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ヨーロッパにおける複合的国家の歴史的展開と現状比較(h22~h23)

過去の研究プロジェクト

ヨーロッパにおける複合的国家の歴史的展開と現状比較(h22~h23)

個別共同研究ユニット
代表: 小森宏美(早稲田大学教育・総合科学学術院・准教授)
共同研究員: 石田信一(跡見学園女子大学文学部・教授)、川橋郁子(早稲田大学政治経済学術院・助手)、仙石学(西南学院大学法学部・教授)、竹中克行(愛知県立大学外国語学部・准教授)、林忠行(京都女子大学現代社会学部・教授)、若林広(東海大学教養学部・教授)
期間: 平成22年4月~平成23年3月(2年間)
目的:  本研究は、ヨーロッパの歴史上たびたび登場し、また現在では、多民族共存の処方箋として期待する向きもある複合的国家の比較研究を行うことを目的とする。 本研究でいう複合的国家とは、複合的な国家システムを有する国、すなわち、連邦制を採用する国をはじめとして、国家連合、同君連合、帝国、さらに、単一制度を採用しているものの地域主義の現象の認められる国まで幅広くとらえられる。
 こうした制度を扱った研究は枚挙に暇がないが、本研究では、とくにそうした制度が構築および修正を施される際の、国際環境・時代背景に着目した上で、各国ないし各民族の選択と行動の比較を行うことに主眼を置く。そうした選択と行動になんらかの(明示的ではないにしろ)規範が投影されていると考えるからである。
 複合的国家は、多様なるものを包摂する制度であると同時に、多様さを維持するための境界線を必要とする制度でもある。この境界線がどのように引かれ、また時代を経てどのように変化しているのか、そのロジックを見ることも本研究の目的の一つである。
研究実施状況: -平成22年度-
●第1回研究会(2010年7月31日)
 早稲田大学2号館 312号室
 報告者・タイトル
 ①川橋郁子「経済成長と政府間協調:スコットランド、ウェールズの比較分析」
 ②大西富士夫「オーランド文化権――権利保護とマイノリティ」
●第2回研究会(2010年11月13日)早稲田大学ロシア研究所との共催
 早稲田大学現代政治経済研究所会議室(1号館2階)
 報告者・タイトル
 ①林忠行「チェコ人とスロヴァキア人の『共同国家』チェコスロヴァキアの歴史:1918-1992年」
 ②石田信一「南スラヴ統一国家としてのユーゴスラヴィアの歴史 1918-1992」
-平成23年度-
本年度は、研究会を1回実施したほか、個別に研究成果についての意見交換を行った。
1.日時:2011年6月25日14時~17時半
2.場所:早稲田大学16号館大会議室
3.報告者・タイトル
①若林広:求心的・遠心的連邦国家のEU政策決定過程参加の比較分析-ドイツ、
ベルギー、スペインのケースを例に-
②竹中克之:パートナーシップによる地中海都市・衰退地区の再生
研究成果の概要: -平成22年度-
 フィンランドのオーランド諸島の事例は、民族連邦制の例として、すなわちマイノリティの権利保障の好例として近年注目されているが、その導入の時点に立ち返れば、それがむしろ民族自決の理念と地域の安全保障の目的に資する制度として選択されたことが明らかである。また、連合王国におけるウェールズとスコットランドの事例からも、当初は民族的独自性の尊重に力点が置かれて作られた制度がむしろ領域単位の政策調整の場として活用されていることがわかる。
 チェコおよびスロヴァキアとユーゴスラヴィアの例からここで特に指摘しておきたいのは、通常語られる民族単位の国家形成という東欧のナショナリズムの姿とは異なり、民族を守るためにより大きな器が必要と認識された場合には、それが国民という枠組として受け入れられることもあるばかりか、それが継続するという歴史的事実である。とはいえ、この受けいれが、裨益者全てに等しく肯定的に作用するわけではない。
