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災害対応の地域研究プロジェクト

メディアの記憶をめぐるウチとソト-多声化社会におけるつながりと疎外の動態

個別共同研究ユニット
代表: 王 柳蘭(京都大学白眉センター/地域研究統合情報センタ―・特任准教授)
共同研究員: 王 柳蘭(京都大学白眉センター/地域研究統合情報センター・特定准教授)、中山 大将(京都大学地域研究統合情報センター・助教)、瀬戸徐 映里奈(京都大学大学院農学研究科・博士後期課程)、飯田 玲子(京都大学大学院アジア・アフリカ研究科・博士後期課程)、縄田 浩志(秋田大学国際資源学部・教授)、李 仁子(東北大学教育学研究科・准教授)、矢内 真理子(同志社大学大学院社会学研究科メディア学専攻・大学院博士後期課程)、紺屋 あかり(京都大学大学院アジア・アフリカ研究科・大学院博士後期課程)、砂井 紫里(早稲田大学イスラーム地域研究機構・研究助手)、村上 直之(元・神戸女学院大学・元教授)、山本 博之(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)
期間: 平成26年4月~平成28年3月(2年目)
目的:  無意識的・意識的に貯蔵される記憶は、時と場合によってさまざまな”リアリティ”(現実)を作り上げるが、そのダイナミックな様相を、越境者社会、災害に直面した地域、変容をとげる伝統社会を対象に、記録、記憶をめぐる当事者・地域住民、多様なメディア(新聞、テレビ、インターネット、博物館)、当事者と外部をつなぐ役割をもつ研究者、これら三者の相互作用とそれによって生み出される“リアリティ”(現実)と記憶の生成過程を、ウチとソトという社会的境界の変動をキーワードにして明らかにすることにある。とりわけ、記憶や記録に動員される多様なメディアの運用の在り方、それをとりまく地域住民・市民のみならず、研究者の実践的役割についても批判的に検証していく点において、表象される/する側といった二元的な議論を越えて、研究者の立ち位置や葛藤も考慮に入れた地域や民族の複数性や多声性、自他像研究を越えたあたらしい地域研究やフィールドワーク、多元的な知の継承の在り方について学術的地平を開くものである。
研究実施状況: -平成26年度-
研究会は計3回実施し、以下について議論と問題意識の共有化を行った。
①研究者を現場から離れた客観的な存在として位置づけるのではなく、研究者自身が当事者とメディアとの板ばさみのなかで展開するコミュニケーションの可能性あるいはディスコミュニケーションの葛藤、問題点をあぶりだし、研究者間の課題の共有化を図った。
②上記三者間によって生み出されるリアリティの構築過程を分析し、社会的境界(ウチとソト)の変動、疎外が生み出される要因や政治的経済的文化的力学を解明した。
③既存のメディアは災害、周縁的マイノリティを一元的に他者化していく危険性をはらむなかで、地域と外部をつなぐ研究者が多声化する社会をいかに豊かにかつ動態的に記述・記録していくことが可能か、個別の事例研究を通して、相互参照した。
研究成果の概要: -平成26年度-
①博物館における伝統の記憶、相互作用と他者理解をテーマに、研究者、博物館、当事者との板ばさみのなかで展開するコミュニケーション、伝統知の継承の可能性、ディスコミュニケーションの葛藤、問題点をあぶりだし課題の共有化を図った。「砂漠を生き抜く:人間・動物・植物の知恵」という博物館企画展示において一般市民のもつ”異文化観”をどう打ち破ることができたか、メディアとどのようなやりとりがあったか、展示を通じて研究者が学んだこと、研究者の果たす役割について議論した(縄田浩志)。
②テレビや新聞といったメディアによって作り出される “リアリティ”の構築と疎外の動態について日本を題材に原発(福島)や食(ムスリムのハラール食品)にまつわる報道のあり方を分析し、もっともニーズを必要とする市民や当事者を疎外し、“公益性”のもと情報を一元化、断片化する報道のあり方と問題点、こうした状況下における研究者の果たす役割について議論をした(矢内真理子、砂井紫里)。
③当事者社会が利用する多様なメディア、さらに当事者社会内部における多様なウチとソトの社会的境界の生成過程について、戦後樺太の経験と東北の被災地を事例に比較研究を行った。被災地内部における当事者間の記憶の選択の多様性と首尾一貫しない地域住民の声の様相、ソト(非被災地、東京)の者が支援の回路を通じてウチ(被災地)の者として受け入れられるプロセスを議論し(李仁子)、また、サハリン残留日本人を対象に、ソトとウチの境界線が政治的社会的要因によって変動する事例を、とくに戦後樺太像の複数性という点から議論した(中山大将)。
公表実績: -平成26年度-
なし。次年度に行う予定である。
研究成果公表計画今後の展開等: -平成26年度-
 当事者、メディア、研究者の3者が記憶と“リアリティ”の構築プロセスについて次年度は、以下のテーマについて議論を行う。
①インターネット空間におけるフィールドワークの可能性に着目し、現地調査の経験とサイバー上で得られる情報とを交差させる新たなフィールドワークの手法について考える。また、Facebookやyoutubeをはじめとするインターネット利用の拡大・定着化によって、情報の発信が調査者のみに委ねられる状況ではない実態を受けて、調査者のできる「仕事」について再考する。
②外国からやってきた調査者がカメラやビデオで撮影し、写真やDVDにする事が担い手から望まれ、それらが伝統社会の芸能の宣伝材料や公演機会獲得にも使われるケースがある。メディアは、研究対象を調べる上では看過できないツールである一方、調査者自身も伝統社会の表象プロセスの中に組み込まれていること、その葛藤と政治的社会的力学を明らかにする。
③福島や東北における災害地域の当事者にとってのメディアや研究者とのコミュニケーションにおける疎外とつながりの動態は何か?についてワークショップなどを行い、議論を共有する。