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地域情報学プロジェクト

映画に見る現代アジア社会の課題(h25~h26)

個別共同研究ユニット
代表: 篠崎 香織(北九州市立大学外国語学部・准教授)
共同研究員: 及川 茜(神田外語大学外国語学部・講師)、小野 光輔(㈱和エンタテインメント・代表取締役)、篠崎 香織(北九州市立大学外国語学部・准教授)、西 芳実(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)、野沢 喜美子(株式会社プレノンアッシュ・非常勤職員)、深尾 淳一(東京大学総合文化研究科・非常勤講師)、 山本 博之(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)
期間: 平成25年4月~平成27年3月(2年間)
目的:  デジタル・通信技術の進展により、個人の問題意識や表現欲求を表明するうえで映像が一般的な媒体となり、国境や言語を越えて相互参照される機会とその即時性が急増した今日、映像が製作された社会的文脈を踏まえて映像を読み解くリテラシーがますます重要となっている。本研究は、東南アジア地域を事例とし、同地域が政治・経済・文化面で大きな影響を受けてきた中華世界、インド、日本、イスラム圏との相互交流・交渉も考慮しつつ、映画という媒体を通じて社会の課題とそれへの取り組みがどのように表現されているかを明らかにする。またその結果を踏まえて、地域研究の専門性を活かした映画データベースのあり方を検討し、映像資料を通じて地域研究の成果を発信する可能性を探る。これらの作業を行う上で本研究は、CIAS所蔵のマレーシア地域映画コレクションを資料として活用するとともに、データベース開発のための基礎的な素材として同所蔵のマレーシア映画データベースを活用する。
研究実施状況: -平成25年度-
 研究会1回、公開シンポジウム6回(うち2回は日本国内の国際映画祭と連携)を行い、ブックレットや論文などの出版物を刊行した。
(1)研究会(2013年6月16日、学士会館)
 本年度の研究計画および活動について打ち合わせを行った。またマレーシア映画および関連地域(シンガポールおよびインドネシアなどの東南アジア周辺国、中華圏、インド、日本など)の映画についての情報共有・意見交換を行った。
(2)公開シンポジウム
 公開シンポジウムを実施し、地域研究者が映画を切り口に現代アジアの課題を読み解く場を設け、地域研究の資料として映画を扱う方法論を検討した。シンポジウムで取り上げた作品はいずれも、複数の国や地域(マレーシア、シンガポール、日本、韓国、香港など)を跨いで物語が進展する作品となった。またアジアフォーカス福岡国際映画祭、大阪アジアン映画祭などと連携して公開シンポジウムを行い、映画研究者、映画制作者、映画に携わる実務家とも国内外で連携を図った。
(3)出版
 シネ・マレーシア(2013年5月24~31日、オーディトリウム渋谷)と連携したブックレット『マレーシア映画の現在2013』を刊行した。編集および掲載論文25本中21本の執筆を本プロジェクトの共同研究員が担当した。共同研究員による論文も個別に公表された。

-平成26年度-
 研究会4回、公開シンポジウム4回(うち2回は日本国内の国際映画祭と連携)を行い、書籍・論文などを出版した。
(1)研究会
【第1回(2014年9月13日、国際交流基金)】
東南アジア各国の映画事情と現代社会についての紹介。
報告者:山本博之、坂川直也、岡田知子、宮脇聡史、西芳実、篠崎香織、長田紀之、平松秀樹。
【第2回(2014年11月26日、国際交流基金)】
篠崎香織「シンガポール映画事情――『他者』に映し出される自画像」
平松秀樹「タイの映画事情」
【第3回(2015年1月21日、国際交流基金)】
長田紀之「ミャンマーの映画事情――客体から主体へ」
山本博之「マレーシアの映画事情――ヤスミン後のマレーシア映画」
【第4回(2015年3月23日、国際交流基金)】
岡田知子「カンボジア映画事情――『ポル・ポト映画』について」、西芳実「インドネシア映画事情――世界にさらされる小さな英雄たち」
(2)公開シンポジウム
公開ワークショップやシンポジウムを実施した(詳細は項目7を参照)。映画祭との連携を通じて、また独自に参考上映を行うことにより、異なる地域を専門とする研究者が映像資料を共有したうえで、地域に固有の文脈や論理を括りだすとともに、地域横断的に共通する社会的課題の抽出を試みた。
(3)出版
共同研究員による書籍・論文を出版した。詳細は下記を参照。
研究成果の概要: -平成25年度-
 シンポジウムで取り上げた作品や、それらの作品と内容や作り手の系譜などの点で関連する作品において、人の移動という要素がほぼ例外なく物語を展開する一つの背景となっていた。現実の社会では、自己実現の手段として移動する人たちが増えつつあり、そうした状況が映画の中にも日常の風景として映し込まれている。こうしたなかで映画は、家族や地縁・血縁などの結びつき、民族、国家などこれまで個人が自身を世界に意味づけてきた枠組みがすでに自明なものではないことを映し出している。都市への移動を、自らを世界に意味付けていた枠組みを希薄化させるものとして描き、それに対比して古き良き共同体の伝統が生きているとされる郊外を描き、郊外への移動を通じて失われた枠組みを取り戻そうとする作品がある。他方で、自身を世界に意味づける新たな物語を構築しようとする試みとして読み解くことができる作品もある。これまでに取り上げた作品から読み取れる試みを大まかに類型化すると、①今いる場で、地縁や血縁などの結びつきがなく、場を偶然共有するという点においてのみ結びつく人たちとの関係構築を描く、②ある民族に固有のものとされる文化が、発祥地を離れて独自に発展する過程や、本来の継承者とされる民族以外を担い手として発展する過程に着目する、③共同体の外からやってきた外部者を介在させて共同体の姿を描き、外部者の関与が共同体のあり方を変えていく様子を描く、④家族をはじめとする社会の長であり、制度を管理する者としての「父親」の喪失を積極的に描く、というように整理できる。

