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相関地域研究プロジェクト

仏教をめぐる日本と東南アジア地域―断絶と連鎖の総合的研究(h27)

個別共同研究ユニット
代表: 大澤 広嗣(文化庁文化部宗務課・専門職)
共同研究員: 大澤 広嗣(文化庁文化部宗務課・専門職)、奥山 直司(高野山大学文学部・教授)、神田 英昭(高野山大学密教文化研究所・受託研究員)、中西 直樹(龍谷大学文学部歴史学仏教史学専攻・教授)、吉永 進一(舞鶴工業高等専門学校人文科学部門・教授)、村上 忠良(大阪大学大学院言語文化研究科言語社会専攻・准教授)、藤本 晃(誓教寺・住職)、林 行夫(京都大学地域研究統合情報センター・教授)、山田 協太(京都大学地域研究統合情報センター・特定研究員)、小島 敬裕(京都大学東南アジア研究所・学振特別研究員(PD))、北澤 直宏(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究科・大学院博士後期課程)
期間: 平成27年4月~平成28年3月(1年間)
目的:  本研究は、明治以降現在に至るまで東南アジア地域に関与した日本人仏教者の活動と論理に焦点をあてて、宗教をめぐる地域間の交渉と現実を、歴史、比較の観点から明らかにする。
 東南アジア大陸部にはタイ、ミャンマー、ラオス、カンボジアに上座仏教、ベトナムや各地の華人社会には大乗仏教が伝播する。明治期から同地域と関わった日本仏教者は、現地に赴いて経典を求め、あるいは出家して学僧・研究者として調査・旅行を行い、戦時中には日本軍の軍属など、様々な立場から関与した。戦後では、南方戦線の戦没者慰霊と現地仏教界との親善交流に関わった仏教者があり、現在では、上座仏教の外国人仏教指導者が日本で活動を行い、現地で瞑想を実践し書物を著す日本人がいる。こうした事象について個々の事例研究や短報はあるものの、地域相互の関係を含めて全体を俯瞰する研究は皆無であった。日本と現在の世界趨勢を築いた過去150年間に東南アジア地域に関わった日本人仏教者の動向を軸にして、仏教をめぐる人と社会、地域間の動態と推移を総合的にとらえることが本研究の目的である。
研究実施状況:  本年度は、計4回の研究会を実施した。研究会では、共同研究員及びゲストスピーカーからの発題を行い、共同研究で目指すべき課題と問題点を共有した。実施した日程は、次のとおりである。
 第1回研究会(2015年6月11、12日)。研究発表は大澤広嗣「宗教研究からみた「仏教をめぐる日本と東南アジア地域」」ほか計5本。
 第2回研究会(2015年7月18、19日)。研究発表は山田協太「近代仏教建築と京都」ほか計5本。
 第3回研究会(2015年11月22、23日)。研究発表は藤本晃「テーラワーダは三度、海を渡る――日本仏教の土壌に比丘サンガは根付くか」ほか計5本。
 第4回研究会(2016年2月20、21日)、複合共同研究ユニット「宗教実践の時空間と地域」と合同開催。中川未来「「南洋」経験と「アジア主義」の形成――志賀重昴と稲垣満次郎を中心に」ほか計4本。(発表者と発表題目の詳細は、別紙参照)
研究成果の概要:  本共同研究での成果は、従来の仏教史観を更新したことである。インドに発生した仏教は、中国を経て、日本に伝播した。いわば、これまでの仏教界・仏教学界では「仏教三国史観」が主流であったため、東南アジアは傍流かつ周縁に扱われてきた。しかし本共同研究では、東南アジアと南アジアが、重要な経路であったことを指摘した。
 第一の理由として、航路の整備にともなう、人の往来が容易になったことである。明治期に日本郵船の欧州航路が開設されると、スリランカのコロンボとインドのボンベイが寄港地となった。通商活動が盛んになったが、仏教発生の地であるインド、パーリ語経典が残されているスリランカへの仏僧らの接近が容易になったのである。さらに足を伸ばして、タイに向かった僧侶もいた。欧州留学組の仏僧たちのなかで、アジア留学組は評価が低かったが、欧州留学組とはいえ、その寄港地であるコロンボやボンベイにて、仏教の学知に接していたのであった。
 第二には、仏教が外交に果たした役割が大きかったことである。東南アジアには、植民地化を免れ独立を保っていたタイが、日本と同じ仏教国であることから、仏舎利や聖典をアイテムとして、相互の連携と紐帯の強化を行ったのである。共に皇室・王室を尊崇する国柄であったことも背景となった。以降、明治から戦時中にいたるまで、仏舎利を用いた外交と同盟の締結が数次にわたって行われていたことは、注目すべき点である。
公表実績:  本課題による成果として、2点の商業出版を公表した。大澤広嗣編『仏教をめぐる日本と東南アジア地域』(アジア遊学196、勉誠出版、平成28年3月)、大澤広嗣編『戦時下の日本仏教と南方地域』(法藏館、平成27年12月)である。
研究成果公表計画
今後の展開等:
 本共同研究では、これまで研究が皆無であった、近現代の日本と東南アジアの仏教関係史の領域を開拓したと自負する。その領域における事例分析の深化と方法論の確立は、今後の課題である。次年度以降は、継続する共同研究の実施に向けて準備を進める。