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災害対応の地域研究プロジェクト

災厄からの再生のための記録と記憶の〈場〉ー災害・紛争後の記憶をつなぐ実践・支援とその可能性ー(h25~h26)

個別共同研究ユニット
代表: 寺田 匡宏(総合地球環境学研究所・特任准教授)
共同研究員: 亀山 恵理子(奈良県立大学地域創造学部・准教授)、川喜田 敦子(中央大学文学部・准教授)、清水 チナツ(せんだいメディアテーク・職員)、寺田 匡宏(総合地球環境学研究所・特任准教授)、山本 博之(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)
期間: 平成25年4月~平成27年3月(2年間)
目的:  災厄からの再生を目指して記録と記憶を行う活動に関しては、近年新しい動きが進んでいる。それらはミュージアムやアーカイブのような具体的な場所の中で営まれる場合もあるが、ネット上で行われたり、語り継ぎや聞き取り・聞き書きのように人々のつながりの中で実践されたりしている場合もある。それらの実態を広く〈場〉ととらえ、その実践のありかたを、組織の形態や支援者も含めたそれを取り巻く人々のネットワークの様態からとらえることで、自然災害やその他の災厄からの再生と強靭でしなやかな社会の構築の方法と可能性を探る。
研究実施状況: -平成25年度-
 本年度は研究会においてふたつのことを行った。一つは、共同研究のテーマともなっている〈場〉についての理論的考察で、もう一つは、参加メンバーによる問題意識の共有のために行ったメンバーがこれまで研究してきた具体的な場に即した事例の収集である。開催実績は下記のとおりである。
【第1回研究会】(2013年8月10日)
テーマ:東日本大震災の記録と記憶をめぐる現状と課題
寺田匡宏「災害2年5か月後の三陸を見て考えたこと――記憶・記録・展示・被災物の視点から」
【第2回研究会】(9月18日)
テーマ:災害後社会の復興における記憶と記録――コミュニティを結び育てる場としてのミュージアム
寺田匡宏「〈場〉の中の記憶――記憶のネットワークにむけての試論」
【第3回研究会】(10月20日)
テーマ:映像による東日本大震災の記録の方法とその支援の可能性をめぐって――映画「なみのおと」上映と研究会
【第4回研究会】(2014年3月18日)
亀山恵理子「東ティモールにおける紛争の記録と記憶の〈場〉」

 また、9月には岩手県大船渡市において、現地調査と研究成果の公開に関する打ち合わせを地元機関と行った。

-平成26年度-
 本年度も昨年度に引き続いて〈場〉についての理論的考察とメンバーがこれまで研究してきた具体的な場に即した事例研究を行うとともに、それをもとにした成果の取りまとめと出版のための準備を行った。研究会の開催実績は下記のとおりである。
【第1回研究会 2014年5月23日】
寺田匡宏「縄田浩志 「できたこととできなかったこと、伝わったことと伝わらなかったこと:展示「砂漠を生き抜く」と出版『砂漠誌』を通じて」へのコメント」
※共同研究「メディアの記憶をめぐるウチとソト―多声化社会におけるつながりと疎外の動態」との共催
【第2回研究会 2014年12月17日】
出版企画「災厄からの立ち直り(仮)」に関する打合せ
【第3回研究会 2015年2月26日】
北野央氏(せんだいメディアテーク)+清水チナツ氏(せんだいメディアテーク)「せんだいメディアテークという場における記憶――「3がつ11にちをわすれないためにセンター」と展覧会「想起と記憶」をめぐって」
研究成果の概要: -平成25年度-
 上記の研究実施を通じて、①〈場〉についての理論的整理の成果として、フランスの地理学者オーギュスタン・ベルクの所論や、アナール派第3世代のピエール・ノラの『記憶の場Les Lieux de memoirre』を参照し、記憶を個人的な営為ではなく社会的実践としてとらえること、認識の“地”としてとらえること、身体と環境の相互作用としてとらえること、個人の身体と集合的(社会的)身体の二元論の脱却の契機としてとらえることを確認した。また、②具体的な〈場〉の事例として、東日本大震災の被災地における展示と遺構の保存、映像による記録、インドネシア・アチェにおける博物館展示とアニメーション、小説による記録と記憶活動、モバイル博物館の試み、神戸における民間によるモニュメントの建設、東ティモールにおける博物館、モニュメント、真実究明運動について情報を集積した。その中から、記録と記憶の〈場〉を通じたしなやかな社会構築のための課題として、記憶を〈場〉で残すことの意味、聞くことと聞かれることの関係性の再考、自己の記憶と他者の記憶の記憶のされ方の相違を解明する必要が明らかになった。

