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脱植民地化期の東南アジア・ムスリムの自画像と他者像

地域情報学プロジェクト

脱植民地化期の東南アジア・ムスリムの自画像と他者像

個別共同研究ユニット
代表: 坪井 祐司(公益財団法人東洋文庫)
共同研究員: 金子 奈央(東京外国語大学大学院総合国際学研究科・博士後期課程)、國谷 徹(上智大学・研究員)、篠崎 香織(北九州市立大学外国語学部・准教授)、坪井 祐司(東洋文庫・研究員)、ファリダ・モハメド(東京外国語大学 外国語学部・講師)、深見 奈緒子(早稲田大学イスラーム地域研究機構・招へい研究員)、光成 歩(宗教情報リサーチセンター・研究員)、モハメド ファリド(Institute of Islamic Understanding Malaysia・Senior Fellow)
期間: 平成25年4月~平成27年3月(2年間)
目的:  京大地域研(CIAS)が所蔵・公開しているジャウィ(マレー語のアラビア文字表記)の雑誌『カラム』の記事データベースを利用した研究を行う。1950~69年にシンガポールにて出版された月刊の総合誌『カラム』は、欠号率が極めて低い状態でCIASに所蔵されており、その記事はマレー語雑誌データベースの一部として公開されている。本研究はこのデータベースを活用するもので、以下の二点の目的をもって進められる。第一は、『カラム』の総合的な研究に向けた基盤の整備である。具体的には、現在のデータベースを改良することで技術面から研究の利便性を向上させる。それとともに、一般公開形式のジャウィの講習会を開催してジャウィに関心を持つ研究者のネットワークを深化させる。第二は、『カラム』を利用した国際共同研究の推進である。これまで進めてきた『カラム』に関する共同研究の成果を踏まえて、特にマレーシア・シンガポールとの国際共同研究を重点的に進める。『カラム』の資料的価値は地元の研究者からも評価されている。このため、両国の研究機関・研究者との提携により資料としての『カラム』の総合的・多角的な利用を図る。
研究実施状況: -平成26年度-
 データベースの構築およびそれを利用した研究の両面から活動を行った。データベースに関しては、記事の翻字・データ入力を進め、記事本文の検索やワードクラウドによる検索などが可能な「カラム雑誌記事データベース」を作成・公開した。それとともに、デジタル・アーカイブ構築に関してマレーシアの諸機関との協力体制を築いた。その過程で、東京国際ブックフェアにおける資料のデジタル化に関する公開セミナー(2014年7月)、マレーシア国立図書館、言語図書局における会議(11月)、デジタル・アーカイブに関する地域研における公開セミナー(12月)を開催した。ジャウィ講習に関しては、12月にマレーシアの専門家を招いてジャウィ教育の方法論についての研究会を行った。
 くわえて、各共同研究員による『カラム』の内容の検討および研究報告を進めた。成果としては、『マレーシア研究』第3号に『カラム』に関する4本の論文をまとめた特集を組んだ。さらに、8月にはマレーシアにおける国際学会でパネルを組み、現地の研究者と議論を行った。2015年3月にはディスカッションペーパーを刊行し、最新の研究成果をまとめた。
研究成果の概要: -平成26年度-
 データベースについては、これまでの記事のタイトルの検索にくわえて、記事本文の単語やワードクラウドによる検索が可能になり、各号の表紙から記事を読みだすことができるようになるなど、利用の便宜が大幅に向上した。
 内容の分析については、雑誌論文における特集企画やディスカッションペーパーの発行、国際学会での発表を通じて(7を参照)、『カラム』の資料としての位置づけを明らかにした。ディスカッションペーパーでは、イラスト、写真、広告、投書などに焦点をあて、当時のマレー語雑誌の持つ大衆的・読者との双方向的性格を明らかにするとともに、読者として想定される主に都市部のマレー・ムスリムの世界観や近代社会のなかで宗教的な正しさを模索する姿を描いた。『マレーシア研究』における特集号では、記事内容の言説分析を通じてシンガポールのムスリム知識人の思想を明らかにした。彼らは、イスラムにもとづく改革を主張して既存の政治・宗教指導者たちを批判したが、その方法論は近代の国家制度の枠組みの中で宗教の権限を強化し、非ムスリムも含む多民族社会のなかでムスリムの地位を確保するというものであった。こうした近代主義的なイスラムのあり方はマレーシアにおける国際学会でも関心を持たれており、現在のマレーシアのイスラムを理解するうえで重要である。
