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地域情報学プロジェクト

『乾隆京城全図』と空間画像史料を用いた「華北・北京歴史データベース」の構築(h25~h26)

個別共同研究ユニット
代表: 北本 朝展(国立情報学研究所コンテンツ科学研究系・准教授)
共同研究員: 貴志 俊彦(京都大学地域研究統合情報センター・教授)、北本 朝展(国立情報学研究所コンテンツ科学研究系・准教授)、西村 陽子(東洋文庫・学振特別研究員)
期間: 平成25年4月~平成27年3月(2年間)
目的:  本研究の目的は、CIASと国立情報学研究所(NII)との共同研究を通して、
(1)CIAS所蔵データである「戦前期絵はがきデータベース」
(2)NIIのディジタル・シルクロード・プロジェクト(以下DSR)がデータベース化した(財)東洋文庫所蔵の北京および華北地方の古写真
(3)京都大学人文科学研究所が所蔵する「華北交通株式会社」撮影写真資料
という三種の資料群を対象とし、
(ア)華北地域の古写真の活用・読み解き方法に関する検討
(イ)特に北京に関する古写真の詳細な読み解きとデータベース化
に関する研究を進めることにある。特にNIIがすでにデジタル化と幾何補正を行って「古都北京デジタルマップ」として公開した1750年の北京古地図である『乾隆京城全図』(以下、古地図)を用い、古地図と古写真を相互参照して読み解く手法を開拓する。また、その結果をデータベース化することで、絵はがき・古写真・古地図という空間情報を含む画像史料(空間画像史料)から北京の景観や都市機能を抽出し、歴史データベースとして蓄積・利用できるようにする。
研究実施状況: -平成25年度-
 本年度は2つのテーマについて研究を進めた。第一に、古写真の読み解きに関する研究として、CIAS所蔵資料「華北交通株式会社写真」(以下、華北交通写真)のデジタル化済み資料(全36,534点のうち14,158点)を整理し、古写真の撮影場所などを台紙から拾って基本的なメタデータを抽出するとともに、データベース化に向けた準備作業を進めた。この調査により、華北交通写真の記録対象の約7割について、撮影場所を特定できた。第二に、古写真の読み解きを支援するツールの開発として、モバイルアプリ「メモリーハンティング」(メモハン)の初期バージョンを完成させた。これは、古写真の撮影場所を正確に特定する作業を支援するものであり、モバイル端末のカメラ上に古写真を半透明で表示して撮影することで、古写真の撮影場所に関するメタデータと撮影場所の現在景観とを同時に取得できるという機能を備える。このアプリにより、古写真の撮影場所を現地で探して記録する作業を簡単化できた。

