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相関地域研究プロジェクト

ポスト・グローバル化期の教育に関する国際比較:新自由主義、子どもの権利、国家の役割の再編(h25~h26)

個別共同研究ユニット
代表: 押川 文子(京都大学地域研究統合情報センター・教授)
共同研究員: 植村 広美(県立広島大学人間文化学部国際文化学科・准教授)、牛尾 直行(順天堂大学スポーツ健康科学部・准教授)、押川 文子(京都大学地域研究統合情報センター・教授)、小原(伊藤) 優貴(東京大学大学総合教育研究センター・特任研究員)、日下部 達哉(広島大学教育開発国際協力研究センター・准教授)、佐々木 宏(広島大学大学院総合科学研究科・准教授)、篠原 清昭(岐阜大学大学院教育学研究科・教授)、杉村 美紀(上智大学総合人間科学部教育学科・准教授)、南部 広孝(京都大学大学院教育学研究科・准教授)、針塚 瑞樹(別府大学文学部教職課程・専任講師)、福田 宏(京都大学地域研究統合情報センター・助教)、南出 和余(桃山学院大学国際教養部・講師)、山本 晃輔(大阪大学未来戦略機構第五部門 未来共生イノベーター博士課程プログラム・特任助教)
期間: 平成25年4月~平成27年3月(2年間)
目的:  グローバル化の進行のなかで、多くの社会において、教育の市場化と競争原理の導入、教育内容の「国際水準」適用などいわゆる新自由主義的な教育制度が実施されてきた。また、国際社会が提唱する「子どもの権利」概念やそれに基づく基礎教育と知識社会に適応した能力育成の重視も世界各地に拡大している。その一方で、それぞれの社会に根ざしたオルタナティブな教育の試みや、国際競争力強化と固有の文化的価値を掲げるナショナルな教育イデオロギーの台頭現象も、地域的なヴァリエーションをもちつつ展開されている。これまで教育から排除されてきた人々を含めて幅広い層の教育への関心が高まるなかで、ポスト・グローバル化期の教育は、新自由主義的傾向や国際社会の影響力拡大など国家の枠を超える動きと、当該社会の構造的諸要因、権力構造さらに思想状況とがせめぎ合う「場」としての様相をますます強めている。
 本研究は上記の認識のもとに、東アジア、東南アジア、南アジア、ラテンアメリカ、中東欧を対象に、今日の教育における重要課題を取り上げながら地域の実態を踏まえて比較検討し、多様な実態に通底するグローバルな共通性と地域的特有の展開の要因を分析することを通じて、教育の地域的発展の型を考察することを目的とする。
研究実施状況: -平成25年度-
 当初計画に基づきワークショップ形式の研究会を中心に実施した。
【第1回打ち合わせおよびワークショップ「新自由主義教育改革の国際比較」】
日時:2013年7月13日(土)13:00~18:00
場所:京都大学稲盛財団記念館2階セミナー室
研究会の趣旨と実施予定提案:押川文子
報告1:工藤瞳(京都大学大学院教育学研究科)「ペルーにおける新自由主義的教育政策導入の試みと限界」
報告2:杉村美紀「マレーシアにおける高等教育戦略と新ナショナリズム――ポスト・グローバル化期の『教育ハブ』の機能」
【第2回ワークショップ「ポスト・グローバル化期の教育:高等教育の再編と教育の新しい役割」】
日時:2013年10月26~27日
場所:京都大学稲盛財団記念館2階セミナー室
共催:トヨタ財団研究助成プログラム(D11-R-0466「平和構築と人材育成の高等教育」研究代表者:杉村美紀)
10月26日〈第1部〉高等教育のグローバル化と市場化
報告1:原優貴(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科)「グローバル化の中のインドの高等教育」
報告2:南部広孝「中国における高等教育のグローバル化」
報告3:田中哲也(福岡県立大学人間社会学研究科)「エジプト高等教育の拡大と市場化について」
10月27日〈第2部〉Education and Human Resource Development for Peace and Development: A Comparative Study of Sri Lanka and Malaysia
報告4:Tham Siew Yean (Universiti Kebangsaan Malaysia) Development and Multiethnic Society: Case of Malaysia
