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災害対応の地域研究プロジェクト

危機からの社会再生における情報源としての映像作品―東南アジアを事例として(h27)

個別共同研究ユニット
代表: 篠崎 香織(北九州市立大学外国語学部・准教授)
共同研究員: 岡田 知子(東京外国語大学総合国際学研究院・准教授)、長田 紀之(日本貿易振興機構アジア経済研究所・リサーチアソシエイト)、坂川 直也(元・東南アジア研究所・教務補佐員)、篠崎 香織(北九州市立大学外国語学部・准教授)、玉置 真紀子(江戸川大学社会学部・非常勤講師)、西 芳実(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)、平松 秀樹(大阪大学外国語学部・非常勤講師)、山本 博之(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)
期間: 平成27年4月~平成28年3月(1年間)
目的:  「映画の空白地帯」とされてきた東南アジアでは2000年代以降、長編・短編の劇映画やドキュメンタリー映画など映像作品の製作が活発化しており、国際的に注目され高い評価を得ている。その背景には、デジタル・通信技術の進展により誰もが映像を製作できるようになったことと、東南アジアの多くの国において強権的な統治が緩み表現の自由が拡大したことが重なり、映像を通じて個々の問題意識や表現欲求を表明する人たちが増えたという事情がある。東南アジアでは、災害をめぐる個人の経験が映像を通じて記録されつつあるとともに、急激な経済成長に伴う経済的格差の拡大など今日的な課題を扱う映画や、紛争や政治的抑圧などこれまで封印されてきた負の歴史を扱う映画が作られるようになっている。本研究はこうした状況に着目し、東南アジアの人たちが映像作品を通じて危機をどのようにとらえ、それにどう対応しようとしているのかを明らかにすることを目的とする。
研究実施状況:  研究会5回、公開シンポジウム3回(いずれも日本国内の国際映画祭と連携)を行い、ディスカッション・ペーパーを刊行した。
(1) 研究会
第1回(2015年5月20日、国際交流基金)
 報告1:山本博之「ブルネイの映画事情」
 報告2:玉置真紀子「フィリピンの映画事情」
 参考上映『エキストラ』(Jeffrey Jeturian監督、2013年、フィリピン)
第2回(2015年7月31日、国際交流基金)
 報告1:坂川直也「最近のベトナム映画事情:B級映画都市サイゴン復活以後」
 報告2:橋本彩「ラオス映画事情」
 報告3:亀山恵理子「東ティモール映画事情」
 参考上映『ベアトリスの戦争(Beatriz's War)』(Bety Reis監督、2013年、東ティモール)
第3回(2015年10月4日、京都大学地域研究統合情報センター)
 報告1:坂川直也「新しいヒロイン像(陽):ベトナム映画における戦う女たち」
 報告2:西芳実「インドネシア映画における闘う女と見守る男:『黄金杖秘聞(2014)が示す危機への立ち向かい方』」
 報告3:篠崎香織「短編作品から読み解く東南アジア華人社会」
 字幕講習会 講師:篠崎香織、西芳実、素材提供者:長田紀之
第4回(2015年11月25日、国際交流基金)
 報告1:長田紀之「ミャンマーにおける短編映画と社会 ミャンマー周縁の生と性:ショートムービーBurmese Butterfly(2011)に寄せて」
 報告2:亀山恵理子「東ティモールにおける短編映画と社会」
 報告3:橋本彩「ラオスにおける短編映画と社会」
(2) 公開シンポジウム
 公開ワークショップやシンポジウムを実施した。
(3) 出版
 共同研究員を主な執筆者とするディスカッション・ペーパーを刊行した。
