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地域情報学プロジェクト

集合的記憶と中東欧地域の音楽:比較研究に向けてのデータベース構築(h25~h26)

個別共同研究ユニット
代表: 福田 宏(京都大学地域研究統合情報センター・助教)
共同研究員: 池田 あいの(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・教務補佐員)、岡本 佳子(東京大学大学院総合文化研究科・学術研究員)、神竹 喜重子(一橋大学経済研究所ロシア研究センター・科研費研究員)、中村 真(大阪大学大学院文学研究科・招聘研究員)、半澤 朝彦(明治学院大学国際学部・准教授)、福田 宏(京都大学地域研究統合情報センター・助教)、松本 彰(元・新潟大学人文学部)、棟朝 雅晴(北海道大学情報基盤センター・教授)、吉村 貴之(早稲田大学イスラーム地域研究機構・准教授)、河瀬 彰宏(人間文化研究機構国立国語研究所コーパス開発センター・非常勤講師)
期間: 平成25年4月~平成28年3月(3年間)
目的:  本研究ユニットにおいて主眼としたのは、国民形成における音楽の機能を検証することである。1990年代より盛んに行われるようになったナショナリズム研究により、人文社会科学一般において国民(民族・ネイション)に対する構築主義的な理解が定着したと言えるだろう。それと共に、歴史学の分野においても国民史を批判的に再検討し、脱構築する作業が行われてきた。だが、音楽については充分に検討されていないように思われる。とりわけ、中・東欧のように、国民楽派と呼ばれる潮流が生じた地域では、芸術としての音楽が別格扱いされ、脱構築の対象から外されてきたのではないだろうか。以上の問題関心を元に、本研究ユニットでは、音楽学・歴史学・政治学・情報学の各分野の研究者10名に参加をお願いし、中・東欧地域を軸としつつ、音楽の学際的比較研究を展開した。
研究実施状況: -平成25年度-
 初年度となる2013年度においては、比較の前提となる議論の枠組を設定することに重点を置いた。国民音楽については、個々の事例については研究が進んでいるものの、比較する試みについては意外にも少ない。また、歴史学・音楽学・民俗学といった人文諸科学の中でも研究成果が十分に共有されておらず、かなりの程度の認識のギャップが存在する。例えば、歴史学・政治学の分野ではナショナリズムに対する構築主義的な理解が定着しており、国民史を批判的に再検討する作業が行われてきたが、音楽学の世界では国民を原初主義的に理解する傾向が強い。そのため、初年度においては、ワークショップおよびパネル・ディスカッション等により、主として歴史学と音楽学の立場から知見を持ち寄り、データベース構築を行うに当たって、何が課題となり、何が必要となるかについて検討した。
-平成26年度-
 二年目となる本年度においては、ワークショップを2回開催したほか、京都大学アカデミックデイへの出展、実験的試みとしてのチェコ民謡470曲のMusicXML化を実施した。一年目に引き続き、ディシプリンの違いをどう乗り越えるかという点が大きな課題となったが、それに加えて地域ごとの違い(正確には、どの地域を専門とするかによって研究者による音楽に対する認識が相違していること)という点も露わとなった。逆に言えば、このことは、音楽研究における学際的・地域横断的アプローチがまだまだ不足している点を示している。本研究ユニットでは、予定していた成果(以下参照)を挙げることができたので、今後は、他の科研グループ(例えば、伊東信宏氏を代表とする科研「東欧演歌研究」)や出版計画(例えば、本研究ユニットのメンバー半澤朝彦氏を中心とする「国際政治と音楽」の出版計画)などと連携を図りつつ、音楽分野における地域研究を発展させていきたい。
研究成果の概要: -平成25年度-
