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中東とラテンアメリカにおける体制転換の比較研究

相関地域研究プロジェクト

中東とラテンアメリカにおける体制転換の比較研究

個別共同研究ユニット
代表: 末近 浩太(立命館大学国際関係学部・教授)
村上 勇介(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)
共同研究員: 内田 みどり(和歌山大学教育学部・教授)、浦部 浩之(獨協大学国際教養学部・教授)、遅野井 茂雄(筑波大学大学院人文社会科学研究科・教授)、吉川 卓郎(立命館アジア太平洋大学・アジア太平洋学部・准教授)、末近 浩太(立命館大学国際関係学部・教授)、住田 育法(京都外国語大学外国語学部・教授)、仙石 学(北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター・教授)、高橋 百合子(神戸大学大学院国際協力研究科・准教授)、田中 高(中部大学国際関係学部・教授)、 浜中 新吾(山形大学地域教育文化学部・准教授)、林 忠行(京都女子大学現代社会学部・教授)、松尾 昌樹(宇都宮大学国際学部・准教授)、村上 勇介 (京都大学地域研究統合情報センター・准教授)
期間: 平成25年4月~平成27年3月(2年間)
目的:  本研究は、2010年末からの「アラブの春」と呼ばれる政治変動を経た中東と、発展途上地域においてもっとも早く体制転換を経験したラテンアメリカとのあいだで比較研究を実施し、体制転換の過程とその分析枠組みを系統的に探究することを目的とする。具体的には、まず、移行前までの社会経済構造や政治制度・構造を含め、体制転換過程のメカニズムを明らかにする。この作業は、政党、軍、市民社会の3つのテーマにそって実施し、政党や軍などのアクターの戦略、政治制度の特徴、歴史的背景、市民社会の状況を分析する。続いて、体制転換の背景と過程、今後の展望について、地域間の共通性と相違点を究明する。そうした成果は、中東欧・ロシアの事例からも検証される。そして、中東とラテンアメリカの各地域における共通性と相違点をふまえたうえで、地域を超えた共通性や相違の有無を探究し、生じている場合は、その背景や条件、過程を究明する。そのような作業を通じ、両地域の地域性について改めて考察する。
研究実施状況: -平成26年度-
 本年度は、次の通り、3回の研究会および研究打ち合わせ・意見交換を実施した。
【第1回】
日時:2014年4月5日
場所:京都大学地域研究統合情報センター
研究打ち合わせ・意見交換:2年間の研究計画における役割分担、研究視座、アプローチの確認。
【第2回】
  日時:2014年7月12日
場所:東京外国語大学本郷サテライト
研究打ち合わせ・意見交換:最終成果報告の構想
宮地隆廣「理性と物語:実証的構成主義の再評価」
【第3回】
日時:2014年11月14日
場所:日本国際政治学会・中東分科会・福岡国際会議場
・餅井雅大(防衛研究所・ゲストスピーカー)「イスラエル国防軍とアイデンティティと軍事史:機関誌「マアラホット」の言説分析」
・吉川卓郎「国王陛下の軍隊:ヨルダン・ハシミテ王国の「軍事力」の再検討」
前年度の研究課題であった政軍関係と体制の安定性の関わりについて、中東諸国の事例(イスラエル、ヨルダン)を取り上げ、学会報告を行った。
研究成果の概要: -平成26年度-
 3回の研究会・研究打ち合わせ・意見交換を通して、中東諸国とラテンアメリカ諸国における体制転換の歴史的経緯と先行研究および理論的広がりについての議論を重ねた。特に2年目の作業として、具体的な事例研究およびそこから導出された理論的なインプリケーションについての検討に重きを置いた。  第1回研究会では、各メンバーの研究対象地域・諸国について、政治体制とその歴史的変容にかんする基本情報を確認・共有した。本共同研究の政党、軍、市民社会という3つの共通視座について、2年目は政党と市民社会に着目し、その実証研究を進めることが再確認された。
 第2回研究会では、市民社会、特にラテンアメリカ諸国の先住民運動の事例と、その発生や成否を分析するための理論についての研究報告を行った。宮地隆廣『解釈する民族運動:構成主義によるボリビアとエクアドルの比較分析』(東京大学出版会, 2014年)に基づき、比較政治学における実証的構成主義の意義と課題について議論を重ねた。構成主義による社会運動およびその帰結についての分析は、いわゆる「アラブの春」における民主化運動のさらなる理解に向けても新たな視座と方法論を提起するものであることが確認された。