公表実績: -平成26年度-
【出版】
特集:ジャウィ月刊誌「カラム(Qalam)」研究(『マレーシア研究』3、2014)
・「特集にあたって―『カラム』研究の意義」(坪井祐司)
・「イスラムと近代―連載記事「クルアーンの秘密にみるイスラム近代主義」(國谷徹)
・「宗教の制度化、民族の制度化―1950年代前半のマラヤ政治と『カラム』の戦略」(坪井祐司)
・「国民教育制度確立期におけるマレー人コミュニティの教育論」(金子奈央)
・「イスラム法制と女性憲章」(光成歩)
【公開シンポジウム】
東京国際ブックフェア・セミナー「遺産から展望へ:マレー・イスラム出版物の翻字復刻、電子アーカイブ化と出版・教育・研究への展開(2014年7月3日、東京ビッグサイト)
講演1「マレー語月刊誌『カラム』デジタル・アーカイブの意義と展望」(山本博之)
講演2「マレーシアにおけるジャウィ出版物の翻字復刻と電子出版・教育への展開」(ムハマド・シュクリ)
【学科分科会】
Panel “Construction of Digital Archives of Jawi Periodicals for Contemporary Usage: Experience of the joint research project on Qalam” (The 9th International Malaysian Studies Conference (MSC9), Universiti Malaysia Terengganu, Malaysia, 19 August 2014)
Convener: Yamamoto Hiroyuki
“Digitization and Transliteration of Jawi Material: Its Importance and Relevance in Contemporary Malaysia” (Muhammad Syukri Rosli)
“World View of Malay Muslim Intellectuals during the 1950s” (Tsuboi Yuji)
“The Wavering Modernity of Muslim Intellectuals in Singapore: Debates over the Marital Reform in 1950s and 1960s” (Mitsunari Ayumi)
“The Discussion on the National Education in Malay Society” (Kaneko Nao)
【公開セミナー】
ワークショップ「カラムの時代」と現代を結ぶ ――マレー・イスラム定期刊行物の翻字復刻・電子アーカイブ化(2015年1月30日、京都大学)
Jawi Transliteration Project by Klasika Media (Norziati Mohd Rosman)
CIAS Joint Research Project on Qalam (Tsuboi Yuji)
コメント:柳澤雅之(京都大学地域研究統合情報センター)
【出版】
『カラムの時代VI:近代マレー・ムスリムの日常生活2(CIAS Discussion Paper No.53)』京都大学地域研究統合情報センター(2015)
「カラムデータベースにおける理解支援:展望と周辺技術」(亀田尭宙)
「イスラム雑誌『カラム』の風刺画」(山本博之)
「『カラム』が切り取った世界II:1950年代中葉における東南アジア・ムスリムの世界観の変化」(坪井祐司)
「大衆誌から宗教誌へ:広告にみるカラム誌の立ち位置の変遷」(光成歩)
「読者の日常生活におけるハラル」(金子奈央)
【電子媒体】
カラム雑誌記事データベース:http://majalahqalam.kyoto.jp/
研究成果公表計画
今後の展開等:
-平成26年度-
 データベースについては、現在進行中である『カラム』のローマ字翻字および翻字結果の入力を終え、データベースを完成させるとともに、マレーシアの諸機関との連携によるデジタル・アーカイブの拡充を目指す。研究については、2015年度の地域研の共同研究「1950・60年代の東南アジア・ムスリムの社会史」において引き継ぎ『カラム』記事の内容分析を進め、これまでの研究成果を出版へとつなげる。