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相関地域研究プロジェクト

中央アジアの社会主義的近代化と現在―イスラムとジェンダーの観点から(h27)

個別共同研究ユニット
代表: 帯谷 知可(京都大学・地域研究統合情報センター・准教授)
共同研究員: 帯谷 知可(京都大学・地域研究統合情報センター・准教授)、柴山 守(京都大学国際交流推進機構・研究員/地域研特任教授)、宗野 ふもと(人間文化研究機構国立民族学博物館・外来研究員)、中村 朋美(京都大学大学院人間環境学研究科・大学院博士課程)、村上 薫(日本貿易振興機構アジア経済研究所地域研究センター・主任研究員)、和崎 聖日(中部大学全学共通教育部・講師)、Babadjanov, Bakhtiyar (ウズベキスタン共和国科学アカデミー東洋学研究所・上級研究員)
期間: 平成27年4月~平成28年3月(1年間)
目的:  本研究は、科学研究費・基盤研究(B)「中央アジアのイスラーム・ジェンダー・家族:「近代化」再考のための視座の構築」(研究代表者:帯谷知可、研究期間:2012-2015年度)の研究成果もふまえ、イスラームとジェンダーの観点からソ連体制下の中央アジアにおける社会主義的近代化の実態とそのソ連解体後の現在への影響を提示することを目的とした。さらに、それらの孕む問題群を近代化の再考につながる、グローバルな意味を持つものと位置づけて、ソ連解体後の中央アジアにとっての近代化の意義を問い直すとともに、他地域を対象とする研究に接合することが可能となるような論点を抽出することも射程に入れた。
研究実施状況:  本年度は国際ワークショップの開催に向けてインテンシヴに研究打ち合わせおよび研究会を行い、ウズベキスタンからの参加者4名を含む13名の参加者により国際ワークショップを実施、その後ワークショップの成果を年度内に刊行した。具体的活動は以下の通り。
〇平成17年6月27日 研究打ち合わせ(CIASにて)
〇7月25日 研究会(CIASにて、国際ワークショップ事前準備)
〇10月17日 研究会(CIASにて、国際ワークショップ事前準備と報告予定者による第一次プレゼンテーション)
〇11月30日 研究会(CIASにて、国際ワークショップ日本側予行演習)
〇12月26日(土)国際ワークショップ (稲盛財団記念館中会議室にて)
 Islam and Gender in Central Asia: Soviet Modernization and Today’s Society
総合司会: 小松久男(東京外国語大学)
報告:
・帯谷知可(CIAS)
 ”Politics of the Veil” in the Context of Uzbekistan Bakhtiyar Babadjanov (東洋学大学東洋写本センター、ウズベキスタン)
 Paradise at the Feet of Mothers and Women: SADUM in the Struggle for Emancipation of Muslim Women Nodira Azimova(科学アカデミー歴史学研究所、ウズベキスタン)
 Modern Uzbek Family: Marital Relations
・宗野ふもと(国立民族学博物館)
 Women, Marriage and Market Economy in Rural Uzbekistan
・和崎聖日(中部大学)
 “Jahri Zikr” by Women in Post-Soviet Uzbekistan: Survival of a Sufi Traditional Ritual through Soviet Policies and Its Future
コメント:
・Bakhtiyar Islamov (ロシア経済大学ウズベキスタン分校)
・Shakhzoda Karimova(社会学センター説明と助言、ウズベキスタン)
・菊田悠(北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター)
・村上薫(JETROアジア経済研究所)
