1. ホーム
  2. 研究活動
  3. 過去の研究プロジェクト
  4. H25年度~H27年度の研究プロジェクト
  5. 相関地域研究プロジェクト
  6. ポストグローバル化期における国家社会関係(h25~h27)

相関地域研究プロジェクト

ポストグローバル化期における国家社会関係(h25~h27)

複合共同研究ユニット
代表: 村上 勇介(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)
共同研究員: 末近 浩太(立命館大学国際関係学部・教授)、仙石 学(北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター・教授)、村上 勇介(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)
期間: 平成25年4月~平成28年3月(3年間)
目的:  1980年代以降、世界各地に波及し、各々の社会のあり方を変動させたグローバル化は、今日、踊り場にさしかかっている。一方では、中東革命を筆頭に体制移行・民主化が現在進行形で進んでいる地域・国があり、新自由主義経済路線は基調として様々な地域に影響を与え続けている。情報化も引き続き世界各地での変容を加速させている。だが他方では、「勝者」と「敗者」が明瞭となり新自由主義路線の見直しや反対が広まっているほか、中央アジアなどの旧ソ連圏での権威主義体制の存続や、中東民主化にともなう国家のイスラーム化、ラテンアメリカにおける民主主義体制の後退例などが観察される。本研究は、グローバル化の潮流が前世紀末のような支配的、一方的な傾向ではなくなっている今世紀初頭の位相について、社会変動の中心的力学を生みだす国家社会関係の観点から分析し、今後を展望することを目的とする。実施にあたっては、体制移行・民主化、福祉、教育など、地域横断的な課題設定をおこなう。
研究実施状況: -平成25年度-  個別共同研究ユニット毎に研究活動を行うとともに、個別共同研究ユニットを基盤とした研究活動として、「中東欧とラテンアメリカのいまを比較する」研究会を9月と3月の2回にわたり実施した。
【第1回研究会】
日時:2013年9月15日(日)15:00~18:00
場所:京都大学稲盛財団記念館3階小会議室
テーマ:『ネオリベラリズムの実践現場』合評会
討論者:出岡直也(慶應義塾大学)、谷洋之(上智大学)、平田武(東北大学)

【第2回研究会】
日時:2014年3月22日(土)15:00~18:00
場所:早稲田大学早稲田キャンパス9号館304教室
テーマ:新興民主主義国における政策と政党政治
報告:磯崎典世(学習院大学)「韓国:グローバル化への対応をめぐる国内政治」
岡田勇(京都大学地域研究統合情報センター)「1990~2012年のラテンアメリカにおける炭化水素部門の政策比較」
藤嶋亮(同志社大学)「2000年代ルーマニア政党政治における『左』と『右』」

-平成26年度-
 個別共同研究ユニット毎に研究活動を行うとともに、個別共同研究ユニットを基盤とした研究活動として、「中東欧とラテンアメリカのいまを比較する」研究会を 1 度実施したほか、関連するセミナーとワークショップを3回開催した。
【第1回(ワークショップ)】
日時:2014年7月23日(水曜日)~25(金曜日)
会場:京都大学稲盛財団記念館大会議室
テーマ: “The Future of Democracy after Neoliberalism: Social Movements in a Globalizing World”
7月23日(水)09:00~12:00
“The diminishing returns of transnational disputes: the case of intellectual property rights in Kenya”  Nitsan Chorev (Brown University)
“Social Movements and the Rise of Compassionate Democracy” James Jasper (City University of New York)
7月24日(木)13:00~16:00
“Social Mobilization and Resource-Based Growth in Peru” Moises Arce (University of Missouri)
“Democratic Deepening in the Age of Neo-liberalism: Comparing Brazil, India and South Africa” Patrick Heller (Brown University)
7月25日(金)09:00~12:00
“U.S. Movements in the Great Depression and Great Recession: Why They Took Off and Why They Were So Different” Edwin Amenta (University of California, Irvine)
“Ironies of Neoliberalism: The Shifting Repertoires of Labor Contention in the United States, with Some Implications for Democracy” Kim Voss (University of California, Berkeley)

【第2回(セミナー)】
日時:2014年11月17日(月曜日) 16:00-20:00
場所:京都大学稲盛財団記念館中会議室
テーマ:“Reformas en la América Latina contemporánea y sus lecciones para hoy” (「現代ラテンアメリカの諸改革─その教訓と課題」)
“La reforma agraria en América Latina: su aplicación en el pasado y lecciones para enfrentar la situación actual de la tenencia de tierra” Sergio Gómez (Asesor de la Oficina Regional de la Organización de las Naciones Unidas para la Alimentación y la Agricultura-FAO para América Latina y el Caribe)
“Participacion social en las reformas educativas: el caso de Chile y Mexico” Marcela Gajardo Jiménez (Asesora de la Oficina Regional de la Organización de las Naciones Unidas para la Educación, la Ciencia y la Cultura-UNESCO para América Latina y el Caribe)

