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災害対応の地域研究プロジェクト

記録・記憶と社会の再生(h25~h27)

複合共同研究ユニット
代表: 谷川 竜一(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)
山本 博之(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)
共同研究員: 谷川 竜一(京都大学地域研究統合情報センター・助教)、山本 博之(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)
期間: 平成25年4月~平成28年3月(3年間)
目的:  社会の記録としての文化や集合的記憶は、グローバル化などの変化を乗り切るための各社会内における紐帯として重要な役割を担うと同時に、新しい世代にとっては自己の社会を硬直させる足かせともなりうる。本プロジェクトではそうした矛盾を意識しながらも、文化や記憶は各社会が自立性を維持しながら、危機やめまぐるしい変化を乗り切るために不可欠なものとして捉える。具体的には、紛争、災害、社会間の対立や格差などに見舞われた社会において、有形無形の記録・記憶の収蔵庫が編み出され、活用される事例を、個別研究と協働して考察する。記録や記憶の確立(時に忘却)の手法を、レジリエンスとしての社会再生・再編に結びつける実践的な手立てとして提案する。
研究実施状況: -平成25年度-
 紛争、災害、社会間の対立や格差などは、露骨な暴力や具体的な被害として、先鋭化して現れるだけではなく、長期的な社会変動や地域経済の浮沈などとしても現れる。こうした問題意識に則り、本複合プロジェクトでは、個別研究ユニットである「『小さな災害』アプローチによる紛争・災害に強い社会づくり」(代表:西芳実)及び「建築を通したポピュラー文化の記憶の場の構築力の解明」(代表:山中知恵)、「災厄からの再生のための記録と記憶の〈場〉」(代表:寺田匡宏)などを中心に連携を行い、9月18日、第5回京都=アチェ「災害と社会」国際ワークショップ「災害後社会の復興における記憶と記録――コミュニティを結び育てる場としてのミュージアム」、11月30日、シンポジウム「東北のマンガミュージアム」のようなイベントを開催した。これらを通じ、災害と社会に関する知見を長期的な視野から深めるとともに、記憶の収蔵庫としてのミュージアムが地域に果たす役割を、整理・検討した。

-平成26年度-
 本年度は、本複合研究下に所属する3つの個別ユニットのうち、「災厄からの再生のための記録と記憶の〈場〉-災害・紛争後の記憶をつなぐ実践・支援とその可能性」ユニット(代表・寺田)、建築を通したポピュラー文化の記憶の場の構築力の解明(代表・山中)の2つが最終年度を迎えた。従ってこれら2つの個別ユニットは成果のまとめの年にあたり、そのサポートを行うと同時に、各会合での成果共有や社会的な還元に向けた考察を進めた。
 一方、当複合研究に属するもう1つの個別ユニットである「メディアの記憶をめぐるウチとソト―多声化社会におけるつながりと疎外の動態」(代表・王)は、1年目であり、そこで出て来た論点や視点などを、その他2つの個別ユニットの研究と関係づける枠組みつくりを行った。
 これらを踏まえつつ、複合ユニットにおける成果としてミュージアムや社会復興における記憶などをテーマにし、共同研究の知見や方法論を用いながら成果還元を行った。

-平成27年度-
 ある出来事の記憶が意識化された場合、それを記憶・記録するに値するかどうかをめぐって社会的な衝突が生じがちである。いわば価値観のぶつかり合いとも言え、その調停や調和は容易ではない。本年度、当ユニットはそうした側面に注目しながら、記憶が社会の紐帯となりゆく歴史的な様相、災害からの復興や個人の救済に関わる実相などに注目してきた。
 そして、そうした記憶のメカニズムの解明に対する学術的貢献と、その成果を実社会に還流させるための実践的な取り組みを行っていくことを目標としてきた。今年度は3年目にあたるため、これまでの研究成果をまとめたり、研究期間を終えた過去の個別ユニットのメンバーとの議論も行ったりすると同時に、現行のメンバーや個別研究ユニットメンバーとの連携に努めた。具体的には、学術的な意見交換や発表の場を支援・用意すると同時に、実践的な側面においても映像の上映やアプリ、データベースなどの開発などに関して公開の場や機会を設け、議論を深めた。
研究成果の概要: -平成25年度-
 社会の再生に対して、記憶は必要不可欠な要素だが、どのレベルで、どの人々が、どのように必要としているのかという点に関して、包括的な議論はむずかしい。そうした中で、具体的な場所を深く調査する個別研究との協働により、その地域のコンテクストに応じた危機を乗り越えるための記録・記憶の積極的な扱い方を検討し、ワークショップやシンポジウムなどを通じて学術的な発信を行うことができた。特に、計画通り年2回程度の共同ワークショップを行うことができたと同時に、「ミュージアム」というキーワードを通じて、複合・個別研究の問題意識を共有・再整理できた点は大変大きな成果であった。またそれらは、実際に現地の実務レベルの実践者たちと議論・交流を深める機会ともなった。

