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中東地域における経済自由化と統治メカニズムの頑健性に関する比較研究(h22~h23)

過去の研究プロジェクト

中東地域における経済自由化と統治メカニズムの頑健性に関する比較研究(h22~h23)

個別共同研究ユニット
代表: 浜中新吾(山形大学地域教育文化学部・准教授)
共同研究員: 青山弘之(東京外国語大学大学院総合国際学研究院・准教授)、荒井康一(上智大学アジア文化研究所・共同研究員)、今井真士(慶應義塾大学大学院法学研究科・博士課程院生)、小副川琢(東京外国語大学中東研究日本センター・在レバノン(JaCMES)特任研究員)、吉川卓郎(立命館太平洋アジア大学アジア太平洋学部・助教)、末近浩太(立命館大学・准教授)、菅瀬晶子(国立民族学博物館)、髙岡豊(財団法人中東調査会・非常勤職員)、辻上奈美江(高知女子大学文化学部・講師)、中村覚(神戸大学大学院国際文化学研究科・准教授)、堀拔功二(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・博士課程院生)、松尾昌樹(宇都宮大学国際学部・准教授)、村上勇介(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)、山尾大(九州大学大学院比較社会文化研究院・講師)、横田貴之(日本大学国際関係学部国際関係学科・准教授)
期間: 平成22年4月~平成24年3月(2年間)
目的:  現在の中東地域を覆う経済自由化と各国政府の対応は、それほど印象深いものではないものの、専門家の関心を惹いている。OPECが1986年に原油市場の価格統制力を失った頃から、中東各国政府は公共投資や分配の機能を低下させていった。これと同時に累積債務の重圧と国際収支の悪化に見舞われた国々はIMFの融資を受けることになった。これらの国々では経済自由化に向けて構造調整政策を採用し、政府部門の縮小と民間部門の振興を図った。エタティズム型の統制経済を採用していた国家の中には輸出主導型の経済構造に移行するため、「ワントン・コンセンサス」と総称される諸政策を導入した。その後21世紀に入り、イラク戦争と米国におけるハリケーンの影響から原油市場が高騰した結果、湾岸諸国を中心に中東地域は再び好況の恩恵を受けることとなった。しかしながら好況を満喫していた中東諸国の市場も2008年に発生した世界的な金融危機の影響から逃れることはできず、政府は対応を迫られている。
 本研究会は上記の概況を鑑みて、中東諸国における政治と経済の交錯する状況およびそれが社会にもたらした影響について検討し、中東諸国家の制度的頑健性について理論的かつ個別事例の分析を進めることを課題とする。
研究実施状況: -平成22年度-
本年度は次の通り、3回の研究会を実施した。
・第1回2010年6月27日(京都大学地域研究統合情報センター)
  中村覚「オムニバランシング論の研究」
  浜中新吾「中東地域政治システムとイスラエル」
・第2回2010年11月13日(京都大学東京オフィス)
  齋藤純「バハレーン金融機関の経営分析」
  松尾昌樹「イギリスによるオマーンの統治者の承認」
・第3回2011年2月5日(京都大学地域研究統合情報センター)
  溝渕正季「レバノン経済は本当に『レッセ・フェール』か?」
  山尾大「イラク反体制派と国際政治」
-平成23年度-
本年度は次の通り、3回の研究会を実施した。
第4回2011年7月2日(山形大学東京サテライト)
・横田貴之「エジプト1月25日革命とムスリム同胞団:自由公正党の設立を中心に」
・吉川卓郎「ヨルダン・ムスリム同胞団の解剖学:埋め込まれた王国の記憶を巡る葛藤」
第5回2011年11月5日(京都大学東京オフィス)
・末近浩太「サバルタン・ヒズブッラー:社会サービスの日常的実践と「抵抗社会」」
・髙岡豊「レバノン人の越境移動に関する経験と意識:「新しいフェニキア人」像の再考」