【第3回(ワークショップ)】
日時:2015年3月7日(土曜日) 13:30-17:00
場所:京都大学地域研究統合情報センター稲盛財団記念館中会議室
テーマ:“Estado y sociedad en el Perú contemporáneo: violencia, enticidad y descentralización” (「現代ペルーの国家と社会─暴力、エスニシティ、地方分権化」)
“Etnicidad y violencia en el Perú” Jaime Urrutia (Instituto de Estudios Peruanos)
“Genocidio en los Andes: el silencio de los vivos y el grito de los muertos” Artemio Sánchez (Centro de Investigación y Desarrollo Social)
“Gobiernos locales en el contexto de la descentralización” Moisés Palomino (Instituto de Estudios Peruanos)

【第4回(「中東欧とラテンアメリカのいまを比較する」研究会)】
日時:2015年3月29日(日曜日) 14:00~18:00
場所:早稲田大学早稲田キャンパス 16号館10階社会科学科室
テーマ:ラテンアメリカと東欧における「ポスト」ネオリベラル?
「ポスト新自由主義期ラテンアメリカの『右旋回』─ペルーとホンジュラスの事例から」村上勇介(京都大学) 
「ポストネオリベラル期の制度変革-中東欧諸国における年金制度『再』改革を事例として」仙石学(北海道大学) 

-平成27年度-
 個別共同研究ユニット毎に研究活動を行うとともに、個別共同研究ユニットを基盤とした研究活動として、シンポジウムを 2 回、ワークショップを 5 回、「中東欧とラテンアメリカのいまを比較する」研究会を 2 回実施した。
【シンポジウム】
日時:2015年6月22日(月曜日) 13:30~18:00
場所:上智大学中央図書館棟9階921会議室
テーマ「ポストネオリベラル期のラテンアメリカ政治─現状と課題─」
発表:
趣旨説明
「今世紀のラテンアメリカ政治─ネオリベラリズム期以降の政党政治を中心に─」 村上勇介(京都大学地域研究統合情報センター)
 第1部 安定的な政党政治とその課題
「近年のブラジル政治における二大政党化への収斂と『幸運な自由化』の反転」 舛方周一郎(神田外語大学外国語学部)
「三大政党制の融解?―近年のメキシコ政治にみるPRDの危機と左派再編の可能性─」 馬場香織(日本貿易振興機構アジア経済研究所)
「形骸化の進むチリの民主主義―硬直した政党政治と投票率の低下―」 安井伸(慶應義塾大学商学部)
第2部 格差や紛争に直面する民主主義
「ポストネオリベラリズム期のコロンビアにおける政治の不安定化-国内紛争と和平プロセスの視点から-」 千代勇一(上智大学イベロアメリカ研究所)
「チャベスなきチャビスモ─権威主義化を強めるベネズエラ・マドゥロ政権─」 坂口安紀(日本貿易振興機構アジア経済研究所) 「小党分裂化するペルー政治」 村上勇介

日時:2015年10月10日(土曜日) 13:30~16:50
場所:あすか会議室 東京日本橋会議室 あすか4+5
テーマ「BRICs諸国のいま─2010年代世界の位相─」
発表:
「BRICsのいまを分析する意義」 村上 勇介(京都大学地域研究統合情報センター)
「経済成長下のインド社会と政治─『中間層』と民主主義─」 押川 文子(京都大学名誉教授)
「権威主義ロシアの『帝国』化の賭け─旧ソ連諸国統合・反米主義・対中接近─」 宇山 智彦(北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター)
「高度成長期後の中国の姿─開放をめざす経済政策と締め付ける政治─」 渡邉 真理子(学習院大学経済学部)
「混迷化するブラジルの政治社会と世界経済の政治的トリレンマ」 舛方 周一郎(神田外語大学外国語学部)

【ワークショップ】
日時:2015年6月1日(月曜日) 16:30~20:00
場所:京都大学稲盛財団記念館3階小会議室I
テーマ:“El proceso de paz con las FARC en Colombia” Carlo Nasi (Universidad de Los Andes, Colombia)

日時: 2016年1月8日(金曜日)14:00~16:55
場所: 京都大学稲盛財団記念館3階小会議室Ⅱ
テーマ: 「ラテンアメリカにおける政策改革、産業構造の高度化と包摂的成長」 細野昭雄(JICA研究所)