-平成26年度-
 本年は、論文5本、冊子2冊、シンポジウム1回が主な成果である。以下より詳細に述べる。
 本年は、論文ユニット代表者との連携を深めながら、ユニット間での具体的な成果や実際的方向の共有を企図した。記録・記憶に関する議論で共通しているのは、いずれも記憶や記憶のみを扱うのではなく、それをやりとりする人、収蔵する博物館、あるいは伝達するためのメディア等の媒体など、それらを広く対象として考察している点である。例えば、「災厄からの再生のための記録と記憶の〈場〉-災害・紛争後の記憶をつなぐ実践・支援とその可能性」ユニット(代表・寺田)では、記憶が造られる場を広く捉え、記憶の<場>をメディアととらえながら、それがもつ限界と可能性に着目するものである。この点は、「建築を通したポピュラー文化の記憶の場の構築力の解明」(代表・山中)ユニットにおいて、ミュージアムに展示されるポピュラー文化やその記憶だけでなく、ミュージアムの展示空間や建築形状まで含めて読み解き可能なメディアとして捉え、地域社会との関係メカニズムを探る視点と接続する。また、「メディアの記憶をめぐるウチとソト―多声化社会におけるつながりと疎外の動態」(代表・王)では、記録や記憶の生成過程を検討する際に、地域社会やメディアだけでなく、研究者までを含み込んでいる点で、前2つのユニットの成果を踏まえつつ、さらに眼前の問題としての記憶のポリティクスに迫るものでもあった。こうした点を共有しつつ、記録・記憶と社会の再生に関する知見を共有することができた。

-平成27年度-
 複合ユニットとしては、個別ユニットのメンバーの成果を全体で共有すると同時に、京都大学地域研究統合情報センターの共同利用・共同研究の推進のためにも、その入れ物となるような出版物の出版に注力・貢献した。その成果として、谷川竜一ほか編『衝突と変奏のジャスティス』青弓社、2016年を出版した。本書は、本複合の代表である山本・谷川(谷川は2015年9月まで)の論考や、本ユニットに属する王の個別研究ユニットの研究成果などが盛り込まれている。
 一方、極めて長い年月を越えて人間や社会の記憶が、意図せざる形で残ったり、ある時に新しい形で再認識されたりする場合がある。その点に注目した成果として、谷川竜一『灯台から考える海の近代』京都大学学術出版会、2016年を出版した。本成果は本複合ユニットで得てきた災害、戦争、地域の象徴などに関与する記憶のメカニズムの諸相に対する知見を使って、建造物の歴史書としてまとめたものである。また、本複合ユニットに属す北本による建築や場所を通した災害の記憶を可視化するアプリの開発などは、昨年まで当ユニットに所属していた寺田ユニットの成果なども引き継ぐ成果とも言え、重層的で多岐的な繋がりをもって、複合ユニット内の情報・成果共有を行うことができた。特に本年は、新たに加わった二つの個別ユニットにより、本ユニット研究の具体性と社会還元性も高まったことを付言しておく。
公表実績: -平成25年度-
(1)書籍
・山本博之『復興の文化空間学―ビッグデータと人道支援の時代』(災害対応の地域研究1)京都大学学術出版会、2014年3月、全302頁。
・西芳実『災害復興で内戦を乗り越える―スマトラ島沖地震・津波とアチェ紛争』(災害対応の地域研究2)京都大学学術出版会、2014年3月、全328頁。
・伊藤遊、谷川竜一、村田麻里子、山中千恵『マンガミュージアムへ行こう』岩波書店(岩波ジュニア新書)、2014年3月、全215頁。
(2)関連シンポジウム
・本個別研究ユニット主催公開シンポジウム「東北のマンガミュージアム」石巻市石ノ森萬画館、2013年11月30日。
(3)その他
・谷川竜一「マンガは地域にとっていかなる意味や力を持ちうるのか」京都大学地域研究統合情報センター『京都大学地域研究統合情報センターニューズレター』Vol.14、2014年3月、9頁。

-平成26年度-
【論文】
・寺田匡宏「「無名の死者」の捏造:阪神・淡路大震災のメモリアル
博物館における被災と復興像の演出の特徴」木部暢子『災害に学ぶ:文化資源の保全と再生』勉誠出版、2015年、61-115頁。
・山本博之「大規模災害への対応はフィリピンに「新たな公共」を生み出せるか:信頼できる公的な情報を発信する主体としての地方行政の役割」青山和佳・山本博之編『台風ヨランダはフィリピン社会をどう変えるか―地域に根ざした支援と復興の可能性を探る』京都大学地域研究統合情報センター、2014年、68-70頁。
・谷川竜一「新しいマンガミュージアムを求めて」谷川竜一ほか編『日本のマンガミュージアム2』京都大学地域研究統合情報センター・ディスカッションペーパー第52号、2015年3月、1-4頁。
・谷川竜一「建築データベースから物語へ」人文情報学月報、2015年3月。
・谷川竜一「世界のジャスティス」『世界のジャスティス』京都大学地域研究統合情報センター・ディスカッションペーパー第50号、2015年3月、1-4頁。
・谷川竜一、山中千恵、伊藤遊、村田麻里子編『日本のマンガミュージアム2』京都大学地域研究統合情報センター・ディスカッションペーパーNo.52、京都大学地域研究統合情報センター、2015年(全122頁)。
・谷川竜一『マンガミュージアムトラッキングブック』2014年度研究報告書、私家版、2015年3月(全150頁)。
【関連シンポジウム】
・共催シンポジウム「地域おこしとキャラクター文化」仁愛大学(福井県) 2015年1月24日