報告5:Miki Sugimura (Sophia University) Nation-building and Human Resource Development in a Post Conflict Society: Case of Sri Lanka
報告6:James Williams and Nora Shetty (George Washington University) Educational Development in Sri Lanka and Malaysia: A Comparative Examination
報告7:Toshiya Hoshino (Osaka University) Comparative Analysis from Peace Building Perspective (Tentative)
Comment: Juneja Nalini (National University of Educational Planning and Administration)

-平成26年度-
 下記の2回のワークショップ形式の研究会を実施した。開催にあたっては、国際比較を可能にするトピックを設定し、それぞれ共催組織を得ることによって個別ユニットのメンバーに加えて幅広い議論が可能になるように工夫した。
【第1回ワークショップ】
「ポストグ・ローバル化期の大学教授職―アジア・ヨーロッパの概観と事例研究」
共催:広島大学現代インド研究センター、同教育開発国際協力研究センター
日時:2014年 10月25日(土)・26日(日)
場所:広島大学国際協力研究科1階大会議室
<趣旨> 各国の経済成長に加えて、グローバル化の進展や知識基盤社会への移行は世界各地において高等教育の急激な大衆化をもたらしている。多くの地域で程度の差はあれ導入が図られている新自由主義的教育政策とあいまって、世界各地で大学などの高等教育の機能や構造の変化を生じさせ、大学教員のあり方にも変容をもたらしている。本ワークショップでは、「大学教授職」の変質を国際比較することにより、各地域の高等教育の制度的性格と社会的位置づけを比較した。日本の状況を手がかりとして、大学教授職をめぐる状況に関する分析枠組みを考察し、続いてアジア・ヨーロッパの事例を比較した。
<プログラム>
趣旨説明:押川文子
報告1:南部広孝(京都大学大学院教育学研究科)
「大学教授職をめぐる状況に関する分析枠組み―日本の状況をてがかりとして」
報告2:黄福涛(広島大学高等教育研究開発センター)
「アジア6カ国における大学教授職の国際比較」
コメント: 日下部達哉(広島大学教育開発国際協力研究センター)
報告3:井上史子(帝京大学高等教育開発センター)
「ヨーロッパにおける大学教授資格の導入とその後の変化―オランダを事例に」
コメント:佐々木宏(広島大学総合科学部)
報告4:渡辺雅幸(京都大学教育学研究科博士後期課程)
「インドにおける大学教員像の変化」
 コメント: 小原優貴(東京大学大学総合教育研究センター)
報告5:関口 洋介(京都大学教育学研究科博士後期課程)
コメント:針塚瑞樹(別府大学文学部教職課程)
【第2回ワークショップ】 
「教育イデオロギーの現在:国家、シティズンシップ、能力主義」
共催:東京外国語大学現代インド研究センター(FINDS)
日時:2015年1月24日
場所:東京外国語大学 本郷サテライト
<趣旨> 多くの地域の教育イデオロギーの近年の傾向として、一方では人権や多文化共存などを強調する「市民性」教育、「持続的発展のための教育」などが導入されるとともに、他方では自助を強調する新自由主義的イデオロギーやグローバル化のなかでの国家間競合を背景にしたナショナリズムの強調なども顕著な傾向として認められる。本ワークショップでは、こうした多様なイデオロギーが各社会において具体的にどのように作動しているかについて、事例をもとに議論し比較を試みた。
趣旨説明:粟屋利江(東京外国語大学)
報告1:森下稔(東京海洋大学)
「ASEAN諸国におけるシティズンシップ教育とASEANnessのための教育」
報告2:植村広美(県立広島大学)
「中国における「国家発展戦略」としてのESD」
発表3:押川文子 
「アッチー・パラーイー(良い教育)と能力主義:近年のインドの教育イデオロギーをめぐって」
コメント:粟屋利江(東京外国語大学)