-平成26年度-
 本年度は2つのテーマについて研究を進めた。第一に、古写真の読み解きを支援するツールとして、モバイルアプリ「メモリーハンティング(メモハン)」を正式にリリースした。これは、モバイル端末のカメラ上に古写真を半透明で表示して撮影することで、古写真の撮影場所に関するメタデータと撮影場所の現在景観とを同時に取得できるという機能を備える。このアプリを東京および北京でテストし、古写真の撮影場所特定に成功しただけでなく、アチェと神戸においては大規模災害前後の景観変化を調べる目的にも利用した。これらの結果には報道各社も関心を持ち、ウェブメディアも含めて合計8件の記事で紹介された。第二に、古写真の読み解きに関する研究として、CIAS所蔵資料「華北交通株式会社写真(以下、華北交通写真)」のデジタル化済み資料の後半部分(全36,534点のうち昨年検討済みの14,158点を除く22,376点)を検討するとともに、北京の古写真を抽出して「メモハン北京」プロジェクトを立ち上げ、北京市内にある華北交通写真の撮影場所が、現在でも特定可能であることを明らかにした。照合に於いては、メモハンを使うことにより、古写真に写し込まれた樹木一本のレベルで詳細な比較対照が可能になる。この成果は、メモリーハンティングのページに蓄積されており[http://dsr.nii.ac.jp/memory-hunting/]、将来的には「華北交通写真データベース」の一部として稼働させる予定である。
研究成果の概要: -平成25年度-
(1)古写真の読み解き
 華北交通写真に関する基本的なメタデータの抽出として、特に撮影場所の推定を目指し、以下の手順で複数の史料間の照合を進めた。
 ①固有名の抽出:写真台紙上に記された地名や鉄道路線名の抽出。
 ②華北交通関係史料の整備:鉄道駅、自動車事業部・蒙疆汽車公司自動車の長距離バス停、内河水運事業の中継地のリスト化。
 ③同一性の判定:写真史料上の固有名と華北交通関係の固有名との同一性の判定。判定の確度を高めるため、アルバムでの出現順も活用。
 この結果、写真台紙に出現する地名は華北交通株式会社所管の鉄道駅・長距離バス路線・運河中継地に限定されており、鉄道駅640余のうち写真が存在する駅は151駅、そして全14,158点のうち10,284点(内訳:鉄道駅関連写真6,568枚、北京市内写真3,716枚)の地名が確認・推定できるなど、史料の現状を把握できた。
(2)モバイルアプリの開発
 Android版モバイルアプリ「メモリーハンティング」(メモハン)の開発を進め、初期バージョンを完成させた。基本となるアイデアは、半透明に表示した古写真の背景に現在の景観を重ね合わせることで、両者の重なりをカメラ画面上で直接的に確認した上でシャッターを押し、古写真の撮影場所を示すメタデータを記録するというものである。今年度は、カメラ・地図・写真管理の基本機能に加えて、サーバにデータをアップロードする機能を実装した。このアプリをさらに改良すれば、様々なプロジェクトの古写真を対象に、撮影場所を特定するワークショップやクラウドソーシング等の方式でメタデータを付与できるようになると期待できる。

-平成26年度-
【モバイルアプリの開発】
 Android版モバイルアプリ「メモリーハンティング(メモハン)」を2014年12月にGoogle Playで正式に公開し、これまでに100回以上のダウンロードがあった。本アプリの基本となるアイデアは「アクティブ・ファインダー」、すなわちカメラのファインダー上に撮るべき写真のガイドを表示するというものである。そのガイドとして古写真を半透明で表示すれば、古写真と現在の景観との変化を記録する目的に利用でき、しかも撮影時のメタデータが古写真の撮影位置と撮影方向を記録することになる。昨年度に構築したバージョン1の問題点を解決するバージョン2を今年度に開発し、すべての機能が一通り動くようになった段階で一般に公開した。またアプリを実際に利用する実験をアチェ、神戸、東京、北京で行い、アプリが目的通りに使えることを示しただけでなく、アプリが文化を越えて楽しさを生み出すことを確認した。なお、アチェおよび神戸での実験では、京都大学地域研究統合情報センターの西芳実氏および山本博之氏の協力を得た。
【古写真の読み解き】
 華北交通写真のうち、北京の旧城内・城外および郊外の写真を抽出し、写真の台紙に記されたキャプションに基づいてメタデータを整備し、位置情報を付与して「メモハン北京」プロジェクトを立ち上げて実証実験を行うことにより、メモハンを用いることで古写真の同定作業が効率的に行えるだけでなく、樹木一本のレベルでの同定まで可能であることが明らかになった。これらの北京写真の同定作業を通して、華北交通写真に写し込まれた北京の風景が、たとえ大幅に変わっていたとしても特定の一点が一致すれば他の部分の変化が明らかになることや、例えばキャプションに「地安橋際火神廟」と記されただけで照合は困難と想定された寺廟であっても、ファインダー上で古写真と比較することで、実際には現存することなどが判明した。また、旧城内の写真照合においては、近年の開発前の状況が記された『乾隆京城全図』の電子地図が極めて有用であり、スマホ上でメモハンアプリ上に写し出してGPSを使用することにより、『乾隆京城全図』上の位置と現在位置の関係が容易に把握できるため、『乾隆京城全図』に画き込まれた建築形状と比較しつつ、華北交通写真においてどの建物を撮影されているかまで容易に判明することが明らかになった。
公表実績: -平成25年度-
・「メモリーハンティング」ウェブサイト(仮公開)http://dsr.nii.ac.jp/memory-hunting/