 平成28年3月 成果報告書として、Obiya, Chika (ed.), Islam and Gender in Central Asia: Soviet Modernization and Today’s Society (CIAS Discussion Paper No. 63), Kyoto: CIAS, 2016. を刊行
研究成果の概要:  本研究では旧ソ連中央アジアの1国であるウズベキスタンに焦点を当て、イスラームとジェンダーの観点からソ連時代の社会主義的近代化を再検討し、そこで達成された(はずの)ものはソ連解体後の政治・経済・社会変容の中でどのような様相を呈しているのかを考察した。研究成果は大別すれば以下のようになる。
(1)事例の蓄積、言説・表象からのアプローチ
中央アジアの社会主義的近代化において、本研究課題にそくしていえば脱イスラーム化・世俗化や男女平等・女性解放に関連する制度や法律はよく整備され、その成果が大規模に喧伝されたものの、特に婚姻や家族をめぐる規範といった領域では漸次的かつ部分的な変化しかもたらされなかったことが指摘されてきた。本研究では、共産党およびロシア人主導の女性解放運動の矛盾と皮相性、国家の側に立つムスリム宗務局の女性解放運動擁護のイスラームの文脈からのロジック、ソ連時代を生き抜いた女性によるイスラーム神秘主義儀礼などを明らかにすることによって、従来の議論をさらに補強する事例を積み重ねた。さらに、解放された理想的な女性、逆に根絶されるべき悪しき伝統に絡め取られた女性に関する言説とイメージとを提示し、それらがいかに「伝統/近代」「進歩/後進」「抑圧/自由」という二項対立的なものであったかを読み解いた。
(2)体制転換・政治経済社会変容と女性・家族
ソ連解体という大変動によって、一方で伝統的規範や価値観の復活がありながら、家族や女性のありようは大きな変化を余儀なくされていることを認識した。とりわけ国外への出稼ぎ移民の増大は、伝統的な家族規範に反して、核家族化を促すなどの現象が見られ、一部には深刻な社会問題も生んでいる。また、従来の研究では女性は概してこうした体制転換の大変動の犠牲者になっているとの見方が強かったが、限定的な条件の中でも女性たちは主体的に、一定の規範の中で小さいながらも生きがいを見出そうとしながら生きており、そうした主体性を汲み上げるような着眼点がむしろ必要であるとの認識にいたった。
(3)視点1:グローバルな言説と権威主義体制の結びつき、そのもとでのイスラームとジェンダー
社会主義的近代化の過程に見られたような強い国家、弱い社会という構図はソ連解体後の中央アジアの権威主義体制に多かれ少なかれ引き継がれていることを認識することが重要である。例えば、社会主義時代に「悪しき伝統」としてイスラーム・ヴェールを排斥した植民地主義的思考は、19世紀ヨーロッパに根源をもち、ソ連時代に社会主義的イデオロギーにより変形・強化され、ソ連解体後の為政者たちに受け継がれ、対テロ戦争の正義という言説によって補強されて、ヴェール着用者を「他者」として排除することにつながっている。あるいは、ソ連時代に女性のイスラーム指導者には当局の目がおよびにくかったことから細々と維持されてきた女性による伝統的儀礼が今日になってイスラーム過激主義への懸念から実践できなくなるなどの事例が生じていることを示した。
(4)視点2:中東ジェンダー研究とポスト社会主義研究の架橋
中央アジアの現実をよりよく理解するためには、①中東ジェンダー研究により提言されてきた、「伝統/近代」の二項対立に陥らずに、近代性と女性の進歩や解放を安易に同一視しない視点、同時に、②ポスト社会主義研究により提言されてきた、現在も人々の内に骨肉化されている社会主義的経験に着目しつつ、伝統や、資本主義的あるいは欧米的近代化の矛盾にも目配りをする視点の双方を持つ必要があるとの知見を得た。
公表実績: 公開シンポジウム:
 国際ワークショップの開催ならびにそこにおける口頭発表についての概要は上記5.に示した通りである。
刊行物:
(1)本個別ユニットの直接的な成果物としては、以下を刊行した。
Obiya, C. (ed.), Islam and Gender in Central Asia: Soviet Modernization and Today’s Society (CIAS Discussion Paper No. 63), Kyoto: CIAS, 2016.