研究成果の概要: -平成25年度-
 今年度は2回のワークショップを通じて、各インド、バングラデシュ、中国、エジプト、マレーシア、スリランカ等を対象に、まず各国の教育史を踏まえたうえで現在の変化の方向を位置付け、比較を試みた。主要な論点は以下の通りである。
① り上げた諸地域では、程度の差はあれ、民間資本の導入、グローバル化対応、認証評価システムの導入など類似した教育改革、いわゆる新自由主義的な教育改革の導入がはかられている。こうしたいわゆる「新自由主義的」な教育改革は、教育への市場原理の導入と国家管理の後退と捉えられることが多いが、規制緩和の時期・程度・方法の設定、認証評価や生徒・学生の能力の測定方法の設定や管理などを通じて、むしろ新しい形態の国家管理への移行とみなすべきであることが確認された。
②その結果、教育の国家管理の徹底していた国家(例:中国、マレーシア等)においてむしろ新形態への移行が急速に進み、従来から事実上市場原理が作用していた国家(例:インド、エジプト等)では改革が進まないという逆説的な状況が生まれている。新自由主義政策がこうした傾向をもつことは教育以外の分野でも見られるが、教育は国家単位の学制や資格授与のシステムを必須とするため、とくにその傾向が強い。
③新しい形態の国家管理(市場を組み入れたシステム形成)では、競争原理の導入と質保証、グローバル化対応などとともに、格差是正(従来からの質・量両面での格差是正に加えて競争・市場原理導入にともなう格差のコントロール)という課題が、とくに初等教育において、子どもの教育権や社会的公正の議論とも連関しながらあらためて認識され、むしろ前面に出る傾向も認められる。この点については、市場原理(学校選択権の拡大、教育バウチャー等の導入)による教育水準格差是正など市場原理を前提として取り組む国家と、初等~中等教育における国家管理の徹底を図る国家など、改革の実態にはそれぞれの教育形成の経緯に規定されたヴァリエーションがある。ただしいずれの場合も競争・市場原理には事実上様々な歯止めがかけられており、各国の教育を比較すると、ある種の「合流」状況を認めることができる。

-平成26年度-
 今年度実施した2回のワークショップは、第1回ワークショップ(大学教授職)が主に教育制度面から高等教育を、第2回ワークショップでは教育理念や社会経済的実態面から初等~中等教育を対象として、グローバル化以降の教育の国際比較を試みた。そのなかで浮かび上がってきたのは、以下の諸点である。
① 教育の市場化や「規制緩和」、競争原理導入は、教育における国家の役割の縮小というよりも、強い規制のもとでの選択的・段階的導入によってむしろ国家の役割の再編をもたらしていることが、大学改革や教育理念の再編においても確認された。
② 急激な高等教育の拡大のなかで高等教育に期待される役割は変化しており、大学の自治や大学教授職の自律性についての見直しが多くの社会で進行している。注目されるのは、University教授職とCollege教員職の間に明確な役割・身分的な差異のあった地域では、高等教育の高度化要請を背景にCollege教員の研究能力の強化や採用基準厳格化が図られ、両者が未分化であった地域では大学の格付けや教授職のカテゴリー化を通じて研究と教育の再編が起きていることである。知識社会化と高等教育の量的拡大が同時進行するなかで高等教育の機能自体の見直しが試みられているが、その方向は多様であり効果についても試行錯誤が続いていることが各国の事例からも検証された。
③ 育理念についても市民性教育や持続的発展など新しい理念の模索が各国でみられるが、政府主導の改革の多くはナショナリズム、「道徳」教育、競争理念導入などと組み合わされ、「市民」「持続的発展」の概念もそれぞれの国家によって著しくことなっている。理念の検討においては、これらの用語を地域の文脈のなかで再検討することが必要であり、またそのことを通じてグローバル化のなかの教育の変容の地域的実態が明らかになることが確認された。
公表実績: -平成25年度-
・押川文子「教育の現在」、水島司編『激動のインド1 変動のゆくえ』日本経済評論社、2013年12月
・小原優貴「インドにおける無認可学校―低額私立学校(第3章学校教育制度の課題とノンフォーマル教育)」、「非正規学校に関する公式文書の分析(第9章ノンフォーマル教育研究へのアプローチ)」、丸山英樹・太田美幸編『ノンフォーマル教育の可能性―リアルな生活に根ざす教育へ』新評論、2013年、pp.54-57、pp.226-230