 9月に地域研にてワークショップ、10月に政治経済学・経済史学会にてパネル・ディスカッションを開催した。これらの会合では様々な分野から参加者を得ることができ、議論を行うための共通の土台を一定程度形成することができた。だが、ここで改めて浮き彫りとなったのは、人文社会科学と情報学とのギャップの大きさである。音楽情報科学研究会(SIGMUS)の活発な活動に見られるように、ここ数年の研究の進展はめざましいものがある。だが、そうした成果は人文社会科学において共有されていない。例えば、エッセン音楽データベースには、世界各国の民謡が約1万曲収集されており、音楽情報学の分野で積極的に活用されているが、歴史学や音楽学の研究者には知られていない。たとえ知っていたとしても疑いの眼で見ていることが多いのが実情である。その根底には、情報学で音楽を分析することに対する不信感が存在する。
 そのため、次年度において課題となるのは、人文社会科学の研究者にとって有用と思われるデータベースの構築である。既述のように、音楽情報学の分野では相当の研究蓄積があり、活用されているデータベースも既に存在する。このユニットにおいて課題とすべきは、既存の実績に屋上屋を架すことではなく、文系と理系の共同研究を進展させるようなデータベースのあり方を提示することである。 -平成26年度-
 本研究の主たる成果は、2015年3月に出版したディスカッション・ペーパーである。本ペーパーには、国民音楽を分析する上でのキータームである国民楽派概念についての2論文、中・東欧およびロシア地域の事例研究としての5論文、地域情報学の知見を生かした2論文、の計9論文を掲載した。特に、最後の2論文については、地域情報学分野において音楽を扱ううえで貴重な示唆を含んでおり、今後の新しい方向性を示したという意味で貴重である。すなわち、河瀬論文は、日本民謡を計量的に分析する手法について人文社会科学系の研究者にも分かりやすい形で紹介すると共に、その手法がチェコなど中・東欧の民謡分析にも応用できる点を指摘した。また、岡本論文は、プラハとブダペストの音楽データベースを活用し、19世紀末から20世紀初頭に至るオペラ上演の動向を比較分析している。河瀬論文は情報学の立場から音楽にアプローチした論考であるが、岡本論文は、音楽史の立場から情報学の成果を活用した論考である。さらに、河瀬論文において提示された手法を元に、宇津木嵩行氏(中央大学理工学部)の協力を得て、チェコ民謡を電子データ化する試みも実現することができた。
公表実績: -平成25年度-
●合同ワークショップ「中央ヨーロッパ音楽の比較研究に向けて:集合的記憶としての国民音楽」
日時:2013年9月23日
会場:京都大学稲盛財団記念館3階 中会議室
主催:京都大学地域研究統合情報センター共同研究・共同利用プロジェクト複合ユニット「非文字資料の共有化と研究利用」および同個別ユニット「集合的記憶と中東欧地域の音楽:比較研究に向けてのデータベース構築」
共催:音楽と社会フォーラム
・福田宏(京都大学地域研究統合情報センター)
「中・東欧における国民音楽の比較:音楽データベース活用の可能性」
・池田あいの(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
「マックス・ブロートと国民音楽:チェコからイスラエルへ」
・神竹喜重子(一橋大学大学院言語社会研究科)
「ソ連国歌の誕生:社会主義における国家と国歌」
・岡本佳子(東京大学大学院総合文化研究科)
「『新しいハンガリーの音楽』の詳細:バルトーク《青ひげ公の城》を手がかりに」
・中村真(大阪大学大学院文学研究科)
「Z. ネイェドリーのV. ノヴァーク批判再考:チェコ国民音楽の位置づけをめぐって」
・コメント:小野塚知二(東京大学大学院経済学研究科)
      左近幸村(日本学術振興会特別研究員)
●2013年度政治経済学・経済史学会パネル・ディスカッション「中・東欧における想像と創造の国民音楽を比較する」
日時:2013年10月19日
会場:下関市立大学
報告1.中・東欧における国民音楽の比較-音楽データベース活用の可能性
京都大学 福田 宏
報告2.マックス・ブロートと国民音楽-チェコからイスラエルへ
京都大学 池田 あいの
報告3.ソ連国歌の誕生-社会主義における国家と国歌
一橋大学大学院 神竹 喜重子
コメント 日本学術振興会特別研究員 左近 幸村
司会 東京大学大学院経済学研究科 小野塚 知二

-平成26年度-
【公開ワークショップ「国民音楽の比較研究と地域情報学」】
日時:2014年9月27日(土)13時30分~18時
場所:京都大学稲盛財団記念館 中会議室
主催:地域研・個別ユニット「集合的記憶と中東欧地域の音楽:比較
研究に向けてのデータベース構築」
