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「地域研究方法論」(h19~h21)

過去の研究プロジェクト

「地域研究方法論」(h19~h21)

複合共同研究ユニット
代表: 山本博之(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)
共同研究員: 赤嶺淳(名古屋市立大学大学院人間文化研究科・准教授)、阿部健一(総合地球環境学研究所・研究推進戦略センター・教授)、小森宏美(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)、高倉浩樹(東北大学東北アジア研究センター・准教授)、柳澤雅之(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)
期間: 平成19年4月~平成22年3月
研究会HP: http://areastudies.jp/
目的: 一口に「地域研究」と言っても、地域横断型・分野横断型・業種横断型などの特徴を持った共同研究プロジェクトとしての地域研究や、それと対照的な個人研究としての地域研究など、さまざまなものがある。この多様性を反映して、地域研究とは複数の学問的ディシプリンを備えた研究者が共同して新しいものを生み出す〈場〉であって地域研究自体に定まった方法はないとする考え方や、地域研究を制度的に継承しうる方法を確立すべきとする考え方など、地域研究の方法論についてもさまざまな立場がある。しかし、研究対象への臨み方にはじまりデータの収集・分析から成果の表現までという過程を考えた場合、特定地域の事象に焦点を当て、そこから歴史性や問題性を紡ぎ出す点はどの地域研究者にもおおむね共通しており、その意味で各研究者はそれぞれ地域研究の手法を身につけていると言ってよい。
 複合研究ユニット「方法としての地域研究」は、そのような手法を個々の研究者の「名人芸」として済ませるのではなく、対象地域や分野の違いを超えて共有・利用が可能になるような形に洗練させるための基礎的な調査を行うことを目的とする。そのため、地域研究に携わる大学院研究科の教員や、そこで地域研究に関する学位を取得した若手研究者の経験などをもとに、地域研究の現場でどのような方法論が模索されているかを調査し、実際に行われている地域研究の方法論の見取り図を描くことを試みる。
研究実施状況: -平成19年度-
 本年度は本プロジェクト全体の活動方針および活動計画を検討した。これまで国内では地域研究に関する多くの議論の蓄積があるが、先行する地域研究論を踏まえつつも、これらの議論に縛られずに「新しい世代の地域研究論」を打ち出す必要があることが確認された。本プロジェクトでは地域研究の教科書を作成することを最終的な目標とし、関連する個別共同研究ユニットと連携して研究活動を進める方法などが検討された。あわせて、日本における地域研究の見取り図を描くため、科学研究費補助金の地域研究分野で過去5年間に採択された研究プロジェクトが挙げているキーワードを収集し、分析する作業を行った。
-平成20年度-
 地域研究の方法論に関する研究に対する「ニーズ調査」の意味を兼ねて、地域研究に携わる大学院研究科を訪問して、会場校の教職員や学生を中心に一般に公開して研究会を行った。第1回研究会(2008年11月14日、東京大学)では、山本博之「先行研究をどう読むか――東南アジアのナショナリズム論を例として」、柳澤雅之「地域社会の制度や文化に埋め込まれた自然環境条件を探る」、田原史起「『半径50メートル』の地域研究――コミュニティ・スタディの可能性」の3つの報告が行われた。第2回研究会(2009年2月10日、早稲田大学)では、山本博之「地域研究では「思い入れ」をどう表現するか」、柳澤雅之「地域研究は科学か?」、久保慶一「「フィールドワーク」を分解する――バルカン政治比較研究の視点と経験から」の3つの報告が行われた。いずれの研究会も、3名による話題提供の後、参加者による議論を通じて、教育・研究の現場で「地域研究」を行う上でどのような課題があると考えられているかについて理解を深めた。研究会で回収したアンケート用紙に記入された質問・コメントに話題提供者が回答し、希望者に送付した。
-平成21年度-
 地域研究の方法論に関する研究に対する「ニーズ調査」の意味を兼ねて、地域研究に携わる大学院研究科を訪問して、会場校の教職員や学生を中心に、一般公開の研究会を行った。昨年度に引き続き、上智大学(6月26日)、東京大学(7月2日)、大阪大学(12月19日)、東北大学(2月2日)で研究会を行った。いずれの研究会も、3名による話題提供の後、参加者による議論を通じて、教育・研究の現場で「地域研究」を行う上でどのような課題があると考えられているかについて理解を深めた。研究会で回収したアンケート用紙に記入された質問・コメントに話題提供者が回答し、研究会ウェブサイトで公表した。
研究成果の概要: -平成19年度-
 科研費の地域研究プロジェクトのキーワード分析では、まず特定の地域や時代に結びついたキーワードと地域や時代を超えて用いられるキーワードに分類した。前者は地域別・時代別に分類した。後者はまず12の大分類に分け、さらに中分類、小分類に分ける作業を継続中であり、この作業は次年度に継続される。
-平成20年度-
 話題提供者からは、緻密なデータ分析を行うだけでは不十分であり、得られた分析結果の意味付けを得るには何らかの「飛躍」が必要であって、データ収集や分析の方法をより厳密にしていけば自動的に意味付けが得られるわけではないとの内容がそれぞれの専門性をもとに報告された。その上で、そのような「飛躍」を個人の「名人芸」で終わらせずに継承可能な形で表現するにはどのようなトレーニングが必要かなどの議論がなされた。
-平成21年度-
 「地域研究」に携わる研究・教育機関をいくつか訪問した結果、「地域研究」と呼ばれているものには大きく3つの層に分けられることがわかった。第一層は共同事業としての地域研究である。第二層は特定の地域についての研究としての地域研究である。第二層はさらに、対象地域に比較的長期間滞在し、現地語を習得して調査研究を行うものと、既存の学問的ディシプリンの事例として特定の地域を対象とし、必ずしも長期滞在や現地語の習得を必要としないものがある。第三層は、学部教育や生涯教育などで見られるもので、異なる背景をもつ人びととの関係の作り方を扱うものであり、いわば「現地語なしの地域研究」と呼びうるものである。この研究会は当初は第二層(特に現地での長期滞在や現地語の習得を不可欠と考える方)の方法を抽出することを想定していたが、「地域研究」と呼ばれるものはそれ以外の部分がかなり大きいことがわかった。
公表実績:  研究会ウェブサイト(http://areastudies.jp/)を開設した。
各個別ユニットとの共催により、学会の研究大会や研究集会を行った。
◇シンポジウム「研究者の多様化の時代における学協会のあり方」(日本マレーシア研究会第18回研究大会、大阪市立大学、12月12日)
◇緊急研究集会「支援の現場と研究をつなぐ:2009年西スマトラ地震におけるジェンダー、コミュニティ、情報」(東南アジア学会緊急研究集会、東京大学、11月25日)
研究成果公表計画
今後の展開等:
 この研究ユニットは2年間の継続が認められた。地域研究の広がりを捉え直して研究対象を明確にする作業を行った上で、引き続き地域研究に携わる大学院研究科を会場とする研究会を実施するとともに、本研究ユニットとテーマを同じくする個別研究ユニットとの連携を強め、各研究ユニットの研究成果を取り入れて地域研究方法論に関する議論を深める。
研究の過程は研究会ウェブサイトで公開している。2011年度末までに『地域研究』の特集を組むことなど、研究成果を出版する準備を進めている。