-平成26年度-
・Asanobu KITAMOTO, "Memory Hunting: A Mobile App for Collecting the Location Metadata of Old Photographs", Fourth Annual Conference of the Japanese Association for Digital Humanities (JADH2014), pp. 42-43, 2014年09月
・北本 朝展, "デジタル人文学:コンテンツの「解釈」を重視したメディア技術の展開", 精密工学会 画像応用技術専門委員会 第5回定例研究会「クリエイティブ・コンテンツ:ファッション,伝統工芸,観光・メディア」, pp. 1-10, 2015年01月 (招待講演)
・北本 朝展, “写真の歴史性,” NII Today, No. 67, 2015-02-27
・北本 朝展, "メモリーハンティング:アクティブ・ファインダーに基づく新しい写真文化の創生", 国立国会図書館 意見聴取会, 2015年03月 (招待講演)
・西村陽子 ”華北交通写真の整理とデータベース構築” - 華北交通論集第1回協議会, 2015年3月17日
ウェブサイト・イベント
・「メモリーハンティング」ウェブサイト http://dsr.nii.ac.jp/memory-hunting/
・神戸市震災オープンデータの現地調査 - 2015年1月17日 神戸
・神戸市震災オープンデータの現地調査 - 2015年2月1日 神戸
・東京古写真ハンティング(オープンデータデイ2015) - 2015年2月21日 東京
・メモハン北京:「華北交通写真」と北京現況の現地調査,2015年3月6日~3月8日 北京
研究成果公表計画
今後の展開等:
-平成25年度-
 今年度の2つの研究テーマを、次年度も引き続き発展させる計画である。第一に、写真の読み解きについては、CIAS所蔵史料の大部分の写真に対して撮影場所に関するメタデータを付与する。また、北京や華北諸地域の写真や絵はがき史料を、撮影場所や時期で検索できるデータベースを構築し、景観や撮影対象の時空間的な分析から地域構造の特徴を明らかにする計画である。第二に、モバイルアプリについては、アプリの操作体系を整理して使いやすさを向上させるとともに、アプリを様々な状況で活用できるよう一般化する。そして複数プロジェクトへの対応により、多くの写真関係プロジェクトにおける現地でのメタデータ付与作業への活用の道も開けてくると考えている。最後に、これら2テーマの研究を統合するために、北京においてアプリを使った撮影を実施する可能性を探り、華北・北京歴史データベースでも過去と現在の景観比較を行えるようにしたい。なお、経費のうち謝金は、モバイルアプリ開発への支出に充てる計画である。

-平成26年度-
 本研究は、古写真の読み解きに貢献する「メモリーハンティング」というモバイルアプリの研究について大きな成果を挙げた。アプリを正式にリリースできただけでなく、多くの利用者が実際に楽しんで使えることを確認し、いくつかの地域については歴史的な景観の変化を探ることができた。今後の展開としては、歴史への利用にとどまらず災害や観光などへの利用に広げていきたいと考えており、適用範囲の拡大に対応できるようモバイルアプリの機能を増強する計画である。
 一方、華北交通写真については、現在NIIで作成中の「シルクロード遺跡データベース」と使用を共通化することで、「華北交通写真」に特化しない形でデータベース化を行う予定である。2014年度の研究によって華北交通写真はほぼ全て華北交通所管の鉄道駅にタグ付けできることが判明しているため、今後はメモハンと連動することにより、北京だけでなく華北全域における古写真の照合が可能になると予想される。