・小原優貴「第3章 インドにおける非正規学校の動向―貧困層の間で拡大する無認可の低額私立学校―」京都大学大学院教育学研究科『アジア教育研究報告』、第 13 号、2014年、pp.33-45
・小原優貴「インドにおけるインクルーシブ教育―障害児の教育権の保障をめぐって―」
・黒田一雄 平成25年度政府開発援助ユネスコ活動費補助金事業報告書―インクルーシブ教育の質向上に資するユネスコ能力開発事業』早稲田大学国際教育協力研究所、2014年
・小原優貴「インドの無認可学校研究―公教育を支える『影の制度』」、東信堂、2014年3月
・南出和余、秋谷直矩 『フィールドワークと映像実践―研究のためのビデオ撮影入門』ハーベスト社、2013年
・南出和余「経済成長下の若者の都市移動―「わたし語り」の人類学の試み―」『桃山学院大学総合研究所紀要』、第39巻第3号、 2014年 pp.91-108
・南出和余 『シムルの夢と葛藤―A Life Suspended』37分、HDV、2013年
・佐々木宏「インドにおける高学歴者の就職難とテクニカル教育ブーム―ウッタルプラデーシュ州・ワーラーナシーのマネジメント教育の事例的検討」、『社会文化論集』、13、2014、1-26頁

-平成26年度-
・押川文子2014「学校教育改革―国家、市場、市民社会の間で」、田辺明生編『シリーズ現代インド第2巻』東京大学出版会
・南部広孝2015「比較教育研究の回顧と展望-研究対象としての「制度」に焦点をあてて-」『比較教育学研究』第50号、日本比較教育学会、137-148頁
・日下部達哉2014「インド タミルナードゥ州におけるインクルーシブ教育の事例研究」(研究ノート)『国際教育協力論集』第17巻第1号、広島大学教育開発国際協力研究センター、31-44頁
・日下部達哉2015「バングラデシュにおけるデモクラシー実現と教育の関係性-拡充された教育制度と職業の接続に焦点を当てて」(研究ノート)『現代インド研究』第5号、109-126頁
・針塚瑞樹 2014「第2章 インド児童養護施設出身のキャリア形成における教育の役割―デリー、NGO施設SBTの若者の事例―」『「学校から仕事へ インドにおける教育と雇用のリンケージ」研究会中間報告書』アジア経済研究所
・南出和余2014『「子ども域」の人類学―バングラデシュ農村社会の子どもたち―』、昭和堂
・南出和余2014「ヴェールを脱いでみたけれど―バングラデシュ開発と経済発展の中の女性たち―」、福原裕二・吉村慎太郎編『現代アジアの女性たち―グローバル化社会を生きる』、新水社、195-214頁
・南出和余2014「『子ども』と映像―カメラへの関心と変化の共有―」、村尾静二・箭内匡・久保正敏編『映像人類学(シネ・アンスロポロジー)―人類学の新たな実践へ―』、せりか書房、130-143頁
・南出和余2014「若者にとっての都市の魅力、田舎の魅力―経済成長下のバングラデシュと日本の経験―」『第5回文化と歴史そして生態を重視したもう一つの草の根の農村開発に関する国際会議―高知県大豊町2013年11月8日-10日―報告書』、37-41頁
・南出和余2015「映像から読み解く若者の関心―表現媒体としての映像制作教育の可能性―」『桃山学院大学総合研究所紀要』第40巻第3号、197-214頁
・田中治彦・杉村美紀編2014『多文化共生社会におけるESD・市民教育』、 上智大学出版 【翻訳】
・ジェフリー,クレイグ(著)、佐々木宏・押川文子・南出和余・小原優貴・針塚瑞樹(訳)『インド地方都市における教育と階層の再生産―高学歴失業青年のエスノグラフィー』、明石書店
研究成果公表計画
今後の展開等:
-平成25年度-
 次年度も2回程度(7月、10/11月)のワークショップ形式の研究会を開催し、報告のなかからディスカッション・ペーパーを編纂する予定である。
 取り上げる課題については、すでに2013年度初頭にいくつかの課題を議論しており、教育イデオロギーの再編(グローバル化時代の教育ナショナリズムに関する各国比較)、および雇用と教育への接合や高等教育の拡大と若者期の形成など(教育内容や学歴と雇用市場のミスマッチなど)を取り上げる予定である。運営にあたっては、他の科研等との共催により、広がりと公開性をもつ研究会運営を行う。

-平成26年度-
ワークショップ報告原稿を再編集し、『地域研究』の特集に申請する予定である。