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地域情報学プロジェクト

1950・1960年代の東南アジア・ムスリムの社会史(h27)

個別共同研究ユニット
代表: 坪井 祐司(東洋文庫・研究員)
共同研究員: 金子 奈央(アジア経済研究所地域研究センター動向分析グループ・リサーチアシスタント)、亀田 尭宙(京都大学地域研究統合情報センター・助教)、國谷 徹(上智大学・研究員)、篠崎 香織(北九州市立大学外国語学部・准教授)、坪井 祐司(東洋文庫・研究員)、光成 歩(宗教情報リサーチセンター・研究員)、モハメド シュクリ(Klasika Media・Director)、モハメド ファリド(Institute of Islamic Understanding Malaysia・Senior Fellow)、山本 博之(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)
期間: 平成27年4月~平成28年3月(1年間)
目的:  京大地域研(CIAS)が所蔵・公開しているジャウィ(マレー語のアラビア文字表記)の雑誌『カラム』の記事データベースを利用した研究を行う。1950~69年にシンガポール・マレーシアにて出版された月刊の総合誌『カラム』は、欠号率が極めて低い状態でCIASに所蔵されており、その記事はローマ字翻字の上で雑誌記事データベースとして公開されており、マレーシアの教育・出版に活用されている。本研究は、『カラム』記事データベースをもとに、情報学の技術を用いたテキスト分析と地域研究者によるテキスト分析の二つを総合的に行い、成果の出版につなげることを目的とする。これにより、情報学と地域研究の連携を通じて資料の意義や新たな知見の可能性を示すとともに、これまであまり焦点が当たらなかった当該時期の島嶼部東南アジアのマレー・ムスリムの諸活動を明らかにする。『カラム』の出版地であるマレーシアにおいてもその成果を論集として出版することを目指す。
研究実施状況:  データベースの構築およびそれを利用した研究の両面から活動を行った。データベースに関しては、「カラム雑誌記事データベース」への記事データの入力を進め、検索の便宜の向上をはかった。並行して、各共同研究員による『カラム』の内容の検討を進め、研究会を3回(2015年4月25日、5月23日、2016年3月28日)開催した。第1、2回の研究会で議論した結果、『カラム』の読者投稿にもとづくQ&Aコーナーであるコラム「千一問」を集中的に検討することを決定した。各自が同コラムに関する論文を執筆し、2016年3月にはディスカッションペーパー『『カラム』の時代VII:コラム「千一問」にみるマレー・ムスリムの宗教実践』を刊行した。第3回研究会では、ディスカッションペーパーの内容についての検討を行った。くわえて、2016年2月にマレーシアの言語出版局との協力により、『カラム』に関する国際ワークショップを開催した。本共同研究のメンバー2名が出張して成果を報告するとともに、現地の研究者と議論を行った。同年3月には、山本博之が『カラム』を扱った著作を出版した。
研究成果の概要:  データベースについては、記事のタイトルだけでなく、記事本文の単語による検索が可能になり、利用の便宜が大幅に向上した。それとともに、『カラム』誌の内容の研究を通じて、先行研究では空白となっている当該時期の東南アジアのイスラム運動やムスリム社会の一端を明らかにした。山本博之による著作は、共同研究の成果をもとに、『カラム』を題材として雑誌を資料として読み解く方法論を示したものである。読者からの質問のコーナーを特集したディスカッションペーパーでは、読者と編集者の一問一答の分析を集中的に行うことで、執筆者のみならずムスリム読者層にまで分析対象を広げることができた。読者の側からは、当時のマレー・ムスリムを取り巻く社会環境が明らかになった。多民族社会において、彼らは結婚などの家族関係や仕事・職場において多様な出自を持つムスリムや非ムスリムと日常的に交渉を持っており、錯綜する価値観のなかで宗教的な正しさを模索した。他方、回答者である編集者エドルスは、イスラムからの逸脱には厳格であったが、西洋近代には肯定的であり、非ムスリムとの関係にも寛容であった。ここから、新たに世俗的な独立国家の建設が進んだ1950、60年代においてもイスラム主義の潮流がみられること、その思想の特徴は改革主義、近代主義、多文化共存型であることがわかる。こうしたイスラムのあり方は2016年2月に開催したマレーシアにおける国際セミナーでも関心を持たれており、現在のマレーシアのイスラムを理解するうえでも重要と考えられる。
公表実績: 【出版】
山本博之『雑誌から見る社会(情報とフィールド科学3)』京都大学学術出版会(2016)
【出版】
坪井祐司、山本博之編『『カラム』の時代VII:コラム「千一問」にみるマレー・ムスリムの宗教実践(CIAS Discussion Paper No.62)』京都大学地域研究統合情報センター(2016)
 目次
  「コラム「千一問」について」(坪井祐司)
  「千一問に見る都市、多民族社会、家族形成」(光成歩)
  「1950年代初頭におけるマレー・ムスリムの社会認識・関心」(金子奈央)
  「車輪を担う」(山本博之)
  「千一問の質問における型」(亀田尭宙)
  「資料編・千一問試訳」
【公開シンポジウム】
“Toward social history of Malay Muslims: Islamic principles and local practices from the perspective of Majalah Qalam (1951-1969)”(2016年2月22日、Dewan Bahasa dan Pustaka, Kuala Lumpur, Malaysia)
 プログラム
  Mitsunari Ayumi, ‘Reform and Reaction: Transition of Qalam’s Approaches over Matrimonial Issues’
  Tsuboi Yuji, ‘Everyday Forms of Islamic Practices in Multi-ethnic Malaya’
【電子媒体】
カラム雑誌記事データベース:http://majalahqalam.kyoto.jp/
研究成果公表計画
今後の展開等:
 データベースについては、現在進行中である『カラム』の記事本文のデータ入力を終え、データベースを完成させる。研究については、2016年度の地域研の共同研究「東南アジアのムスリムをめぐる社会的亀裂とその対応」において、これまでの研究成果を1950・60年代の東南アジアの社会史やイスラム研究へと位置付ける形で発展させ、その成果を商業出版へとつなげる。