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「リージョナリズムの歴史制度論的比較」(h18~h21)

過去の研究プロジェクト

「リージョナリズムの歴史制度論的比較」(h18~h21)

複合共同研究ユニット
代表: 小森宏美(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)
共同研究員: 伊藤武(専修大学法学部・准教授)、伊藤正子(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・准教授)、岡本正明(京都大学東南アジア研究所・准教授)、佐野直子(名古屋市立大学大学院人間文化研究科・准教授)、西芳実(東京大学大学院総合文化研究科「人間の安全保障プログラム」・助教)、萩尾生(名古屋工業大学国際交流センター・准教授)、山本博之(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)、若林広(東海大学教養学部・教授)
期間: 平成18年10月~平成22年3月
目的:  本複合共同研究ユニットは、連邦制や国内の地域主義などを研究対象とし、その制度と実態、歴史的背景等について、地域間比較や地域横断型の議論を行うことを目的として出発した。その背景には、ひとつには、1960年代末に活発化したヨーロッパの国家内地域を母体とするリージョナリズムのその後の経過に、冷戦の終焉やEUの拡大および統合の深化が与えた影響、いまひとつには、1990年代以降の東南アジア諸国で民主化に伴う形で進んだ分権化に対する関心があった。 
 3年間半の間に、比較的コンパクトなメンバー構成で議論を進めていくうちに共同研究の焦点がやや変化した。リージョナリズムを、国民国家という枠組みに対するオルタナティブ、あるいはそれを次善の策として保持していくための仕組みであるととらえることにより発見されたのは、もはや国家に抵抗・対抗する「地域」という構造ではなく、「地域」と国家の「共生」状態であったからである。最終年は、この点について総合的な議論を行うためのシンポジウムを開催した(「研究実施状況」参照)。
研究実施状況: -平成19年度-
 本年度は3回の研究会を実施した。18年度の研究開始から数えて4回目の研究会(本年度第2回の研究会)で、現メンバーの報告が一通り終了したので、本年度第3回は特別講師を招き、さらに事例を拡大して検討を行った。
●第1回2007年4月8日(京都大学地域研究統合情報センター)
・伊藤武「領域性再編の政治と地域――イタリアの事例からの問題提起」
・西芳実「2006年アチェ統治法に見るアチェ人概念――参加枠組みの多元化を通じた平和構築とその背景」
●第2回2007年7月15日(京都大学アジア・アフリカ研究研究科)
・岡本正明「インドネシアにおける暴力集団の地域主義と地方政治、1998-2006」
・小森宏美「多極共存型民主主義?:極小民族の『自治』の事例としてのエストニア政治」
●第3回2007年11月3日(京都大学地域研究統合情報センター)
・家田修「2001年ハンガリー地位法の制定とその国際的波紋について」
・永井史男「タイの中央・地方関係と地方分権: 制度論からの視点」
-平成20年度-
 本年度は次の通り、2回の研究会の実施に加え、「ヨーロッパのナショナリティとテリトリアリティ」が主催したシンポジウム(10月4日、於:愛知県立大学)に「イスラム教圏東南アジアにおける民族・宗教と社会の複層化」のメンバーも参加してもらい、知見と問題意識の共有を図った。
  第1回2008年10月5日(名古屋市立大学山の畑キャンパス)
・Federalism in Asia (Baogang He, Brian Galligan, Takeshi Inoguchi  eds., 2007)よりWill Kymlicka , Regionalist federalism : a critique of ethno-national federalism およびKatharine Adeney , Semi-democracy and minimalist federalism in Malaysiaの検討
  第2回2009年2月7日(京都大学地域研究統合情報センター)
・岡住正秀「近現代のアンダルシア:地域の形成と<発明>」
・西尾寛治「近世・近代移行期のムラユ人概念」
-平成21年度-
 シンポジウム「東南アジアとヨーロッパのリージョナリズム」(2009年10月31日-11月1日、東京大学駒場キャンパス)を実施した。
報告者および報告タイトルは以下の通り。
・岡本正明「上と下からのローカリズム:民主化時代のインドネシア国家統合プロジェクト」
・佐野直子「フランスにおける『地域主義』の変遷と『地域文化』」
・大庭三枝「アジア地域主義の変容:その運用規範の変化から」
・若林広 「現代ヨーロッパ連邦制の展開と展望―ドイツ・ベルギー比較の観点から―」
・山本博之「資格としての民族:マレーシアにおける「連邦制」の展開」
・伊藤武 「福祉国家の『脱国家化』と『領域化』:現代イタリアにおける移民ケア労働と政策変化の考察」   
・西芳実 「災害復興を契機にした地域アイデンティティの再編――2004年スマトラ沖地震津波とアチェ紛争――」
・萩尾生 「美術館誘致による地域再生という投機:ビルバオ・グッゲンハイム美術館と新たなバスク・イメージの演出」
・伊藤正子「社会主義国家による民族確定政策の限界――ベトナムの事例」
・小森宏美「国家制度のルールとしての民族性原理はなぜ採用されるのか:エストニアの少数民族文化自治」
研究成果の概要:  -平成20年度-
 これまでの議論から、暫定的な結論として考えられることは、①ヨーロッパで起こっているのは、近代国民国家の分解と再編の過程であり、境界・権威・アイデンティティの相互作用による国家に比するあるいは代わりうる政体形成の可能性として連邦制・広域自治体のレベルが注目されているということであり、②それに対し、東南アジアではむしろ、一見国家からの自立性を求める動きにも見えながら、実際には国家との関係性の中で、政治的発言・資源配分の過程に影響力を及ぼしていくために選ばれる方法の一つがリージョナリズムではないかということである。③その際、東南アジアでは、動員資源が、エスニシティ、領土的帰属、宗教など、複層的であることも指摘できる。こうした政治的リージョナリズムとは位相を別にする、もっぱら言語や文化によって動員された、国家への脅威とならない非政治的リージョナリズムの動きの存在も指摘しておく必要がある。しかし、これが果たして政治的発言や資源配分と無縁なものかどうか、さらなる検証が必要であろう。

-平成21年度-
 本複合共同研究では、リージョナリズムを切り口にそれぞれのくくりに含まれる国、社会、地域、民族を俎上に載せ、一方の固有性として語れるものを他方の文脈で理解可能な概念に置き換えて議論することで、東南アジアやヨーロッパといった「地域」間比較の方法論に幾分でも道が開けたと思う。ここでその成果をひとことでまとめることはできないが、あえてその一端を示せば、たとえば、リージョナリズムというからには何らかの空間的・領域的境界が引かれることになるはずであるが、その境界線を支えるものを、文化や言語にしても、利権や資源にしても、それを受容する人びとにとっての「物語」として分類するという分析方法である。どのような「物語」を選択するのかは当該地域、民族が背景とする歴史や、外と世界とのかかわりなどによって変化する。その選びとり方を見ることが現代世界を理解するためのひとつの視点となるだろう。

公表実績:  -平成19年度-
 『地域研究』第8巻第1号の特集で、中間的な成果を公開した。
-平成20年度-
 本研究会は、昨年度、『地域研究』の特集で中間的な成果報告を行っており、来年度に別の形で議論を公開することを予定しているため、今年度は特になし。
-平成21年度-
 シンポジウム「東南アジアとヨーロッパのリージョナリズム」(2009年10月31日-11月1日、東京大学駒場キャンパス)を開催した。
研究成果公表計画
今後の展開等:
 シンポジウムの報告のうち一部をまとめ報告集を作成する予定である。