代表: | 笠井 賢紀(龍谷大学社会学部・専任講師) |
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共同研究員: | 岩佐 奈々子(北海道大学大学院教育学院・博士課程)内尾 太一(特定非営利活動法人「人間の安全保障」フォーラム/東京大学総合文化研究科・常務理事/博士課程)、打越 正行(社会理論・動態研究所・研究員)、笠井 賢紀(龍谷大学社会学部・専任講師)、鴫原 敦子(国立仙台高専・非常勤講師)原 めぐみ(大阪大学大学院人間科学研究科・博士後期課程)、栗田 健一(新宿区新宿自治創造研究所・研究員) |
期間: | 平成25年4月~平成27年3月(2年間) |
目的: | 本研究の目的は、地域コミュニティ構成員の物語収集を通じてそのコミュニティの展望を見出すための地域研究の方法論を探求することである。物語を研究の中心に据えるナラティブ・アプローチは盛んであり、個々人の心理学的分析に留まらず、人生史等の物語に埋め込まれている社会や文化を浮き彫りにするために活用されてきた。本研究はさらに一歩進み、物語の形成過程自体をコミュニティとしての今後の展望を考える素材とすることを試みるものである。 語りは語り手と聞き手が同一であっても様々な要素(語りの場、語り手と聞き手との関係性、語り手の置かれている状況等)によって異なる。こうした諸要素による語りの変化はエラーとして研究素材から排除される傾向が強いが、本研究ではそうした矛盾をはらむ変化も重要な素材と捉える。物語形成過程で生じる矛盾のあり方から、構成員の過去から現在における価値判断基準の変化を追い、将来の展望を見出す。 |
研究実施状況: | -平成25年度- 本年度は、「地域コミュニティ」や「物語」が多様にありうることを鑑みて、共同研究であることを活かして目的を達成するために共同研究員の増員を行った。これにより、対象とする地域コミュニティとテーマが、次のようになった。 岩佐奈々子:アイヌの人々の語りと主体的教育 内尾太一:被災地における復興民話づくり 打越正行:沖縄の下層若者 笠井賢紀:栗東市における語り拠点の運用 栗田健一:戸田市における地域通貨流通の背景となる文脈 鴫原敦子:被災当事者の語りによる被害の可視化と関係性の編み直し 原めぐみ:日本在住の新日系フィリピン人若者の望郷・越境観念 地域・テーマはそれぞれに異なるが、すべての研究に共通することは、語りや語られたもの(物語)を中心とした〈ナラティブ・アプローチ〉を取ることと、コミュニティづくりに資する実践へと調査研究を架橋する〈アクション・リサーチ〉とするための方法論を探求する点である。 本年度は2回4日間にわたる研究会を開催して、各研究の事例報告を行った後、方法論探求のための共通点・相違点の洗い出しを行った。 -平成26年度- 本年度は、当初計画通り3回の公開研究会(公開講座・シンポジウム含む。)を開催した。12月12日、2月7-8日、3月22-23日の3日程で開催された研究会等では、各共同研究者から研究の進捗状況が報告されるとともに、共同研究テーマに関する闊達な議論がなされた。滋賀、沖縄、宮城で行われた3回の研究会は、いずれも共同研究者の主たるフィールドを巡る旅でもあり、各地で語りの場に現に共同研究者たちが足を踏み入れ、現場で、語りについて語るという貴重な機会となった。 12月12日の研究会に続く公開シンポジウムは、外部から中村八千代氏、Maribeth G Berdejo氏、Rhea de los Reyes氏、沖浦真弓氏をパネリストとして迎えて、笠井が進行を務め「人生の物語と社会:フィリピンの社会的起業UNIQUEASEの例を中心に」と題して開催された。本シンポジウムは33名の一般参加者を数え、各パネリストの人生史の語りが聴衆の人生史の語りを引き出す等、本研究の目指すアクションリサーチ的な相互作用を生むものであった。 |
研究成果の概要: | -平成25年度- 各人の研究概要は次のとおりである。 岩佐は「アイヌ」関連教育が政府機関等によって行われていることに対し、アイヌが語り継いできた物語を基にしたアイヌによる主体的な教育への関わりを模索している。 内尾は自身が関わるNPOによる民話創作プロジェクトの実践と他団体が取り組む椿にまつわるエピソードによる「物語復興」の調査研究を行った。 打越は風俗や建築業に関わる沖縄の「下層」若者を対象として生活史を収集した。 笠井は本研究会のテーマに即した講義・実習科目の大学における展開と合わせて、滋賀県栗東市で語りの拠点を形成・運用して、同拠点での活動とまちづくりとの関係をまとめている。 栗田は埼玉県戸田市で老若男女問わず一定の期間・規模において普及している地域通貨について、その普及の背景となっている物語を同地区の子どもたちへのインタビューを通じて仮説構築している。 鴫原は東日本大震災の被災当事者であり、他方で環境社会学や平和学の研究を行ってきたものとして、被害構造論における被害非認識概念に着目しながら語りを収集する準備を進めている。 原は日本・フィリピンの双方において新日系フィリピン人およびその支援を行う団体等への聞き取りを行い、その若年層の者たちの「自己物語」を望郷の念や越境願望などを軸に分析している。 研究会では、これらの事例から語りと実践を繋ぐうえでの共通する着目点として「語れないこと」、「語りの媒体」、「語られるという経験」、「語りの作用」などを抽出した。 -平成26年度- 2年度間にわたる本共同研究は目的に即して方法論構築を探究してきた。