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災害対応の地域研究プロジェクト

社会紛争の総合分析に基づく解決・予防の研究─ラテンアメリカの事例から─(h25~h26)

個別共同研究ユニット
代表: 村上 勇介(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)
共同研究員: 共同研究員: 幡谷 則子(上智大学外国語学部・教授)、浜口 伸明(神戸大学経済経営研究所・教授)、宮地 隆廣(東京外国語大学大学院総合国際学研究科・准教授)、村上 勇介(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)、和田 毅(東京大学大学院総合文化研究科・准教授)
期間: 平成25年4月~平成27年3月(2年間)
目的:  本研究の目的は、京都大学地域研究統合情報センターが進めている、ペルーを中心としたラテンアメリカの社会紛争データベースとそれに基づいた社会紛争マッピングシステムをもちいて、社会紛争にかんする総合的な分析を実施するとともに、社会紛争の克服に向けての提言、将来における発生の予測や予防のためのシステムや社会制度について考察することを目的とする。ラテンアメリカ各国の社会においては、歴史的に抱えてきた格差と貧困の問題が、1980年代から90年代のネオリベラリズムの時代をへて増幅される現象が例外なく観察されてきた。それを背景として、社会紛争がいずれの国でも増加する現象が発生し、ガバナビリティにかかわる焦眉の課題となっている。本研究は、ラテンアメリカの主要な事例を比較研究する作業をつうじ、社会紛争の原因と過程について総合的に分析し、その知見を、前出の社会紛争のデータベースとマッピングシステムをもちいて検証する。そして、その結果をもとに、社会紛争の克服のための提言や、社会紛争の予測・予防のためのシステムや社会制度への手がかりを探究する。
研究実施状況: -平成25年度-
本年度は、3回の研究会を実施した。
【第1回】
日時:2013年11月18日(月)13:00~16:00
場所:上智大学2号館815a室
テーマ:
1. 研究会の全体計画について
2. 「ペルーの社会紛争研究――先行研究とデータの概要」岡田勇(地域研)
【第2回】
日時:2014年1月18日(土)13:30~16:30
場所:同志社大学東京オフィス小セミナールーム
テーマ:
「マルチ・エージェントシミュレーションを用いたボリビア社会運動の比較研究」牧田裕美(東京大学大学院)
【第3回】
日時:2014年1月20日(月)14:00~17:00
場所:京都大学稲盛財団記念館2階セミナー室
テーマ:
「ボリビアの社会紛争データ」宮地隆廣

