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中東欧・ロシアにおける新自由主義的政策の展開とその帰結(h22~h23)

過去の研究プロジェクト

中東欧・ロシアにおける新自由主義的政策の展開とその帰結(h22~h23)

個別共同研究ユニット
代表: 仙石学(西南学院大学法学部・教授)
共同研究員: 上垣彰(西南学院大学経済学部・教授)、小森宏美(早稲田大学教育・総合科学学術院・准教授)、林忠行(京都女子大学現代社会学部・教授)
期間: 平成22年4月~平成24年3月(2年間)
目的: 社会主義体制が解体した後の中東欧、および旧ソ連諸国においては、当初は市場経済への転換および経済的グローバリゼーションの対応に際して、IMFおよび世界銀行の意向も反映させる形で、経済政策や社会政策においていわゆる「ネオリベラル」的な政策が実施されることが多く、このためにポスト社会主義国では自由主義的な市場経済や残余型の福祉制度が導入される可能性が高いと考えられていた。だが体制転換から20年を経た現在、ロシアでは1997年の金融危機以後はネオリベラル的な政策は放棄され、大陸の東欧諸国でもネオリベラル的な政権が経済政策ではネオリベラルとは異なる政策を実施している事例が多い。そして相対的にリベラルな経済の確立に成功したとされるバルト3国においても、近年その行き過ぎを修正する施策が試みられている。この中東欧および旧ソ連諸国における、体制転換の直後のネオリベラル化とその後の揺り戻し、およびその過程の多様性について検討を行うことを、本共同研究の主たる目的としている。
研究実施状況: -平成22年度-
本年度はまず、同じ複合共同研究ユニット「新自由主義の浸透と社会への影響に関する地域間比較研究」に属する個別研究ユニット「ラテンアメリカにおける新自由主義の浸透と政治変動」との共催で、以下の「中東欧とラテンアメリカのいまを比較する」研究会を2度実施した。
・第1回研究会(「中東欧とラテンアメリカのいまを比較する」第5回研究会)
日時: 2010年7月24日土曜日 14:00.17:00
場所: 京都大学東京オフィス会議室2
報告者及び報告タイトル:
小森宏美(京都大学地域研究統合情報センター)
「エストニアの新自由主義を支える『社会正義』理解」
浦部浩之(獨協大学国際教養学部)
「チリの『右傾化』とパラグアイの『左傾化』は新自由主義の是非の選択と関係しているのか」
・第2回研究会 (「中東欧とラテンアメリカのいまを比較する」第6回研究会)
日時: 2010年11月26日金曜日 17:00.20:00
場所: 慶應大学三田キャンパス、東館4階セミナー室
報告者及び報告タイトル:
上垣彰(西南学院大学経済学部)
「ロシアとグローバル・リベラリズム再考」
上谷直克(日本貿易振興機構アジア経済研究所)
「新自由主義の政治的功罪と『左傾化』の実態」
また1月には、スラブ研究センターの共同研究プロジェクト「ポスト社会主義国における選挙データの体系的整理」との共催で、以下の研究会を実施した。
・研究プロジェクト「ポスト社会主義国における選挙データの体系的整理(2009~2010年)」研究成果報告会
日時: 2011年1月8日土曜日 14:00.17:00
場所: 早稲田大学早稲田キャンパス 1号館311教室
報告者及び報告タイトル:
林忠行 (北海道大学)
「チェコとスロヴァキアの政党政治20年を振り返る-選挙データから見る連続性と断絶」
中井遼(早稲田大学・院)
「中東欧の国籍法(市民権政策)に対する党派性・政党システムの影響」
最後に2月に、次年度の作業及び研究成果のとりまとめに関する協議を、京都において実施した(共同研究員のうち上垣を除く3名が参加)。
-平成23年度-
本年度も前年度に引き続き、同じ京都大学地域研究統合情報センターの複合共同研究ユニット「新自由主義の浸透と社会への影響に関する地域間比較研究」に属する個別研究ユニット「ラテンアメリカにおける新自由主義の浸透と政治変動」との共催で、以下の「中東欧とラテンアメリカのいまを比較する」研究会を2回実施した。
