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「教育の時代」―変動する社会のなかの教育と子ども―(h21)

過去の研究プロジェクト

「教育の時代」―変動する社会のなかの教育と子ども―(h21)

地域研萌芽研究
代表: 押川文子(京都大学地域研究統合情報センター・教授)
共同研究員: 小原優貴(京都大学大学院教育学研究科・博士後期課程3年(学振DC2))、日下部達哉(早稲田大学イスラーム地域研究機構・次席研究員)、針塚瑞樹(筑紫女学園大学・非常勤講師)、南出和余(京都大学地域研究統合情報センター・学振特別研究員)
期間: 平成21年6月1日~平成22年3月15日
目的:   グローバル化が進むなか、コミュニティあるいは国家の枠組みを超えた個人の空間的・階層的移動の可能性が急激に可視化されるようになり、教育は、個人によりよい機会と成功をもたらしうる財として、これまでにもまして求められるようになった。「教育の時代」の到来である。その需要に応えるべく、教育の供給側にも、従来の国家が主導する教育システムに加えて、多様な担い手が参入してきた。国家が国民形成を目的に進めてきた公教育は、現在、大きくその様相を変えつつある。この変化は、多くの社会で教育改革をめぐる論争を巻き起こすとともに、教育は、その「提供者」と「需要者(子どもと親)」のあいだで、選択と選別、期待と失望が日常的に交錯する場となっている。
 本研究では、教育をめぐる多様なアクターの構築する関係性に注目しつつ、この「教育の時代」を、南アジアという地域の視点から議論することを目的とする。南アジアは、急速な経済成長にともなって学歴形成への関心が広範な層で高まったインドだけでなく、NGOやイスラーム団体の活動が教育普及に大きな役割を果たしているバングラデシュなど、まさに「教育の時代」の渦中にある地域である。また、教育制度からのアプローチと人類学的アプローチをあわせることによって、地域住民の視点から「近代教育の原理」を再考し得るものと考える。
研究の意義:  従来、人間の営みを研究対象としてきた人類学では、人びとのインフォーマルな学習や子育てにはいくらかの関心を寄せてきたが、制度化された(学校)教育への関心は薄い。一方、教育学では、制度としての教育とその内容への関心は、教育学の中心課題として取り組まれてきたが、「近代教育」という文脈において画一的に見る傾向があり、特に、受益者であり担い手である子どもが、教育という制度や思想とどう向かい合っているかを個別に検証し、そこから当該社会の教育制度を見直すという試みは、あまりなされずにきた。本研究では、人類学、地域研究、教育学という異なるバックグラウンドをもったメンバーが、類似の現象を検証しながらも交流の乏しかった議論を、「地域」という舞台の上で出会わせる。地域の社会変動を背景として、教育を制度と人びとの営みの両視点から議論するという脱領域的な視点を提示するところに、地域研究としての本研究の意義がある。
期待される成果
将来の展開
について:
 現在、インドやバングラデシュといった南アジア諸国では、急成長する中間層を対象としたエリート教育が激化する一方で、開発の文脈ではNGOが基礎教育の普及に取り組んでいる。また、マドラサのような宗教教育を重んじる学校が新たに見直される傾向もある。こうした複線的な教育の広がりは、当該諸国の政治経済的状況を反映しており、社会と人びとが、今後どの方向へ進もうとしているかを、まさに映し出していると言える。その意味で、教育をみることは、南アジア社会の動向と人びとの生活戦略を知ることに直結する。
 また、教育の複線的システムは南アジアに特徴的に見られるものではあるが、「教育の揺れ」は、日本を含め、多くの社会に見られる。本研究によって想定される成果は、そうした現象を各担い手の原理から理解するという視点の獲得である。教育格差への関心が高まる日本の教育事情の理解にも、あらたな視点を導入することができると期待している。
 なお、本研究は、まず本年度は南アジアをその対象とするが、次年度以降の継続を視野に入れ、次年度は対象地域とメンバーを広げ、教育に対する地域研究的視点を確立していきたいと考えている。
 
研究実施計画:  本研究のメンバーは、過去約2年間、年間2-3回の割合で、「南アジア教育子ども研究会」という自主勉強会を開き、個々の研究に関する議論を行ってきた実績がある。本研究では、これまでのそうした議論を一つのテーマに即して構造的な議論に発展させることを目指す。
 まず、7月11日(土)に第1回目の研究会を開催し、主旨と今後の展望について代表者から提示した後、個々のこれまでの研究を本研究会テーマの主旨に即していかに発展し得るかを互いに話し合う(会場は、メンバーの一人が所属する早稲田大学を予定)。
 次に、10月2日(金)に第2回目の研究会を開催し、各自が本研究テーマに即して自らの研究を発表する。その内容を基に、翌日に開催される南アジア学会第22回全国大会において、テーマセッションという形で発表する(エントリー済み。会場は、翌日の学会出席への便宜を想定して、北九州大学を予定)。
 2010年1月16日(土)から17日(日)の1泊2日で、第3回の研究会を京都で開催する。人類学や地域研究において教育や子どもの研究を行っている研究者、あるいは、比較教育学において日本と南アジア以外の教育について研究を行っている研究者2名を講師として招へいして、南アジアの事例と重ねて議論し、次年度以降への発展を具体的に企画する。
研究成果の公開計画:  本研究会の過程として、まず、2009年10月3日から4日に開催される「日本南アジア学会第22回全国大会」テーマセッションで発表する。その発表内容と2010年1月の研究会での議論をもとに、各自が学術雑誌やニューズレターに論文レポートを投稿する。媒体は、『南アジア研究』(「日本南アジア学会」学会誌。日本語版、英語版)などを考えている。さらに、次年度以降に継続が可能となれば、南アジアと他地域の包括的な議論を想定したワークショップを開催したい。
関連
プロジェクト:
 自主勉強会「南アジア教育子ども研究会」を2007年から年間2-3回程度で開催している。