-平成26年度-
本年度は、次の通り、3回の研究会・ワークショップ、研究会・セミナーを実施した。
【第1回】(研究会・ワークショップ)
日時:2014年7月23日(水曜日)~25(金曜日)
会場:京都大学稲盛財団記念館大会議室
テーマ:
“The Future of Democracy after Neoliberalism: Social Movements in a Globalizing World” 7月23日(水)09:00~12:00
“The diminishing returns of transnational disputes: the case of intellectual property rights in Kenya”Nitsan Chorev (Brown University)
“Social Movements and the Rise of Compassionate Democracy”James Jasper (City University of New York) 7月24日(木)13:00~16:00
“Social Mobilization and Resource-Based Growth in Peru”Moises Arce (University of Missouri)
“Democratic Deepening in the Age of Neo-liberalism: Comparing Brazil, India and South Africa”Patrick Heller (Brown University)7月25日(金)09:00~12:00
“U.S. Movements in the Great Depression and Great Recession: Why They Took Off and Why They Were So Different” Edwin Amenta (University of California, Irvine)
“Ironies of Neoliberalism: The Shifting Repertoires of Labor Contention in the United States, with Some Implications for Democracy”Kim Voss (University of California, Berkeley)
【第2回】(研究会・セミナー)
日時:2014年11月17日(月曜日) 16:00-20:00
場所:京都大学稲盛財団記念館中会議室
テーマ:
“Reformas en la América Latina contemporánea y sus lecciones para hoy” (「現代ラテンアメリカの諸改革─その教訓と課題」)
“La reforma agraria en América Latina: su aplicación en el pasado y lecciones para enfrentar la situación actual de la tenencia de tierra”Sergio Gómez (Asesor de la Oficina Regional de la Organización de las Naciones Unidas para la Alimentación y la Agricultura-FAO para América Latina y el Caribe)
“Participacion social en las reformas educativas: el caso de Chile y Mexico” Marcela Gajardo Jiménez (Asesora de la Oficina Regional de la Organización de las Naciones Unidas para la Educación, la Ciencia y la Cultura-UNESCO para América Latina y el Caribe) 
【第3回】(研究会・ワークショップ)
日時:2015年3月7日(土曜日) 13:30-17:00
場所:京都大学地域研究統合情報センター稲盛財団記念館中会議室
テーマ:
“Estado y sociedad en el Perú contemporáneo: violencia, enticidad y descentralización” (「現代ペルーの国家と社会─暴力、エスニシティ、地方分権化」)
“Etnicidad y violencia en el Perú”Jaime Urrutia (Instituto de Estudios Peruanos)
“Genocidio en los Andes: el silencio de los vivos y el grito de los muertos”Artemio Sánchez (Centro de Investigación y Desarrollo Social)
“Gobiernos locales en el contexto de la descentralización”Moisés Palomino (Instituto de Estudios Peruanos)
研究成果の概要: -平成25年度-
 3回にわたる研究会では、テーマとして取りあげたトピックにくわえ、ラテンアメリカに存在する、社会紛争のデータについての検証を継続的におこなった。
 ラテンアメリカの多くの国には、イベントデータが集積されている。これは、新聞やテレビ、ラジオといった、マスメディアで報じられる社会紛争を記録したもので、大学・研究機関やNGOが収集している。イベントデータは、調査研究の基礎データとして、ひろく用いられている。しかし、その欠点も指摘できる。最大の問題は、ほとんどの場合、紛争の開始やある程度までの展開については、データが存在するものの、紛争の終結についてのデータがないことである。これは、マスメディアや社会一般の関心として、社会紛争が勃発した事実や、その直後の展開については注視されるものの、その収束過程については、時間がかかる場合が多いこともあり、特定の紛争に対する関心が持続しないことが背景にある。
 これに対し、ペルーの人権擁護局(Defensoria del Pueblo)の社会紛争データは、紛争の開始にくわえ、紛争が終息した場合は、そのデータも収集されている点で特異である。ラテンアメリカで唯一といってよく、紛争の原因のみならず、その終結の過程、条件、状況を調査研究することができる興味ぶかいデータを含んでいる。そこで、ペルーの人権擁護局の社会紛争データを整備し、容易に参照、利用できるようにすることは重要であることが確認できた。
 また、イベントデータについては、ボリビアのものがより整理された形で存在していることが判明した。そこで、ペルーとボリビアについての比較分析を来年度に試みることになった。
 他方、ペルーの人権擁護局の社会紛争データを使って、その発生過程についての分析を行なった。ペルーの社会紛争については、多くはないものの一定の数の、質的、量的、両面での先行研究が存在し、そのうちの幾つかは、人権擁護局の社会紛争データを用いている。その分析結果は、天然資源の開発収益から得られる地方交付金が多い地域ほど、社会紛争が発生する傾向を指摘している。ただし、先行研究の分析は、2007年までのデータを使って分析したもので、最近のデータを分析した研究はまだなされていないのが現状である。  データを整備しつつ、分析を行なったので、分析は、まだ途上段階であるが、少なくとも、先行研究が考慮していない最近のデータ(2008年以降のもの)に基づくと、先行研究が主要な原因と指摘する、天然資源の開発収益による地方交付金は、説明要因として、一定の有効性を持っていることが確認できる。ただ、これは、先行研究と同じく、データ全体・全期間を対象とした、いわば、粗い分析である。先行研究では、時間軸や地域差(紛争が多発する地域と少ない地域)が考慮されておらず、これらの視点からも分析をすすめる必要がある。