このディスカッション・ペーパー所収の論文のうち本個別ユニットのメンバーによるものは次の通り。
・Obiya, C. Introduction. pp. 5-6. “The Politics of the Veil” in the Context of Uzbekistan. pp. 7-18.
・Babadjanov, B. “Paradise at the Feet of Mothers and Women”: Soviet and Post-Soviet Discourses of Muslim Women’s Emancipation. pp. 19-39.
・Sono, F. Women, Marriage, and the Market Economy in Rural Uzbekistan: Cases from a Pastoral Area of Kashkadarya Province. pp. 40-49.
・Wazaki, S. Jahri Zikr as Practiced by Women in Post-Soviet Uzbekistan: The Survival of a Sufi Traditional Ritual through the Soviet Period and Its Uncertain Future. pp. 50-66.
・Murakami, K. Comment 2. pp. 69-70.
(2)その他の個別ユニット・メンバーの刊行物による実績は次の通り。
・帯谷知可(村上勇介との共編)『融解と再創造の世界秩序』(地域研究叢書サブシリーズ相関地域研究第2巻)、青弓社、2016年。
・帯谷知可「社会主義的近代とイスラームの交わるところ―ウズベキスタンのイスラーム・ヴェール問題からの眺め」村上勇介・帯谷知可編『融解と再創造の世界秩序』(地域研究叢書サブシリーズ相関地域研究第2巻)、青弓社、pp. 161-183、2016年。
・村上薫「コメント」福田宏・柳澤雅之編『せめぎあう眼差し―相関する地域を読み解く』(CIAS Discussion Paper No. 56), Kyoto: CIAS, 2016.
・中村朋美『ロシア帝国の中央アジア政策―19世紀前半の進出の諸相』(京都大学大学院人間・環境学研究科、博士論文)、2015年。
・宗野ふもと『手織り物からみる女性の日常生活―ウズベキスタン牧畜地域の事例から』(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科、博士論文)、2015年。
・宗野ふもと「ウズベキスタンのバザールにつどう人びと」『季刊民族学』154号、pp. 87-99、2015年。
・和崎聖日「旧ソ連・中央アジアのウラマー一族と『英知集』」(特集/歴史資料をつなぐ人々)『歴史評論』第782号、pp.2-11、2015年。
・和崎聖日「中央アジア定住ムスリムの婚姻と離婚―シャリーアと家族法の現在」
・藤本透子編『現代アジアの宗教―ソ連解体を経た地域を読む』春風社、pp.70-123、2015年。
口頭発表:
・帯谷知可 Из страниц истории национального размежевания Центральной Азии:
  между динамикой центральноазиатской истории и новой официальной историей независимого государства.(筑波大学ユーラシア・日本共同研究プログラム、2015年11月27日、筑波大学)
・中村朋美「19世紀前半のロシアが目指した新疆貿易:シベリア発、『インドへの道』の再燃」(日本中央アジア学会年次大会2016年3月27日、KKR江ノ島)
・和崎聖日「ハジーニー研究事始め:カッタ・ケナゲス村をたずねて」(日本中央アジア学会年次大会2016年3月28日、KKR江ノ島)
研究成果公表計画
今後の展開等:
 本研究で構築された日本研究者とウズベキスタン研究者のネットワークを維持拡大しながら、平成28年度は地域研共同研究個別ユニット「低成長期の発展途上諸国における政治経済社会変動の地域間比較研究」(代表:村上勇介)の枠内において中央アジアの社会主義的近代化とイスラームの関係を研究対象とする研究グループを組織して、本課題を発展的に継続する。ウズベキスタンだけでなく、他の中央アジア諸国、あるいは旧ソ連圏のイスラーム地域にも対象を拡大し、中東諸国における近代化プロセスとの比較を念頭に置きながら、事例の蓄積と議論の深化をはかりたい。平成28年度にもディスカッション・ペーパー1冊を刊行する予定であり、それ以降は新たな枠組みにおいて学会におけるパネルの組織や単行本としての論文集の刊行等をめざしたい。