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災害対応の地域研究プロジェクト

建築を通したポピュラー文化の記憶の場の構築力の解明(h25~h26)

個別共同研究ユニット
代表: 山中 千恵(仁愛大学人間学部コミュニケーション学科・准教授)
共同研究員: 伊藤 遊(京都精華大学国際マンガ研究センター・研究員)、表 智之(北九州市漫画ミュージアム・専門研究員)、谷川竜一(京都大学地域研究統合情報センター・助教)、村田 麻里子(関西大学社会学部・准教授)、山中 千恵(仁愛大学人間学部コミュニケーション学科・准教授)、脇田 貴文(関西大学社会学部・准教授)
期間: 平成25年4月~平成27年3月(2年間)
目的:  本研究は、戦争や災害等「負の記憶」を留める場所(「記憶の場」)や、開発によって失われた風景や文化がドラマ・映画・マンガなどのメディアにより表象され、観光化されることで生じる記憶の政治学を分析するものである。特に、ミュージアムという場に注目しつつ、これを進める。分析を通して、グローバル化時代における集合的記憶の重層的な構築過程を明らかにし、また、現代社会において、空間や場所がいかに再配置されようとしているのかを検討する。
研究実施状況: -平成25年度-
 本年度は、非‐場所的で、歴史的記憶とは切り離されたかのように見える施設である、国内の「ポピュラー文化ミュージアム」の調査を行った。石巻市、新潟市におけるマンガミュージアム関係者にインタビューを行い、各ミュージアムの設立の経緯や現在直面している課題などの情報を収集した。特に石巻市石ノ森萬画館においては東北のマンガミュージアム関係者を集め、シンポジウムを開催した。

-平成26年度-
 昨年度(2013年度)末に出版した『マンガミュージアムに行こう』においてポピュラー文化と地域振興の関連やその特性をレビューしたが、本年度はそうした視点をさらに深めながら、よりポピュラー文化ミュージアムが地域にもたらす意味や効果といったものを具体的に検討するために、地域の動向の把握や建築分析などに力を入れた。前者では、近年日本において特に活発な活動を行っている熊本において、関係者を招きシンポジウムを開催した。後者では日本における大型マンガミュージアムを設計している組織設計事務所である日本設計において、マンガミュージアムの設計経験を持つ建築家にインタビューを行った。そして2014年7月には、京都精華大学におけるマンガ学会の年次集会において経過報告発表を行うことで研究のアピールと方向性のブラッシュアップにつとめるとともに、2015年1月に仁愛大学において熊本と同規模のシンポジウムを行い、研究成果の発信や連携推進を行った。
研究成果の概要: -平成25年度-
 石巻市石ノ森萬画館において開催したシンポジウムは大盛況に終わり、地域とポピュラーカルチャーミュージアムの関係における課題と可能性を、実務レベルで整理することができた。各館が抱える建築的な課題なども提示され、今後の研究に有効な知見を得ることができた。
 最大の成果として、国内外のマンガミュージアム約30館の調査結果をまとめながら、ポピュラーカルチャーとメディア、地域とミュージアムなどの分析視点を提示した書籍『マンガミュージアムへ行こう』(岩波ジュニア新書、岩波書店、2014年3月)に出版することができた。同書は本個別研究の成果を盛り込んだものであり、中高生向けの新書という形態をとっているため、将来的かつ一般社会へのインパクトが大変高いと予想される。特にメンバーの谷川による北九州市マンガミュージアムや水木しげるロード、赤塚不二夫会館やベルギーのマンガミュージアムに関する分析は、本研究課題で得た空間分析の視点や手法を用いて、建築的な分析を一般に分かりやすい形で行っており、本課題の重要な成果となっている。