共催:「音楽と社会」フォーラム(政治経済学・経済史学会の常設専門部会)
・趣旨説明(福田宏・地域研)
・松本彰(元・新潟大学人文学部)
「国歌に歌われたドイツ:プロイセン、オーストリア、ドイツとその国歌の歴史」
・白木太一(大正大学文学部)
「18世紀末から19世紀初頭のワルシャワの作曲家と音楽会活動:近代ポーランド国民音楽形成に関する基礎的考察」
・吉村貴之(早稲田大学イスラーム地域研究機構)
「『アルメニア近代音楽の父』コミタスをめぐる諸問題」
・河瀬彰宏(国立国語研究所)
「日本民謡の計量分析」
・コメントおよび討論
コメント:伊東信宏(大阪大学大学院文学研究科)
姉川雄大(千葉大学アカデミック・リンク・センター)
【京都大学アカデミックデイ2014への出展】
日時:2014年9月28日(日)10時~16時
場所:京都大学百周年時計台記念館
出展名:「音楽から地域を語れるか?」(研究者と立ち話コーナー)
出展者:福田宏(地域研)
【公開ワークショップ「理念としての『国民音楽』:19世紀~20世紀初頭のロシア・中東欧における戦略と受容」】
主催:地域研・個別ユニット「集合的記憶と中東欧地域の音楽:比較研究に向けてのデータベース構築」
後援:早稲田大学総合研究機構 オペラ/音楽劇研究所
日時:2014年11月24日(月)13時30分~17時
場所:早稲田大学早稲田キャンパス7号館Faculty Lounge Meeting Room
企画:岡本佳子(東京大学)
・趣旨説明(岡本佳子)
・太田峰夫(宮城学院女子大学)「ヨーゼフ・ヨアヒムにおける『音楽のハンガリー性』と『音楽のドイツ性』」
・岡本佳子(東京大学)
「19世紀末中東欧における『国民オペラ』の上演傾向と相互上演ネットワーク」
・神竹喜重子(一橋大学)
「20世紀初頭の革命期におけるボリス・アサーフィエフによるロシア音楽の理念」
・コメントおよび討論
コメンテーター:葛西周(東京藝術大学)
【地域研ディスカッション・ペーパーの出版】
・福田宏・池田あいの編『国民音楽の比較研究に向けて:音楽から地域を読み解く試み』(CIAS Discussion Paper no. 49)地域研究統合情報センター、2015年3月。
・福田宏「『国民楽派』の再検討―チェコのスメタナを一例として―」
・葛西周「地域横断的な『国民楽派』の議論に向けて―日本における
関連用語の混乱を例に―」
・白木太一「18世紀後半から19世紀初頭のワルシャワの作曲家と音楽会活動―近代ポーランド市民音楽形成に関する基礎的考察―」
・太田峰夫「ヨーゼフ・ヨアヒムとハンガリーの文化ナショナリズム」
・中村真「歌の根源を見つめて―レオシュ・ヤナーチェクの民謡研究と作品―」
・池田あいの「『イスラエル音楽』の創造―マックス・ブロートによる「国民音楽」―」
・神竹喜重子「《ソ連国歌》の誕生―社会主義における国家と国歌―」
・河瀬彰宏「地域研究における民族音楽の情報学的分析の新たな指針」
・岡本佳子「20世紀転換期プラハの国民劇場とブダペストの王立歌劇場における『国民オペラ』上演状況の比較―劇場研究におけるデータベース活用の一例として―」
研究成果公表計画
今後の展開等:
-平成25年度-
 初年度は人文系のみの研究会となってしまったため、次年度は情報学を交えたワークショップを開催し、データベース構築に向けた具体的な議論を行う。また、二年間の研究会を踏まえたCIAS Discussion Paperを年度内に刊行する。
 データベース構築にあたっては、言語(方言)を中心的なテーマとして設定する。日本民謡の計量的分析において、民謡の地域的差異と方言地図との相関性を示唆する研究が出始めているが、その点は、中東欧地域などの他の地域についても当てはまると考えられる。データベースの具体的な素材としては、ハプスブルク帝国において収集されていた未完の民謡コレクションを用いる。時間と予算の制約があるため、その全てを網羅できるわけではないが、ここでの目的は、全体を俯瞰するデータではなく、文系研究者にも有用と思わせるデータの情報学的活用法を提示することである。

-平成26年度-
 2年間の研究成果として、上記のディスカッション・ペーパーを既に公表した。また、地域情報学において音楽を扱う準備を整えることができたので、今後、何らかの形で財源を確保するチャンスがあれば、それを発展させていきたい。