日時:2016年1月23日(土曜日) 14:00~18:00
場所:京都大学地域研究統合情報センターセミナー室(稲盛財団記念館2階212号)
テーマ:“Del kirchnerismo al‘macrismo’: legados, continuidades y rupturas” Enrique Peruzzotti (Universidad Di Tella, Argentina)

日時:2016年3月4日(金曜日)16:00~19:00
場所:京都大学稲盛財団記念館3階小会議室I
テーマ:「中所得国の罠」 原 洋之介(政策研究大学院)

日時:2015年3月5日(土曜日) 14:00~18:00
場所:京都大学地域研究統合情報センターセミナー室(稲盛財団記念館2階212号)
テーマ:“Una lectura crítica sobre los procesos de cambio político en Guatemala y América Central: desempeño institucional y dinámicas ciudadanas” Eduardo Nuñez (Instituto Nacional Democrático-Guatemala)

【「中東欧とラテンアメリカのいまを比較する」研究会】
日時:2015年9月12日(土曜日) 14:00~18:00
場所:京都大学稲盛財団記念館中会議室
テーマ:新自由主義を促進するもの、妨げるもの
発表:
「危機意識が支えるエストニアの『ネオリベラリズム』」 小森宏美(早稲田大学) 「メキシコの労働法制改革─新自由主義初期に維持された労働法制はなぜ近年改革されたのか─」 馬場香織(日本貿易振興機構アジア経済研究所) 
「台湾における自由化をめぐる政治」 松本充豊(京都女子大学) 