・第1回研究会(「中東欧とラテンアメリカのいまを比較する」第7回研究会)
日時: 2011年7月23日土曜日 14:00〜17:00
場所: 早稲田大学16号館大会議室
テーマ:「中東欧とラテンアメリカにおける新自由主義政策およびその背景」(仮)
報告者および報告タイトル:
竹内恒理(つくば国際大学産業社会学部)
「チリにおけるネオリベラリズムの浸透:シカゴ・ボーイズの役割を中心として」
仙石学(西南学院大学法学部)
「中東欧諸国における『ネオリベラル的』政策の実際:『第2世代改革』を軸として」
・第2回研究会 (「中東欧とラテンアメリカのいまを比較する」第8回研究会)
日時: 2012年3月24日土曜日 15:00から18:00
場所: 早稲田大学9号館 304教室
テーマ:「国際的な視点からの中東欧・ラテンアメリカにおける新自由主義」
報告者および報告タイトル:
吉井昌彦(神戸大学経済学研究科)
「中・東欧諸国と欧州委員会の関係から見る経済像:EU競争政策との関連で」
佐野誠(新潟大学経済学部)「新自由主義サイクルの国際比較:アルゼンチンと日本」
またあわせて、これまでの研究成果をとりまとめた論文集を、個別研究ユニット「ラテンアメリカにおける新自由主義の浸透と政治変動」との共同で作成した。
研究成果の概要: -平成22年度-
主たる研究会である「中東欧とラテンアメリカのいまを比較する」においては、ラテンアメリカとの比較という視点から、中東欧やロシアにおける「新自由主義」の諸相に関する検討を行った。第1回の研究会においてはエストニアおよびチリとパラグアイの事例からの議論が行われ、全く異なるようにみえるエストニアとチリおよびパラグアイの間で、ネオリベラリズム的な政策の実施をめぐる環境には一定の共通性があることが明らかにされた。第2回の研究会ではロシアとチリやアルゼンチンなどの事例からの議論が行われ、ラテンアメリカにおける「ネオリベラル化→左傾化」という明確な流れの存在と中東欧における「ネオリベラルと反ネオリベラルの対抗」という傾向の相違や、「左派」および「右派」の求める政策の相違、あるいは政策で選挙が争われる中東欧と選挙後に政策を変えるラテンアメリカという政党・選挙のあり方に関する相違など、両地域の間における「ネオリベラル」をめぐる認識や位相の相違が明らかにされた。また1月の選挙データ研究会は中東欧の過去20年の選挙に関するデータの蓄積に基づいた報告が行われたが、ここでも「ネオリベラル」を支持するグループの存否、およびその影響力には中東欧諸国の間でも相違があることが、選挙データの蓄積を通して明らかにされた。
-平成23年度-
第1回・第2回研究会の議論、およびラテンアメリカと中東欧・ロシアの新自由主義を比較する論文集のとりまとめを通して、中東欧・ロシアのネオリベラリズムの特質はこれを特別なものとして検討するより、他の地域、特に似たような環境におかれたラテンアメリカの事例と比較することで、その特質がより明確なものとなることが明らかにされた。特に両地域の比較からは、以下のような論点が明確となった。
1) 両地域の新自由主義はその源流を「シカゴ学派」に求めることができる点で共通の出自を有するものであり、またその伝播過程にも一定の共通性が存在している。
2) 他方で同じような歴史的経緯を有し、また現在でも同じような国際環境の元にある中東欧・ロシアとラテンアメリカそれぞれの地域において、ネオリベラル的な政策を採用した国とネオリベラルから距離を置いている国が存在しているという点で、共通の要因や地域的特性がネオリベラル政策の採用(ないしその欠如)と連関している可能性は低く、それぞれの国の政策の採用には各国固有の要素が大きく作用している。
3) ネオリベラル的な政策は一般的に格差の拡大や貧困の増大などの問題を伴うが、他方でこれらの諸国の事例からは、ネオリベラル的な政策の実施が政治の安定や経済成長に結びついている事例もあることも確認されていることから、ネオリベラルの功罪については、より慎重な議論が必要である。
