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相関地域研究プロジェクト

南欧カトリシズムの変容と福祉ビジネスの展開に関する地域間比較(h25~h26)

個別共同研究ユニット
代表: 藤原 久仁子(大阪大学大学院言語文化研究科・特任助教)
共同研究員: 吉川 卓郎(立命館アジア太平洋大学・アジア太平洋学部・准教授)久野 聖子(同志社大学グローバル地域文化学部・助教)、成田 真樹子(長崎大学経済学部・准教授)、藤原 久仁子(大阪大学大学院言語文化研究科・特任助教)、松嶋 健(国立民族学博物館・外来研究員/学振特別研究員PD)、安田 慎(帝京大学経済学部観光経営学科・専任講師)
期間: 平成25年4月~平成27年3月(2年間)
目的:  2013年7月にクロアチアが加盟したことでEU加盟国は28カ国となり、ユーロ圏も人口3億人を超える規模となった。欧州の平和と民主主義の向上に貢献したとして、EUは2012年にノーベル平和賞を受賞している。
 一方、中東・北アフリカ地域で本格化した民主化運動の結果、ヨーロッパのなかでも船で到着しやすい南欧に難民が集中し、欧州経済危機が深刻さを深める状況と相まって、南欧地域にさまざまな社会問題をもたらしている。本研究の目的は、援助や庇護を求める国内外からの人びとの割合が増大する南欧地域の福祉を、カトリックの慈善事業、民間福祉、フィランソロピー、CSR(企業の社会的責任)、行政、有償・無償のボランティア、投資、サービスなど様々な文脈に属するアクターたちの相互接近に着目しながら検討することを通じて、現代南欧地域の福祉の複合体を明らかにすることである。
研究実施状況:  2013年7月にクロアチアが加盟したことでEU加盟国は28カ国となり、ユーロ圏も人口3億人を超える規模となった。欧州の平和と民主主義の向上に貢献したとして、EUは2012年にノーベル平和賞を受賞している。
 一方、中東・北アフリカ地域で本格化した民主化運動の結果、ヨーロッパのなかでも船で到着しやすい南欧に難民が集中し、欧州経済危機が深刻さを深める状況と相まって、南欧地域にさまざまな社会問題をもたらしている。本研究の目的は、援助や庇護を求める国内外からの人びとの割合が増大する南欧地域の福祉を、カトリックの慈善事業、民間福祉、フィランソロピー、CSR(企業の社会的責任)、行政、有償・無償のボランティア、投資、サービスなど様々な文脈に属するアクターたちの相互接近に着目しながら検討することを通じて、現代南欧地域の福祉の複合体を明らかにすることである。
研究成果の概要: -平成25年度-
 近年、国家以外の様々な福祉の担い手(actors)に対する関心の高まりから、福祉国家に代わる概念をめぐる議論が進められている。とはいえ、実際にどのような協働や対抗の図式を取りながら福祉が全体として地域社会で実践しているかについては未だ明らかとなっていない部分も多い。特に、南欧社会に関してはエスピン=アンデルセンによる地域別福祉類型論を補完するかたちで、家族主義的福祉レジーム(南欧モデル)が議論されてきたが、南欧モデルを下支えする家族やコミュニティのあり様それ自体が変わりつつあるなか、また、難民の大量流入や経済危機という時事的な問題を抱えるなか、南欧福祉が現在どのような変動や展開を経験しているかは明確となっていない。
 そこで本共同研究(初年度)では、新たな展開を見せつつある現代南欧福祉に関し、マルタ、イタリア、スペイン、シリア、ヨルダン、エジプトをそれぞれフィールドとし、文化人類学、経済学、国際政治学、歴史学、社会学、福祉学など専門領域を異とする研究者で研究会を行い、(1)本共同研究で共通して追求できるテーマの設定、(2)分析対象の明確化、(3)地域研究から各学問領域への貢献という視点の共有化を図った。以上から見えてきたのは、難民とEUという本研究のテーマ設定において、ヨーロッパへの「帰着点なき進出」を可能とするシェンゲン協定、そして欧州対外国境管理協力機関(FRONTEX)、人工衛星やドローンを駆使した欧州国境監視システム(EUROSUR)など最新の管理システムの構築に注視しながら、「監視(サーベイランス)」の持つ遠隔性と自動化と、特定の人びとではなく流動的な人びとを対象にした福祉をめぐる複数の担い手(actors)の交流や調整の様相を捉えることの重要性かつ困難さである。人権論、非日常の常態化論、シチズンシップ論、コミュニティの再編論で描かれるような国家に包摂される難民像ではなく、帰着点なき進出を繰り返す「通過中」の難民が出会うactorsや直面する問題から見えてくるヨーロッパ地域像を描くという視点を共有できたことが、研究を進める上での今年度の成果として挙げられる。

