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イスラム教圏東南アジアにおける社会秩序の構築と変容(h18~h19)

過去の研究プロジェクト

イスラム教圏東南アジアにおける社会秩序の構築と変容(h18~h19)

個別共同研究ユニット
代表: 山本博之(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)
共同研究員: 末近浩太(立命館大学国際関係学部・助教授)、服部美奈(名古屋大学大学院教育発達科学研究科・助教授)、青山和佳(日本大学生物資源科学部国際地域開発学科・准教授)、臼杵陽(日本女子大学文学部・教授)、小林寧子(南山大学外国語学部・教授)、中田考(同志社大学神学部・教授)、長津一史(東洋大学社会学部社会文化システム学科・助教授)、西芳実(東京大学大学院総合文化研究科「人間の安全保障プログラム」・助教)、床呂郁哉(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所・助教授)、新井和広(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所・助手)、菅原由美(天理大学国際文化学部・講師)、石井正子(大阪大学グローバル・コラボレーションセンター・特任准教授)、多和田裕司(大阪市立大学大学院文学研究科・助教授)、富沢寿勇(静岡県立大学国際関係学部・教授)、河野毅(政策研究大学院大学・助教授)、奥島美夏(神田外語大学異文化コミュニケーション研究所・講師)、川島緑(上智大学外国語学部・教授)、西尾寛治(財団法人東洋文庫研究部・研究員)、信田敏宏(国立民族学博物館・助手)、オマール・ファルーク(広島市立大学国際学部・教授)、パトリシオ・アビナレス(京都大学東南アジア研究所・助教授)、山本博之(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)、王柳蘭(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・助手)
期間: 平成18年4月~平成20年3月
目的:  本研究プロジェクトは、多民族・多宗教の状況における社会秩序の構築と変容の諸相を、イスラム教圏東南アジアの事例をもとに明らかにすることを目的とする。社会秩序の構築と変容の動態的な把握のため、研究対象は既存の制度や実践に限定せず、現前する社会秩序とは異なる社会秩序の構築を求める営みに伴うさまざまなレベルの紛争に関わる制度や実践も含める。東南アジアのムスリム社会に関しては、これまでに主に各国研究の枠内で研究の蓄積がある。本研究プロジェクトでは、それらの蓄積を踏まえた上で、歴史学、文化人類学、政治学、地域研究など多様な研究手法による各参加者が持ち寄る事例をイスラム教圏東南アジアの域内で相互に参照しあって理解を深め、イスラム教圏東南アジアにおける社会秩序の構築を様々な角度から分析する視角や枠組を得るための考察を行う。
研究実施状況: -平成18年度-
 本年度は、イスラム教圏東南アジアに見られる改宗、教育、労働移動に焦点を当て、それらに関する諸制度および制度化されていないさまざまな実践の双方を検討することで本研究プロジェクトの課題に接近した。第1回研究会では改宗を題材として、西井凉子、青山和佳、多和田裕司がそれぞれタイ、フィリピン、マレーシアの事例を報告した。第2回研究会は、マレーシアおよびインドネシアから3名の研究者を招へいし、日本側から西尾寛治、菅原由美、青山亨の3名の報告者を立て、イスラム教圏東南アジアにおけるジャウィ文書と宗教教育の伝統に関して6名による国際ワークショップを開催した。第3回研究会は、労働移動を題材として、奥島美夏、石井正子、王柳蘭がそれぞれインドネシア、フィリピン、タイの事例を報告した。第4回研究会は、学校と宗教教育に関し、河野毅、小林寧子、大野由加里がそれぞれイスラム学校、インドネシア、フィリピンの事例を報告した。
-平成19年度-
 本年度は3回の研究会を開催した。第1回研究会は、2007年5月12日(上智大学)、13日(東京外国語大学)、19日(京都大学)に他の研究プロジェクトと共催で開催した国際シンポジウム「バンサとウンマ――東南アジア・イスラーム地域における人間集団分類概念の比較研究」の一環として行われた。国外からアントニー・ミルナー、マイケル・ラファン、アリフィン・オマールの3名が報告者として参加し、国内から服部美奈、菅原由美、国谷徹、篠崎香織、西芳実、西尾寛治、坪井祐司、山本博之、川島緑の9名が研究報告を行い、討論を行った。
