運動が発生するものの、特定利益追求型の圧力団体と化す傾向があり、水平的繋がり・広がり薄く、社会全体の原子化傾向が広まるといわれる。そうした状況が、政党の変容など変動を引き起こし、社会を不安定化させることにつながると分析される。
 しかし、政党が凋落した最初の2つの例であるペルーとベネズエラは、新自由主義が適用される前にそれが起こっており、少なくとも重要な事例については、上記の一般論は当てはまらない部分がある。また、ブラジル、チリ、メキシコ、ウルグアイの政党と政治社会は安定化傾向を示しており、不安定化しているそれ以外の国々とは対照的である。
 新自由主義改革の進み具合を具体的にみると、1990年代半ばには、ベネズエラを除く国々でかなり改革が進んでいたが、その度合いは、ボリビアとペルーが最も抜本的だったのに対し、アルゼンチン、ブラジル、エクアドル、メキシコは中程度の改革度で、改革がほとんど進まなかったベネズエラのほか、コロンビア、チリ、ウルグアイでの新自由主義改革は低い程度しか実施されなかった。そうした違いが、政党などにどのような影響を与えたか、個別具体的に分析する必要がある。
 新自由主義改革の程度について、「民主化」後、つまり、政党勢力が新自由主義改革を進めなければならなかった度合いをみると、チリ、ブラジル、ウルグアイはそれほど進める必要がなかったことが判明した。アルゼンチンは政党が新自由主義改革を進める必要に直面し、実際にそれを実施した。こうしたことから、アルゼンチンは、チリ、ブラジル、ウルグアイ以外の国々と同様に、新自由主義による改革を受けて不安定化した例ということができる。
-平成23年度-
従来の研究では、新自由主義路線の導入により、それまでの国家主導型発展路線を背景とした利益代表あるいは利益媒介のあり方や考え方に変化をもたらしたと指摘されてきた。その代表的な分析は、旧来は、コーポラティスト的なあり方や考え方が基本にあったことを出発点とする。つまり、個々の利益は、労働組合、農民組合、貧困地域の住民組織といった組織が代表、表出していた。そうした組織を支持基盤として政党が作られ、政党政治が展開した。国家はその要求に応え、様々な機能を果たした。だが、そうしたあり方が限界に達し導入された新自由主義路線により、コーポラティスト的な利益代表や利益媒介が凋落した。そうしたなか、代表制民主主義を支える政党も変貌を余儀なくされた。とくに、政党は支持基盤を労働組合(そして、国によっては農民組合)においてきたため、政党が勢力を弱め、その存在が不安定化してきたと分析される。
しかし本研究では、まず、新自由主義改革の影響は、定説の指摘するような不安定化のみではないことを確認した。つまり、政党政治が不安定化した例(ボリビア、アルゼンチン、エクアドル、コロンビアなど)が存在する一方、安定化傾向を示す例(ブラジル、チリ、メキシコ、ウルグアイ)が存在する。また、政党政治の衰退が、新自由主義改革の展開とは関係ない場合もあった(ペルーとベネズエラ)。
それでは、安定化と不安定化を分けた要因は何か。本研究は、民政移管後に行われた新自由主義改革の開始時期の差に着目した。つまり、安定傾向にある例では、新自由主義改革が、民主主義への移行に先立つ非民主的な政権や体制(軍事政権や権威主義体制)の下でかなりの程度にわたり進められた。移行の過程で、ネオリベラリズムへの批判の受け皿となる左派政党が、民政移管推進の勢力の一部として地歩を固め、民政移管後に政党システムの一部を形成することとなった。そうした左派政党は、今世紀に入り強まる新自由主義批判の文脈では、穏健左派となった。これに対し、不安定化した国では、民政移管後、あるいは長く続いてきた二大政党制の下で、かなりの程度のネオリベラリズム改革を推進する必要性に迫られた。政党政治が、その課題に直面した。そして、新自由主義改革が進められ一段落した段階でそれに対する不満や批判が拡大し始めた時、その受け皿となる左派政党は存在しなかった。これらの国では、左派政党は、新自由主義改革実施の前までに衰退したか、同改革を推進ないし継承した連合政治の一翼だったため信頼を失ったか、二大政党を前に存在が薄かった。そうした状況のなかから、急進左派が登場する例も観察された。
公表実績: -平成22年度-
 CONFERENCIA INTERNACIONAL/国際シンポジウム
“Relaciones Estado-sociedad en America Latina de la era posneoliberal: conflictos, desigualdad y democracia”/「ポストネオリベラル期ラテンアメリカにおける国家社会関係─紛争、格差と民
主主義─」
 日時: 2011年3月19日(土) 午前10時~午後4時20分/2011年3月20日(日) 午前9時30分~午後4時20分
 場所: 京都大学稲盛財団記念館 3階大会議室
-平成23年度-
●CONFERENCIA INTERNACIONAL/国際シンポジウム
“Relaciones Estado-sociedad en América Latina de la era posneoliberal II: conflictos, desigualdad y democracia”/「ポストネオリベラル期ラテンアメリカにおける国家社会関係─紛争、格差と民主主義─」
日時: 2011年9月23日(金) 10:00~16:20
場所: 京都大学稲盛財団記念館 3階大会議室
●Yusuke Murakami (ed.), Dinámica político-económica de los países andinos.(『アンデス諸国の政治経済動態』) Lima: Instituto de Estudios Peruanos, 2012, 389p.
研究成果公表計画
今後の展開等:
 -平成22年度-
研究会を3回、成果発表のためのワークショップを1回、成果出版打ち合わせのための会議を2回開催する予定。
-平成23年度-
●Yusuke Murakami (ed.), América Latina en la era post-neoliberal. (『ポスト新自由主義期ラテンアメリカ』)として、論文集の刊行を準備中(査読終了段階)。また、日本語での論文集の刊行を準備予定。
●京都大学地域研究統合情報センター個別共同研究ユニット「新自由主義期ラテンアメリカにおける政策的位相の比較研究」(平成24年度)として、別の観点から成果を検証予定。