-平成27年度-
谷川竜一『灯台から考える海の近代』京都大学学術出版、2016年。
谷川竜一・原正一郎・林行夫・柳澤雅之『衝突と変奏のジャスティス』青弓社、2016年。
山本博之「ポーズとフレーム―フィリピンの国民的物語の身体化」青弓社、2016年、谷川竜一・原正一郎・林行夫・柳澤雅之『衝突と変奏のジャスティス』青弓社、2016年、90~113ページ。
山本博之・篠崎香織編『たたかうヒロイン──混成アジア映画研究2015』(CIAS Discussion Paper No. 60)京都大学地域研究統合情報センター、2016年。
谷川竜一「3.75°の近代―旧朝鮮総督府庁舎からみる建築設計の歴史的可能性」、谷川竜一・原正一郎・林行夫・柳澤雅之『衝突と変奏のジャスティス』青弓社、2016年、114~137ページ。
王柳蘭編著『声を紡ぎ、掘り起こす—多声化社会の葛藤とメディア』(CIAS Discussion Paper No.66)京都大学地域研究総合情報センター、2016年。
北本朝展「メモリーハンティング(メモハン) - 記憶の場所を探して記録するモバイルアプリ」(http://dsr.nii.ac.jp/memory-hunting/ メモリーハンティングに関するウェブサイトの作成)
谷川竜一「東アジア近代建築史の「空白」に宿る可能性―都市・平壌に刻まれ、紡がれた関係をたどる」『東アジア近代建築史研究の回顧と展望―『東アジアの近代建築』から30年―』日本建築学会、2015年、13~14ページ。
谷川竜一・伊藤遊・榊原充大『空間と姿勢―京都国際マンガミュージアムの場合』電子ブック版、2016年。
王柳蘭「食と宗教―北タイに生きる中国系ムスリム」、谷川竜一・原正一郎・林行夫・柳澤雅之『衝突と変奏のジャスティス』青弓社、2016年、67~89ページ。
谷川竜一「近現代建築史からみた日本による20世紀アジア開発とその連鎖」『Gaia Caramellino × 谷川 竜一 ジョイント・セミナー2015』京都大学地域研究統合情報センター、2015年9月(シンポジウム企画、発表)
研究成果公表計画
今後の展開等:
-平成25年度-
 個別研究ユニットと連携を深めるために、研究会やワークショップなどを引き続き行うと同時に、幅広い研究者間のネットワークを構築することを目指す。
 本年度は、「メディアの記憶をめぐるウチとソト―多声化社会におけるつながりと疎外の動態」(研究代表者:王柳蘭)が新たに当複合と関係を結ぶことになる。ミュージアムなどからさらにメディア一般へと議論を広げる中で、災害や社会的リスクのリアリティが失われることを回避するためにも、密な連絡と議論の共有を進めたい。

-平成26年度-
 次年度はより個別ユニットとの連携を深めつつ、研究協働を進めていく。本プロジェクトは記憶のメカニズムを具体的な人やモノ、メディアとの関係のもとで解析する、研究グループのテーマとしてもまとまりがよく、バランス良く推進できていると考えている。記録・記憶に関する出来事は近年社会的にも強い関心を呼び起こしており、本プロジェクトの強みを活かしながら、進めていきたい。なお、2015年度からは個別ユニットとして「地域の集合的記憶の再編を支援する「メモリーハンティング」の展開と防災・ツーリズムへの応用」(代表・北本)が参加することとなり、本プロジェクトが積み重ねている知見を、より実践知へと転化する可能性を複合・個別全体で考えながら、論文やシンポジウムなどの成果発表を進めたい。

-平成27年度-
 学術界全体における記憶に関する研究は、近年飛躍的に充実したと同時に、その成果の社会的な還元が進んでいる。本ユニットの歩みもそうした学術界の流れと強く共振している。しかし一方で、記憶が生み出す様々な課題や問題、紛争や衝突が減っているというわけではない。特に本複合ユニットで取りあげた、災害の記憶、記憶を伝えるメディアの問題、ポピュラーカルチャーや記憶の場そのものの分析などは、今後も重要な研究の軸となるはずである。各個別ユニットのネットワークを活かしながら、次年度の共同利用・共同研究プロジェクトに引き継げるところは引継ぐ予定である。