第2回研究会は、2007年5月20日に国際ワークショップ「周縁におけるイスラム教――インドシナのムスリム」として開催された。国外からRie Nakamura、Phu Ba、Malte Stokhof、Mohamad Zain Bin Musaの4名の報告者を迎え、国内からオマール・ファルーク、西尾寛治の2名が報告者となり、インドシナ諸国のムスリム社会に関する研究報告と討論を行った。
第3回研究会は、2007年10月13日に長津一史、赤嶺淳、小野林太郎、青山和佳の4名が報告者となりバジャウ/サマに関する研究報告と討論を行った。
研究成果の概要: -平成18年度-
東南アジアにおいてイスラム教の伝播とともに生まれたイスラム教育機関は、植民地化および国民国家化の過程で公教育と異なる発展を遂げてきた。しかし、近年ではイスラム教育機関はさまざまな変容を経験し、一部では公教育との「相互乗り入れ」現象も見られる。インドネシアでは、プサントレンと呼ばれる寄宿塾型のイスラム教育機関がカリキュラムに一般教育科目を取り入れたり、寄宿生に外部の一般教育機関に通うことを許したりする状況が生じている。フィリピンでは、ムスリムによる中東地域への出稼ぎ労働が増加する現象と並行して、一部のムスリム地域で伝統的に行われてきたイスラム教育機関を国家が公教育の一部として認知する動きが見られる。マレーシアでは、宗教教育の担い手を民間のイスラム教育機関から政府が支援する宗教教育機関に変化させることによって政府が宗教教育を監督・保護しようと試みている。これらの動きは国別に見られるものであるが、労働力移動や出版物を通じて東南アジア域内で相互に参照されている状況が見られる。
-平成19年度-
イスラム教圏東南アジアにおける人間集団の分類概念ではバンサ(民族/国民)とウンマ(宗教共同体)の2つが重要であることを確認した上で、バンサとウンマの概念がどのように相互に関係しながらイスラム教圏東南アジアで展開してきたかを検討した。
インドネシアとマラヤでは、国内の文化的に多様な人々を統合した相互扶助の枠組としてバンサが形成された。バンサは全国レベルでの政治参加への資格があると社会的に認知された枠組という性格を持つが、インドネシアではバンサの地位を得ることと自前の国家を運営することが同等と見られたのに対し、マラヤでは複数のバンサが共同で国家を運営する考え方が発展し、ボルネオなど近隣のマレー語地域でもこの考え方が受け入れられた。非マレー語地域であるフィリピン南部では、ムスリム住民が自らのバンサ性を強めるためにマレー語ではなくアラビア語によって中東のムスリム社会と直結した形での自己規定を試みる動きが見られる。また、大陸部東南アジアの非ムスリム国において、国民国家における周縁に位置づけられ、バンサの枠組を通じた相互扶助のシステムでは国内で十分に代表されないと感じているムスリム・コミュニティは、ウンマの枠組を通じて外国のムスリムから庇護を受ける仕組が作られている。ただし、これらのムスリムの間では、国外のムスリムの支援を受けながらも、他地域・他民族のムスリムと自分たちとは生活習慣が異なるとして線引きしようとする態度も見られる。バンサと異なる枠組を利用しながらも、宗教共同体の中に文化的アイデンティティが持ち込まれて境界線が引かれてしまう、すなわちウンマの中にバンサの境界に沿って複数の区切りが作られる事態が生じている。イスラム教圏東南アジアの動向を理解するには単にムスリム・ネットワークを強調するだけでは不十分であり、ウンマ概念とバンサ概念がどう交わるかを見ることが必要である。
公表実績:  -平成18年度-
2007年9月23日 公開国際ワークショップ「東南アジアにおけるジャウィ伝統の再考」
-平成19年度-
KAWASHIMA Midori, ARAI Kazuhiro & YAMAMOTO Hiroyuki. 2007. Proceedings of the Symposium on Bangsa and Umma. Institute of Asian Cultures, Sophia University.
Omar FAROUK & YAMAMOTO Hiroyuki. 2008.3. Islam at the Margins: Muslims in Indochina. Center for Integrated Area Studies, Kyoto University.
研究成果公表計画
今後の展開等:
 「バンサとウンマ」を主題とした英文書籍を出版するための準備を進めている。また、この共同研究プロジェクトを発展させ、改宗や教育などのテーマを立ててバンサ概念とウンマ概念が具体的にどのような形で現れているかを検討するための共同研究を実施する。