 こうした事例研究を排除と包摂という切り口で見た場合言えることは、次の2つである。①ある時点では限定的包摂ないし部分的排除の装置として認識された制度が、時代や文脈が変わることで全面的包摂の制度にもなりうる。②包摂は包摂されるマイノリティ/弱者側にとってではなく、包摂主体の側にとって利益を及ぼし、逆に、被包摂側にとっての利益とならない場合もある。
-平成23年度-
ヨーロッパの中には、実態としてのそれも含めて連邦制をとる国が少なくない。また単一制国家でありながら、地方自治体に相当大きな権限が付与されている国もある。国家・地方関係にEUという政策決定レベルが加わったことが大きく作用して、国家形態は連邦制と単一制に明確に二分されるのではなく、むしろ、関係性の違いの度合いによってグラデーションになっているといえる。そうした中で、EUとの関係において、一部の地域が、固有の言語や歴史に基づくアイデンティティを主張するだけでなく、EUの意思決定に地域として参加する、すなわち、国家に地域の利害を代表させるのではなく、地域からの直接のチャンネルを求めている状況がある。EUのいわゆる補完性の原則は、国やEUからの権限ならびに財源の移譲を求める分権派にとっての一つのよりどころとなっている。
こうした状況は、歴史上、どのように位置づけられるのか。近代国家では、国家的一体性を追求する中で、制度的な均質性ならびに結果としての均質性が重視されてきたと言われる。しかしながら、それ以前(中近世)の多様な要素を内包する国家から近代国家への変容は必ずしも完全なものではなく、近代国家になってもある種の多様性は命脈を保っていた。すなわち、中近世から近代への移行は、必ずしも断絶ではなかった。また、その命脈の保たれ方は、国や地域によって異なっていた。それゆえ、現代における「複合的国家」を見る場合、構造的に似ていても異なるタイプの国・地方関係が形成される状況が見出せるのである(例えば、ドイツとスペイン)。そうした異なるタイプの国・地方関係を分析する視点のひとつとして、連邦構成主体の制度的・状況的非対称性と、それに対する国家ごとの対応状況があることが指摘できる。
公表実績:  -平成22年度-
研究成果の公開方法については、来年度、出版ならびにシンポジウム等の開催等について検討する。
-平成23年度-
主要なものとして以下の通り。
・小森宏美「マイノリティの権利の普遍性を語る困難について―エストニアの少数民族文化
自治を事例として」孝忠延夫編『差異と共同―「マイノリティ」という視角』(関西大学)
・小森宏美「体制転換と歴史認識―エストニアのソヴェト化をめぐる複数の語り」『地域研
究』第12巻第1号
・石田信一「旧ユーゴスラヴィア諸国と第二次世界大戦をめぐる歴史認識」『地域研究』第
12巻第1号
・竹中克行「地中海都市の衰退地区再生―スペイン・カタルーニャの「地区プログラム」が
推進するパートナーシップの都市政策」小林浩二編『EU拡大とニューリージョン』(原書
房)(予定)
研究成果公表計画
今後の展開等:
-平成22年度-
以下の通り、3回の研究会ならびに成果とりまとめのための打合せを行う。
①第1回研究会(2011年6月頃)報告者:竹中克行、若林広
②第2回研究会(2011年12月頃)報告者:佐野直子(外部講師)、西脇靖洋(外部講師)
③第3回研究会(2012年2月頃)報告者:小森宏美他外部講師1名
④打ち合わせ(2012年3月頃)
-平成23年度-
・本研究は、主として現代を対象としたものであったが、ヨーロッパの複合的国家の研究は、現在、むしろ近世の国家を対象として精力的に進められている。そこで、現代を切り取って考察するのではなく、中近世からの連続性(そこには当然断絶もあるが)も視野に入れた研究としてさらに展開した上で(現在、科研費等で他のプロジェクトと協力しながら継続中)、その後に研究成果を公表する道を検討する。