-平成26年度-
① <場>と記憶についての理論的整理の成果として、フランス・アナール派第3世代のピエール・ノラの『記憶の場Les Lieux dememoirre』の再検討を改めて行い、記憶の場という発想が、近代が依拠してきた「歴史」と「空間」という二つの基本的概念に代わる概念として提唱されていることを確認した。また「歴史」と「空間」は西洋的概念でもあるが、それに代わって「記憶」と「<場>」という概念を用いることで、非西洋における過去表象をより広くとらえることができる可能性についても確認した。
② 具体的な<場>の事例研究としては、東ティモールにおける復興と記憶、フィリピンにおける人道援助と社会とのかかわり、アチェにおける内戦と津波災害の記憶の相違、ドイツにおけるホロコーストの記憶をめぐる理論的展開の歴史、東日本大震災におけるせんだいメディアテークの役割について検討を行った。その中からは、災害や紛争後の記憶をつなぐためには博物館やメモリアルのような特定の場所だけではなく、広くネットワークのようなものまでを含む<場>が重要であること、その<場>がより良いものとして機能するための条件として当事者だけではなく非当事者も関わりうることや、その<場>にかかわる構成員が<場>をメディアとしてとらえ、それがもつ限界と可能性に自覚的であることが明らかになった。
公表実績: -平成25年度-
・山本博之『復興の文化空間学―ビッグデータと人道支援の時代』,京都大学学術出版会,2014年
・寺田匡宏「見えにくい災厄にどう向き合うか-フクシマ - 東京/アウシュヴィッツ - ベルリン-」『歴史学研究』909号,2013年9月
・公開シンポジウム 2013年9月18日<災害後社会の復興における記憶と記録―コミュニティを結び育てる場としてのミュージアム―>(科研「災害対応の地域研究」ほかと共催)

-平成26年度-
・亀山恵理子「「小さな物語」をつなぐ方法:1975~2002年東ティモール紛争」牧紀男・山本博之編『国際協力と防災:つくる・よりそう・きたえる』(災害対応の地域研究3)京都大学学術出版会、2015年。
・Eriko Kameyama ‘Can we make “our story”?- Reflections on aid with long-term perspective’, The 5th International Conference on Aceh and Indian Ocean Studies (ICAIOS) ‘Conflict, Disaster, and Beyond: Change, Sustainability and Interconnectidness in the Indian Ocean Regions’ (17 November 2014, UIN Ar-Raniry, Indonesia)
・寺田匡宏『人は火山に何を見るのか:環境と記憶/歴史』昭和堂、2015年、208頁。
・寺田匡宏「「無名の死者」の捏造:阪神・淡路大震災のメモリアル博物館における被災と復興像の演出の特徴」木部暢子『災害に学ぶ:文化資源の保全と再生』勉誠出版、2015年、61-115頁。
・寺田匡宏「<場>のあり方から見た日本の近代/現代における自然災害の公的記憶:関東大震災と阪神大震災に関する博物館・メモリアルのトポスと建築における復興と慰霊の表象の比較分析」『日本研究論集』(特集:災害と復興)、第5巻、ハノイ国家大学人文社会科学大学、2015年。(ベトナム語)
・山本博之「災害が露にする「地域のかたち」:スマトラの人道支援の事例から」木村周平・杉戸信彦・柄谷友香『災害フィールドワーク論』古今書院、2014年、188-203頁。
・山本博之「大規模災害への対応はフィリピンに「新たな公共」を生み出せるか:信頼できる公的な情報を発信する主体としての地方行政の役割」青山和佳・山本博之編『台風ヨランダはフィリピン社会をどう変えるか―地域に根ざした支援と復興の可能性を探る』京都大学地域研究統合情報センター、2014年、68-70頁。
・山本博之「地域に根ざした災害からの復興:「災害対応の地域研究」の主流化に向けて」『日本研究論集』(特集:災害と復興)、第5巻、ハノイ国家大学人文社会科学大学、2015年。(ベトナム語)
・牧紀男・山本博之編『国際協力と防災: つくる・よりそう・きたえる』(災害対応の地域研究3)京都大学学術出版会、2015年。
研究成果公表計画
今後の展開等:
-平成25年度-
 次年度は,本年度に引き続き,①<場>についての理論的整理と,②具体的な記録と記憶の<場>の事例の収集を行うとともに,それらを止揚し,③自然災害やその他の災厄からの再生と強靭でしなやかな社会の構築の方法と可能性を探ることを行う。具体的には,①に関しては,ゲストスピーカーを招いた研究会を行う。②に関しては,引き続き東日本大震災,神戸,アチェ,東ティモールに関する事例を収集するとともに,ドイツなど他の地域の事例を収集する。③に関しては,具体的な社会提言としてまとめた報告書の刊行を目指す。

-平成26年度-
研究成果は、高校生向けの著作『災厄からの立ち直り――将来〈世界〉と人に関わりたいと思っている高校生のためのミクロな場からの声』(仮)として出版予定である。