1. ホーム
  2. 研究活動
  3. 過去の研究プロジェクト
  4. 現代アンデス諸国の社会変動(h18~h19)

現代アンデス諸国の社会変動(h18~h19)

過去の研究プロジェクト

現代アンデス諸国の社会変動(h18~h19)

個別共同研究ユニット
代表: 村上勇介(京都大学) 遅野井茂雄(筑波大学) 二村久則(名古屋大学)
共同研究員: 佐々木直美(法政大学法学部・助教授)、山脇千賀子(文教大学国際学部・助教授)、浅香幸枝(南山大学総合政策学部・助教授)、安原毅(南山大学外国語学部・助教授)、藤田護(東京大学大学院総合文化研究科・博士課程)、重冨恵子(都留文科大学文学部・専任講師)、ネアントロ・サーヴェドラ・リバノ(筑波大学大学院人文社会科学研究科・教授)、箕輪真理(筑波大学大学院人文社会科学研究科・専任講師)、柳原透(拓殖大学国際開発学部・教授)、中川文雄(筑波大学・名誉教授)、狐崎知己(専修大学経済学部・教授)、新木秀和(神奈川大学外国語学部スペイン語学科・助教授)、細谷広美(神戸大学国際文化学部・助教授)、佐野誠(新潟大学経済学部経済学科・教授)、富田与(四日市大学経済学部・教授)、出岡直也(慶應義塾大学法学部・助教授)、辻豊治(京都外国語大学・教授)、山崎圭一(横浜国立大学経済学部・教授)、後藤雄介(早稲田大学教育・総合科学学術院・助教授)、小林芳樹(専修大学・兼任講師)、幡谷則子(上智大学外国語学部・助教授)、坂口安紀(アジア経済研究所地域研究第二部・副主任研究員)、清水達也(アジア経済研究所地域研究第二部・研究員)
期間: 平成18年10月~平成20年3月
目的: ラテンアメリカでは1980年代の経済危機を経て、アメリカ合衆国の覇権の下で、市場経済化や地域統合の進展、民主的な政治枠組の維持、文化的多元性の承認など、グローバル化が進む世界に共通した傾向が顕著に見られる一方で、貧困状況の悪化、階層間格差の拡大、麻薬問題や汚職の蔓延、民主制度の融解に伴う政治の流動化、社会的連帯の弛緩と社会紛争の激化いった問題が起きている。特にボリビア、コロンビア、エクアドル、ペルー、ベネズエラのアンデス諸国ではそうした問題が深刻となっており、その政治・経済・社会は不安定度を高め、今後のラテンアメリカ全体の動向をも左右しかねない性格を帯びつつある。本研究は、アンデス諸国の不安定化の現状、要因、特質、背景を、歴史的・構造的な視点を踏まえつつ学際的なアプローチから解明し、比較することを目的とする。これまで内外で進められてきた分析を事例研究によって深化させた上で、その総合化と理論化を模索し、アンデス諸国以外の地域との比較をも可能とするような比較研究の枠組の構築を試みるものである。
研究実施状況: -平成18年度-
 本年度は、2005年末からラテンアメリカ地域が選挙の季節に入り、アンデス諸国でも大統領・国会議員選挙が実施されたことから、近年激しい変動の見られる政治分野に研究の重点を置いて計画を実施した。具体的活動としては、まず、7月14日に来日中のトルクアルト・ディ・テラ大学(アルゼンチン)のエンリケ・ペルゾッティ教授を招き、ラテンアメリカにおける民主主義の定着の問題について、特に政治における説明責任の視点からの分析を中心に、ラテンアメリカ一般とアンデス諸国を比較した。10月7日には、アンデス地域各国の大統領・国会議員選挙を分析し、研究会のメンバーである遅野井茂雄、藤田護(東京大学大学院)、二村久則、村上勇介、坂口安紀(日本貿易振興会アジア経済研究所)、新木秀和(神奈川大学)が、各々、全般的状況、ボリビア、コロンビア、ペルー、ベネズエラ、エクアドルについて報告した。さらに、1月26-27日に実施された国際シンポジウム「ポスト・ワシントンコンセンサス期のラテンアメリカ─アンデス諸国の政治社会変動と自然資源管理」において、研究のメンバーの小林芳樹(法政大学)がヒューマンエコノミーの観点から見たペルーにおける自然資源管理、富田与(四日市大学)がベネズエラの外交、村上勇介がボリビア、エクアドル、ペルーの政党の比較研究を各々発表した。なお、このシンポジウムでは、ペルー、ボリビア、コロンビアから招聘した研究者も発表を行い、研究会のメンバーが他の参加者とともに活発な討論を実施した。
-平成19年度-
 研究会1回、ワークショップ1回を開催する一方、研究成果とりまとめのための打ち合わせを兼ねた研究会を3回実施した。研究会では、近年の国政・地方選挙の結果を手がかりとしてペルーの政治動向を分析する報告がなされ、新自由主義路線に批判的で急進的な左派勢力台頭の原因や2006年選挙の動向、現政権の方向性や安定性などに関する議論が展開した。またワークショップでは、エクアドルとボリビアから招聘した研究者が出席し、エクアドルを中心とするアンデス諸国の一般的動向や共通した特徴、ならびにボリビアの情勢に関する報告を行うとともに、研究会のメンバーによるペルーの政治動向に関する報告もなされ、新自由主義に批判的な左派勢力の近年における台頭の歴史構造的背景や状況的原因、アンデス諸国の間の共通性と相違点、さらに、アンデス諸国を比較研究する際の分析枠組や分析概念の妥当性といった点をめぐって活発な議論が行われた。