-平成26年度-
 2014年度は上記のように、研究グループを中心とした関係者による研究会を2ヶ月毎に1回開催しながら、100人を超える大型のシンポジウムを2回(熊本、福井)、学会発表(マンガ学会@京都精華大)を1回、国内の関連インタビューを2回(東京、熊本)行った。
 近年の日本におけるポピュラー文化ミュージアムのなかでも、マンガミュージアムに対する一般的な期待は強い。地域振興、文化振興、あるいは地域のコミュニティーの核として、はたまた「クールジャパン」といったややナショナリスティックな役目をもった旗手として、様々な文脈から設立が望まれている。一方マンガミュージアムの来館者の調査を進めていると、マンガの愛好者やコレクター、一般の読者たちといったレベルでは、マンガそのものを生活文化として消費しながら、常に自らの記憶や体験と照らし合わせて楽しむ姿が多く見られる。つまり、マンガを取り巻く側の要望とそれを消費する側との接合面が、マンガミュージアムであるわけである。こうした点を反映させ、企画者、マンガ関係者、その双方を跨ぐ方々をシンポジウムに招聘して議論を深めることで、マンガというポピュラー文化によって地域振興を行うのではなく、地域こそが豊饒なマンガ文化を育む揺りかごとなる可能性が示唆された。その旨を論じた論文及びインタビュー集としてディスカッションペーパー1冊を、そしてポピュラー文化プロデュースと建築の相互関係に関する成果として査読論文を1本出版することができた。
公表実績: -平成25年度-
【書籍】
・伊藤遊、谷川竜一、村田麻里子、山中千恵『マンガミュージアムへ行こう』岩波書店(岩波ジュニア新書)、2014年3月、全215頁。
【関連シンポジウム】
・本個別研究ユニット主催公開シンポジウム「東北のマンガミュージアム」石巻市石ノ森萬画館、2013年11月30日。
【その他】
・谷川竜一「マンガは地域にとっていかなる意味や力を持ちうるのか」京都大学地域研究統合情報センター『京都大学地域研究統合情報センターニューズレター』Vol.14、2014年3月、9頁。

-平成26年度-
【論文】
・山中千恵、村田麻里子、伊藤遊、谷川竜一(2015)「韓国漫画映像振興院における来館者調査―来館者の物理的・社会文化的・個人的コンテキストをめぐって―」『人間学研究』Vol.13,47-64. 中部人間学会(査読付)
・谷川竜一、山中千恵、伊藤遊、村田麻里子編『日本のマンガミュージアム2』京都大学地域研究統合情報センターディスカッションペーパーNo.52、京都大学地域研究統合情報センター、2015年(全122頁)
【学会発表】
・伊藤遊、谷川竜一、村田麻里子、山中千恵「マンガミュージアム研究の可能性」日本マンガ学会第14回大会 京都精華大学 2014年6月28日
【関連シンポジウム】
・本個別研究ユニット主催公開シンポジウム「マンガ文化で熊本を活性化――マンガを活用した民・官・学の取り組み――マンガ文化は地域をいかに変えうるのか?」崇城大学(熊本県)2014年8月7日
・本個別研究ユニット共催シンポジウム「地域おこしとキャラクター文化」仁愛大学(福井県)2015年1月24日
研究成果公表計画
今後の展開等:
-平成25年度-
 2013年度において行ったインタビューやシンポジウムの記録を紙面においてまとめると同時に、関連学会における発表を目指す。特にミュージアムをいかに作るかという観点においては、これまでの調査で様々な知見を収集しており、それらを研究会などでより深く分析・考察を行いたい。
 また、国内の著名なマンガミュージアムを設計した建築家や組織事務所などにもアプローチし、可能であればインタビューを行いたい。最終年度であり、本年出版した新書以外のアウトプットの方法に関しても、工夫をしたいと考えており、次年度の早い段階で決定する。

-平成26年度-
 2014年度の研究をベースにして、科研費(村田・伊藤ともに科研基盤C)を獲得することができた。そこで展開するのは以下の二つの実践である。
 一つ目はポピュラー文化ミュージアム批評空間の創出である。ポピュラー文化ミュージアムに関しては、東アジア、とりわけ日本は世界的にも高いオリジナリティを持つと同時に、先進地域でもある。それを背景にして、ポピュラー文化ミュージアムを望む声は多くあっても、その動きやミュージアムそのものを更新・改善していくような批評空間が存在しない。この点は非常に大きな問題であり、我々研究グループが懸念している実際的な問題である。本個別プロジェクトで培った日本国内のマンガミュージアムを中心にして、相互批評を可能にするような仕組み作りを目指したいと考えている。
 二つ目は、マンガをはじめとするスポーツや音楽などのポピュラー文化を用いてどのような展示が可能なのか、展示を企画しながら実践的に挑戦していきたいと考えている。今後は、本個別プロジェクトで行った建築家や展示空間のデザイナーや企画者らのインタビューを今後も継続しつつ、京都国際マンガミュージアムなどと連携する。そして学術誌における発表とは別に、マンガミュージアムそのものを批評・議論するような展覧会を企画し、成果還元を目指したい。