その上で特に中東欧の事例については、ラテンアメリカと異なりネオリベラリズムの「波」のようなものは生じなかったが、国内において経済をめぐる政治的対立が存在したチェコとスロヴァキアにおいては、政権交代がネオリベラル的な政策の実施と結びついたこと、他方でロシアではソ連解体後の政治的・経済的空白をネオリベラリズムが「埋めた」ことが、ロシアにおけるネオリベラルの源流となっていること、またエストニアにおいては、旧ソ連への反発と「自国の存続」というナショナリズム的な意識がネオリベラリズムと結びついていることが、それぞれの研究から明らかにされた。
公表実績: -平成22年度-
今年度については、”研究実施状況”で示した公開の研究会をのぞいては成果の公表は行っていないが、現在”次年度の研究実施計画”にあげている論文集の出版に向けて、準備を進めている段階である。
-平成23年度-
今年度に関しては5.に掲載した公開の研究会の他に、2月にスラブ研究センターとの共催で、以下のセミナーを実施した。
・北海道大学スラブ研究センター・客員研究員セミナー
日時: 2012年2月20日(月)17:00-19:00
場所: 北海道大学スラブ研究センター4階小会議室(401号室)
報告者および報告タイトル:
仙石学(西南学院大学)
「中東欧諸国における政党システムと政策の連関:経済・福祉を軸に」
林忠行(京都女子大学)「ポスト社会主義期のスロヴァキア政党政治における新自由主義」
またあわせて、現在8.に掲載している論文集の公刊に向けて、準備を進めているところである。こちらは2012年夏の出版(成果公開)を予定している。
研究成果公表計画
今後の展開等:
-平成22年度-
2011年度においては、以下のような研究活動を予定している。
1) 2010年度と同様に、個別研究ユニット「ラテンアメリカにおける新自由主義の浸透と政治変動」との共催で「中東欧とラテンアメリカのいまを比較する」を2回実施する(7月頃および2012年1月頃)。ここでは引き続き、比較の視点から中東欧およびロシアのネオリベラリズムに関する検討を行う予定である。研究会は基本的に京都(地域研)での開催を予定しているが、東京で開催する可能性もある。
2) 2011年の秋頃に、「中東欧・ロシアにおける新自由主義的政策の展開とその帰結」プロジェクト単独での、成果報告の研究会を公開で実施する。ここで共同研究員となっている林・小森・上垣・仙石が、研究活動の成果をとりまとめた報告を行う。なおここでの報告は、次に述べる研究成果論文集の内容にかかわるものとなる予定である。
3) 2012年度初頭を目標として、研究プロジェクト「ラテンアメリカにおける新自由主義の浸透と政治変動」と共同で、論文集「新興民主主義国におけるネオリベラリズムの諸相―中東欧・ロシアと南欧・ラテンアメリカの比較から<仮題>」(村上勇介・仙石学編)を出版する予定である。この論文集に関しては、地域研究統合情報センターの叢書の1冊として、京都大学出版会から出版することを予定している。
4) 以上の研究会及び出版に関する協議のため、5月ないし6月に共同研究員による打ち合わせを京都もしくは福岡で実施する予定である。
-平成23年度-
まず本研究の研究成果に関しては、5.の研究実施状況のところでも触れたように、個別研究ユニット「ラテンアメリカにおける新自由主義の浸透と政治変動」の代表である村上勇介准教授と共同で、論文集「新興民主主義国におけるネオリベラリズムの諸相―中東欧・ロシアとラテンアメリカの比較から<仮題>」の出版準備を進めている。こちらは京都大学地域研究情報統合センターの助成を受け、京都大学学術出版会から地域研叢書「地域研究のフロンティア」の1冊として出版の予定である。
またあわせて、この2年間の研究では十分に進めることができなかった地域間比較、特にラテンアメリカと中東欧とのより具体的な地域間比較に関しては、2012年度に実施される新規の地域研プロジェクト「中東欧・ロシアにおける新自由主義的政策の理念と実態」において、さらに研究を進めることを予定している。