-平成26年度-
 本共同研究は、福祉の南欧モデルを下支えする家族やコミュニティのあり様それ自体が変わりつつある一方で、難民の大量流入や経済危機という時事的な問題への対処が同時に迫られる南欧地域社会の今を、カトリシズムと福祉ビジネスをキーワードに読み解くことを目的に始められた。初年度は(1)本共同研究で共通して追求できるテーマの設定、(2)分析対象の明確化、(3)地域研究から各学問領域への貢献という視点や役割の共有化を図った。本年度は、帰着点なき進出を繰り返す「通過中」の難民が出会うactorsや、彼らが直面する問題から見えてくるヨーロッパ地域像を描くという、初年度に確認された視点に基づき調査を行い、南欧カトリシズムの二つの事例(イタリアのソーシャル・コーポラティヴ、マルタのピースラボとグッドシェパーズ)をもとに皆で議論した。その結果明らかになったのは、1)EUファンドの獲得をめぐり、福祉の担い手たる第1セクター、第2セクター、第3セクターの協働が推進されていること、2)産学官民(セクター間)の調整のための中間団体が存在し、3)大型資金の獲得でより大きな事業が可能になる一方、プロジェクトベースの福祉活動となり、期間満了後の継続性担保が難しくなっていること、4)その隙間を埋めることが期待される宗教的慈善活動もこれらの動きと軌を一つにしており、少額の個人献金だけでなくEUファンドや企業からの大型献金やスポンサーシップの獲得に向け、ソーシャル・エンタープライズ的な活動を展開するという循環が見られることである。その地域間比較というところまで本年度は進めることができなかったが、本テーマ(地中海地域の福祉ビジネスの展開)について、カトリシズムとイスラームの比較の視点から今後も検討していくことにしたい。
公表実績: -平成25年度-
【論文】
・藤原久仁子(2014)「変奏される伝説、転置するフェティッシュ―奇跡をめぐる欲望が生み出す人・モノ・場所」田中雅一編『フェティシズム研究第2巻 越境するモノ』京都大学学術出版会、pp.155-180.
・藤原久仁子(2014)「現代カトリックにおける『邪悪なもの』の再定位―悪魔の領域としての邪視・占い・ニューエイジ」杉本良男編『キリスト教文明とナショナリズム―人類学的比較研究』風響社、pp. 109-124.
・松嶋健(2014)「<agio>のある環境―イタリアの精神医療における<生態学的転回>について」『こころと文化』13号1号: 27-36.
・松嶋健(2013)「身体化された心からテリトリー化された心へ―イタリアにおける精神医療の経験をめぐって」菅原和孝編『身体化の人類学―認知・記憶・言語・他者』世界思想社、pp. 352-374.
・松嶋健(2013)「『社会』から『人間』へ―イタリアの精神医療改革が問うたもの」『精神医学史研究』17(1): 36-41.
・安田慎・金振晩(2013)「ハラール・コンサルタントが創り出すネットワーク―日本におけるイスラミック・ツーリズムの展開をめぐる考察」『北東アジア観光研究』9(4): 1-21.
・Shin, YASUDA(2013)"Commitment for Strategy: Religious Entrepreneur Networks in Syrian Shi'ite Religious Tourism", The Journal of Sophia Asian Studies.

-平成26年度-
【論文】
・Makiko Narita (2014) “Spanish Regions under the Euro Crisis: Does the Crisis Escalate Interregional Tension?”, In Proceedings of the European Association for Evolutionary Political Economy Conference 2014.
・吉川卓郎(2014)「ヨルダン:紛争の被害者か、受益者か」青山弘之編『「アラブの心臓」に何が起きているのか 現代中東の実像』岩波書店、pp. 117-145.
・安田慎(2014)「日本におけるムスリム観光客:観光におけるハラール認証制度の受容をめぐる現状と課題」『中東研究』520: 49-55.
・安田慎(2014)「UAEにおけるイスラミック・ツーリズム:イスラーム的観光文化をめぐる実験場」『UAE』56: 17-21
・松嶋健(2015)「俳優からパフォーマーへ:ヘーグロトフスキの<否定の道>」『身体変容技法研究』4: 58-65.
・松嶋健(2015)「『魂のようなもの』に触れる:動物との<出会い>とヒトとの<出会いそこない>」『動物と出会う I: 出会いの相互行為』木村大治編、ナカニシヤ出版、pp. 129-150. 本共同研究の最 終成果公開として、共同研究員それぞれが英語による論文を執筆し、査読有雑誌に投稿することを予定している。投稿は2015年10月末までに完了させる。投稿先は各共同研究員の選択によるが、本共同研究に関連するものとして、Journal of Mediterranean Studies, Mediterranean Quarterly, Journal of Refugee Studies等を想定している。後に特集などを組みやすくするため、福祉や宗教的慈善事業にソーシャル・エンタープライズの視点を入れること、難民、経済危機をキーワードに組み入れることにしている。
研究成果公表計画
今後の展開等:
-平成25年度-
 2014年度は、福祉活動に関する調査をそれぞれのフィールドで進める予定である。特に、今年度は「福祉ビジネス」の視点から議論するまでには至れなかったため、宗教集団の福祉活動のビジネス化、企業のフィランソロピーとしての難民救済活動、ソーシャル・ビジネスの萌芽がみられるかどうかに注視して調査を進める予定である。また、福祉の複合体を見ていくために、各国家の福祉政策のみならず、EU、シェンゲン圏、ユーロ圏、地中海主義、バルセロナプロセス、地中海連合など複数の枠組みを通して見られる福祉や、監視システムの連携などを視野に考察を進めていく予定である。  共同研究会は2回開催し、イタリア、マルタなど海外の共同研究者を招聘し、国際シンポジウム Toward a New Perspective on Welfare and Its Actors/Recipients in Current Southern Europe を実施することにしたい。

-平成26年度-
 本共同研究の最終成果公開として、共同研究員それぞれが英語による論文を執筆し、査読有雑誌に投稿することを予定している。投稿は2015年10月末までに完了させる。投稿先は各共同研究員の選択によるが、本共同研究に関連するものとして、Journal of Mediterranean Studies, Mediterranean Quarterly, Journal of Refugee Studies等を想定している。後に特集などを組みやすくするため、福祉や宗教的慈善事業にソーシャル・エンタープライズの視点を入れること、難民、経済危機をキーワードに組み入れることにしている。