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「小さな災害」アプローチによる紛争・災害に強い社会づくり――災害地域情報マッピングシステムを活用した社会問題の早期発見・早期対応

災害対応の地域研究プロジェクト

「小さな災害」アプローチによる紛争・災害に強い社会づくり――災害地域情報マッピングシステムを活用した社会問題の早期発見・早期対応

個別共同研究ユニット
代表: 西 芳実(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)
共同研究員: 西 芳実(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)、服部 美奈(名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授)、牧 紀男(京都大学防災研究所・准教授)、Muhammad Dirhamsyah(シアクアラ大学津波防災研究センター・センター長)、山田 直子(佐賀大学国際交流推進センター・准教授)、山本 博之(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)、山本 理夏(特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン・理事)、渡邉 英徳(首都大学東京大学院システムデザイン研究科・准教授)
期間: 平成25年4月~平成27年3月(2年間)
目的:  地震や津波といった広範囲に影響を及ぼし、被害が甚大な災害への対応は、予防や事後の対応を含めて研究や制度設計が集中的に行われてきた。これに対して、人々が日々直面し、死者はなくても地域社会の生活基盤に致命的なダメージを与える大水や地崩れといった「小さな災害」に対応するための研究や制度設計は、もっぱら工学的な見地から行われてきた。他方で、大きな災害の被害は災害が起こる前に社会が抱える潜在的な課題に集中的にもたらされている。日常的に発生する「小さな災害」とそれへの対応を観察することを通じて社会の潜在的な課題を事前に発掘し、早期に対応することは、大きな災害への対応を十全に行う上で重要である。
 本プロジェクトでは、2004年スマトラ島沖地震津波を契機に開発された「災害と社会 情報マッピング・システム」を応用して、日常的に発生する「小さな災害」をモニタリングし、「小さな災害」への早期対応を促すシステムを開発することで、大規模な災害への準備を促すとともに、地域社会の問題への対応の遅れが紛争に発展することを予防することをめざす。
研究実施状況: -平成26年度-
 昨年度の成果を踏まえて、京大地域研「災害対応の地域研究」プロジェクト、同・地域情報学プロジェクト、京大地域研と学術交流協定を締結しているインドネシアのシアクアラ大学津波防災研究センター等と連携して、それぞれ研究を進めた。①2004年スマトラ沖地震津波の経験の風化という課題に対しては、被災の痕跡が失われた地域で災害に対する一般住民の意識を維持するためのツールとして、スマホアプリ「アチェ津波モバイル博物館」を開発した。②「小さな災害」への対応については、JSTさくらサイエンスプランによりアチェ州から招聘されたインドネシアの大学生に対して被災から20年目を迎えた阪神淡路大震災の被災地での研修を実施したうえで、小規模災害の防災施策についての意見交換会を実施した。③「災害と社会 情報マッピング・システム」をさらに発展させ、「小さな災害」の発生状況をモニターするために州レベルの地方紙『スランビ・インドネシア』のオンライン記事を自動収集するシステムBeritaKUを開発し、「小さな災害」の動向をモニターするための地域名やキーワードの設定の調節に関する実験を行なえる環境を整えた。
研究成果の概要: -平成26年度-
 2004年スマトラ島沖地震津波の最大の被災地となったインドネシア・アチェ州では、被災から10年目を迎えて「災害からの復興」が社会全体の共通の課題でなくなる中で、地域経済格差が新たな社会紛争の火種となる可能性が生まれている。そこでは、スマトラ沖地震津波の被災と復興の経験を文化資産として次世代や世界の他地域に継承・発信することが、地域防災のみならず地域経済振興の観点からも重要であると意識されるようになっている。こうした課題に応えるべく本プロジェクトでは多言語スマホアプリ(②)や防災教育アプリ(③)を開発し、インドネシア社会ならびに日本社会のそれぞれで一定の反響を得た(報道①)。