第6回2012年1月29日(京都大学地域研究統合情報センター)
・鈴木啓之「「市民的抵抗」の発展とインティファーダ:パレスチナ被占領地における政治空間の諸相」
・今井静「ヨルダンにおける自由化政策の展開と地域間経済格差」
研究成果の概要: -平成22年度-
 研究会はワークショップ形式で行い、中東地域を覆う経済自由化の諸相と各国政府の対応ならびに政治・社会的動態に関して議論を重ねた。第1回研究会では国際政治と安全保障の観点から中東諸国を扱う上で適切な理論的知見を報告してもらい、地域の実情を鑑みつつも有益な理論的貢献についてディスカッションを重ねた。
 第2回研究会ではグローバリゼーションの影響下にあるバハレーンの金融機関研究、およびオマーンにおける英国植民地政策に関する歴史社会学研究の報告をしてもらった。これらに対しても国際経済学や社会学的観点からのコメントを加えて議論を深めている。第3回研究会ではレバノン経済における新興実業家の台頭と政治家への転身に関する研究、ならびにフセイン政権下での国際関係がイラク戦争後の政策対立に及ぼした影響に関する研究が報告された。前身の研究会と比較すると国際関係および国際政治経済的視点からの研究報告が増えているのが特徴である。
-平成23年度-
研究会はワークショップ形式で行い、中東地域を覆う経済自由化の諸相と各国政府の対応ならびに政治・社会的動態に関して議論を重ねた。第4回研究会ではムスリム同胞団に焦点を当て、政変を経験したエジプトと政変に至らなかったヨルダンにおける各同胞団の動向を分析した。第5回研究会ではレバノンにおける政治・経済・社会変動の諸相を読み解くべく、ヒズブッラーの組織およびネットワークの研究報告と世論調査によって把握したレバノン人一般の越境移動に関する現状報告を行った。第6回研究会ではゲストによる研究報告を実施した。
共同研究プロジェクトの実施期間中にいわゆる「アラブの春」が発生し、主に共和制を採る国々で大きな政治的社会的変動を経験した。このアラブ政変は現在進行中の現象であるため、新自由主義との関連を含め「アラブの春」を対象とする体系的かつ総合的な研究を行うには時期尚早である。さしあたり個別の研究者による現状分析の積み重ねによって事実確認を行い、地域研究の立場から情報を整理することが求められているのではないだろうか。
なお複合研究ユニット「新自由主義の浸透と社会への影響に関する地域間比較研究」研究会(2012年1月28日開催)にて本研究ユニットに属する今井真士氏(慶應義塾大学大学院生)が研究報告「ポスト・ムバーラク期のエジプトにおける政党政治の胎動」を行い、上記についての具体的な貢献を行った。
公表実績: -平成22年度-
・中村覚「オムニバランシング論の研究:第三世界諸国の勢力均衡パターンの理論的考察」日本国際政治学会2010年度研究大会、安全保障分科会公表論文。
・浜中新吾(2011)「中東地域政治システムとイスラエル」『山形大学紀要(社会科学)』42巻1号、掲載予定。
-平成23年度-
・山尾大(2011)「反体制勢力に対する外部アクターの影響」『国際政治』166号142-155頁。
・髙岡豊・浜中新吾・溝渕正季(2012)「レバノン人の越境移動に関する経験と意識」『日本中東学会年報』28巻1号 掲載予定。
研究成果公表計画
今後の展開等:
 -平成22年度-
2年目は中東における民衆革命の動向を受けて、エジプトとヨルダンにおけるムスリム同胞団の現状分析、ならびに「レッセ・フェール経済」下のレバノンにおけるヒズブッラーならびにイスラーム過激派の動態に関して研究会を行い、議論を深める予定である。現在、研究代表者による『地域研究』の特集企画「変あ容する中東地域システムとイスラーム政治運動」が進行中であり、本研究会は企画参加者による研究の中間報告を行う場として活用される。
-平成23年度-
本研究ユニットは研究代表者を交代して継続される(研究代表者:立命館大学・末近浩太准教授)。