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熱帯森林利用のローカル・ガバナンスの可能性に関する地域間比較研究

相関地域研究プロジェクト

熱帯森林利用のローカル・ガバナンスの可能性に関する地域間比較研究

個別共同研究ユニット
代表: 阿部 健一(総合地球環境学研究所 研究高度化支援センター・教授)
共同研究員: 阿部 健一(総合地球環境学研究所 研究高度化支援センター・教授)、石丸 香苗(岡山大学地域総合研究センター・准教授)、大石 高典(総合地球環境学研究所・プロジェクト研究員)、大橋 麻里子(東京大学大学院農学生命科学研究科・博士課程)、小泉 都(元・京都大学大学院農学研究科)、笹岡 正俊(北海道大学大学院文学研究科・准教授)、嶋田 奈穂子(京都大学東南アジア研究所・実践型地域研究推進室・連携研究員)竹内 潔(元富山大学人文学部・准教授)、竹ノ下 祐二(中部学院大学子ども学部・准教授)、 DE JONG,Wil(京都大学地域研究統合情報センター・教授)、服部 志帆(天理大学国際学部・講師)、松浦 直毅(静岡県立大学国際関係学部・助教)、宮内 泰介(北海道大学文学研究科・教授)山越 言(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・准教授)
期間: 平成25年4月~平成27年3月(2年間)
目的:  本研究では、アフリカ、東南アジア、オセアニア、南米の熱帯森林帯において、地域住民の社会文化と森林の保護や開発との間に生起している諸問題を比較考察し、グローバルな自然保護や開発の理念が国家レベルの政策過程を介して作動している森林資源管理と地域住民による慣習的な森林利用や森林に対する価値付与との間の懸隔を繋ぐ可能性を探求する。具体的には、森林に関わる地域住民の在来の生業文化や森林観と森林保護活動、商業伐採などの開発、移住政策、土地売買などの外来のインパクトとの諸関係についての諸事例を比較し、地域住民が森林管理に自律的に参画しうる条件を考究する。さらに、森林に関わる住民の生活実践の論理や感性を本質論的に措定することを避けて、外部社会との交渉による変容や地域社会内部の実践と認識の多様性の双方を視野におさめて、地域社会と森林の関係を動態的かつ多層的に捉える視座から、研究者のアドボカシーの理論的枠組みを構築する。
研究実施状況: -平成26年度-
 4回の研究会を開催し、熱帯諸地域における森林と住民の関係について、事例報告にもとづいた討議をおこなった。具体的には、事例の比較検討をとおして、大別して、1)「近代化」とローカル・ガバナンスの基本的条件、2)「住民参加型保全」と研究者の役割、3)ローカルな森林観の3テーマについて議論をおこなった。事例報告の内訳は、アフリカ4例(ギニア共和国、ガボン2例、コンゴ共和国)、東南アジア2例(ラオス、ボルネオ)、オセアニア1例(ソロモン諸島)である。最終研究会では、成果を公刊するために、これまでの議論を踏まえてメンバー各自が執筆テーマの概要を発表し、討論をおこなった。
研究成果の概要: -平成26年度-
1) 地域住民の生活の再構築と研究者の役割
 商業伐採、鉱山やダムの開発、土地の商品化、地方都市の形成などの「近代化」は、ボルネオやソロモン諸島(マライタ島)の地域住民にとって、現金獲得機会や交通アクセスの向上をもたらす一方で、飲酒や土地売買をめぐる軋轢などの社会的混乱を惹起している。このような状況に地域住民が対応するためには、都市や現金経済など「近代的」な生活資源とともに、「慣習的」な森林利用や人的ネットワークを選択肢として主体的に生活構築に用いることが可能な社会的条件が必要とされる。地域の状況に応じて、住民が生活を主体的に再構築しうる条件を見いだし、政策に関わるアクターに呈示することが、フィールド研究者が果たしうる役割だと考えられる。
2) 住民参加型森林保全と研究者の役割
 ギニア南東部の森林地域では、森林管理をめぐって、「森林保護のために人間活動を制限する」政府系環境研究所の主張と「耕作などによって森林や森林動物は守られている」という人間に馴致された自然を強調する地域住民の言説が鋭く対立している。住民の森林利用に科学的合理性を認めないために、実際には、住民参加型保全が住民を啓蒙と経済的便益配分の対象とみなす傾向が強いことを鑑みると、住民の在来知の言説と「科学的」管理との間の対話は、森林保全における「住民参加」の実現にとって重要な課題である。この課題に対して、フィールド研究者は、住民との対話の必要性を森林保護アクターに呈示するとともに、両者の対話のファシリテーターとしての役割を果たしうると考えられる。
 一方、ガボン南西部の国立公園周辺の集落では人的構成の流動性が高いため、地域に住む人々における森林に関わる在来知識の蓄積は小さい。このような地域では、霊長類学者は、住民の調査への参画をとおして住民の間に新たな「森林伝統文化」を創出する触媒となり、森林保全への住民の主体的関与を引き出す可能性を持っている。また、一方では、同じ地域における住民参加型保全の推進は、出自や利害が多様な人々を「地域住民」という語で一括りにして「主体的参加を強制する」という矛盾を孕んでいる。このアポリアの解決に対して、人類学者は、地域の人々の間に相互連携が可能である集まりを見いだして、きめ細かで具体的な自主的森林管理の選択肢を、森林保護アクターに呈示しうる。さらに、人類学者と霊長類学者との連携は、森林管理における住民の自律性の創出と主体的関与の実現において有効だと考えられる。
3) ローカルな森林観の考究と研究者の役割
 ラオスのいくつかの民族集団は、森を切り拓いて農作を営む一方で、集落付近の森を残して、精霊信仰の対象としたり、先住民を祀ったりして、畏怖の対象としている。これらの農耕民は、あえて森を残すことによって、超自然的存在に人間の行為が監視される状況を作り出していると解釈できる。対照的に、コンゴ共和国の狩猟採集民は、森林に対して、生活の糧だけでなく、精霊を含む他者との多様な交流を無限に提供してくれる豊穣な世界という認識を抱いている。これら二つの事例に見られる森林に対する認識は、「希少性」を前提とする経済的便益や生物学的多様性の観点から「資源」として森林を客体化するグローバルな森林観とは著しく異なる。フィールド研究者が、上のような地域住民の「小さな物語」を森林資源の持続可能性といった「大きな物語」に対置させていく作業は、熱帯森林が人間に対して持っている多様な価値を呈示することになる。
公表実績: -平成26年度-
1)主要な刊行物 (複数著者の場合は、下線著者が研究会メンバー)
欧文
 Ishimaru, K., Kobayashi, S., Yoshikawa, S. 2014. “Impact of agricultural production on the livelihood of landless peasants settled in the lower Amazon”, Tropics. 23(2):63-71.
 Ishimaru, K., Kobayashi, S., Yoshikawa, S. 2014. “Crop selection strategies of squatters at early stage of settlement in Lower Amazon”, Procedia Environmental Science. 20:394-401.
 Matsuura, N. 2015. “The roles of local associations in rainforest conservation and local development in the Democratic Republic of the Congo”, African Study Monographs, Supplementary Issue 51: 57-73.
 Matsuura, N. in press. “Human female dispersal and social organization: A case of central African hunter-gatherers”, In: Furuichi, T., J. Yamagiwa and F. Aureli eds. Dispersing Primate Females: Life History and Social Strategies in Male-Philopatric Species, Springer, 165-183.
 Matsuura, N. and Moussavou, G.M. 2015. “Analysis of local livelihoods around Moukalaba-Doudou National Park in Gabon”, Tropics 23(4): 195-204.
 Oishi, T. and Hagiwara, M. 2015. “A preliminary report on the distribution of freshwater fish of the Congo River: Based on the observation of local markets in Brazzaville, Republic of the Congo”,African Study Monographs, Supplementary Issue 51: 93-105.
 Takenoshita, Y. 2015. “From vision to narrative: A trial of information-based gorilla tourism in the Moukalaba-Doudou National Park, Gabon”, Tropics 23(4):185-193.
 Takeuchi, K. 2014. “Interethnic relationships between Pygmies and farmers”, In: B. Hewlett ed. Hunter-Gatherers of the Congo Basin: Cultures, Histories, and Biology of African Pygmies, Transaction Publishers, Piscataway, 299-320.