 第3回研究会では、中東諸国の軍組織と兵士のアイデンティティに着目することで、軍が体制の維持にどのような役割を果たしているのか検討した。イスラエル国防軍の起源がイスラエル国家の建国以前にあることを踏まえ、軍事組織による「壮丁を通じた国家形成」と独自の「軍事専門性」の2つが同国の安定を考えるときに重要であるとされた。他方、ヨルダンについては、「弱国」である同国の存続要因として、従来の研究において等閑視されてきた軍の役割に注目することで再検討された。中東諸国の不安定は「国民と国家の不一致」に起因する薄弱な正当性にある。ヨルダンが経験してきた数々の戦争には常にこの不一致の問題が内包されており、ヨルダン軍は、国民軍よりもむしろ「国王陛下の軍隊」として、その危機を1つずつ除去する役割を果たしてきたことが明らかにされた。
公表実績: -平成26年度-
・末近浩太「序論 中東の政治変動:開かれた「地域」から見る国際政治」『国際政治(特集 中東の政治変動)』第178号, 2014年11月.
・末近浩太「レバノン:「決めない政治」が支える脆い自由と平和」青山弘之編『「アラブの心臓」に何が起きているのか:現代中東の実像』(岩波書店, 2014年).
・Kota SUECHIKA, “Nation Building and National Army in Deeply Divide Society: A Case of Lebanon,” Panel SD-1 “Levant in Transition: Regional Security, Social Development and the Global Order after the Arab Spring,” ISA Global South Caucus Conference 2015, Singapore, “Voices from Outside: Re-shaping International Relations Theory and Practice in an Era of Global Transformation,” Singapore Management University, SINGAPORE, January 10, 2015.
・村上勇介「ネオリベラリズム後のラテンアメリカ」 村上勇介編『21世紀ラテンアメリカの挑戦─ネオリベラリズムによる亀裂を超えて』(京都大学学術出版会、2015年)。
・村上勇介「ポストネオリベラリズム期ペルーの社会紛争と政治の小党分裂化」村上勇介編『21世紀ラテンアメリカの挑戦─ネオリベラリズムによる亀裂を超えて』(京都大学学術出版会、2015年)。
・住田育法・村上勇介 「ブラジルにおける争点政治による政党政治の安定化と非エリート層の台頭」村上勇介編『21世紀ラテンアメリカの挑戦─ネオリベラリズムによる亀裂を超えて』(京都大学学術出版会、2015年)。
・吉川卓郎「ヨルダン:紛争の被害者か、受益者か」青山弘之編『「アラブの心臓」に何が起きているのか:現代中東の実像』(岩波書店, 2014年).
・浜中新吾「アラブ革命の陰で:パレスチナ人の国際秩序認識に反映された政治的課題」『国際政治(特集 中東の政治変動)』第178号, 2014年11月.
・浜中新吾「中東諸国の体制転換/非転換の論理」『日本比較政治学会年報(特集 体制転換/非転換の比較政治)第16号, 2014年6月.
・松尾昌樹「増え続ける移民労働者に湾岸アラブ諸国政府はいかに対応すべきか」細田尚美編著『湾岸アラブ諸国の移民労働者:「多外国人国家」の出現と生活実態』(明石書店, 2014年).
・松尾昌樹「湾岸産油国の統治体制と社会:湾岸アラブ諸国の権威主義体制とエスノクラシー・モデル」『中東研究』第512号, 2014年9月.
・宮地隆廣「演出としての政治参加:現代ラテンアメリカ政治における政府による国民投票」上谷直克編『「ポスト新自由主義期」ラテンアメリカにおける政治参加』(アジア経済研究所, 2014年)
研究成果公表計画
今後の展開等:
-平成26年度-
 末近が研究代表者をつとめる科学研究費補助金・基盤研究(B)(海外学術調査)「中東と中南米における体制転換の実証的比較研究:政党・軍・市民社会」を通して、ひきつづき本研究課題に取り組み、中東諸国とラテンアメリカ諸国の体制転換/非転換の実証および理論研究を継続していく。
 また、京都大学地域研究統合情報センターの平成27年度個別共同研究ユニット「体制転換における軍と政党─中東とラテンアメリカの比較」の活動をつうじ、成果公開をはかる。