-平成26年度-
 今年度は、昨年度の成果を基に、主としてペルーとボリビアの社会運動データの分析とその比較を実施する予定であったが、関係者の異動などの事情により、比較分析を実施することができなかった。他方、ペルーの社会紛争に関する基礎データの整理が基本的にはほぼ完了し、ペルーの事例に関する分析は進めることができた。
 ペルーの社会紛争については、天然資源開発に関連した紛争が多く発生しており、それに関する先行研究は、天然資源の開発収益から得られる地方交付金が多い地域ほど、社会紛争が発生する傾向を指摘している。しかし、前年度の報告で指摘したように、天然資源の開発収益による地方交付金は、説明要因として、一定の有効性を持っていることが確認できる一方、紛争が多発する地域と少ない地域といった地域差が考慮されていない限界がある。
 そこで、今年度は、先行研究を踏まえつつ、農業生産活動の重要度(開発による負の影響)、貧困度、過去における天然資源開発の経験の有無、天然資源の開発収益による地方交付金の程度、天然資源開発に反対する左派系政治勢力の存在の有無、5つの要因が社会紛争の発生頻度に与える影響について、社会紛争の発生する頻度の高い地域のあいだでの比較分析を行なった。
 その結果、基本的な要因として最も重要なのは、過去における天然資源開発の経験の有無であることが判明した。具体的には、1990年代よりも前から天然資源開発の経験を有している地域では、貧困度や天然資源の開発収入による地方交付金の程度、左派系政治勢力の存在といった要因は重要な影響を持たない。唯一重要なのは、農業生産活動の重要度である。つまり、農業生産に負の影響が出ることが懸念される場合に、社会紛争が発生する。これに対し、1990年代以降に天然資源開発が進んだ地域では、貧困度、天然資源の開発収入による地方交付金の程度、左派系政治勢力の存在が社会紛争の要因として重要であ る。
公表実績: -平成25年度-
なし

-平成26年度-
・村上勇介「ポストネオリベラリズム期ペルーの社会紛争と政治の小党分裂化」村上勇介編『21世紀ラテンアメリカの挑戦─ネオリベラリズムによる亀裂を超えて』(京都大学学術出版会、2015年)。
村上勇介編『21世紀ラテンアメリカの挑戦─ネオリベラリズムによる亀裂を超えて』(京都大学学術出版会、2015年)。
・Okada, Isamu, “Incertidumbre sobre la participación política ante el reciente desarrollo minero en el Perú: análisis comparativo de los casos” (6ta Conferencia de Consejo de Estudios Latinoamericanos en Asia y Oceanía-CELAO, Kyoto University, 2014).
研究成果公表計画
今後の展開等:
-平成25年度-
 二年目の研究は、比較分析の深化、データベースの完成、社会紛争終結の過程とメカニズムの考察の三点がおもな活動となる。 比較分析は、ふたつの側面からなる。第一は、データベースの整備がもっとも進んでいるペルーのケースについて、社会紛争の原因をめぐる分析を終えるとともに、その終結過程についての分析をすすめることである。原因の分析は、初年度の作業を継続、発展させ、時間軸を加えるとともに、社会紛争の地域差の背景も分析し、発生メカニズムを解明する。さらに、紛争終結過程についての分析をおこない、地域的な条件の違いなどについて考察する。比較分析の第二点目は、発生メカニズムについて、データが比較的そろっているボリビアと対照させることである。
 データベースは、前述の分析を実施するため、ペルーのものについて整理を完成させる。とくに、時間軸をいれて活用できるデータセット、ならびに終結した紛争についてのデータセットの作成である。
社会紛争の終結過程については、事例研究をふまえた考察をおこなう。このテーマについては、年度の終盤に、現地研究者ないし実務者をまじえたワークショップかシンポジウムを開催することを計画する。
 研究会は、上述のテーマについて、4回をめどに実施する。

-平成26年度-
 京都大学地域研究統合情報センターの平成27年度個別共同研究ユニット「ラテンアメリカにおける社会紛争─発生・終結プロセスの比較研究」の活動をつうじ、ペルーの事例についての検証(ペルーにおいて紛争の発生頻度の低い地域との比較)ならびにペルーと他の国との比較を実施するとともに、それらの研究成果の公開をはかる。