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災害対応の地域研究プロジェクト

地域の集合的記憶の再編を支援する「メモリーハンティング」の展開と防災・ツーリズムへの応用(h27)

個別共同研究ユニット
代表: 北本 朝展(国立情報学研究所・准教授)
共同研究員: 北本 朝展(国立情報学研究所・准教授)、佐藤 翔輔(東北大学災害科学国際研究所・助教)、谷川 竜一(京都大学地域研究統合情報センター・助教)、西 芳実(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)、山本 博之(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)
期間: 平成27年4月~平成28年3月(1年間)
目的:  本研究は、平成26年度に地域研と国立情報学研究所(NII)との共同研究により開発したAndroidアプリ「メモリーハンティング」を発展させ、地域の集合的記憶の再編を支援しつつ、防災教育や被災地ツーリズムなどに応用することを目指す。「メモリーハンティング」とは、過去に撮影された写真と同じ場所・同じ角度で現在の状況を撮影し、その際の位置情報をメタデータとして記録するアプリである。これを防災教育や被災地ツーリズムに活用するための課題として、本研究は以下の3点に焦点を合わせる。第一に、地域研が収集してきた被災地資料ならびに構築してきた人的ネットワークを活用し、世界各地の被災地でこれを実際に展開して活用する。第二に、各地のアプリ利用者の声を収集し、アプリの継続的な改良を推進する。第三に、アプリで実際に収集した多時期撮影画像の共有を進め、それを被災地における集合的記憶の再編・再生に活かす。これらの課題を通して、防災教育・被災地ツーリズムにおけるアプリの有効性を検証する。
研究実施状況:  本年度は以下の二点を実施した。第一に、モバイルアプリ「メモリーハンティング」の改良である。具体的には、メモリーハンティングをSNSと連携させるため、アプリで撮影した写真をFacebookに投稿する機能を開発した。前年度にインドネシア・アチェの津波被災地で実験を行った際に、インドネシア人ユーザから写真をSNSでシェアしたいとの要望を受けたため、アプリ内から直接Facebookに投稿する機能を開発することにした。第二に、防災やツーリズムにおける実利用の展開である。防災については、神戸の震災オープンデータを活用し、災害直後と現在の景観を比較して復興過程を調べる活動を進めた。ツーリズムについては、京都(2回)および長崎でワークショップやフィールドワークを開催し、アプリを用いて古写真の撮影位置の確定を行った。特筆すべきは、子供たちがアプリを楽しく使いこなしていたことであり、これはアプリの有効性を示唆する結果であると評価している。
研究成果の概要:  バイルアプリ「メモリーハンティング」は、「ある写真を基準として同一構図の写真を撮影する」ことを基本機能とするアプリであるが、このシンプルな機能を防災やツーリズムなど多目的のフィールドワークに展開できる点がこのアプリの魅力である。例えば防災では、災害前と現在の写真の比較から失われた景観の価値を再認識し、災害直後と現在の写真の比較から地域の回復力を実感することができる。これは地域のウチの視点から、地域の集合的記憶を深めていく行為と言える。一方ツーリズムでは、古写真と現在の写真の比較から地域の歴史に思いをはせ、ポップカルチャー画像(アニメ、映画等)と現在の写真の比較から過去にそこを訪れた作者の視線やそこから生まれた作品世界を「聖地巡礼」として再体験できる。これは地域のソトの視点から、地域の集合的記憶を広げていく行為と言える。このように目的に応じて基準画像を差し替えることで、多様な視点から地域の価値を編集し発見する活動を展開できる点が、本アプリの地域情報学的な価値であると考える。ただし防災とツーリズムはどちらかといえば非日常的な活動であり、それらだけを対象にするとアプリの普及にも限界がある。今後は地域の日常的な活動にアプリを組み込むことで、日々の活動からもデータが蓄積されていく仕組みを作りたい。データの蓄積が進むことで地域の集合的記憶の形成も進み、その成果が活動をさらに広げていくという、データの好循環を生み出すことが今後の大きな課題である。
公表実績: ・ウェブサイト「メモリーハンティング」を公開した。http://dsr.nii.ac.jp/memory-hunting/
・2015年4月25日に、京都にてワークショップ「京都古写真ハンティング」を開催した。
・2015年9月1日に、国際会議Japanese Association for Digital Humanities 2015にて、会議参加者を対象としたワークショップ「Old Photo Hunting in Kyoto - Discovering Historical Landscape in the Open Air」を開催した。
・2015年9月4日に、ジオメディアサミット大阪にて、講演「古写真の撮影者になりきるアプリ メモリーハンティング(メモハン)」を行った。
・2016年1月9日に、読売新聞大阪版にて、「あの日 神戸は 市がデータ公開 アプリ開発進む」としてアプリが紹介された。
・2016年2月16日に、長崎大学附属図書館交流会にて講演「メモリーハンティング(メモハン):写真と時間と人の新たな関係を見出すモバイルアプリ」を行うとともに、長崎市街にて古写真の撮影場所を特定するフィールドワークを行った。
研究成果公表計画
今後の展開等:
 「メモリーハンティング」はすでにウェブサイトで公開済みであり、アプリもGoogle Playから無償で配布中である。ただし現在のバージョンにはユーザビリティ上の問題も存在することから、新しいバージョンの開発を進めている。来年度以降に新バージョンが完成すればアプリの横展開がより簡単となるため、多くの地域における多様な利用への道も開けてくる。地域研究におけるフィールドワークに貢献するモバイルアプリとして、今後も改良を続けていきたいと考えている。