日時:2016年1月9日(土曜日)15:00~18:00
場所:早稲田大学早稲田キャンパス 16号館10階社会科学科室
テーマ:新自由主義の受容過程の比較
発表:
「経済移行過程におけるリベラル思想の受容─ロシアと中国との比較」 上垣 彰(西南学院大学)
「ラテンアメリカにおける新自由主義の導入:チリの事例を中心にして」 安井 伸(慶應義塾大学)
研究成果の概要: -平成25年度-
 本研究の本年度の活動は、昨年度まで行ってきた研究計画(複合共同研究ユニット)「新自由主義の浸透と社会への影響に関する地域間比較研究」の成果を、新たな事例について検証することであった。中東欧とラテンアメリカの比較を主軸に実施してきた同計画の成果の概要は、次のとおりである。
 同じような歴史的経緯におかれてきて、かつ国際環境も共通している、さらには、ネオリベラル的な考え方が流入してきた経緯も非常に近いはずの中東欧とラテンアメリカ、それぞれの地域において、ネオリベラリズム的な政策を積極的に実施した国と、ネオリベラリズムからは距離を置いている国とが存在する。これまでの議論では、中東欧やラテンアメリカ諸国におけるネオリベラル的な政策は、結局のところIMFや世界銀行を中心とする国際金融機関によって「押しつけられたもの」で、その内実に相違はないとみるか、もしくは、中東欧とラテンアメリカというおかれた環境の地域差が各国の状況の相違に結びついているとする見方が、一般的であった。だが実際には、それぞれの国でネオリベラル的な政策が実施されるか否かに関しては、国ごとの固有の要因の作用の方が大きく、そのためにネオリベラル的な政策の現れ方の違いは国ごとに明確に異なっていること、およびその相違は地域間の相違とは異なり、中東欧およびラテンアメリカそれぞれの地域の中で相違がみられる。そうした各地域内での相違に重要な影響を与えた要因としては、各国の政党政治、およびその形の違いがあり、それが各国のネオリベラリズムをめぐる政治経済社会過程を既定し、あるいはそれから影響をうけ、異なった経路を作りだした。
 検証のテーマは、教育制度改革の地域間比較、中東欧ならびに南欧の政治経済体制比較、中東とラテンアメリカの体制転換比較であった。いずれも、本年度は、検証途上であるが、ポストグローバル化の段階の諸状況を分析するうえで、構造的な要因や背景が重要である点で共通性があることがうかがえる。また、その過程での主たる関心・課題は、国家の新たな役割であり、それをめぐる方向性で了解ないし合意できるかが、今後の動向に大きく影響する可能性が浮かびあがってきた。
-平成26年度-
 昨年度に引き続き行なった、中東欧とラテンアメリカの比較を主軸とした新自由主義の浸透と政治社会への影響に関する研究成果の検証作業では、新自由主義をめぐる比較の文脈がより明確となった。新自由主義が地域全体に大きな影響を与えたのがラテンアメリカであり、それは、1970年代までラテンアメリカ諸国が追求してきた国家主導型の発展モデルの破綻という共通の背景から新自由主義が深く浸透した。これに対し、中東欧では、国家計画経済から市場経済への転換という体制転換は起きたものの、ラテンアメリカで観察されたような、それまでの体制が破綻した例は、バルト3国に留まり、社会保障などの社会的なセイフティネットはそのまま引き継がれ、新自由主義の影響は限定的であった。それが顕著であったのは、民営化や関税の引き下げ・一律化など一部の側面のみであった。昨年度指摘した、新自由主義の世界的潮流が一段落し、ラテンアメリカではその退潮も見られるようになる今世紀に入ってからの新自由主義的な政策の現れ方の違い(いずれの地域でも、地域内で相違が存在する現象で、各国の政党政治、およびその形の違いから生ずる経路の違い)は、そうした地域的な背景の相違の下で発生していたのである。
 前述のような構造的な要因や背景を、地域間の比較あるいは地域内での相違を分析する全体的な文脈として据える重要性は、中東とラテンアメリカの体制転換の比較についても言えることである。「アラブの春」と呼ばれた体制転換への動きは、民主主義的な枠組みに帰着した例はほとんどない状態であるが、他方、旧体制が動揺した国々は、かつて共和制に移行した後、権威主義的な支配体制が確立したところであり、さらに、そうした支配体制の下で、一定の範囲ではあるが、経済の自由化が進められていた。共和制に移行せず、君主制を維持した国々での体制転換への動きは、限定的であった。
-平成27年度-
 世界の幾つかの地域における近年の国家社会関係の変動を分析すると、各国の国内過程の動きが地域秩序の動向を強く規定する要因となっていることが共通していた。例えば、ヨーロッパ諸国やアメリカ合衆国など強国に翻弄されてきた中東では、20世紀の終わり頃には、アメリカ合衆国との同盟・敵対関係を基調とした二極化状況による一定の安定が醸成されていた。だが、今世紀に入ってからのアメリカ合衆国の対テロ戦争の展開によって、そうした安定は徐々に揺らぎ、「アラブの春」によってその不安定化が決定的となった。「アラブの春」による権威主義体制の崩壊が民主化に帰結しないなか、域内外の各国が自らの利害のためにマキャベリスティックな介入・干渉を強め混乱が拡大し、シリアでの内戦の激化を契機として、「イスラーム国」という、近代以降に欧米が造ってきた「中東」のアンチテーゼが拡大した。
 またEUとロシアに挟まれた中東欧は、冷戦終結後、EUやNATOとの結びつきを強めたが、今世紀に入り、ロシアの台頭、アメリカ合衆国とロシアの関係修復、EUの統一の乱れといった国際環境の変化が生じる。すると、経済社会変動を背景とする国内の政治勢力関係の変化にともない、EUとの協調にコンセンサスのあるバルト三国と、EUとは距離をおくチェコ、スロバキア、ハンガリー、ポーランドの違いが明確となり、冷戦終結後のEU接近という地域的な基調は消滅した。
 地域的な基調の消滅という点では、ラテンアメリカでも、新自由主義改革路線の見直しや反対を求める声が今世紀に入り高まるなか、新自由主義派の国が残る一方、同路線の全面的な見直しを求める急進左派とその部分的修正を提起する穏健左派の三つの主要な潮流が生まれ、地域統合の動向にも大きく影響してきた。アメリカ合衆国の圧倒的な影響力の下での一定の方向性という20世紀の間に観察された基調はすでにない。
公表実績: -平成25年度-
 特になし
-平成26年度-
 村上勇介編『21世紀ラテンアメリカの挑戦─ネオリベラリズムによる亀裂を超えて』(京都大学学術出版会、2015年)。
-平成27年度-
 ・村上勇介・帯谷知可編『融解と再創造の世界秩序(「相関地域研究」第2巻)』青弓社, 2016年.
 ・シンポジウムなどについては、上記 を参照。
研究成果公表計画
今後の展開等:
-平成25年度-
 個別共同研究ユニットの研究活動の一方で、前年度までの検討を基礎に、前出6.の検証作業をしゅたる目的とする地域間比較の研究会を開催する。年に2~3回の実施を目処に計画する。また、資金が別途獲得できれば、海外から研究者を招聘し、特定のテーマの地域間比較のワークショップないしセミナーを開催する。他方、成果の取りまとめについての議論も始める。
-平成26年度-
 個別共同研究ユニットの研究活動の一方で、個別共同研究ユニットを基盤とした地域間比較の研究会ないしシンポジウムを企画する。年に2~3回の実施を目標に計画する。それらは、成果の取りまとめに向けた活動も兼ねることとし、研究誌『地域研究』の特集や研究論文集の刊行に向けた作業を着実に実施する。 -平成27年度-
 専門誌での特集企画を計画する。また、平成28年度からの複合共同研究「秩序再編の地域連関」において、比較研究分析を深化させる。