 また、日常的に発生する「小さな災害」に対する日頃の備えを整えることが大規模災害時の対応に役立つという知見がアチェ州の専門家や大学生の間にも共有されるようになり、日本の防災施策への関心も、防波堤や避難棟のようなハード面の準備だけでなく、避難訓練や防火用水の準備などのソフト面に対する関心が生まれるようになってきていることが明らかになった(公開シンポジウム②、報道②)。 新規に開発したオンライン記事自動収集システムBeritaKUは、地方紙を対象にオンライン記事の自動収集を行い、さらに地域名やキーワードを柔軟に設定することが可能としたことで、地域社会の特性に応じて「小さな災害」をモニターする環境を整えた。
公表実績: -平成26年度-
【出版】
① 牧紀男・山本博之編『国際協力と防災―つくる・よりそう・きたえる』(京都大学学術出版会、2015年)
②西芳実「記憶のアーカイブ―スマトラ島沖津波の経験を世界へ」『記憶と忘却のアジア』(青弓社、2015年)、pp.
【システム開発、ウェブ公開(データベース等)】
①オンライン記事自動収集システムBeritaKU(インドネシア・アチェ州の地方日刊紙『スランビ・インドネシア』紙、プロトタイプ制作)
② スマホアプリ「アチェ津波モバイル博物館」(Android版)
http://www.cias.kyoto-u.ac.jp/~yama/bosai/app_atmm.html
③ 防災教育アプリ「TSUNAMI DATANG!」(プロトタイプ公開)
http://tsunami.cias.kyoto-u.ac.jp/
【公開シンポジウム】
①公開研究会「アジアの防災と国際協力―抵抗力をつくる・回復力に寄り添う」(2014年12月10日)
②京都=アチェ国際ワークショップ「スマトラ大津波から10年:情報コミュニケーション技術を活用した防災実践と展望」(2015年3月21日、京都大学)
【字幕作成】
・アチェ津波被災10周年記念ドキュメンタリー映画「海からのメッセージ:アチェ津波被災から10年の記録と希望」(マフルザ・ムルダニ監督、インドネシア語・アチェ語、21分、DVD)
【報道(新聞・テレビ等)】
① スマホアプリ開発について
日本語紙12件、インドネシア語9件、英語紙1件、テレビ1件
・2014年12月14日日本経済新聞「スマトラ沖地震の津波 被害・復興記録アプリで閲覧」
・2014年12月16日京都新聞「スマトラ津波復興アプリに 「震災被災地でも活用を」 京大准教授開発 街並み写真や証言写真」
・2014年12月25日NHKニュースおはよう日本「インド洋大津波の記憶伝えるアプリ 京大開発」
・2014年12月27日朝日新聞(天声人語)天声人語「津波の記憶をとどめる」
・2015年1月12日Kompasテクノ面「日本の研究者がアチェの津波に関するアンドロイド・アプリを制作」(Doktor Jepang Ciptakan Aplikasi Android "Tsunami Aceh)
・2015年1月31日朝日新聞「インド洋大地震・津波から10年 現地で薄れる防災意識」
                              ほか
②スマトラ津波被災地の大学生による日本の防災に関する研修活動について
・2015年1月18日日本経済新聞「神戸の復興 歩いて学んだ 大津波被災インドネシア人学生「母国に生かす」
・2015年1月30日Serambi Indonesia「八つ橋に見た日本のおもてなし」(Yatsuahashi, Timphan ala Japan)
・2015年2月12日Serambi Indonesia「メモリーハンティング、アチェから京都へ」(Memory Hunting, dari Aceh ke Kyoto)
・2015年2月14日Serambi Indonesia「被災後の神戸の復興をこの目で見て」(Mengintip Kebangkitan Kobe Pascabencana)
・2015年3月1日Lintas Gayo「ガヨから日本の神戸へ」
研究成果公表計画
今後の展開等:
-平成26年度-
 日々発生する規模の小さい災害を可視化することで治安の悪化や紛争を防ぐための情報共有ツールをインドネシア・アチェ州の研究協力者とともに引き続き開発し、現地の大学や行政と協力して実用化を試みる。また、日本で実用化されてきた防災技術や施策をインドネシア・アチェ州の課題に即して紹介することを通じて、日常的な災害への対応力を高めることを通じた紛争・災害に強い社会づくりの可能性を探る。