-平成26年度-
 1年目(平成25年度)は、マレーシア地域映画コレクションを基盤にデータや資料を拡充するかたちで研究を進め、マレーシア地域の映画に表れる社会の課題を分析した。これを比較のための参照軸とし、2年目となる今年度は研究対象を東南アジア諸国に拡大し、映画に表れる社会の課題を分析した。共通して見られる課題として、戦争、災害、テロ、政治的な抑圧などの負の歴史の再解釈とそれを踏まえた現在の社会の意味づけ、男性のみ・女性のみの家づくりや家族における性別役割の相対化など多様な家族像の模索が挙げられる。また全体的な傾向として、これまでほとんど映画に描かれてこなかったり、マジョリティの物語の背景として客体として描かれたりすることが多かったマイノリティ(文化的少数派、辺境地の社会、外国人労働者など)が、主体として表象される作品が増えてきている。これに関して東南アジアそのものが、映画大国の作品の一背景から自らの物語を構築する主体へと立場を変えつつあるという状況もある。映画データベースの多くは、CIASのマレーシア映画データベースを含めて、タイトルや制作者・俳優の名前で検索する仕組みとなっている。これに対して、社会の課題を関連しうるキーワードに置き換え(1本の作品の中には通常複数の課題が重複して存在する)、それらのキーワードを作品と関連付けることにより、キーワードから作品を検索するような映画データベースを構築することにより、映画を通じた地域研究の成果の発信が可能になると思われる。
公表実績: -平成25年度-
-平成26年度-
(1)出版
・山本博之『映画から世界を読む』(情報とフィールド科学1)京都大学学術出版会、2015年。
・及川茜「李永平『大河盡頭』の寓意」、『野草』、94号、2014年8月、pp148-168。
・及川茜「日本人の性的表象――南洋を描いた中国語小説」、『相関地域研究1 記憶と忘却のアジア』、青弓社、2015年。
・篠崎香織(曽士才、三尾裕子ほかとの共著)、「日本華僑華人学会創設10周年記念シンポジウム『華僑華人研究の回顧と展望』」『華僑華人研究』11、2014年、56-92。
(2)公開シンポジウム
・シンポジウム「親星子星一番星――よそ者どうしが織りなす家族の物語」(2014年8月4日~5日、芝蘭会館山内ホール)
・公開ワークショップ「越境する危機と分かち合う記憶――東南アジアを襲う不況・台風・爆弾テロ」(2014年9月10日、京都大学稲盛財団記念館)
・公開ワークショップ「映画『ジャングル・スクール』が拓くフロンティア――シネマと地域研究のマリアージュ」(2014年9月15日、キャナルシティ博多貸会議室、協力:アジアフォーカス福岡国際映画祭)
・シンポジウム「女の幸せは旅しだい」(2015年3月12日、大阪歴史博物館、共催:大阪アジアン映画祭、大阪歴史博物館)
(3)新聞掲載
毎日新聞「映画から読み解くアジアの社会状況 加速する・人・物情報の“混成化”」(2014年11月26日研究会についての記事、2015年1月10日、夕刊2面)
(4)ウェブサイト
マレーシア映画文化研究会ウェブサイト(http://www.cias.kyoto-u.ac.jp/~yama/film/index.html
研究成果公表計画
今後の展開等:
-平成25年度-
-平成26年度-
 文献調査や現地調査を通じて現実の社会における課題を明らかにしつつ、それらの課題の映画における表象と比較分析する手法については、ある程度確立されつつあるものの、扱っている作品はまだ限定的で、網羅性をどう担保するかという課題が残っている。この課題に取り組むために、本共同研究を発展させた平成27年度CIAS共同研究「危機からの社会再生における情報源としての映像作品――東南アジアを事例として」(研究代表者:篠崎香織)を組織した。新たな共同研究の枠組みにおいて、地域研究の専門性を活かしたデータベースの構築も進展させ、映画を通じて地域研究の成果を発信する方法をさらに検討していくとともに、災害、紛争、格差の拡大など社会的な亀裂を経験した社会において、映画を記憶や記録の情報源として活用する可能性や方法についても検討していく。