研究成果の概要: -平成18年度-
アンデス諸国において2005年末以降に実施された大統領・国会議員選挙においては、ラテンアメリカ一般に見られる「左旋回」が観察されている。1980年代からラテンアメリカ各国で実施されてきた新自由主義的な経済政策(ワシントンコンセンサスと総称される)が貧困や雇用などの諸問題を克服するに至らなかったことから、同路線に対する反発、批判が広がり、それを代弁する勢力が台頭し、国によっては政権に就くこととなった。近年台頭してきた「左派」には、市場経済の前提は維持しつつも社会公正を実現する政策に重点をおく穏健派と、自由主義経済を否定し国家介入主義に基づく社会変革を目指す急進派の2つの潮流が存在する。ベネズエラでは、1998年に急進派の大統領が誕生し、今回の選挙で再選された。ボリビアとエクアドルはベネズエラに続き、急進派の勢力が政権の座に就く国となった。コロンビアでは新自由主義経済派の大統領が当選したが、左派は歴史的な勢力の拡大を示した。ペルーでも、急進派勢力を制し穏健左派の政権が誕生した。
-平成19年度-
アンデス諸国の不安定化は、歴史的・構造的な背景に近年の新自由主義的な経済路線の帰結が重なったことに起因している。アンデス諸国は、メキシコや南部地域(アルゼンチン、ブラジル、チリ、ウルグアイ)といったラテンアメリカで製造業が1940年代から60年代にかけて発展した国と比較して、製造業の発展の程度が低く、第一次産品の輸出に依存する経済構造が今日まで続いている。そうした条件の下、北のコロンビアとベネズエラでは、寡頭支配勢力とそれ以外の勢力との間の激しい政治対立を契機に二大政党制が制度化され、50年代から80年代まで比較的安定した政治が続いた。しかし、有力政治家による権力の独占と左翼勢力の排除を特徴とし、80年代からの新自由主義路線の下での格差拡大を前に、二大政党は凋落し政治が流動化した。他方、ボリビア、エクアドル、ペルーの中央アンデス諸国は、寡頭支配勢力とそれ以外の勢力との間の対立が収拾されず、軍が介入するなど不安定な政治が続いた。70年代末からの民政移管以降も、小党分裂を繰り返し制度化の経験の乏しいペルーでまず政治が不安定化し、90年代にフジモリの権威主義政治で一時的に安定化したものの、その後は再び流動化している。ボリビアとエクアドルでは、民政移管後に連合政治が展開し、一定の経済的成果をあげたものの、拡大する格差に対処しきれずに90年代に入って政治が不安定化した。アンデス諸国の事例分析を通じ、構造的な条件に制約された歴史展開において主要アクター間の関係に見られる制度化の程度、内容、範囲を比較することの重要性が認識された。
公表実績:  -平成18年度-
2007年1月26-27日 国際シンポジウム「ポスト・ワシントンコンセンサス期のラテンアメリカ─アンデス諸国の政治社会変動と自然資源管理」
 Yusuke Murakami (ed.), Después del Consenso de Washington: dinámica de cambios político-económicos y administración de recursos naturales en los países andinos. CIAS Working Paper No.2, Kyoto: Center for Integrated Area Studies, 2007.
-平成19年度-
(1) 出版
Yusuke Murakami ed., Después del Consenso de Washington: dinámica de cambios político-económicos y administración de recursos naturales en los países andionos. CIAS Discussion Paper No. 2, Kyoto: Center for Integrated Area Studies, Kyoto University, 2007, 119p.
Yusuke Murakami ed., Tendencias políticas actuales en los países andinos. CIAS Discussion Paper No. 5, Kyoto: Center for Integrated Area Studies, Kyoto University, 2008, 63p.
(2) シンポジウム・ワークショップ
国際シンポジウム「ポスト・ワシントンコンセンサス期のラテンアメリカ─アンデス諸国の政治社会変動と自然資源管理─」平成19年1月26-27日、京都市国際交流会館。
ワークショップ「現代アンデス諸国の政治動向」平成20年1月26日、キャンパスプラザ京都。
研究成果公表計画
今後の展開等:
 成果の一部を平成20年度中に明石書店より商業出版予定(平成20年度日本学術振興会科学研究費補助金[研究成果公開促進費]採択済み)。また、平成20年度より始まる「ポスト新自由主義時代のラテンアメリカにおける国家・社会関係の動態に関する比較研究」研究会において、ラテンアメリカの他の国との比較を実施し成果を発展させる。