和文
 松浦直毅, 2014.「「住民参加」によるアフリカ熱帯雨林の保全と開発に向けて―ガボン南西部ムカラバ・ドゥドゥ国立公園の事例から」,『アフリカレポート』52: 88-97.
 宮内泰介, 2014.「宇井純 反公害の科学と運動の実践者」, 宮本憲一・淡路剛久編『公害環境研究のパイオニア』, 岩波書店. 152-166.
 宮内泰介, 2014.「宇井純さんが切りひらいた科学のかたち」,『宇井純セレクション・第3巻・加害者からの出発』, 新泉社. 374-385.
 大石高典, 2014.「漁労活動の生態」,日本アフリカ学会編『アフリカ学事典』, 昭和堂. 532-535.
 笹岡正俊, 印刷中. 「「保全のシンプリフィケーション」を越えて―草の根の環境平和の実践に学ぶ」, 『平和研究』44: 41-58 .
 嶋田奈穂子, 刊行予定.「ラオスにおける「村のカミの森」とその変容1-ルアンナムターの3民族の事例-」,『南方文化』41.
 山越言, 2014.「自然保護」,日本アフリカ学会編『アフリカ学事典』, 昭和堂. 614-62.

2) 本研究の紹介ホームページ
 http://www.tropical-forest.net/index.html
研究成果公表計画
今後の展開等:
-平成26年度-
1) 研究成果を公刊することを企画しているが、すでに、各メンバーの執筆の概要も定まっており、今年度内に地域研究統合情報センター叢書原稿公募に応募する予定である。
2) これまでの共同研究では、熱帯森林を比較的に閉鎖的な人間-環境系として捉え、外部からの影響を与件として取りあつかう傾向があったが、今年度の共同研究に採択された「熱帯森林-都市関係の社会生態学的比較研究」では、本研究のメンバーに南米地域及び東南アジアをフィールドとする研究者をそれぞれ1名ずつ加えた研究組織によって、熱帯森林と周辺都市を視野におさめて物流や人的移動のダイナミクスを考究する。この新しい共同研究では、本研究の成果をもとに各自が考察を深めたうえで、英文で研究成果を刊行することを企画している。