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アフリカにおける未開発言語の記述言語学的研究(h19~h20)

過去の研究プロジェクト

アフリカにおける未開発言語の記述言語学的研究(h19~h20)

個別共同研究ユニット
代表: 梶茂樹(京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科・教授)
共同研究員: 安部麻矢(京都大学・研修員)、阿部優子(東京外国語大学・非常勤講師)、榮谷温子(東京外国語大学・非常勤講師)、角谷征昭(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所長・非常勤研究員)、神谷俊郎(国際電気通信基礎技術研究所・非常勤研究員)、古閑恭子(高知大学人文学部国際社会コミュニケーション学科・准教授)、小森淳子(大阪大学世界言語研究センター・准教授)、塩田勝彦(大阪大学・特任助手)、品川大輔(名古屋大学・COE研究員)、竹村景子(大阪大学世界言語研究センター・准教授)、八尾紗奈子(大阪大学外国語学部・大学院博士前期課程学生)、米田信子(大阪女学院大学・教授)、若狭基道(明星大学・非常勤講師)
期間: 平成19年4月~平成21年3月
目的:  アフリカに約2000あると言われている言語のうち、十分記述されているものは未だわずかであ る。我々はまずこれらの未開発言語の研究にエネルギーを注ぐべきであると考える。そしてそこで得た知見を持ち寄り、言語構造上の問題点、意義を討議することを、本研究会の第1の目的とする。第2の目的は、十全な言語記述により、言語・民族の系統、民族アイデンティティ、フォークタクソノミー、認識の問題などを考察することである。第3の目的は、アフリカで起こりつつある危機言語問題への対処である。そして、国内および、アフリカ、アメリカ、ヨーロッパなどの研究者と連携を取りながら行うためのネットワークを構築することも本研究会の目的である。
研究実施状況: -平成19年度-
第1回:6月23日(土)
「マテンゴ語における主題性の階層と語順」米田信子(大阪女学院大学)
第2回:7月21日(土)
「トーロ語における統語構造と声調」梶 茂樹(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
第3回:10月20日(土)
「アラビア語エジプト方言のbitaacの用法」榮谷温子(東京外国語大学)
第4回:3月30日(日)
「ヨルバ語電子データの作成と利用について」塩田勝彦(大阪大学世界言語研究センター)
「南アフリカの言語事情」神谷俊郎(国際電気通信基礎技術研究所)
「マリラ語(タンザニア)の母音について」角谷征昭(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)
「エウエ語調査報告」折田奈甫(神戸松蔭女子学院大学大学院生)
「トーロ語における他動詞の自動詞的用法について」梶 茂樹(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
-平成20年度-
第1回: 2008年5月17日 古閑恭子「アカン語の名詞の声調」
第2回:2008年6月7日 角谷征昭「ニハ語とマリラ語の摩擦音化(Spirantization)と母音につ
いて」
第3回:2008年10月18日 品川大輔「ルヮ語(Bantu, E61)の-aa(*-aga)」
研究成果の概要: -平成19年度-
 平成19年度は、マテンゴ語(タンザニア)、トーロ語(ウガンダ)、アラビア語(エジプト)など個々の言語の文法構造に関する発表があり、言語の内部構造に踏み込んだ研究を行った。マテンゴ語に関しては、現在のバンツー系諸語の普通の語順であるSVOが新しいものである可能性を、トーロ語については、語彙的声調を欠いているにも拘わらず、文法的声調が統語構造標示において重要な役割を果たすことを、さらにアラビア語については所有表現に2つの形式があることから、所有表現に傾斜傾向があることが議論された。また、年度末には5人が今年度の研究を総括すると同時に、いま最も関心を持って研究しているテーマについて発表が行われ、議論が行われた。
-平成20年度-
[古閑発表] アカン語の名詞孤立形および所有名詞句の声調を提示し、名詞が5つの声調タイプに分類されること、所有名詞句の声調からDolphyne (1986, 1988)の指摘するように名詞は2つのクラスに分類されるが、この2つの根本的な違いは所有名詞句において接頭辞の声調が現れるか現れないかの違いであることを指摘した。
[角谷発表] ニハ語とマリラ語の摩擦音化と母音の減数について考察した。バンツー祖語の推定される母音は7母音で、子音体系も単純である。Shadeberg (1995)は、バンツー祖語の母音体系は元々不安定であったが、子音の数が少なかったために7母音の状態が維持され、やがて子音の増加により母音の減数の歯止めがなくなったと推測している。しかし、現在観察できる摩擦音化は、確かに摩擦音を生み出すが、子音の区別をなくすものでもある。摩擦音化によって子音体系に摩擦音が導入されて子音が増えたと説明するだけでは不十分である。マリラ語は摩擦音化を完了しておらず、5母音化の途中にあるということは、5母音化を達成したニハ語もマリラ語が現在あるような状態をかつて経験した可能性があるということである。隣接言語であるマリラ語がどういう状況にあるのかを観察することは通時的な現象の説明にも役立つのではないかと考えられる。
[品川発表] ルヮ語を含む西キリマンジャロバンツー諸語における屈折要素 -aa については、Philippson and Montlahuc(2003: 495)において、an imperfective suffix (Common Bantu *-aga) marking Habitual and Future という言及があるが、少なくともルヮ語においては「2 つの異なる -aa」、すなわち未来時制(FUT)の -a@a、習慣相(HAB)の -aa@ の形式的対立を認める必要がある。またマチャメ語に関してYukawa(1989: 336)は、HAB については *-aga との対応を想定しつつも、FUT については別の起源を想定しうる可能性を示唆している。以上の見解に対して報告者は、共時レベルにおける音調論上の、さらにはTA体系上の証拠を以って、i)両者がともに *-aga から分岐的に派生された形式であること、ii)分岐のプロセスにおいて、形式レベルでは静態活用パラダイムの類推的適用、概念レベルでは「予言的(predictive)性質」を介在したHABからFUTへの概念拡張が、背景的要因として機能していた可能性を論証した。
公表実績: -平成19年度-
いまのところ個々の研究者に任せている。以下、発表論文と学会発表分である。
梶茂樹
【論文】
2007 「アフリカの言語は易しいか-バンツー系トーロ語の統語構造と声調の係わりにおいて検証する-」, ARENA 2007, 中部大学国際人間学研究所編, pp.44-51.