共同研究者たちは都市下層、移民、まちづくり団体、被災地、先住民、地域通貨共同体といった多様な地域コミュニティを対象としたフィールドワークを重ねてきた。これらの物語に関する調査過程自体が地域コミュニティづくりに貢献するアクションリサーチの要素を体現しており、本研究が志向した方法論の萌芽が見られる。 たとえば、まちづくり団体を対象とした研究では大学・行政・地域の三者協働による物語構成のための拠点とその運用スタッフを設置し、2年度間でのべ500名の「語り手」が訪れた。記録・再構成された物語が地域住民に還元されることで、物語の共約を巡る動きが見られ、共約過程によってコミュニティづくりが促進された。 さらに、同事例から、物語構成を促す要因として「コミュニティ・リーダー」、すなわち、地域コミュニティにおいて様々を物語の構成主体として役割づけてつないでいく者の重要性が明らかにされた。こうしたコミュニティ・リーダーを育成するために大学の教育現場のみならず地域住民を対象とした場合にもPBL(課題発見・解決型学習)が有用であることが示唆された。 また、被災地を対象とした研究では、地域の子どもたちによる「新しい民話」の創造や、花(椿)を中心としたコミュニティづくりなど、いずれも物語と地域コミュニティづくり(復興)との直接的関係が見て取れた。ここでは、物語創造に関わることによるコミュニティ意識の向上や、物語モチーフを活用することによる共約可能性の増加といった方法論の基礎が見いだされた。 |
公表実績: | -平成25年度- 内尾太一(2013) 「東日本大震災の公共人類学事始:宮城県三陸地方における被災地支援の現場から」日本文化人類学会『文化人類学』78(1), pp.99-110 内尾太一(2014) 「東日本大震災における被災者の尊厳と自立:援助漬けからの脱出を課題に」『第10回生協総研賞助成事業 研究論文集』pp.74-87 打越正行(2013)「建築業から風俗営業へ――沖縄のある若者の生活史と〈地元〉つながり」日本解放社会学会編『解放社会学研究』、26、pp.35-58 後藤俊文・打越正行・吉田舞(2013)「書評論文 Goodwin, Jeff and Ruth Horowitz, 2002, “Introduction: The Methodological Strengths and Dilemmas of Qualitative Sociology”, Qualitative Sociology, 25(1)―質的調査法をめぐる諸論点」『現代社会学』、14、pp.33-43 笠井賢紀(2013)「組織の存続とコミュニティの持続可能性」厳網林・田島英一編著『アジアの持続可能な発展に向けて』慶應義塾大学出版会、pp.101-118 笠井賢紀(2014)「語りから未来を紡ぐ―方法論と実践」龍谷大学社会学部コミュニティマネジメント学科編『コミュニティリーダーを育てる』晃洋書房、pp.151-158 鴫原敦子(2013)「自由とサステイナビリティは接合しうるか―『創造的復興論』再考―」日本平和学会『平和研究』40、pp.87-107 HARA Megumi, (2013) “Mixed-heritage Japanese-Filipinos/Shinnikkeijin in Charge of Intimate Labor” Journal of Intimate and Public Spheres, 2, pp39-64. Hara Megumi, (accepted) “What Do We Call Ourselves?: Identity and Belonging of Mixed-heritage Japanese-Filipinos” Langkit, College of Arts and Social Sciences MSU-Iligan Institute of Technology. -平成26年度- 2015年12月12日 公開シンポジウム「人生の物語と社会」 |
研究成果公表計画 今後の展開等: |
-平成25年度- 次年度は、現段階では事例紹介にとどまっている各研究を進捗させて理論化を図り、各共同研究員が査読誌等に成果を投稿する。 同時に、共同研究の目的である方法論探求を進めるために、研究代表者(笠井)を中心として、各事例の共通点と相違点の整理を一層進め、各点について共同研究員による分析を行う。【①事例からの理論化、②方法論の仮構築、③方法論の事例への適用】という3つのステップを繰り返して取ることで事例研究、方法論探求、コミュニティにおける実践のいずれも質を高める。 これらの成果は、年に2回ないし3回行う共同研究会で共有する。それに加えて、共同研究員の属する大学・NPOや関連する学会等でシンポジウムを積極的に開催して成果を公に出して議論を深める。 加えて、研究期間終了の翌年度を目途に、共同研究の成果をまとめた書籍を出版できるように書籍の企画と原稿執筆にあたる。 -平成26年度- 方法論構築に今しばらくの期間を要する。また、本年度は査読論文等の学術的業績が乏しかった。こうした現状を踏まえて、2015年度には共同研究期間は満了しているが、各自がこれまでの成果を関連学会に査読論文として掲載されることを目指すとともに、学会における分科会あるいはシンポジウムの開催を申請してまとまった成果として報告したい。各共同研究者において本研究で得られた方法論の基礎を洗練させて、継続して共同研究を行い、2016年度またはその翌年度には書籍として成果をまとめたい。 |