研究成果の概要:  災いを扱う映像作品を分析する際に、災いに起因する社会的亀裂とそれへの対応を、その社会で製作され公開・発信されている映像作品を通じて読み解くことが有効であることが確認され、その方法が共有された。同一の災いを題材として複数の映像作品が作られており、それらの作品では家族・親戚、友人、隣人、同僚など身近な人たちとの間に生じた災いに由来する個別多様的な亀裂が描かれている。災いを扱う映像作品は、一定の人口規模を見舞った災いという「大きな物語」のなかで展開していた市井の人たちの個別多様的な「小さな物語」をとらえる試みとして位置づけることができる。これらの映像作品は、作品として破綻しないように「物語」を収束させなければならず、そのなかで社会の亀裂も修復や再編に向けて描かれる構造が内包されている。また「小さな物語」の状況設定とその対応方法は、現実社会の制約を受けながらも、作り手の意図を反映するものとして解釈することができる。過去を振り返ることは、往々にして現在の課題に対応するための参照点を探す試みであることをふまえると、ある映像作品においてなぜ特定の状況設定と対応方法が選択されたのかを分析することにより、その映像作品に関わる地域にどのような社会の亀裂が存在し、それがどのように修復されようとしているのかを明らかにすることができるといえる。
公表実績: (1)出版
 山本博之・篠崎香織編 2016『たたかうヒロイン──混成アジア映画研究2015』(CIAS Discussion Paper No. 60)京都大学地域研究統合情報センター。
 岡田知子 2016「ひとつのジャンルとしての「ポル・ポト映画」山本・篠崎編 2016『たたかうヒロイン』、88-98。
 長田紀之 2016「映画祭でつながるミャンマーと世界──ポスト軍政期の新展開」山本・篠崎編 2016『たたかうヒロイン』、99-102。
 亀山恵理子 2016「東ティモール独立後に制作された作品」山本・篠崎編 2016『たたかうヒロイン』、107-110。
 坂川直也 2016「サイゴン新世代がつくる『英雄』たち──現代ベトナムにおけるヒーローアクション映画をめぐって」山本・篠崎編 2016『たたかうヒロイン』、25-36。
 篠崎香織 2016「競争社会での居場所探しとしてのシンガポール映画──アーベンと「兄弟」の物語」山本・篠崎編 2016『たたかうヒロイン』、74-87。
 西芳実 2016「『黄金杖秘聞』作品情報」山本・篠崎編 2016『たたかうヒロイン』、69-72。
 橋本彩 2016「立ち上がり始めたラオス映画界──その変遷と現在」山本・篠崎編 2016『たたかうヒロイン』、103-106。
 平松秀樹 2016「ノラの如く、自由を求める『天地果てるまで』──ヒロインの飛翔と失墜」山本・篠崎編 2016『たたかうヒロイン』、17-24。
 山本博之 2016「脱アメリカ的正義の模索──フィリピンのスーパーヒロイン『ダルナ』」山本・篠崎編 2016『たたかうヒロイン』、8-16。
 山本博之 2016「ポーズとフレーム」谷川竜一、原正一郎、林行夫、柳澤雅之編著 2016『衝突と変奏のジャスティス』青弓社、90-113。
(2)公開シンポジウム
 上映・講演会「多色字幕による多言語映画の表現」(マレーシア映画ウィーク関連企画、2015年4月13日・4月15日、シネマート六本木)
 公開ワークショップ「変身するインドネシア──力と技と夢の女戦士たち」(アジアフォーカス福岡国際映画祭「マジック☆インドネシア」関連企画、2015年9月20日、キャナルシティ博多)
 シンポジウム「“手に職系”女子とフォーエバー・ポギー」(大阪アジアン映画祭連携シンポジウム、2016年3月11日、国立国際美術館講堂)
(3)ウェブサイト
 マレーシア映画文化研究会ウェブサイト(http://www.cias.kyoto-u.ac.jp/~yama/film/index.html
研究成果公表計画
今後の展開等:
 災いに対する社会的対応の実践事例の一つとして映像作品を扱う方法論の構築については、平成28年度京都大学地域研究統合情報センター共同研究「災害対応の実践の場としてとらえる映像作品—東南アジアを事例として」において継続して実施する。本研究の成果である山本・篠崎編 2016『たたかうヒロイン』において展開した議論の精緻化を図り、平成29年度内に商業出版を通じた研究成果の公開を目指す。また映像作品に見る「物語」に着目し東南アジアをとらえる視点を、東南アジアで映画製作が開始した20世紀前半に適用し、民衆レベルでの東南アジアの統合を東南アジアの近現代史からとらえなおすという発展的な試みを、科研費基盤研究B「物語文化圏としての東南アジア-20世紀前半の映画の製作・流通に見る越境性と混血性」(研究代表者:山本博之、H28〜31年度)において実施する。