2007 「多様な言語の形成と言語の大分類」, 『新世界地理アフリカI』(池谷和信、佐藤廉也、武内進一編), 朝倉書店, pp.68-78.
2007 「コンゴ・スワヒリについて、その1:英語からの借用とフランス語からの借用」, 『スワヒリ&アフリカ研究』第18号, pp.64-74.
阿部優子
【論文】
2007「ナミビアにおけるヘレロ語正書法の歴史と今日の諸問題」, 『スワヒリ&アフリカ研究』 第18号, pp.127-139.
【学会発表】
2007 “Clitics in Bende (F.12), their definition and functions”, International Conference, Bantu Languages: Analysis, Description and theory at G?teborg University, Sweden (Oct. 4th-6th).
米田信子
【論文】
2007年「レキシカルな韻律とフレーザルな韻律の関係-日本語共通語・新見市方言・中国語・マテンゴ語の対照-」『音声文法の対照』(定延利之, 中川正之編),くろしお出版, pp.15-53.(共著,4節を担当)
2007年「マテンゴ語の擬人化とイメージ付与」『スワヒリ&アフリカ研究』18号,pp.109-126.
2008年「母語は『使いたい言語』か?-ナミビアの言語権」『月刊言語』32-2, pp.40-45.
2008年「多言語社会のゆくえをのぞむ-ナミビアのアフリカ諸語のこれから」『アクション別フィールドワーク入門』(武田丈, 亀井伸孝編), 世界思想社, pp.218-231.
2008年(印刷中)「マテンゴ語の情報構造と語順」『言語研究』133号.
【学会発表】
2007 “Topical Hierarchy and Grammatical Agreement in Matengo (N13)”, International Conference, Bantu Languages: Analysis, Description and theory, at G?teborg University, Sweden (Oct. 4th-6th).
2008年 “Word Order and Information Structure in Matengo (N13)”, Conference on Movement and word order in Bantu languages, at Leyden University, the Netherlands (March 8 th).
 -平成20年度-
[論文]
梶 茂樹 2009 “Tone and syntax in Rutooro, a toneless Bantu language of Western Uganda”, Language
Sciences 31: 239-247.
米田信子 2008「マテンゴ語の情報構造と語順」,『言語研究』133: 107-132.
品川大輔 2009 (予定) “Rare Story on the Emergence of the Future? A hypothesis on the historical
development of the Proto-Bantu *-ag in Rwa (Bantu, E61)”, HERSETEC: Journal of Hermeneutic Study and Education of Textual Configuration, Vol. 2, No. 1, Graduate School of Letters, Nagoya University.
若狭基道 2008 “A descriptive study of the modern Wolaytta language”, 東京大学提出博士論文.
[学会発表]
米田信子 ”Word Order and Information Structure in Matengo (N13)”, International Conference on
Movement and Word Order, (2008.3.8, ライデン大学, オランダ).
米田信子「ヘレロ語名詞の声調」, 日本アフリカ学会第45回学術大会, (2008.5.25,龍谷大学).
米田信子 “Information Structure and Sentence Formation in Matengo”, The 18th International
Congress of Linguists, (2008.7.25, 高麗大学, 韓国).
米田信子「バントゥ諸語における適用形動詞の類型と目的語対称性」, 日本言語学会第137
回大会, (2008.11.29, 金沢大学).
米田信子 “The Conjoint/Disjoint Verb Form and Focus in Matengo”, The 3rd International
conference on Bantu Languages, (2009.3.25~27, 王立中央アフリカ博物館, ベルギー).
米田信子「バントゥ諸語における適用形動詞の類型と目的語対称性」, 日本言語学会第137
回大会, (2008.11.29, 金沢大学).
品川大輔 “Historical Split of -aa (*-ag-a) in Rwa (Bantu, E61)”, The 3rd International Conference
on Bantu Languages , (2009.3.25~27, 王立中央アフリカ博物館, ベルギー).
古閑恭子「アカン語の名詞の声調」, 日本言語学会第137回大会, (2008.11.29金沢大学).
若狭基道「ウォライタ語の「再帰代名詞」」, 日本アフリカ学会第45回学術大会,(2008.5.24
~25, 龍谷大学).
榮谷温子「口語アラビア語で書かれた新聞記事」, 第50回筑波大学日本オリエント学会,
(2008.11.2, 筑波大学).
折田奈甫”Logophoric pronouns and the quotative marker in Ewe”, Colloquim on African
Languages and Linguistics, (2008.11, ライデン大学, オランダ).
西垣内泰介, 折田奈甫「エヴェ語のロゴフォリック代名詞:視点投射とコントロール」, 日
本言語学会第137回大会, (2008.11.29, 金沢大学).
[講演]
米田信子「ヘレロ語名詞の声調:声調パターンと現れ方 (Bantu R31)」, 第4回熱海音韻論フ
ェスタ, (2009.2.19, 熱海KKR).
研究成果公表計画
今後の展開等:
 2年間の成果のみをまとめて1冊として公表する計画はない。今後さらに何らかの形で共同研究が続けばまとめる可能性はある。とりあえずは個別的に研究を進め、国内外の学会や会議で発表すると同時に学術雑誌に投稿する。